「朝起きると指がこわばって動かない」
「指の付け根に痛みがあり、曲げ伸ばしするとカクッとなる」
「手術は怖いから、なんとか自分で治したい」
もしあなたがこのような症状や不安を抱えているなら、それは「ばね指(弾発指)」の可能性があります。指は私たちの生活において最も頻繁に使う部位の一つであり、そこに痛みや不具合が生じると、家事や仕事、日常生活の質(QOL)は著しく低下してしまいます。
結論から申し上げますと、ばね指は早期に正しい対処を行えば、手術をせずに改善できる可能性が高い病気です。実際に私の外来でも、適切な保存療法(手術以外の治療)を行うことで、多くの患者さんが痛みから解放されています。
しかし、ここで注意が必要なのは、インターネット上の情報や自己流の判断で誤ったケアをしてしまうことです。特に、良かれと思って行う「痛い部分を強く揉むマッサージ」は、炎症を悪化させる逆効果な行為になりかねません。
この記事では、長年にわたり手外科専門医として多くのばね指治療に携わってきた筆者が、「自宅でできる正しいセルフケア」から「病院での痛くない治療法」、そして「手術が必要になる境界線」まで、あなたの指の悩みを解決するために徹底解説します。
正しい知識を持つことが、回復への第一歩です。ぜひ最後までお読みいただき、今日から実践してみてください。
この記事でわかること
- 今すぐできる!ばね指の進行を食い止める正しいストレッチと安静のコツ
- 「注射は痛い?」「手術は怖い」の不安を解消する最新治療ガイド
- 放置は危険?専門医が教える「病院へ行くべきタイミング」のセルフチェック
これってばね指?初期症状セルフチェックと進行度分類
「指が痛いけれど、これが本当にばね指なのだろうか?」
まずは、ご自身の症状がばね指に当てはまるかどうかを確認しましょう。ばね指は、ある日突然指が動かなくなるわけではなく、初期段階からいくつかのサインを出しています。このサインを見逃さず、早期に気づくことが重症化を防ぐ鍵となります。
ばね指(弾発指)の典型的な症状チェックリスト
以下の項目に一つでも当てはまる場合、ばね指を発症している可能性が高いと言えます。特に朝方の症状には注目してください。
Checklist|ばね指セルフチェック
- 朝起きると指がこわばって動かしにくい(日中動かしていると改善する)
- 指の付け根(手のひら側)を押すと痛みがある、またはしこりのような腫れがある
- 指を曲げ伸ばしすると「カクッ」「パチン」と引っかかる感じがする(弾発現象)
- 指が曲がったまま伸びなくなる、または伸びたまま曲がらなくなる(ロッキング現象)
- 指を動かすと、手のひらの付け根部分に熱感や腫れを感じる
これらはすべて、指を曲げるための「腱(けん)」と、その腱が通るトンネルである「腱鞘(けんしょう)」の間で炎症が起きている証拠です。
放置するとどうなる?軽度から重度への進行プロセス
ばね指は、放置して自然に治ることも稀にありますが、多くの場合は徐々に進行していきます。進行度は大きく分けて以下の3段階に分類されます。
1. 初期(炎症期)
主な症状は「朝のこわばり」と「指の付け根の圧痛」です。この段階ではまだ「カクッ」という引っかかり(弾発現象)は目立たないこともあります。起床直後は指がむくんで動かしにくいですが、お湯で温めたり、昼頃まで動かしているとスムーズになります。この段階で適切なケアを始めれば、完治する可能性は非常に高いです。
2. 中期(弾発期)
指の曲げ伸ばしの際に、明確な引っかかりが生じます。「カクッ」という音や衝撃を感じるようになり、痛みも強くなります。自力で指を伸ばすことは可能ですが、そのたびに痛みを伴うため、無意識に指を使うことを避けるようになります。
3. 重度(拘縮・ロッキング期)
指が曲がったまま固まってしまい、自力では伸ばせなくなります(ロッキング)。反対の手を使って無理やり伸ばそうとすると激痛が走ります。さらに進行すると、関節自体が硬く固まってしまう「関節拘縮(こうしゅく)」を起こし、たとえ手術で腱の引っかかりを治しても、指が真っ直ぐ伸びないという後遺症が残るリスクがあります。
間違いやすい他の病気(関節リウマチ・ヘバーデン結節など)
指の痛みやこわばりを引き起こす病気は、ばね指だけではありません。以下の病気との鑑別(見分け)も重要です。
詳細を見る:ばね指と間違えやすい病気の特徴
| 病名 | 特徴とばね指との違い |
|---|---|
| 関節リウマチ | 全身の免疫異常による病気です。ばね指と同様に「朝のこわばり」が出ますが、リウマチの場合は「左右対称に症状が出る」「手首や他の関節も痛む」「全身のだるさがある」などの特徴があります。血液検査で診断します。 |
| ヘバーデン結節 | 指の第一関節(爪に近い関節)が腫れて変形し、痛む病気です。ばね指は「指の付け根」が痛むのに対し、ヘバーデン結節は指先に症状が出るのが最大の違いです。 |
| ドケルバン病 | 手首の親指側で起こる腱鞘炎です。親指を広げたり動かしたりすると、手首に激痛が走ります。ばね指の親指バージョンと合併することもあります。 |
手外科専門医のアドバイス
「私の外来に来られる患者さんの中で、最も見逃されがちなサインが『朝のこわばり』です。日中動いていると治ってしまうため、『ただのむくみかな?』『寝相が悪かったのかな?』と放置してしまう方が非常に多いのです。しかし、この朝の動かしにくさこそが、腱鞘炎が始まっているSOSサインです。もし、毎朝のように指の違和感が続くようであれば、カクカクし始める前であっても、一度専門医に相談することをお勧めします。リウマチとの区別をつけるためにも、早めの受診は安心材料になりますよ。」
なぜ私が?ばね指の原因と発症メカニズムを図解
「特別な重労働をしたわけではないのに、なぜ?」
診察室でよく聞かれる質問です。ばね指の原因は「手の使いすぎ」だけではありません。特に40代〜50代の女性に多く発症するのには、明確な医学的理由があります。
指の腱(屈筋腱)と腱鞘(A1プーリー)の関係
ばね指のメカニズムを理解するために、指の構造を「トンネル」と「紐(ひも)」に例えて説明しましょう。
私たちの指を曲げるための筋肉は肘から手首にかけて存在し、その力は「屈筋腱(くっきんけん)」という丈夫な紐によって指先まで伝えられます。この紐が骨から浮き上がらないように、指の付け根や関節部分には「腱鞘(けんしょう)」と呼ばれるトンネル(鞘)があり、紐を押さえています。特に指の付け根にあるトンネルを医学用語で「A1プーリー」と呼びます。
- 正常な状態:
紐(腱)の太さとトンネル(腱鞘)の大きさのバランスが取れており、紐はトンネルの中をスムーズに行き来します。 - ばね指の状態:
炎症によって紐(腱)が腫れて太くなったり、トンネル(腱鞘)が分厚く肥厚して狭くなったりします。すると、太くなった紐が狭いトンネルを通ろうとする際に引っかかってしまいます。無理に通そうとして力を入れると、通過した瞬間に「カクッ」と弾けるような動き(弾発現象)が起こります。
40代〜50代女性に急増!ホルモンバランスと更年期の影響
ばね指は、更年期(閉経前後)の女性に圧倒的に多く見られます。また、妊娠中や出産後の授乳期にも発症しやすいことが知られています。これには「エストロゲン(女性ホルモン)」の減少や変動が深く関わっています。
エストロゲンには、腱や関節を柔軟に保ち、炎症を抑える作用があります。更年期に入りエストロゲンが急激に減少すると、腱や腱鞘が柔軟性を失い、少しの刺激でも腫れやすくなります。つまり、「以前と同じ家事や仕事量であっても、腱鞘炎になりやすい体質に変化している」といえるのです。
スマホ・パソコン・家事…日常生活に潜む「使いすぎ」リスク
もちろん、物理的な負担(オーバーユース)も大きな原因です。現代生活には指を酷使する場面が溢れています。
- スマートフォンの長時間操作:特に片手操作での親指の酷使。
- パソコンのキーボード・マウス操作:長時間の入力作業。
- 家事全般:包丁で硬いものを切る、洗濯ばさみをつまむ、重い買い物袋を持つなど、「握る」「つまむ」動作の繰り返し。
- 特定のスポーツや楽器演奏:ゴルフ、テニス、ピアノなど。
これらの動作は、指の付け根の腱鞘(A1プーリー)に強い摩擦を生じさせます。ホルモンバランスの変化という「下地」がある状態で、これらの「負荷」が加わることで、ばね指が一気に発症・進行してしまうのです。
手外科専門医のアドバイス
「『更年期だから仕方ない』と諦める必要はありませんが、身体の変化を理解することは大切です。エストロゲンが減少している時期は、いわば『指の潤滑油が切れている状態』です。若い頃と同じ感覚で無理をしてしまうと、すぐに炎症が起きてしまいます。この時期は、ご自身の体をいつも以上に労り、こまめに休憩を取ることが、立派な治療の一つになります。」
手術は回避できる?ばね指治療の全体像と「保存療法」の重要性
「手術だけは絶対に避けたい」
そう願うのは当然のことです。幸いなことに、ばね指と診断されたからといって、すぐに手術が必要になるわけではありません。治療には段階があり、まずは身体への負担が少ない方法から開始するのが原則です。
ばね指治療の基本フローチャート:まずは保存療法から
手外科における標準的な治療の流れは以下のようになります。
Step 1:保存療法(基本かつ最重要)
まずは患部の安静、投薬、装具療法を行います。軽度〜中等度の多くはここで改善します。
Step 2:腱鞘内ステロイド注射
保存療法で痛みが引かない場合や、症状が強い場合に選択します。強力な抗炎症作用で腫れを引かせます。
Step 3:手術療法(最終手段)
注射を繰り返しても再発する場合や、指が固まって伸びない(拘縮)場合に検討します。
このフローチャートからも分かる通り、いきなり手術をすることはまずありません。まずは「保存療法」を徹底することが、手術回避への最短ルートです。
「保存療法」とは具体的に何をするのか?(安静・薬・装具)
保存療法の目的は「炎症を鎮めること」に尽きます。具体的には以下の3つを組み合わせます。
1. 局所の安静(スプリンティング)
指の使いすぎが原因である以上、休ませることが一番の薬です。しかし、日常生活で指を使わないことは不可能です。そこで役立つのが「サポーター」や「スプリント(装具)」です。特に寝ている間だけでも指を固定し、無意識の曲げ伸ばしを防ぐことで、朝のこわばりが劇的に改善することがあります。
2. 薬物療法(塗り薬・貼り薬・飲み薬)
非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を含む湿布や塗り薬を使用し、皮膚から炎症を抑えます。痛みが強い場合は飲み薬を併用することもありますが、これらはあくまで対症療法であり、根本解決には「安静」とのセットが必要です。
3. ストレッチ
腱の滑りを良くし、拘縮(固まること)を防ぐために行います。ただし、炎症が強い時期に行うと逆効果になることもあるため、医師の指導の下、正しい方法で行う必要があります(後述します)。
どのくらいの期間で治る?治療期間の目安と完治率
治療期間は、症状の程度と、どれだけ患部を安静に保てるかによって大きく異なります。
- 軽度の場合:2週間〜1ヶ月程度の安静と装具療法で症状が消失することが多いです。
- 中等度の場合:数ヶ月単位でのケアが必要になることがあります。注射を併用することで期間を短縮できる場合もあります。
重要なのは「痛みが消えた=完治」ではないということです。痛みが引いても腱の肥厚(腫れ)が完全に引くまでは時間がかかります。自己判断でサポーターを外してすぐに元の酷使する生活に戻ると、高確率で再発します。
手外科専門医のアドバイス
「以前、手術適応かと思われるほど指が引っかかっていた患者さんがいらっしゃいました。仕事が忙しく手術はできないとのことで、覚悟を決めて『夜間の装具固定』と『日中の徹底した動作改善』を2ヶ月間続けていただきました。すると、嘘のように引っかかりが消え、手術を回避できたのです。この患者さんの勝因は、『治す』という強い意志を持って、地道な安静を継続したことにあります。保存療法は、医師だけでなく患者さんの協力なしでは成立しない治療法なのです。」
【動画解説】自宅で改善!手外科医が推奨する正しいセルフケア
ここでは、病院に行く時間がない方や、保存療法を自宅で実践したい方のために、手外科医が推奨する具体的かつ安全なセルフケア方法を解説します。
基本は「安静」!指を休ませるための工夫とサポーターの選び方
最も効果的なセルフケアは、物理的に指の動きを制限することです。
サポーターの選び方と使い分け
詳細を見る:おすすめのサポータータイプ
| タイプ | 特徴 | おすすめの使用シーン |
|---|---|---|
| アルミ板入り固定タイプ | 指を一本ずつガッチリ固定し、曲がらないようにする。固定力は最強。 | 就寝中(無意識の握り込み防止に最適) |
| ソフトサポーター(布製) | 適度な圧迫感で痛みを和らげるが、指は曲がる。 | 日中の軽作業時(完全に固定すると仕事ができない場合) |
| テーピング | 指の付け根の動きを制限する。安価で調整しやすい。 | スポーツや家事の最中 |
特に重要なのが「夜間の固定」です。人間は寝ている間に無意識に手を握りしめることが多く、これが朝のこわばりの原因になります。市販の指用サポーター(アルミ板が入っているもの)を購入し、寝る時だけでも装着してみてください。これだけで症状が半減することも珍しくありません。
腱の滑りを良くする「ばね指改善ストレッチ」の手順
痛みが激しい「炎症期」を過ぎたら、腱が固まらないようにストレッチを行います。無理に自力で動かすのではなく、反対の手を使って優しく行います。
【実践!ばね指ストレッチ】
- 準備:患部をお風呂などで温めて、血行を良くしてから行うと効果的です。
- 保持:痛む指の付け根(手のひら側)を、反対の手の親指で軽く押さえます。
- 反らし:反対の手を使って、痛む指をゆっくりと手の甲側へ反らせていきます(伸展)。
- キープ:「痛気持ちいい」ところで止めて、20秒〜30秒キープします。
- 回数:これを1セットとし、1日3〜5回行います。
ポイント:
自力で指を曲げ伸ばしする「グーパー運動」は、腱鞘と腱の摩擦を増やすため、やりすぎには注意が必要です。上記のような「他動的ストレッチ(反対の手で動かす)」を中心に行いましょう。
逆効果に注意!やってはいけない「危険なマッサージ」
ここが最も重要なポイントです。多くの方が誤解していますが、「指の付け根の痛いしこりを、グリグリと強く揉むマッサージ」は絶対にやめてください。
ばね指のしこりは、肩こりのような筋肉の凝りではなく、「炎症による腫れ」です。腫れている部分を強く揉むと、炎症がさらに広がり、腫れが悪化してしまいます。これは、打撲で腫れている場所を叩いているのと同じことです。
マッサージをするなら、患部(指の付け根)ではなく、その原因となっている「前腕(肘から手首の間)の筋肉」を揉みほぐしてください。指を動かす筋肉は腕にあります。腕の筋肉をほぐすことで、腱の緊張が和らぎ、結果として指への負担が減ります。
手外科専門医のアドバイス
「『早く治したいから』と、痛い部分を一生懸命マッサージして、逆に指がパンパンに腫れ上がって来院される患者さんが後を絶ちません。痛い場所は『そっとしておく』のが鉄則です。マッサージは患部ではなく、つながっている腕や肩に対して行いましょう。愛護的(優しく丁寧)なケアこそが、早期回復への近道です。」
治らない場合は?病院で行う治療(注射・手術)の効果とリスク
セルフケアや安静を続けても改善しない場合、あるいは日常生活に深刻な支障が出ている場合は、より積極的な医療介入が必要になります。「痛い」「怖い」というイメージが先行しがちな注射や手術について、正確な情報をお伝えします。
ステロイド注射(腱鞘内注射)の効果・痛み・回数制限
ばね指治療の切り札とも言えるのが、腱鞘内へのステロイド注射です。
- 効果:強力な抗炎症剤を、炎症が起きている腱鞘の中に直接注入します。一回の注射で劇的に症状が改善し、そのまま完治することも少なくありません。
- 痛み:手のひらは神経が集中しているため、チクッとした痛みは伴います。しかし、現在は極細の針を使用したり、麻酔薬を混ぜたりすることで、痛みは最小限に抑えられています。
- 回数制限:ここが重要です。ステロイドには組織を脆くする副作用があるため、頻回な注射は推奨されません。一般的には、一定期間を空けて2〜3回までが目安とされています。
注射の副作用リスク(皮膚の萎縮・腱断裂)について
ステロイド注射は非常に有効ですが、リスクもゼロではありません。
- 皮膚の萎縮・脱色:注射した部位の皮膚が白くなったり、薄く凹んだりすることがあります(多くの場合は時間とともに戻ります)。
- 感染:極めて稀ですが、注射部位から細菌が入るリスクがあります。
- 腱断裂:頻回に注射を繰り返すと、腱自体が弱くなり、切れてしまうことがあります。これが「回数制限」を設ける最大の理由です。
最終手段「ばね指の手術(腱鞘切開術)」とは?
注射でも治らない場合や、再発を繰り返す場合は手術を検討します。手術の目的は、狭くなったトンネル(腱鞘)を切り開いて、腱の通り道を広げることです。
現在は医学の進歩により、患者さんの負担は大幅に軽減されています。
詳細を見る:ばね指の手術方法比較(直視下 vs 鏡視下)
| 項目 | 直視下腱鞘切開術(通常の手術) | 鏡視下腱鞘切開術(内視鏡手術) |
|---|---|---|
| 方法 | 皮膚を1.5cm〜2cmほど切開し、医師が直接目で見て腱鞘を切る。 | 小さな穴から内視鏡や特殊なナイフを入れて切る。 |
| 手術時間 | 10分〜15分程度 | 5分〜10分程度 |
| 傷跡 | 手のひらのシワに沿って切るため目立ちにくいが、縫合が必要。 | 数ミリの傷で済み、縫合不要な場合も多い。 |
| メリット | 視野が広く、神経や血管を確実に避けられるため安全性が高い。確実な処置が可能。 | 傷が小さく、術後の痛みが少ない。回復が早い。 |
| デメリット | 抜糸までの期間(約10日〜2週間)は水仕事に制限がかかる。 | 高度な技術が必要。神経損傷のリスクが直視下よりわずかに高いとされる。 |
どちらの方法も基本的には局所麻酔による日帰り手術で行われます。入院の必要はなく、手術当日から指を動かすことが推奨されます。
手術後のリハビリと日常生活復帰までの期間
「手術をしたら、しばらく手が使えないのでは?」と心配される方が多いですが、ばね指の手術後は「すぐに動かす」ことがリハビリになります。動かさないでいると、癒着して指が固まってしまうからです。
- 手術当日〜翌日:包帯で保護されていますが、指先は動かせます。
- 術後3日〜1週間:軽作業なら可能です。水仕事は傷口が塞がるまで(抜糸まで)ゴム手袋が必要です。
- 術後2週間〜:抜糸後は通常の生活に戻れます。握力や細かい感覚が完全に戻るには1〜2ヶ月かかることもあります。
手外科専門医のアドバイス
「『注射は魔法の薬』と思われがちですが、あくまで炎症を抑えるものであり、使いすぎの原因(生活習慣)が変わらなければ再発します。また、回数制限を守らずに漫然と注射を続けることは、腱断裂という取り返しのつかない事態を招きかねません。医師が『これ以上は注射できない、手術を考えましょう』と提案するときは、あなたの指の将来を守るための判断なのです。」
迷ったら確認!病院を受診すべき「危険なサイン」と医師選び
ここまでセルフケアや治療法を見てきましたが、最終的に「今、病院に行くべきかどうか」を判断するのは難しいものです。ここでは、専門医の視点から受診の判断基準(トリアージ)を提示します。
セルフケアで様子を見ていい期間の目安
以下の条件に当てはまる場合は、まず2週間〜1ヶ月程度、前述したセルフケア(安静・固定・ストレッチ)を試してみても良いでしょう。
- 症状が出始めてから1ヶ月以内である。
- 指の引っかかりはあるが、痛みはそれほど強くない。
- 自力で指を伸ばすことができる。
- 日常生活への支障が軽微である。
即受診が必要な症状(関節拘縮・ロッキングの頻発)
一方で、以下の症状がある場合は、セルフケアで改善する段階を超えています。無理に自己対処しようとせず、速やかに整形外科を受診してください。
- 指が曲がったまま伸びない、または伸びたまま曲がらない(ロッキング)。
- 指を動かさなくてもズキズキと痛む(安静時痛)。
- 第2関節(PIP関節)が固まってしまい、他人の手で押しても真っ直ぐにならない(関節拘縮)。
- 2週間セルフケアを徹底しても症状が全く改善しない、または悪化している。
「整形外科」ならどこでも良い?手外科専門医を探すメリット
ばね指は一般的な整形外科でも診察可能ですが、より専門的な判断や治療(特に手術や難治性のケース)を求めるなら、「手外科専門医」のいる病院を探すことを強くお勧めします。
手外科専門医は、手の解剖や機能に精通したスペシャリストです。「手術が必要かどうかの微妙な判断」「傷跡をきれいに治す技術」「神経損傷などの合併症を避ける技術」において、専門医の知見は大きなメリットとなります。日本手外科学会のホームページなどで、お近くの専門医を探すことができます。
手外科専門医のアドバイス
「私が最も恐れているのは、患者さんが痛みを我慢しすぎて『関節拘縮(かんせつこうしゅく)』になってしまうことです。指の関節は、長期間動かさないと骨や靭帯が固まってしまい、そうなると腱の引っかかりを手術で治しても、指は曲がったまま戻らなくなってしまいます。こうなると治療は非常に困難です。『指が伸びない』と感じたら、それは赤信号。1日も早く専門医のドアを叩いてください。」
ばね指に関するよくある質問(FAQ)
最後に、診察室で患者さんから頻繁に寄せられる疑問にお答えします。
Q. 湿布や塗り薬はばね指に効果がありますか?
A. 痛みの緩和には一定の効果があります。
湿布や塗り薬に含まれる消炎鎮痛成分は、腱鞘の炎症を抑え、痛みを和らげる助けになります。ただし、皮膚からの吸収には限界があるため、あくまで補助的な治療と考えてください。湿布だけで根本的に治るわけではありません。
Q. お風呂で温めるのと冷やすの、どっちが良いですか?
A. 基本的には「温める」のが正解です。
ばね指は慢性的な炎症や血行不良が関与しているため、温めて血流を良くすることで症状が緩和します。入浴中にグーパー運動をするのも良いでしょう。ただし、急に激痛が出た直後や、患部が赤く熱を持っている場合(急性期)だけは、氷などで冷やして炎症を抑えてください。
Q. ばね指は自然治癒しますか?
A. 軽度であれば自然に治ることもあります。
特に妊娠・出産に伴うばね指は、ホルモンバランスが戻ると自然に治癒することが多いです。しかし、更年期や使いすぎによるものは、生活習慣を変えない限り自然治癒は難しく、徐々に進行することが多いのが現実です。
Q. 手術は痛いですか?日帰りでできますか?
A. 手術中は麻酔が効いているため痛みはありません。
麻酔の注射をする際にチクッとはしますが、手術自体は無痛です。術後の痛みも痛み止めでコントロールできる程度です。ほとんどの病院で日帰り手術が可能ですので、仕事や家事への影響も最小限に抑えられます。
手外科専門医のアドバイス
「温熱療法は自宅でできる最高のリハビリです。お風呂はもちろんですが、洗面器にお湯を張って手浴(しゅよく)をするのもおすすめですよ。手が温まると腱の柔軟性が増し、朝のこわばりも楽になります。ぜひ毎日の習慣にしてみてください。」
まとめ:ばね指は「我慢」禁物!正しいケアで指の自由を取り戻そう
ばね指は、決して「不治の病」ではありません。しかし、「たかが指の痛み」と侮って放置すると、指が動かなくなるなどの深刻な事態を招くこともあります。
今回の記事のポイントをまとめます。
- 初期症状(朝のこわばり)を見逃さない。
- 痛い部分を強く揉むマッサージは厳禁。
- まずは「安静」「固定(夜間装具)」「ストレッチ」の保存療法を徹底する。
- 注射は回数制限を守る。
- 指が伸びなくなったら(拘縮・ロッキング)、迷わず手外科専門医へ。
あなたの手は、毎日あなたや家族のために働き続けてくれています。痛みは手からの「休ませてほしい」というサインです。その声に耳を傾け、今日から正しいケアを始めてあげてください。
もしセルフケアで改善が見られない場合は、勇気を出して専門医に相談してください。適切な治療を受ければ、また以前のようにスムーズに動く指を取り戻すことができます。
手外科専門医のアドバイス
「『手術と言われるのが怖くて病院に行けない』という方は本当に多いです。ですが、私たち医師もできる限り手術は避けたいと考えています。早めに来ていただければ、それだけ保存療法で治せる確率が高まります。あなたの指の自由を取り戻すために、私たちは全力でサポートします。一人で悩まず、まずは相談にいらしてください。」
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