結婚式の招待状を受け取り、当日を楽しみに待ちわびる中で、ふと不安になるのが「ご祝儀袋」の準備ではないでしょうか。「どの袋を選べば失礼にならない?」「筆ペンで名前を書くのが苦手」「中袋の金額は旧字体でどう書くの?」といった疑問は、多くの参列者が抱える共通の悩みです。
結論から申し上げますと、結婚式のご祝儀袋は、包む金額に見合った「格」の袋を選び、濃い墨の筆ペンで丁寧に書くことが最大のマナーです。字の上手さよりも、文字の配置バランスと正しいルールを守ることこそが、新郎新婦への祝福の気持ちを伝える鍵となります。
この記事では、筆耕士として長年ご祝儀袋の代筆を行ってきた専門家の視点から、以下の3点を中心に徹底解説します。
- 包む金額(3万・5万・10万)に合わせた正しいご祝儀袋の選び方
- スマホを見ながら書ける!表書き・中袋(旧字体)の完全見本
- 筆耕士が教える「字に自信がなくても綺麗に見せる」プロの裏技
マナーの基本から、いざという時のリカバリー方法までを網羅していますので、ぜひ手元で確認しながら準備を進めてください。
結婚式用ご祝儀袋の選び方:金額と水引の基本ルール
ご祝儀袋選びは、結婚祝いの準備における最初のステップであり、最も重要な土台となります。文具店やコンビニエンスストアの売り場には、色とりどりの華やかなご祝儀袋が並んでいますが、デザインの好みだけで選んでしまうのは大変危険です。ご祝儀袋には明確な「格」が存在し、包む金額とのバランスが取れていないと、相手に対して失礼にあたる可能性があるからです。
例えば、中身が3万円であるにもかかわらず、10万円以上を包むための豪華な水引飾りがついた袋を使ってしまうと、「中身と外見が釣り合っていない」として、マナーを知らない人だと思われてしまう恐れがあります。逆に、高額を包むのに簡素な印刷のご祝儀袋を使うことも避けるべきです。ここでは、失敗しないための選び方の基準を詳しく解説します。
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「ご祝儀袋は、単なる現金を包む封筒ではなく、贈る側の『敬意』と『祝福の大きさ』を可視化したものです。私が代筆の現場でよくご相談を受けるのが、『友人の結婚式だから可愛いデザインを選びたいけれど、マナー違反にならないか』という点です。基本的には、袋のパッケージに記載されている『目安金額』を必ず確認してください。袋の豪華さと中身の金額(=お祝いの気持ちの大きさ)を一致させることが、美しいマナーの第一歩です。」
水引は「結び切り」か「あわじ結び」を選ぶ
結婚式のご祝儀袋を選ぶ際、絶対に間違えてはいけないのが「水引(みずひき)」の結び方です。水引の結び方にはそれぞれ意味が込められており、慶事の内容によって使い分ける必要があります。結婚式においては、一度結んだらほどけない「結び切り(まむすび)」または「あわじ結び(あわび結び)」を選びます。
「結び切り」は、固く結ばれていて解くのが難しいことから、「二度と繰り返さない」「一生涯添い遂げる」という意味が込められています。結婚は人生で一度きりであることが望ましい慶事であるため、この結び方が用いられます。一方、紐の端を引っ張ると解けて何度でも結び直せる「蝶結び(花結び)」は、出産祝いや入学祝いなど「何度あっても嬉しいお祝い」に使われるものであり、結婚祝いには絶対に使用してはいけません。「別れる」「再婚する」ことを連想させてしまうため、最大のタブーとされています。
「あわじ結び」は、結び切りの一種であり、両端を引っ張るとさらに固く結ばれることから、「末永く付き合う」という意味を持ちます。見た目が華やかであるため、結婚式のご祝儀袋として最も一般的に用いられています。関東では「あわじ結び」も「結び切り」も共に使われますが、関西では「あわじ結び」が主流となる傾向があります。迷った場合は、豪華な飾りのついた「あわじ結び」タイプを選んでおけば間違いありません。
色は「白」が基本!友人向けなら「カラフル・デザイン」もOK?
ご祝儀袋の地色は、神聖で清らかな色とされる「白」が正式なマナーです。特に、職場の上司や先輩、取引先の方など、目上の方の結婚式に参列する場合は、必ず白地のスタンダードなご祝儀袋を選びましょう。白地の上質な和紙に、金銀や紅白の水引がかかったものが最も格式高く、誰に渡しても失礼になりません。
一方で、最近増えているカラフルな色付きのご祝儀袋や、キャラクターがデザインされたもの、洋風のデザインなどはどう扱えばよいのでしょうか。これらは「略式」または「カジュアル」なスタイルとされており、親しい友人や後輩、兄弟姉妹など、気心の知れた相手への結婚祝いとして使用することが許容されています。
特に、レストランウェディングやガーデンパーティーのようなカジュアルな式であれば、会場の雰囲気に合わせて華やかなデザインの袋を選ぶことで、「お祝いの席を彩りたい」という気持ちを伝えることができます。ただし、いくら親しい間柄であっても、あまりに奇抜なデザインや、黒色(不祝儀を連想させるためNG)が含まれるものは避けるべきです。相手との関係性と式の格式を見極めて、適切な色選びを行いましょう。
【金額別】ご祝儀袋の選び方早見チャート(3万円・5万円・10万円以上)
ご祝儀袋選びで最も悩むのが、「この袋にいくら包めばいいのか」という点です。袋の豪華さと金額のバランスを間違えないよう、以下のマトリクスを参考に選定してください。
| 包む金額 | 水引の種類・色 | 袋の特徴・豪華さ | おすすめの用途 |
|---|---|---|---|
| 1万円〜2万円 (欠席時のお祝い等) |
金銀・紅白の 結び切り・あわじ結び |
印刷タイプ、またはシンプルな水引の実物付き。 装飾は控えめに。 |
式に欠席する場合や 会費制のパーティー |
| 3万円 (最も一般的) |
金銀・紅白の あわじ結び・結び切り |
スタンダードな和紙。 水引は実物で、適度な装飾があるもの。 幅は標準サイズ。 |
友人、同僚、親族など 全般的な結婚式 |
| 5万円〜8万円 | 金銀・豪華な飾り水引 (鶴亀や松竹梅など) |
上質な和紙(檀紙など)を使用。 水引のボリュームが増し、華やかさがあるもの。 少し幅広のタイプも可。 |
兄弟姉妹、親友、 目下の親族への高額祝い |
| 10万円以上 | 金銀・極めて豪華な 飾り水引(大ぶりな細工) |
最高級の和紙を使用。 厚みがあり、サイズも一回り大きい。 ひだ(折り目)の装飾がある場合も。 |
両親、祖父母から孫へ、 特別な恩師への高額祝い |
このように、金額が上がるにつれて、袋の紙質が上等になり、水引の飾りが立体的で大きくなっていくのが特徴です。3万円を包むのに10万円用の大きな袋を使うと、受け取った相手が中身を見た際に「あれ?」と違和感を覚えてしまいます。逆に、10万円を包むのに3万円用の袋では、お札の厚みで袋がパンパンになってしまい、見栄えが悪くなります。
「短冊」がついているタイプがおすすめな理由
市販のご祝儀袋には、表書き(「寿」や名前)を書くための細長い紙、「短冊」がセットになっているものが多くあります。ご祝儀袋本体に直接文字を書くタイプもありますが、初心者の方や字に自信がない方には、断然「短冊付き」のタイプをおすすめします。
その最大の理由は、「書き損じたときのリスク回避」です。ご祝儀袋の本体に直接書いて失敗してしまうと、袋ごと買い直さなければなりません。しかし、短冊であれば、多くの場合「寿」「御結婚御祝」「無地」など数枚が予備として同封されています。万が一失敗しても、別の短冊に書き直せば良いため、精神的なプレッシャーが大幅に軽減されます。
また、短冊を使うことで、文字を書く際に平らな机の上で安定して筆を運ぶことができます。袋本体は水引の凹凸があり書きにくいため、短冊を活用することは、美文字を目指す上でも非常に理にかなった選択と言えるでしょう。
【表書き】上包みの書き方と名前の配置バランス
ご祝儀袋を購入したら、いよいよ表書きの記入です。表書きは、新郎新婦や受付係が最初に目にする部分であり、最も視覚的な印象を左右します。ここで大切なのは、達筆であること以上に、「誰からのお祝いか」が一目でわかる視認性と、余白を生かした美しい配置バランスです。
多くの人が緊張する筆ペンでの記入ですが、正しい位置と大きさを意識するだけで、仕上がりは格段に良くなります。ここでは、プロの筆耕士も実践している黄金比率と書き方の手順を解説します。
上段(名目)は「寿」または「御結婚御祝」
水引の上段中央に書く文字を「名目(めいもく)」と呼びます。結婚祝いにおける名目は、「寿」「壽(寿の旧字体)」「御祝」「御結婚御祝」などが一般的です。市販の短冊にはすでにこれらの文字が印刷(あるいは箔押し)されていることが多いので、それを利用するのが確実です。
自分で書く場合や無地の短冊を使用する場合は、「寿」または「御結婚御祝」と書くのが無難です。「結婚御祝」と4文字で書くことは、「死文字(4文字)」に通じるとして嫌う方もいるため、避けた方が良いでしょう。ただし、最近では気にしない傾向もありますが、マナーとしては「御」をつけて5文字にするか、シンプルに「寿」とするのが正解です。
文字の色は、必ず「濃い黒」を使用します。薄墨(うすずみ)は弔事(お葬式など)で「涙で墨が薄まった」という意味で使われるものなので、慶事である結婚式には絶対に使用しないでください。筆ペンを用意する際は、「慶弔両用」と書かれていても、必ず「黒(濃墨)」側を使用することを確認しましょう。
下段(名前)はフルネームで!上段より「やや小さめ」が黄金比
水引の下段中央には、贈り主(あなた)の名前をフルネームで記入します。ここで最も重要なテクニックは、「上段の名目(寿など)よりも、名前を少しだけ小さく書く」ということです。
これは、相手への敬意と謙譲の心を表すための日本の伝統的な美意識であり、視覚的にも安定感のある「黄金比」となります。具体的には、上段の「寿」の大きさを10とした場合、下段の名前は8〜9くらいのサイズ感を目指すとバランス良く見えます。名前を大きく書きすぎると、自己主張が強すぎる印象を与えてしまい、品位が損なわれるため注意が必要です。
また、書く位置については、水引の結び目の真下から書き始めるのではなく、下段のスペース全体の中心に文字が収まるように配置します。苗字と名前の間には、文字一つ分ほどのスペースを空けると、読みやすく洗練された印象になります。
夫婦連名・職場連名・友人連名の正しい書き方パターン
一人で贈る場合は中央にフルネームを書くだけですが、夫婦や職場の同僚、友人たちと連名で贈る場合は、書き方に明確なルールがあります。人数や関係性によって配置が異なるため、以下のパターンを確認してください。
▼【図解】連名の書き方パターン(3名まで・4名以上)の詳細を開く
| 夫婦連名の場合 |
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| 3名までの連名 (職場・友人) |
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| 4名以上の連名 |
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短冊がズレない!書くときと貼るときのプロの裏技
短冊に文字を書く際、紙が細長くて安定しなかったり、書き終わった後にご祝儀袋に貼り付ける位置が曲がってしまったりすることがよくあります。これらを防ぐための、プロ直伝のテクニックをご紹介します。
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「短冊を書くとき、紙が動いてしまうのを防ぐために、短冊の上下をマスキングテープなどで机に軽く固定すると書きやすくなります。また、書き終わった短冊をご祝儀袋にセットする際、多くの袋には短冊を差し込むための切り込みや両面テープがついていますが、それだけでは不安な場合があります。その際は、短冊の裏面中央上部に、ほんの少しだけ『貼ってはがせるのり』や両面テープをつけて本体に固定してください。これにより、持ち運びの最中に短冊がずり落ちたり、曲がったりする事故を完全に防ぐことができます。ただし、のりをつけすぎると相手が開封する際に手間取らせてしまうので、あくまで『仮止め』程度の量がポイントです。」
【中袋・中包み】金額(旧字体)と住所の書き方完全マニュアル
表書きが完成したら、次は現金を包む「中袋(なかぶくろ)」または「中包み(なかづつみ)」の記入です。表書きは外から見えますが、中袋は新郎新婦が後で開封し、誰からいくら頂いたかを集計するための非常に重要な書類となります。
そのため、中袋の記入において最も優先すべきは「正確さ」と「読みやすさ」です。特に金額の数字には、改ざんを防ぐために伝統的な「旧字体(大字)」を使用するのが正式なマナーです。
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「新郎新婦は挙式後、頂いたご祝儀の金額と住所をリスト化し、内祝い(お返し)の準備をします。この時、中袋に住所や金額が書かれていなかったり、読めない字だったりすると、新郎新婦に多大な手間をかけさせてしまいます。お祝いの気持ちを最後まで美しく完結させるためにも、中袋への記入は『事務的な正確さ』を意識して、丁寧に濃くはっきりと書くことを心がけてください。」
表面:金額は「金 〇〇萬圓」と旧字体(大字)で書く
中袋の表面中央には、包んだ金額を縦書きで記入します。書き出しに「金」をつけ、続けて金額、最後に「圓(円の旧字体)」または「円」と書きます。数字の下に「也(なり)」をつける習慣もありますが、現在はつけてもつけなくても構いません。「也」は本来、端数がないことを示す言葉ですが、10万円以上の高額を包む際に格式を重んじてつける場合が多いです。
数字は、漢数字の「一、二、三」ではなく、画数が多く改ざんが難しい「壱、弐、参」といった旧字体(大字)を使用するのが正式です。最近の市販のご祝儀袋には、横書きの記入欄が設けられているものもあり、その場合は算用数字(1、2、3…)で書いてもマナー違反ではありませんが、縦書きの場合は旧字体で書くことで、より丁寧で厳粛な印象を与えることができます。
【スマホで確認】漢数字・旧字体(壱・弐・参)早見表
普段使い慣れない旧字体を、記憶だけで書こうとすると間違いのもとです。以下の早見表を見ながら、一画一画丁寧に書いてください。
| 算用数字 | 通常の漢数字 | 旧字体(大字)※推奨 | 書き方の例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 一 | 壱 | 金 壱萬圓 |
| 2 | 二 | 弐 | 金 弐萬圓 |
| 3 | 三 | 参 | 金 参萬圓 |
| 5 | 五 | 伍 | 金 伍萬圓 |
| 7 | 七 | 七 | 金 七萬圓(通常と同じ) |
| 8 | 八 | 八 | 金 八萬圓(通常と同じ) |
| 10 | 十 | 拾 | 金 壱拾萬圓 |
| 万 | 万 | 萬 | (単位として使用) |
| 円 | 円 | 圓 | (単位として使用) |
※「4(四)」や「9(九)」は、死や苦を連想させる忌み数字となるため、結婚祝いの金額としては基本的に使用しません。
裏面:住所と氏名を必ず記入する(郵便番号も忘れずに)
中袋の裏面には、必ずあなたの「住所」と「氏名」を左下に記入します。「表書きに名前を書いたから大丈夫だろう」と省略するのはマナー違反です。先述の通り、新郎新婦がご祝儀袋を整理する際、上包みと中袋を分けて管理することが多いため、中袋単体で誰のものか判別できるようにしておく必要があります。
住所は郵便番号から書き始め、マンション名や部屋番号まで正確に記載します。文字の大きさは、表面の金額よりも少し小さめに書くとバランスが良いでしょう。
中袋に記入欄が印刷されている場合・いない場合の対処法
市販のご祝儀袋の中袋には、あらかじめ住所や氏名、金額を書く欄が印刷されているものがあります。その場合は、印刷された枠に従って記入してください。横書きの枠がある場合は、無理に縦書きにする必要はなく、横書きでペンやボールペンを使って記入しても問題ありません。
記入欄が全くない白無地の封筒タイプの場合は、表面の中央に金額を縦書きし、裏面の左側に住所と氏名を縦書きします。この「白紙にバランスよく書く」のが難しい場合は、鉛筆で薄く線を引いてから書き、インクが乾いた後に消しゴムで消すときれいに仕上がります。
ボールペンはNG?中袋なら許容されるケースとは
原則として、ご祝儀袋の表書きは「毛筆」または「筆ペン」で書くのがマナーです。しかし、中袋に関しては、文字が小さく、画数の多い住所などを書く必要があるため、筆ペンでは潰れて読みづらくなることがあります。
そのため、中袋の住所・氏名欄に限っては、黒のサインペンや、インクの出が良い黒のボールペンを使用することも許容されています。特に、記入欄が小さく印刷されている場合などは、無理に筆ペンを使って文字が判読不能になるよりも、ペンで読みやすく書く方が、相手への配慮として正しい判断と言えます。ただし、万年筆(インクが水に弱い)や、消せるボールペン(熱で消える)は避けてください。
筆耕士直伝!字が苦手でも「美文字」に見せる3つのコツ
「字が汚いから書きたくない」「筆ペンを持つと手が震える」という悩みは、非常に多くの人が抱えています。しかし、プロの筆耕士から見れば、美しい文字とは「個々の文字の上手さ」よりも「全体の統一感」で決まります。ここでは、特別な練習をしなくても、今日すぐに実践できる「美文字に見せるための視覚的トリック」を伝授します。
筆ペンの選び方:初心者には「硬筆タイプ」か「サインペン風」がおすすめ
筆ペンには大きく分けて「毛筆タイプ(穂先が柔らかい)」と「硬筆・サインペンタイプ(穂先が固い)」があります。書道経験がない方が、いきなり本格的な毛筆タイプを使うと、筆圧のコントロールが難しく、線が震えたり太さが安定しなかったりします。
初心者の方は、迷わず「硬筆タイプ」または「筆サイン」と呼ばれる商品を選んでください。これらはペン先がプラスチックやフェルトでできており、普段使っているボールペンやサインペンに近い感覚で書くことができます。それでも筆特有の「トメ・ハネ・ハライ」が表現できるように設計されているため、テクニック要らずでそれらしい文字が書けます。
中心線を意識するだけで変わる!鉛筆で薄くガイド線を引く方法
文字が曲がってしまうと、どんなに達筆でも不安定な印象を与えます。逆に、字が多少拙くても、中心線が真っ直ぐ通っていれば、全体として整って見えます。
短冊や中袋を書く前に、定規と鉛筆を使って、紙の中央に薄く直線を引いてみてください。これを「中心線(ガイドライン)」とします。文字を書く際は、この線が文字のおへそ(中心)を通るように意識して配置します。書き終わってインクが完全に乾いたら、消しゴムで優しく線を消せば完成です。このひと手間をかけるだけで、仕上がりのクオリティは劇的に向上します。
「とめ・はね・はらい」よりも「余白」を揃える意識を持つ
文字を書くとき、多くの人は黒いインクの部分(線)に注目しますが、美文字のプロは「白い部分(余白)」を見ています。文字と文字の間隔、文字内部の空間を均等にすることを意識してください。
例えば、「結婚」と書くとき、「結」と「婚」の大きさを揃え、二つの文字の間隔を適度に空けます。文字が詰まりすぎると窮屈に見え、空きすぎると間延びして見えます。一文字書いたら、一呼吸置いて、次の文字の配置を確認してから筆を下ろす。このリズムを保つことが、美しい余白を生み出します。
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「どうしても自分の字に自信が持てず、書くこと自体がストレスになってしまう場合は、無理をせずに『代筆サービス』を利用するのも賢い選択です。百貨店の文具売り場や、一部の文具店では、ご祝儀袋を購入すると無料で(または有料で)名入れをしてくれるサービスがあります。また、最近では100円ショップなどで、文字をなぞって書ける『ガイドプレート』も販売されています。これらを活用して『きれいな文字で届ける』ことも、相手への立派な配慮の一つです。」
お金の入れ方とご祝儀袋の包み方・仕上げ
書き終わった中袋にお金を入れ、上包みで包む工程にも、慶事ならではの重要なルールがあります。ここでのマナーは「お祝いの気持ちを汚さない」「喜びを受け止める」という精神に基づいています。
お札は必ず「新札(ピン札)」を用意する
結婚式のご祝儀には、一度も使用されていない「新札(ピン札)」を包むのが絶対のルールです。これには「この日のために、前もって準備をして待ちわびていました」という心遣いと、「新しい門出を新しいお札で祝う」という意味が込められています。
手元に新札がない場合は、銀行の窓口や両替機で新券に交換してもらいましょう。結婚式当日の朝に慌ててATMでおろしても、新札が出てくるとは限りません。どうしても用意できなかった最終手段として、手持ちの中で最もきれいなお札を選び、布をあててアイロンを低温でかけるという裏技もありますが、あくまで緊急避難的な措置と考えてください。基本は、招待状が届いた時点で新札の準備を始めることです。
お札の向きに注意!肖像画が「表」かつ「上」に来るように
中袋にお札を入れる際、向きを揃えることも大切です。正しい入れ方は、「中袋の表側(金額を書いた面)に、お札の肖像画(顔)が来るようにし、かつ肖像画が上部に来るように入れる」ことです。
つまり、中袋からお札を取り出したときに、最初にお札の肖像画と目が合うような向きです。これは「顔を出す」=「お祝いの意志をはっきりと示す」という意味に通じます。逆にお悔やみの場合は、「顔を伏せる」という意味で、肖像画を裏に向け、下側に来るように入れます。慶事と弔事で真逆になるため、十分に注意してください。
上包みの折り方:「喜びは受け止める」下側を上に重ねる(弔事との違い)
中袋を上包み(外袋)の中に戻し、裏側の折り返しを重ねる際にも、厳格な決まりがあります。結婚式などの慶事では、「上側の折り返しを先に折り、下側の折り返しをその上に重ねる」ようにします。これにより、下側の折り返しが外側になり、上向きのポケットのような形になります。
これには「幸せがたくさん入ってきますように」「喜びを受け止める」という意味があります。覚え方は「万歳をした形(手が上に向く)」や「幸せがこぼれないように上を向ける」とイメージすると良いでしょう。
逆に、上側の折り返しを外側にすると「悲しみが流れ落ちるように」という意味になり、お葬式などの弔事の包み方になってしまいます。結婚式でこれをやってしまうと大変なマナー違反(不吉な意味)になるため、最後の仕上げで絶対に間違えないよう確認してください。
水引を元通りに戻す際の上手な通し方
一度外した水引を、包み終わった袋に戻すのは意外と難しい作業です。無理に押し込むと、せっかくきれいに折った袋がシワになったり、水引が変形したりしてしまいます。
コツとしては、まず上包みの上端と下端を少し内側に反らせるようにして袋全体の厚みを減らし、水引の輪の中に滑り込ませます。この時、水引を引っ張るのではなく、袋の方を動かして通すイメージで行うとスムーズです。最後に、水引の位置が袋の中央(またはやや上寄り)に来るように調整し、全体の歪みを整えれば完成です。
当日のマナー:袱紗(ふくさ)の包み方と受付での渡し方
ご祝儀袋が完成しても、そのままバッグに入れたり、購入時のビニール袋に入れて持参するのはマナー違反です。ご祝儀袋は汚れたり折れ曲がったりしないよう、「袱紗(ふくさ)」に包んで持参するのが大人の嗜みです。
ご祝儀袋は袱紗(ふくさ)に包んで持参するのが大人のマナー
袱紗は、金封を大切に扱うための布製の包みです。結婚式においては、赤、朱色、ピンク、オレンジ、金などの「暖色系」の袱紗を使用します。紫色の袱紗は、慶事(結婚式)と弔事(お葬式)の両方に使えるため、一枚持っておくと非常に便利です。
袱紗には、風呂敷のように包むタイプと、ポケット状になっていて挟むだけの「金封袱紗(きんぷうふくさ)」があります。初心者の方には、型崩れの心配がなく、出し入れもスマートな金封袱紗がおすすめです。
袱紗がない場合の代用テクニック(ハンカチの活用法)
もし袱紗を持っていない場合は、きれいなハンカチや小さめの風呂敷で代用することが可能です。この場合も、色は暖色系や明るいパステルカラーのものを選びます。白いハンカチは弔事を連想させる場合があるため、レースや刺繍が入っているものならOKですが、無地の白布は避けたほうが無難です。
包み方は、ハンカチをひし形に広げ、中央にご祝儀袋を置きます。左、上、下の順に折り、最後に右側を折り重ねて包みます。これは「右前(右が手前)」という慶事の包み方です。
受付での渡し方手順:袱紗から出し、相手に向けて差し出す
結婚式場の受付に着いたら、以下の手順でご祝儀を渡します。
- 受付の順番が来る前に、袱紗を取り出し準備しておく。
- 受付の方に「本日はおめでとうございます」と挨拶をする。
- 袱紗を開き、ご祝儀袋を取り出す。
- 袱紗をたたみ、その上にご祝儀袋を乗せる(省略して受付台に置く場合もあるが、乗せるのがより丁寧)。
- ご祝儀袋の向きを、受付の方から見て正面になるように(時計回りに180度回転させて)差し出す。
- 「心ばかりですが、お祝いのしるしです」などと一言添えて、両手で渡す。
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「受付での所作は、意外と見られているものです。最も多い失敗は、ご祝儀袋を自分の方に向けたまま渡してしまうこと。相手に文字が読める向きに変えて渡すのは、『どうぞお納めください』という敬意の表現です。袱紗から出す際にもたつかないよう、家を出る前に一度リハーサルをしておくと、当日スマートに振る舞えますよ。」
ご祝儀袋に関するよくある質問(FAQ)
最後に、ご祝儀袋の準備中に発生しがちなトラブルや、細かい疑問についてお答えします。
Q. 書き損じてしまった!修正液を使ってもいい?
A. 修正液や修正テープの使用はNGです。
お祝い事において、修正跡のあるものを渡すのは大変失礼にあたります。「傷がついた」「取り繕った」という印象を与えてしまうからです。書き損じた場合は、新しい短冊や中袋を用意して書き直すのが鉄則です。どうしても予備がない場合は、短冊なら裏返して使う(紙質による)、中袋なら白い封筒を別途購入して代用するなどの方法を取りましょう。
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「人間ですから書き損じは誰にでもあります。だからこそ、ご祝儀袋を買うときは短冊が2枚以上入っているものを選ぶか、あるいは全く同じご祝儀袋を2つ買っておく(1つは予備)くらいの慎重さがあっても良いでしょう。数百円の出費で、当日の安心感が全く違います。」
Q. 金額が3万円の場合、お札は3枚?それとも2万円と1万円札?
A. 1万円札を3枚用意します。
「割り切れる数字(偶数)」は「別れ」を連想させるため、結婚祝いでは奇数の金額(3万円、5万円など)を包むのが基本です。3万円を包む場合は、1万円札を3枚入れます。2万円(ペア)を包む場合は、1万円札1枚と5千円札2枚で合計3枚にする、というテクニックもありますが、3万円の場合は素直に1万円札3枚で問題ありません。
Q. 中袋をのり付けする必要はありますか?
A. 基本的にはのり付け不要です。
中袋にお金を入れた後、封をするかどうか迷うところですが、一般的にはのり付けやシール貼りは不要です。これは、新郎新婦が開封して集計する際の手間を省くためです。ただし、中袋に「封」や「〆」といったシールが付属している場合や、金額が大きく(10万円以上など)心配な場合は、のり付けをして「〆」と書いても構いません。3万円〜5万円程度であれば、上包みの水引でしっかり固定されるため、中袋は折るだけで大丈夫です。
Q. 薄墨(うすずみ)の筆ペンを使ってしまいました。どうすればいい?
A. 必ず濃い黒の筆ペンで書き直してください。
先述の通り、薄墨は「お葬式」の色です。結婚式で薄墨を使うことは、大変縁起が悪く、相手を不快にさせる重大なマナー違反となります。たとえきれいに書けたとしても、その短冊や中袋は使用せず、必ず濃い黒インクのもので書き直しましょう。
まとめ:心を込めたご祝儀袋で、新郎新婦に祝福を伝えよう
ご祝儀袋の準備は、単なる形式的な作業ではなく、新郎新婦への「おめでとう」の気持ちを形にする大切なプロセスです。選び方から書き方、包み方まで、一つひとつの手順に込められた意味を理解することで、自信を持って当日を迎えることができるはずです。
最後に、結婚式当日までの最終チェックリストを確認しておきましょう。
- 袋の選び方:金額(3万・5万等)に見合った格の袋か?水引は「結び切り」か「あわじ結び」か?
- 表書き:筆ペン(濃墨)を使い、名前は上段より少し小さく書いたか?
- 中袋:金額は旧字体(壱、弐、参)で書いたか?裏面に住所と氏名を記入したか?
- お札:新札を用意し、肖像画が上・表に来るように入れたか?
- 包み方:上包みの裏側は「下側を上に」重ねたか?(喜びを受け止める)
- 持ち運び:袱紗(ふくさ)または代用のハンカチに包んだか?
筆耕士・マナー専門家のアドバイス
「ここまで多くのルールやマナーをお伝えしましたが、最も大切なのは『新郎新婦の幸せを願う心』です。多少文字が曲がってしまっても、一生懸命丁寧に書かれた文字からは、必ずその温かさが伝わります。形式を恐れすぎず、心を込めて準備したご祝儀袋を持って、笑顔でお祝いの席へと向かってください。」
素晴らしい結婚式の一日になりますように。ぜひ、今日から余裕を持って準備を始めてみてください。
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