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【専門家解説】トランスジェンダーとは?性同一性障害との違いや職場で知っておくべき基礎知識と配慮

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近年、ニュースや企業の研修などで「トランスジェンダー」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、「性同一性障害とは何が違うのか?」「職場で当事者と接する際、具体的にどのような配慮が必要なのか?」といった疑問を持ちながらも、誰に聞けばよいかわからず戸惑っている方も多いのではないでしょうか。

結論から申し上げますと、トランスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別と、自認する性別(こころの性)が異なる人々の総称です。これは病気や障害の名前ではなく、その人のアイデンティティ(在り方)を示す言葉であり、医療的な診断の有無に関わらず多様なあり方が存在します。

この記事では、ダイバーシティ推進の現場で多くの企業や当事者の相談を受けてきた専門家の視点から、以下の3点を中心に解説します。

  • トランスジェンダーの正しい定義と、よく混同される「性同一性障害」との明確な違い
  • 当事者が日常生活や職場で直面している、具体的な悩みと課題(トイレ、呼称、人間関係など)
  • 誰もが働きやすい環境を作るために、管理職や同僚ができる具体的な配慮とアクション

正しい知識を持つことは、当事者を守るだけでなく、組織全体の心理的安全性を高めることにも繋がります。ぜひ最後までお読みいただき、誰もが自分らしく働ける職場づくりの参考にしてください。

  1. トランスジェンダーとは?正しく理解するための基礎知識
    1. 定義:身体的特徴と性自認(こころの性)の不一致
    2. 「性同一性障害(GID)/性別違和」との違い
    3. LGBTにおける「T」の位置づけと性的指向との区別
  2. 男女だけではない?トランスジェンダーの多様なあり方
    1. MtF(トランス女性)とFtM(トランス男性)
    2. Xジェンダーとノンバイナリー(男女の枠に当てはまらない性)
    3. 身体的治療を望む人・望まない人
  3. 当事者が日常や職場で抱える具体的な悩みと課題
    1. 職場環境:トイレ・更衣室・制服の利用障壁
    2. 人間関係:カミングアウトのプレッシャーと「アウティング」の恐怖
    3. 書類・手続き:性別記載欄や通称名使用のハードル
    4. マイノリティ・ストレスとメンタルヘルスへの影響
  4. 周囲や企業ができる配慮とアライ(Ally)としての行動
    1. SOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)を防ぐ
    2. 呼称や言葉遣いのマナー(「彼・彼女」ではなく名前で呼ぶなど)
    3. 相談を受けた時の「傾聴」の姿勢とアライ表明
    4. 制度が整っていなくてもできる「運用」での工夫
  5. 日本における現状と法制度の動向
    1. 日本のトランスジェンダーの割合と認知度
    2. 性同一性障害特例法と性別変更の要件
    3. 自治体パートナーシップ宣誓制度の広がり
  6. トランスジェンダーに関するよくある質問(FAQ)
    1. Q. 診断書がないとトランスジェンダーとは言えないのですか?
    2. Q. 職場でカミングアウトされたら、他の人にも伝えるべきですか?
    3. Q. 自分の性別に違和感がある場合、どこに相談すればいいですか?
  7. まとめ:正しい理解が、誰もが生きやすい社会への第一歩

トランスジェンダーとは?正しく理解するための基礎知識

まずはじめに、「トランスジェンダー」という言葉の正確な定義と、性を構成する要素について解説します。性のあり方は「男か女か」という単純な二元論ではなく、グラデーションのように多様です。このセクションでは、専門的な視点からその構造を紐解いていきます。

定義:身体的特徴と性自認(こころの性)の不一致

トランスジェンダー(Transgender)とは、英語の「Trans(超える・横切る)」と「Gender(性別)」を組み合わせた言葉で、一般的に「出生時に割り当てられた身体的性別と、自認する性別(性自認)が一致しない人」を指します。一方、身体的性別と性自認が一致している人のことを「シスジェンダー(Cisgender)」と呼びます。

人間の性は、主に以下の4つの要素の組み合わせで成り立っています。これらは「性の4要素(SOGIの構成要素)」と呼ばれ、それぞれが独立しています。

  • 身体的性(Sex Assigned at Birth):染色体、ホルモン、外性器・内性器などの生物学的な特徴に基づき、出生時に割り当てられた性別。
  • 性自認(Gender Identity):自分が自分の性別をどう認識しているか。「こころの性」とも呼ばれます。男性、女性、そのどちらでもない、揺れ動いているなど多様です。
  • 性的指向(Sexual Orientation):恋愛や性愛の対象がどの性別に向くか。「好きになる性」のことです(異性、同性、両性、誰にも向かないなど)。
  • 性表現(Gender Expression):服装、髪型、言葉遣い、振る舞いなど、外部に向けて表現する性別らしさ。

トランスジェンダーは、この中の「身体的性」と「性自認」の間に食い違いがある状態を指します。例えば、「身体は男性だが、自分は女性だと感じている」「身体は女性だが、自分は男性だと感じている」といったケースが代表的です。しかし、必ずしも「男性から女性へ」「女性から男性へ」と完全に移行する人ばかりではありません。

「性同一性障害(GID)/性別違和」との違い

多くの人が混同しやすいのが、「トランスジェンダー」と「性同一性障害(GID)」の違いです。これらは重なる部分もありますが、言葉の性質や使われる文脈が異なります。

最も大きな違いは、トランスジェンダーが「あり方(アイデンティティ)」を指す包括的な言葉であるのに対し、性同一性障害は「医療的な診断名」であるという点です。

以下の表で、両者の違いを整理しました。

項目 トランスジェンダー 性同一性障害(GID)
※現在は「性別違和」等へ移行中
言葉の性質 社会的なアイデンティティ、自己認識を表す言葉。 医学的な診断名。治療や法的性別変更の際に使用される。
医療の必要性 必ずしも医療(ホルモン療法や手術)を必要としない人も含む。 性別の不一致による苦痛が強く、医学的な治療を必要とする状態。
対象範囲 広い。診断を受けていない人、治療を望まない人も含まれる。 狭い。医師の診断を受けた人に限定される。

近年、国際的な精神医学の診断基準(DSM-5)やWHOの国際疾病分類(ICD-11)では、「障害」という言葉が差別や偏見を助長する恐れがあるとして、「性別違和(Gender Dysphoria)」「性別不合(Gender Incongruence)」という名称に変更されています。これは、トランスジェンダーであること自体は精神疾患ではなく、性別不一致による「苦痛」や「社会生活上の支障」に対して医療的ケアが必要である、という考え方に基づいています。

LGBTにおける「T」の位置づけと性的指向との区別

「LGBT」という言葉は、性的マイノリティの総称として広く知られていますが、その内訳を正しく理解することも重要です。

  • L(Lesbian):女性を好きになる女性(同性愛者)
  • G(Gay):男性を好きになる男性(同性愛者)
  • B(Bisexual):両性を好きになる人(両性愛者)
  • T(Transgender):身体的性と性自認が一致しない人

ここで注目すべきは、L・G・Bは「性的指向(好きになる相手)」に関する言葉であるのに対し、Tだけは「性自認(自分の性)」に関する言葉であるという点です。

つまり、「トランスジェンダーだからといって、必ずしも同性が好きなわけではない」ということです。例えば、トランス女性(身体は男性、自認は女性)が男性を好きになる場合もあれば、女性を好きになる(同性愛のトランス女性)場合もあります。性自認と性的指向は別の軸で考える必要があります。

用語解説:シスジェンダーとは?

シスジェンダー(Cisgender)とは、出生時に割り当てられた身体的性別と、本人の性自認が一致している人のことを指します。「Cis」はラテン語で「こちら側の」という意味です。いわゆる「非当事者」や「マジョリティ(多数派)」とされる人々を指す言葉ですが、トランスジェンダーの対義語としてこの言葉を用いることで、「シスジェンダーが『普通』で、トランスジェンダーが『異常』なのではない。単に属性が異なるだけである」というフラットな視点を持つことができます。

認定心理士・ダイバーシティ推進コンサルタントのアドバイス
「言葉は時代とともに変化し続けています。かつて一般的だった『性同一性障害』という言葉も、現在では当事者の中には『障害』と呼ばれることに抵抗を感じる方も少なくありません。また、医療的な診断を受けていなくても、生活の中で性別の違和感に苦しんでいる方は大勢いらっしゃいます。診断書の有無や医学的な定義にとらわれすぎず、『その人がどうありたいか』『どう呼ばれたいか』という個人の意思を尊重することが、信頼関係を築く第一歩です。」

男女だけではない?トランスジェンダーの多様なあり方

トランスジェンダーというと、「男性から女性へ、あるいは女性から男性へ性別を変えたい人」というイメージが強いかもしれません。しかし、実際には性自認のあり方はもっと多様で、男女という二つの枠組み(性別二元論)に当てはまらない人々も多く存在します。

MtF(トランス女性)とFtM(トランス男性)

トランスジェンダーの中でも、男女の枠組みの中で移行を望む人々を表す際によく使われる略称があります。

  • MtF(Male to Female):出生時の身体的性は男性だが、性自認は女性である人。「トランス女性」とも呼ばれます。
  • FtM(Female to Male):出生時の身体的性は女性だが、性自認は男性である人。「トランス男性」とも呼ばれます。

これらの人々の中には、ホルモン療法や性別適合手術を受けて身体的特徴を自認する性に近づけ、戸籍上の性別も変更して生活している人もいれば、様々な事情で身体的治療は行わず、服装や通称名の使用によって社会的に希望する性別で生活している人もいます。

Xジェンダーとノンバイナリー(男女の枠に当てはまらない性)

トランスジェンダーという包括的な枠組みの中には、自身の性自認を「男性」「女性」のどちらか一方に限定しない人々も含まれます。

  • Xジェンダー(X-gender):日本独自の呼称で、性自認が「男性でも女性でもない」「両方持っている」「中間である」「流動的である」というあり方を指します。
  • ノンバイナリー(Non-binary):英語圏を中心に広まっている言葉で、男女の二元論(バイナリー)の枠組みに当てはまらない性自認を持つ人を指します。Xジェンダーと近い概念です。

こうした方々は、例えば「男性用・女性用」と明確に分けられた更衣室やトイレ、制服の選択、あるいは「彼・彼女」といった代名詞の使用に対して、強い違和感や居心地の悪さを感じることがあります。企業のアンケートなどで性別欄が「男・女」の二択しかない場合、回答を躊躇してしまうケースも少なくありません。

身体的治療を望む人・望まない人

非常に重要な点として、「すべてのトランスジェンダー当事者が、身体的な性別適合手術やホルモン療法を望んでいるわけではない」という事実があります。

身体的な治療を望むかどうかは、個人の価値観、健康状態、経済状況、そして「どこまで移行(Transition)したいか」という希望によって異なります。

  • フルタイムでの移行:職場、家庭、プライベートのすべての場面で、自認する性別で生活する人。
  • パートタイムでの移行:職場では身体的性別に合わせて振る舞い、プライベートでは自認する性別で過ごすなど、場面によって使い分けている人。
  • 治療を行わない選択:身体的なメスを入れることに抵抗がある、あるいは健康上の理由で手術ができないため、現状の身体のままで自認する性別として生きることを選択する人。

したがって、「手術をしていないから本気ではない」「見た目が変わっていないからトランスジェンダーではない」と判断するのは誤りです。外見や身体的特徴だけで、その人の性自認や苦悩の深さを測ることはできません。

当事者が日常や職場で抱える具体的な悩みと課題

ここでは、トランスジェンダーの当事者が実際に職場でどのような困難に直面しているのか、具体的な事例を交えて解説します。これらは単なる「わがまま」や「個人の事情」ではなく、社会構造や環境の不備によって生じている課題です。管理職の方は、これらを「組織のリスク」および「従業員のウェルビーイング(幸福)に関わる問題」として捉える必要があります。

職場環境:トイレ・更衣室・制服の利用障壁

最も頻繁に挙がる物理的な課題が、男女別になっている設備の利用です。

  • トイレの問題:トランス女性が女性用トイレを利用することに対し、周囲が不安を感じるケースや、逆にトランス男性が外見上は男性に見えるにもかかわらず、戸籍が女性であるために女性用トイレを使わざるを得ず、周囲から不審がられるケースなどがあります。自認する性別のトイレを使えないことは、水分摂取を控えて膀胱炎になるなど、健康被害に直結することもあります。
  • 更衣室の問題:着替えが必要な職場で、自認する性別の更衣室を使えない苦痛は甚大です。「みんなの前で着替えるのが辛い」という理由で、更衣室のない職種を選ばざるを得ない当事者もいます。
  • 制服・身だしなみ規定:「男性は短髪・スーツ、女性はメイク・スカート」といった男女二元論的な規定は、当事者にとって自分のアイデンティティを否定されるような苦痛(性別違和)を伴います。

人間関係:カミングアウトのプレッシャーと「アウティング」の恐怖

職場での人間関係において、当事者は常に「いつ、誰に、どこまで話すべきか」という葛藤を抱えています。

カミングアウト(自分の性を自ら伝えること)は、信頼関係に基づく行為ですが、同時に大きなリスクも伴います。「伝えたら態度を変えられるのではないか」「異動させられるのではないか」という不安があるため、多くの当事者は隠して働いています(クローゼット)。

さらに恐ろしいのが「アウティング(Outing)」です。これは、本人の了承を得ずに、第三者が勝手にその人のSOGI(性的指向・性自認)を暴露する行為です。アウティングは、職場の居場所を奪い、最悪の場合は命に関わる精神的ダメージを与える重大な人権侵害です。過去には、アウティングを苦にして当事者が自死に至った痛ましい事件も起きています。

書類・手続き:性別記載欄や通称名使用のハードル

事務的な手続きにおいても、トランスジェンダー当事者は頻繁に「つまずき」を経験します。

  • 性別記載欄:履歴書、健康診断の問診票、社員名簿など、不要な場面でも性別欄が存在し、戸籍上の性別を書かざるを得ない状況がストレスとなります。
  • 通称名の使用:戸籍上の名前が「男らしい/女らしい」名前である場合、自認する性別で生活する上で大きな障壁となります。ビジネスネーム(通称名)の使用が認められない企業では、メールアドレスや名刺、社員証を見るたびに苦痛を感じることになります。
  • 健康診断:集団検診などで、大勢の前で名前を呼ばれたり、男女別の検査着を着たりすることがハードルとなり、受診を避けてしまうケースがあります。

マイノリティ・ストレスとメンタルヘルスへの影響

上記のような日々の小さな違和感や、周囲からの何気ない差別的発言、偏見の視線などは積み重なり、「マイノリティ・ストレス」となって当事者の心身を蝕みます。トランスジェンダー当事者は、シスジェンダーと比較してうつ病や不安障害のリスクが高いという調査結果もありますが、これは個人の資質の問題ではなく、社会環境の過酷さが原因であることが多いのです。

認定心理士・ダイバーシティ推進コンサルタントのアドバイス
「私が以前相談を受けたある企業の事例です。トランス女性の社員の方が、『トイレをどちらにするか』という物理的な問題以上に悩んでいたのは、同僚たちのヒソヒソ話や視線でした。『あの人、どっちなんだろうね』という好奇の目や、飲み会での『男のくせに』といった何気ない言葉が、ボディブローのように効いてくるのです。設備投資も大切ですが、まずは『心理的安全性』を確保することが最優先です。安心して働ける環境があれば、設備の問題は運用や対話で解決策が見つかることも多いのです。」

周囲や企業ができる配慮とアライ(Ally)としての行動

では、私たち一人ひとりや企業は、具体的にどうすればよいのでしょうか。特別な専門知識がなくても、今日からできる配慮や行動があります。トランスジェンダーを含むLGBTQ+を理解し、支援する人を「アライ(Ally=同盟、味方)」と呼びます。ここでは、アライとして実践できる具体的なアクションを紹介します。

SOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)を防ぐ

パワーハラスメントやセクシャルハラスメントと同様に、「SOGIハラ(ソジハラ)」の防止は企業の義務となりつつあります。以下のような言動はSOGIハラに該当する可能性があるため、注意が必要です。

  • 差別的言動:「オカマ」「ホモ」「レズ」などの蔑称を使うことや、トランスジェンダーをネタにして笑うこと。
  • 性別らしさの押し付け:「男のくせにナヨナヨするな」「女性なんだからもっと愛想よくしろ」「早く結婚しないの?」といった発言。
  • アウティング:「〇〇さん、実は元男なんだって」と噂話を広めること。善意であっても、本人の許可なく第三者に伝えることはアウティングになります。
  • プライバシーの侵害:「手術はしたの?」「下はどうなってるの?」といった、極めてプライベートな身体に関する質問をすること。

まずは、自分自身の無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づくことが大切です。

【チェックリスト】あなたの発言に潜む無意識の偏見

  • [ ] 「彼氏/彼女いるの?」と、異性のパートナーがいる前提で質問していないか?(「パートナー」や「大切な人」と言い換える)
  • [ ] 見た目の性別だけで「〇〇くん」「〇〇ちゃん」と呼び分けていないか?
  • [ ] 「普通は~」「やっぱり男は~」といった性別役割分担を前提とした発言をしていないか?
  • [ ] あの人はトランスジェンダーに見えないから関係ない、と思い込んでいないか?

呼称や言葉遣いのマナー(「彼・彼女」ではなく名前で呼ぶなど)

性自認を尊重する最も簡単な方法は、言葉遣いを変えることです。

  • 「さん」付けの統一:「くん」「ちゃん」といった男女を分ける敬称をやめ、全員「さん」付けで呼ぶことは、多くの企業で導入されている有効な施策です。
  • 代名詞の配慮:本人の性自認がわからない場合や、ノンバイナリーの方に対しては、「彼」「彼女」という代名詞を使わず、「〇〇さん(名前)」で呼ぶのが無難かつ丁寧です。
  • 自称の尊重:本人が自分を「僕」「私」「俺」などどう呼んでいるかに注目し、それを否定しないようにしましょう。

相談を受けた時の「傾聴」の姿勢とアライ表明

もし、部下や同僚からカミングアウトを受けたり、悩みを相談されたりした場合は、まず「話してくれてありがとう」と受け止めることが重要です。

解決策を急ぐ必要はありません。「何か困っていることはないか」「私にできることはあるか」「この話は誰まで知っているのか(誰に伝えてよいか)」を確認しましょう。否定も肯定もせず、まずは本人の気持ちに寄り添う「傾聴」の姿勢が安心感を生みます。

また、普段からPCにレインボーフラッグのステッカーを貼ったり、アライであることを示すストラップを付けたりして、「私は偏見を持っていませんよ」「いつでも相談に乗りますよ」という意思表示(アライ表明)をしておくことも、当事者にとって大きな救いになります。

制度が整っていなくてもできる「運用」での工夫

「多目的トイレを新設する予算がない」「就業規則を変えるには時間がかかる」といった場合でも、運用レベルでできる工夫はたくさんあります。

  • トイレの運用:「多目的トイレ(誰でもトイレ)」の使用を、障害者だけでなく「誰でも使ってよい」と明文化し、利用しやすい雰囲気を作る。あるいは、当事者が希望する性別のトイレ使用を、まずは人が少ないフロアや時間帯から認めるなど、個別調整を行う。
  • 通称名の許可:社内のメールアドレスや名刺、座席表などにおいて、戸籍名ではなく本人が希望する通称名の使用を認める。これはコストをかけずに実施できる効果的な支援です。
  • 健康診断の個別対応:産業医や健診機関と連携し、着替えの配慮や個別での呼び出しをお願いする。

認定心理士・ダイバーシティ推進コンサルタントのアドバイス
「管理職ができる最初の一歩は、定期的な1on1ミーティングなどで『働きにくいことはない?』とフラットに聞くことです。これはトランスジェンダーに限らず、介護や育児中の社員にとっても有効です。特別な扱いをするのではなく、『個々の事情に合わせて障壁を取り除く』という姿勢こそが、真のインクルージョン(包摂)です。実際に、通称名の使用を許可しただけで『会社に来るのが辛くなくなった』と生産性が劇的に向上した事例を私は何度も見てきました。」

日本における現状と法制度の動向

トランスジェンダーを取り巻く社会環境は、日本でも急速に変化しています。ここでは、信頼できる公的な情報を基に、現在の法制度や社会の動向について概要を解説します。

日本のトランスジェンダーの割合と認知度

日本におけるLGBTQ+層の割合は、調査機関によって異なりますが、おおよそ人口の3%〜10%程度と言われています。その中でトランスジェンダー当事者は0.5%〜1%未満と推計されることが多いですが、これは顕在化している(カミングアウトしている)数に過ぎず、実際にはもっと多い可能性があります。

電通グループなどの調査によると、「LGBT」という言葉の認知度は8割を超えていますが、「トランスジェンダー」という個別の用語やその実態についての深い理解は、まだ十分とは言えません。

性同一性障害特例法と性別変更の要件

現在、日本で戸籍上の性別を変更するためには、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)」に基づく家庭裁判所の審判が必要です。この法律では、以下の5つの要件(いわゆる「5要件」)を満たす必要があります。

  1. 18歳以上であること
  2. 現に婚姻していないこと
  3. 未成年の子がいないこと
  4. 生殖腺がないこと、または生殖機能を永続的に欠く状態にあること(生殖能力喪失要件)
  5. 移行する性別の性器に近似する外観を備えていること(外観要件)

しかし、近年、4の「生殖能力喪失要件(事実上の手術強制)」について、最高裁判所が「違憲(憲法違反)」であるという判断を下しました(2023年決定)。これにより、手術を望まない、あるいは身体的な理由で受けられない当事者にとっても、法的性別変更への道が開かれつつあります。法制度は過渡期にあり、今後さらに要件が緩和される可能性があります。

自治体パートナーシップ宣誓制度の広がり

国レベルでの同性婚はまだ認められていませんが、多くの自治体で「パートナーシップ宣誓制度」や「ファミリーシップ制度」が導入されています。これは、同性カップルや事実婚のカップルを公的に認め、公営住宅への入居や病院での面会などで家族と同等の扱いを受けられるようにするものです。

トランスジェンダー当事者の中には、戸籍上の性別を変更できず、パートナーと法的な婚姻ができないケースも多いため、こうした制度の利用が進んでいます。

トランスジェンダーに関するよくある質問(FAQ)

最後に、研修や相談の現場でよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 診断書がないとトランスジェンダーとは言えないのですか?

A. いいえ、診断書は必須ではありません。

トランスジェンダーとは、あくまで本人の「性自認」に基づくアイデンティティです。医師が認定するものではありません。ただし、ホルモン療法や手術などの医療行為を受ける場合や、戸籍の性別を変更する裁判手続き、あるいは企業の福利厚生(休暇制度など)を利用する際には、医師の診断書が必要になることが一般的です。

Q. 職場でカミングアウトされたら、他の人にも伝えるべきですか?

A. 絶対に本人の許可なく伝えてはいけません。

これは「アウティング」にあたり、重大なルール違反です。本人が「誰に知られたいか」「誰には知られたくないか」を確認し、その範囲を厳守してください。業務上必要な場合(例:人事部への報告)であっても、必ず本人に「誰に、何の目的で伝える必要があるか」を説明し、同意を得てから行います。

認定心理士・ダイバーシティ推進コンサルタントのアドバイス
「『みんなでサポートしたほうがいいだろう』という善意から、勝手にチーム全体に共有してしまうケースが後を絶ちません。しかし、当事者にとっては『知られたくない権利』もあります。情報は慎重に扱いましょう。」

Q. 自分の性別に違和感がある場合、どこに相談すればいいですか?

A. 専門のクリニックや公的な相談窓口があります。

医療的な相談をしたい場合は、「ジェンダークリニック」を掲げる精神科や心療内科、泌尿器科、産婦人科などを探してみましょう。また、医療機関に行く前に話を聞いてほしい場合は、各自治体の人権相談窓口や、LGBTQ支援を行っているNPO法人の電話・LINE相談などを利用するのも一つの方法です。

まとめ:正しい理解が、誰もが生きやすい社会への第一歩

トランスジェンダーの人々が抱える課題は、決して「特別な人たちの特別な問題」ではありません。「男らしさ/女らしさ」の押し付けや、多様性を認めない不寛容な空気は、シスジェンダーを含むすべての人にとって生きづらい社会を作ってしまいます。

トランスジェンダーについて正しく理解し、配慮することは、結果として「誰もが自分らしく、能力を発揮できる環境」を作ることにつながります。まずは基礎知識を持ち、偏見のないフラットな視点で接することから始めてみてください。

最後に、アライとしての一歩を踏み出すためのチェックリストを掲載します。これらを意識して、ぜひ今日から行動に移してみてください。

【理解度チェック】アライになるためのアクションリスト

  • [ ] 性自認と身体的性は必ずしも一致しないこと、それが多様なあり方の一つであることを理解した
  • [ ] 「男のくせに」「女らしく」といった、性別役割を押し付ける発言を控える意識を持った
  • [ ] 本人の許可なくSOGIを暴露する「アウティング」は、命に関わる重大なルール違反だと認識した
  • [ ] 困った時に参照できる公的な相談窓口や、社内の相談ルートを確認した
  • [ ] 目の前の相手を「性別」というフィルターを通さず、「一人の人間」として尊重する意思を持った
この記事を書いた人

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