「今年も年末調整の時期が来たけれど、書き方をすっかり忘れてしまった」「計算が面倒で、つい後回しにしてしまっている」……そんな悩みを抱えていませんか?
結論から申し上げますと、年末調整は「記入例」を見ながら進めれば、専門的な税務知識がなくても最短30分で完了させることが可能です。一見複雑に見える計算も、国税庁が公表している速算表や、本記事で紹介する手順通りに進めれば、電卓なしでもクリアできます。
この記事では、業界歴15年の給与計算スペシャリストである私が、以下の3点を中心に、どこよりも分かりやすく解説します。
- 【画像代わりの詳細解説】主要3書類(扶養・基礎/配偶者・保険料)の迷わない書き方と記入例の再現
- 経理担当者が教える「差し戻し」を防ぐためのチェックポイントと裏技
- 書き損じの訂正方法や、転職・引っ越しなどイレギュラー時の対応マニュアル
お手元に書類とペンを用意して、この記事を読み進めながら一緒に埋めていきましょう。読み終わる頃には、あなたの年末調整書類は完璧に仕上がっているはずです。
年末調整を始める前の準備と全体像の把握
多くの人が「とりあえず書き始めよう」として、途中で「あの書類が足りない」「計算が合わない」と手が止まってしまいます。年末調整を最短で終わらせるコツは、書き始める前の「5分間の準備」にあります。まずは全体像を把握し、必要な武器(書類や情報)をデスクに揃えるところからスタートしましょう。
今年提出すべき書類は主に3枚です
年末調整で提出を求められる書類は、基本的に以下の3枚がセットになっています。ご自身の状況に合わせて、必要な書類を確認してください。
| 通称 | 正式名称 | 提出が必要な人 |
|---|---|---|
| ① マル扶(マルフ) | 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 全員 (独身・既婚問わず、会社に在籍する全従業員) |
| ② マル基配(マルキハイ) | 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | 原則全員 (年収2,000万円以下の人) ※配偶者控除を受ける場合は詳細記入が必要 |
| ③ マル保(マルホ) | 給与所得者の保険料控除申告書 | 該当者のみ (生命保険、地震保険、iDeCo、社会保険などを支払った人) |
「自分は独身で保険にも入っていない」という方でも、①と②の提出は必須です。特に②の「基礎控除申告書」は、令和2年の改正以降、すべての人が自分の所得を申告して「基礎控除」を受けるための必須書類となりました。「何も書かずに白紙で出す」ことはできませんので注意してください。
手元に準備するものリスト
書き始めてから席を立たなくて済むように、以下のアイテムをすべて手元に準備してください。
- 会社から配布された申告書用紙(上記の3枚)
- 筆記用具(消せるボールペンは不可。黒のボールペンを使用)
- 印鑑(認印でOK。シャチハタ可の場合が多いですが、会社規定に従ってください。最近は押印不要の会社も増えています)
- マイナンバー(個人番号)がわかるもの(マイナンバーカード、通知カードなど。会社に提出済みであれば不要なケースもあります)
- 生命保険料・地震保険料の控除証明書ハガキ(10月〜11月頃に保険会社から届いています)
- iDeCo(個人型確定拠出年金)の払込証明書ハガキ(加入者のみ)
- 前職の源泉徴収票(今年に入ってから転職してきた人のみ)
- 配偶者や扶養親族の収入がわかるメモ(給与明細や源泉徴収票など)
令和5年(2023年)分の主な変更点と注意すべきポイント
毎年少しずつルールが変わる年末調整ですが、令和5年分において特に注意すべき変更点は「国外居住親族に係る扶養控除の見直し」です。
詳細:令和5年の税制改正ポイント(扶養親族の範囲など)
令和5年1月より、日本国外に住んでいる親族(非居住者)を扶養に入れるための要件が厳格化されました。具体的には、30歳以上70歳未満の国外居住親族については、以下のいずれかに該当しない限り、扶養控除の対象外となります。
- 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者
- 障害者
- 扶養控除の適用を受けようとする居住者から、その年において生活費または教育費に充てるための支払いを38万円以上受けている者
これらに該当する場合は、「親族関係書類」や「送金関係書類」に加えて、「留学ビザ等書類」や「38万円以上の送金書類」の提出または提示が必要になります。海外に家族がいる外国人従業員の方や、お子様が海外留学中の方は特に注意が必要です。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「書類を広げる前に、まずは集めた『ハガキ』をすべて開封しましょう。多くの人が、ハガキを封筒に入れたまま、あるいは圧着ハガキを開かずに作業を始めようとします。しかし、申告書にはハガキの内面に記載されている『証明額』や『区分(一般・介護など)』の情報が不可欠です。
また、ハガキは最終的に台紙に貼って提出しますが、書き写し終わるまでは貼らないでください。貼ってしまうと、裏面の数字が見えなくなったり、重なって書きにくくなったりするトラブルの元です。まずはハガキをすべて開封し、テーブルの上に並べることから始めましょう。」
【記入例あり】1枚目:「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の書き方
通称「マル扶(マルフ)」と呼ばれるこの書類は、あなたが「この会社で年末調整を受けます」と宣言するための最も基本的な書類です。また、扶養している家族の情報を記載し、税金の割引(扶養控除)を受けるための申告書でもあります。
この書類は、実は「来年(令和6年)分」として提出する意味合いも持っています。そのため、記載内容は原則として「来年1月1日時点の予測」に基づいて記入します。
氏名・住所・世帯主の書き方
書類の一番上のブロックは、あなた自身の基本情報を記入します。
- あなたの氏名・フリガナ:戸籍通りの氏名を丁寧に記入します。
- あなたの個人番号(マイナンバー):会社ごとのルールに従ってください。「記載不要」と言われている場合は空欄で構いません。
- あなたの住所:原則として、来年(令和6年)1月1日時点に住んでいる予定の住所を記入します。住民票の住所と現住所が異なる場合は、実際に住んでいる(住民税を納める自治体の)住所を書くのが一般的ですが、会社によって指示が異なるため確認してください。
- 世帯主の氏名・あなたとの続柄:
- 一人暮らしの場合:あなたの氏名、続柄は「本人」
- 実家暮らしで父が世帯主の場合:父の氏名、続柄は「父」
- 夫が世帯主の場合:夫の氏名、続柄は「夫」
- 配偶者の有無:結婚していれば「有」、独身なら「無」に〇をつけます。事実婚は税法上「無」となります。
【A欄】源泉控除対象配偶者(妻・夫)の記入条件と「所得見積額」
ここからが本番です。A欄には、配偶者(妻や夫)がいる場合で、かつ一定の条件を満たす場合に記入します。
記入する条件(以下の両方を満たす場合):
- あなた自身の本年中の所得見積額が900万円以下(年収ベースで約1,095万円以下)
- 配偶者の本年中の所得見積額が95万円以下(年収ベースで約150万円以下)
上記の条件から外れる場合(共働きで配偶者もバリバリ稼いでいる場合など)は、この欄は空欄になります。
所得の見積額の書き方:
ここには「年収」ではなく「所得」を書きます。パート・アルバイト収入のみの場合、「年収 - 55万円」が所得になります。
- 例:パート年収103万円の場合 → 103万 - 55万 = 48万円(所得)
- 例:パート年収150万円の場合 → 150万 - 55万 = 95万円(所得)
補足:所得48万円(給与収入103万円)の壁とは?
よく耳にする「103万円の壁」とは、税法上の「所得48万円」のことです。給与収入が103万円以下であれば、給与所得控除55万円を引くと所得は48万円以下になります。
所得が48万円以下であれば、配偶者控除の対象となり、税制上のメリットが最も大きくなります。また、配偶者自身にも所得税がかかりません。
【B欄】控除対象扶養親族(16歳以上の子ども・親など)の書き方
16歳以上(平成20年1月1日以前生まれ)の養っている家族がいる場合に記入します。配偶者はここには書きません。
- 氏名・個人番号:記入します。
- あなたとの続柄:「子」「父」「母」など。
- 生年月日:和暦で正確に。
- 老人のチェック:昭和29年1月1日以前生まれの親などを扶養している場合、同居なら「同居老親等」、別居なら「その他」にチェック。
- 特定扶養親族のチェック:19歳以上23歳未満(平成13年1月2日〜平成17年1月1日生まれ)の子がいる場合はチェック。控除額が増えます。
- 所得の見積額:48万円以下であることが条件です。(給与収入のみなら103万円以下)
【C欄】障害者、寡婦、ひとり親、勤労学生の該当チェック
ご自身や扶養親族が障害をお持ちの場合や、シングルマザー・ファザーの場合に記入します。
- 障害者:手帳の種類や等級、交付日を記載します。
- 寡婦・ひとり親:離婚や死別をして独身の方。令和2年の改正で「ひとり親控除」が新設され、未婚のシングルマザー・ファザーも対象になりました。性別や所得要件があるため、該当しそうな方は総務担当者に相談することをお勧めします。
- 勤労学生:働きながら学校に通っている学生の方。
【D欄】16歳未満の扶養親族(住民税に関する事項)の書き忘れに注意
用紙の最下部にあるこの欄は、16歳未満(平成20年1月2日以後生まれ)の子どもがいる場合に記入します。
「16歳未満は扶養控除の対象外(所得税が安くならない)だから書かなくていい」と勘違いされがちですが、住民税の計算(非課税判定など)には必要な重要項目です。保育園の利用料算定などにも関わるため、漏れなく記入してください。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「住所欄の記入で最も多いミスは、引っ越し予定がある場合の扱いです。年末調整書類は『来年の1月1日時点』の情報として扱われます。
もし、12月中に引っ越しが決まっているなら、新居の住所を書くのが正解です。まだ新住所が決まっていない、あるいは引っ越しが来年1月2日以降になる場合は、現在の住所を書きます。『1月1日にどこに住民票があるか』で来年の住民税を納める自治体が決まるため、ここは正確に書きましょう。」
【記入例あり】2枚目:「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の書き方
名前が非常に長く、記入欄も複雑なため、最もアレルギー反応が出やすい書類です。しかし、この書類は3つの機能が合体しているだけなので、分解して考えれば怖くありません。
この書類は、ご自身の年収に応じて、以下の3ステップで進めます。
構成を理解しよう:この書類は「3つの申告書」が合体している
書類を大きく3つのブロックに分けて見ます。
- 右上のブロック:「給与所得者の基礎控除申告書」
→ 全員記入必須です。自分の所得を計算します。 - 右下のブロック:「給与所得者の配偶者控除等申告書」
→ 配偶者がいて、配偶者控除を受けたい人のみ記入します。 - 下の細長いブロック:「所得金額調整控除申告書」
→ 年収850万円超で、子どもや障害者がいる人のみ記入します。
【重要】「給与所得」と「給与収入」の違いと計算方法
この書類を書く上で最大の壁となるのが「所得」の計算です。源泉徴収票などの「支払金額(=年収・収入)」から、必要経費にあたる「給与所得控除」を引いたものが「所得」です。
以下の速算表を使って、あなたの年収を「所得」に変換してください。
| 給与収入(年収) ※税込・額面金額 |
所得金額の計算式 |
|---|---|
| 550,999円まで | 0円 |
| 551,000円 〜 1,618,999円 | 収入金額 - 550,000円 |
| 1,619,000円 〜 1,619,999円 | 1,069,000円 |
| 1,620,000円 〜 1,621,999円 | 1,070,000円 |
| 1,622,000円 〜 1,623,999円 | 1,072,000円 |
| 1,624,000円 〜 1,627,999円 | 1,074,000円 |
| 1,628,000円 〜 1,799,999円 | (収入 ÷ 4) × 2.4 + 100,000円 ※千円未満切捨して計算 |
| 1,800,000円 〜 3,599,999円 | (収入 ÷ 4) × 2.8 - 80,000円 ※千円未満切捨して計算 |
| 3,600,000円 〜 6,599,999円 | (収入 ÷ 4) × 3.2 - 440,000円 ※千円未満切捨して計算 |
| 6,600,000円 〜 8,499,999円 | 収入 × 90% - 1,100,000円 |
| 8,500,000円 〜 | 収入 - 1,950,000円 |
※「収入÷4」をして千円未満を切り捨てる計算は少し複雑ですが、おおよその目安としては「年収-給与所得控除(最低55万円〜最高195万円)」となります。
ステップ1:「給与所得者の基礎控除申告書」の書き方と判定区分
①「あなたの本年中の合計所得金額の見積額」の計算
先ほどの速算表で出した「所得」を記入します。副業や不動産収入がある場合は、それらの所得も合算します。給与のみの人は、そのまま転記します。
②「判定」のチェック
合計所得金額に応じて、A・B・Cのいずれかにチェックを入れます。
- 900万円以下(年収約1,095万円以下)→ A
- 900万円超 950万円以下 → B
- 950万円超 1,000万円以下 → C
ほとんどの方は「A」になります。
③「区分Ⅰ」
判定がA・B・Cのいずれかであれば、そのままアルファベットを記入します。
④「基礎控除の額」
Aなら「480,000」と記入します。
ステップ2:「給与所得者の配偶者控除等申告書」の書き方(妻・夫の所得計算)
配偶者がいて、配偶者の年収が201万6千円未満(所得133万円以下)の場合に記入します。
①配偶者の氏名・生年月日・マイナンバー
基本情報を記入します。
②配偶者の合計所得金額(見積額)
先ほどの速算表を使って、配偶者の所得を計算して記入します。
(例:パート年収103万円 → 所得48万円)
③「判定」のチェック
配偶者の年齢(70歳以上かどうか)と所得金額に応じて、①〜④の区分にチェックを入れます。
- 所得48万円以下・70歳未満 → ②
- 所得48万円以下・70歳以上 → ①
- 所得48万円超 95万円以下 → ③
- 所得95万円超 133万円以下 → ④
④「区分Ⅱ」
判定で出た数字(①〜④)を記入します。
⑤「配偶者控除の額」または「配偶者特別控除の額」
表のマトリクス(区分Ⅰと区分Ⅱが交わるところ)を見て、控除額を記入します。
(例:区分Ⅰが「A」、区分Ⅱが「②」なら、380,000円)
ステップ3:「所得金額調整控除申告書」は誰が書く?
この欄は、以下の条件に該当する人だけが記入します。年収850万円以下の人は無視して構いません。
条件(年収850万円超で、かつ以下に該当)
- あなた自身が特別障害者である
- 同一生計配偶者または扶養親族が特別障害者である
- 23歳未満の扶養親族がいる
これらに該当する場合、年収850万円を超えた部分について税負担を調整(減税)する措置が受けられます。「要件」欄の該当箇所にチェックを入れ、対象となる家族の情報を記入してください。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「この書類で計算ミス・記入漏れNo.1の箇所は、実は計算そのものではなく、『基礎控除』の『判定』欄のチェック忘れです。
自分の所得金額までは完璧に計算して記入しているのに、その横にある『A, B, C』のチェックボックスにレ点を入れ忘れる人が非常に多いのです。ここが空欄だと、控除額が確定せず、経理担当者が確認のために電話をかけることになります。最後に必ず『A』にチェックが入っているか確認してください。」
【記入例あり】3枚目:「給与所得者の保険料控除申告書」の書き方
3枚目は、10月〜11月頃に自宅に届いた「控除証明書ハガキ」を見ながら、数字を転記していく作業が中心です。ハガキさえ手元にあれば、パズルのように埋めていくだけです。
生命保険料控除:ハガキの「一般」「介護」「個人年金」を正しく振り分ける
生命保険料控除の欄は、左から順に「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3つのブロックに分かれています。
お手元のハガキを見てください。「適用制度」や「区分」という欄に、どの種類に該当するかが書かれています。
- 一般:死亡保険、学資保険、がん保険(古いもの)など
- 介護:医療保険、がん保険、介護保険など
- 個人年金:税制適格特約がついた個人年金保険
これらを正しいブロックに記入します。「保険会社名」「保険の種類(終身、定期など)」「契約期間」などをハガキ通りに書き写します。
「新・旧」区分の見分け方と計算式の使い方
生命保険には「新」と「旧」の2つの区分があります。これもハガキに必ず記載されています。
- 新保険料:平成24年1月1日以後に契約したもの
- 旧保険料:平成23年12月31日以前に契約したもの
申告書の下部にある計算式を使って、それぞれの控除額を計算します。
計算のコツ:
- 新・旧の両方がある場合:それぞれで計算した額の合計(上限4万円)と、それぞれの支払額の合計で計算した額を比較するなど、少し複雑です。申告書の計算式チャートを指でなぞりながら進めてください。
- 円未満の端数:計算過程で1円未満の端数が出た場合は「切り上げ」です。(例:25,000.5円 → 25,001円)
地震保険料控除の書き方
地震保険料もハガキを見ながら記入します。注意点は「地震保険」と「旧長期損害保険」の区分です。
- 地震保険:支払額の全額(最高5万円)が控除対象。
- 旧長期損害保険:平成18年末までに契約した長期(10年以上)の損害保険。計算式で算出します。
火災保険のみで地震保険が付帯していない場合や、平成19年以降契約の地震保険以外の損害保険は対象外ですので、記入しないでください。
社会保険料控除(国民年金・国保など給与天引き以外)の書き方
会社の給与から天引きされている社会保険料(健保・厚生年金)は、会社が把握しているので書く必要はありません。
ここに書くのは、以下のようなケースです。
- 20歳になった子どもの国民年金を親が代わりに支払った
- 転職までの無職期間に自分で国民健康保険・国民年金を支払った
- 生計を一にする親の介護保険料を支払った(年金天引きを除く)
これらは全額が控除対象になります。「支払った保険料の金額」の欄に、今年中に支払った(支払う予定の)総額を記入します。国民年金などは証明書の添付が必要です。
小規模企業共済等掛金控除(iDeCo・確定拠出年金)の書き方
iDeCo(イデコ)をやっている方は、ここへの記入を忘れると大きな損をします。
右下のブロックにある「小規模企業共済等掛金控除」の欄の、「確定拠出年金法に規定する個人型年金加入者掛金」というところに、1年間の掛金総額を記入します。
10月頃に国民年金基金連合会から届く「小規模企業共済等掛金払込証明書」のハガキが必要です。ハガキに記載されている「合計金額」をそのまま記入してください。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「証明書ハガキには『証明額(実際に支払った額)』と『申告額(12月末までの支払見込額)』の2つの数字が載っていることがあります。
年末調整では、『申告額(12月末までの見込額)』を記入してください。
例えば、月払いで保険料を払っている場合、ハガキが発行された時点(10月)では10月分までしか払っていませんが、年末まで契約を続けるなら12月分まで払うことになります。税金計算は1年間の総額で行うため、未来の分も含めた『申告額』を書くのが正解です。ただし、年払いですでに全額支払い済みの場合は、証明額と申告額は同じになります。」
住宅ローン控除がある場合の書き方(2年目以降)
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、1年目は必ず確定申告が必要ですが、2年目以降は年末調整だけで手続きが完了します。
「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」の概要
対象者には、税務署から送られてきた申告書(兼証明書)が手元にあるはずです。この用紙の下半分が「証明書」、上半分が「申告書」になっています。
金融機関からの「残高証明書」を見ながら転記する手順
記入に必要な情報は2つだけです。
- 年末残高:銀行から送られてくる「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」に記載されている「年末時点の予定残高」を記入します。
- 家屋・土地の取得対価の額:申告書の下半分(証明書部分)に印字されている数字をそのまま転記します(イ欄やロ欄など)。
これらを比較して、少ない方の金額を元に控除額を計算(1%または0.7%など)し、右下の欄に記入します。
連帯債務がある場合の注意点
夫婦で連帯債務(ペアローンではなく、収入合算して連帯債務者になっている場合)を組んでいる場合は計算が少し複雑です。
「連帯債務による持分に係る借入金等の年末残高」を計算する必要があります。備考欄に、連帯債務者の氏名、住所、勤務先などを記入し、お互いの負担割合に基づいて計算した残高を記入してください。ここを間違えると夫婦双方の控除額が変わってしまうため、慎重に計算しましょう。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「『今年マイホームを買って入居しました!』という方から、年末調整で住宅ローン控除をしたいと相談を受けることがよくあります。しかし残念ながら、住宅ローン控除の1年目は年末調整ではできません。
1年目は必ずご自身で確定申告を行う必要があります。年末調整の書類に一生懸命記入しようとしても、そもそも税務署から専用の用紙が届いていないはずです。1年目の方は、会社には何も出さず(住宅欄は無視して)、年明けの確定申告の準備を進めてください。」
書き損じ・訂正方法と提出時の最終チェック
すべての記入が終わったら、提出前の最終仕上げです。人間ですから書き間違いはあります。正しい訂正方法を知っていれば慌てることはありません。
書き間違えた時の訂正印のルール
もし書き間違えてしまった場合、修正液や修正テープは絶対に使用してはいけません。
正しい訂正方法:
- 間違えた箇所に定規で二重線を引く。
- その上または近くの余白に、正しい内容を記入する。
- 二重線の上に訂正印(認印)を押す。(※)
※最近の税務行政のDX化に伴い、訂正印は「不要(二重線のみでOK)」とする会社も増えています。しかし、明確な指示がない場合は、訂正印を押しておくのが無難で確実です。訂正印があれば、本人が訂正した証拠となり、改ざんを疑われません。
添付台紙への証明書貼付テクニック
控除証明書ハガキは、会社から配布される「添付書類台紙」に糊付けして提出します。
- 重ならないように:ハガキの「証明額」や「氏名」が見えるように、少しずらして貼ります。
- 裏面も注意:ハガキの裏面に重要な数字が書かれている場合、べったり貼ってしまうと確認できません。その場合は、ハガキの上部だけを糊付けし、めくって確認できるようにするのが親切です。
提出前にコピーか写真を撮っておくべき理由
書類を提出する前に、必ずスマホで写真を撮るか、コピーをとっておきましょう。
理由は2つあります。
- 後で問い合わせがあった時用:経理担当者から「ここの数字がおかしい」と連絡が来た際、手元に控えがないと話が通じません。
- 来年の自分用:来年の年末調整の時期に、今年の控えがあれば「去年どう書いたっけ?」の答えがすぐに分かります。最高のアンチョコになります。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「経理担当者が地味に助かる、そしてあなたの評価も上がる『クリップ留め』のマナーをお教えします。
書類がバラバラにならないようにホッチキスで留める方がいますが、経理側ではスキャンしたりファイリングしたりするために針を外す手間が発生します。
提出時は、クリップで留めるのがベストです。また、糊付けが甘くてハガキが剥がれ落ちる事故も多いので、台紙への糊付けは四隅までしっかりと行いましょう。こうした小さな気遣いが、スムーズな年末調整につながります。」
年末調整のよくある質問(FAQ)とイレギュラー対応
最後に、よくある疑問や特殊なケースについてお答えします。
Q. 年の途中で転職した場合、前職の源泉徴収票はどうする?
A. 必ず現在の会社に提出し、合算して年末調整してもらいます。
前の会社から発行された「令和5年分 源泉徴収票」の原本を、扶養控除等申告書などに添付して提出してください。これがないと、前職の収入を含めた正しい税計算ができず、ご自身で確定申告をする必要が出てきます。
Q. 妻がパートで働いていますが、配偶者控除に入れられますか?
A. 妻の年収によります。
妻の年収が103万円以下なら「配偶者控除」、103万円超201万6千円未満なら「配偶者特別控除」の対象になります(夫の年収制限あり)。
どちらの場合も、「基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書」への記入が必要です。103万円を超えても、いきなり控除がゼロになるわけではないので、諦めずに申告しましょう。
Q. 副業をしている場合の年末調整はどうなる?
A. 年末調整は「メインの1社」でしかできません。
原則として、給与が高い方の会社(「扶養控除等申告書」を提出した会社)で年末調整を行います。副業先の収入については、年末調整に含まれません。
副業の所得が20万円を超える場合は、別途ご自身で確定申告が必要です。副業先から源泉徴収票をもらっておきましょう。
Q. 年末調整を出し忘れたらどうなる?(確定申告での救済)
A. 会社での期限を過ぎたら、自分で確定申告をすれば還付金を受け取れます。
会社の事務処理が締め切られた後は、会社での年末調整はできません。しかし、税金が戻ってこなくなるわけではありません。年明け(2月16日〜3月15日)に自分で税務署へ行き(またはe-Taxで)、確定申告を行えば、年末調整と同じ結果(税金の還付)を得ることができます。
業界歴15年の給与計算スペシャリストのアドバイス
「『確定申告すればいいや』と安易に考えるのは危険です。確定申告は年末調整よりも手間がかかりますし、平日に税務署へ行く時間を作るのも大変です。
また、期限ギリギリの提出はミスの元です。経理担当者も人間ですから、期限直前に大量の書類が来るとチェック精度が落ちる可能性があります。余裕を持って提出し、もし不備があっても修正できる時間を確保することが、結果としてあなた自身を守ることになります。」
まとめ:記入例を真似して、正確な書類を期限内に提出しましょう
年末調整は、1年間の税金を精算し、払いすぎたお金を取り戻すための大切な手続きです。難しく感じるかもしれませんが、今回ご紹介した手順通りに、記入例を参考にしながら進めれば必ずできます。
最後に、提出前のチェックリストを確認して終了です。
年末調整書類作成 最終チェックリスト
- 記入漏れはないか?(特に印鑑、生年月日、マイナンバー)
- 基礎控除申告書の「判定(A,B,C)」にチェックは入っているか?
- 控除証明書ハガキはすべて揃っているか?(台紙に貼ったか?)
- 保険料の計算は合っているか?(新・旧の区分ミスはないか?)
- 住所は来年1月1日時点のものを書いたか?
- 提出期限は守られているか?
このチェックリストがすべてクリアできていれば完璧です。自信を持って経理担当者に提出してください。面倒な作業を今日終わらせて、すっきりとした気持ちで年末を迎えましょう!
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