2023年12月、世界中のスポーツメディアがそのニュースに震えました。大谷翔平選手がロサンゼルス・ドジャースと結んだ契約は、10年総額7億ドル。当時の為替レートで約1,015億円という、プロスポーツ史上最高額の契約です。しかし、この契約には驚くべき「仕掛け」が隠されていました。それは、総額の97%にあたる金額を10年後以降に受け取るという「超・後払い」契約です。
結論から申し上げますと、大谷選手が今シーズン、球団から実際に受け取る年俸はわずか200万ドル(約2.9億円)に過ぎません。しかし、彼にはそれを補って余りある巨額のスポンサー収入があり、ビジネス的にも、そしてチームの勝利のためにも、極めて合理的かつ戦略的な設計となっています。
本記事では、MLBの契約システムに精通した専門家の視点から、以下の3点を徹底的に解説します。
- なぜ「97%後払い」という異例の選択をしたのか?MLBの贅沢税(CBT)ルールと契約の裏側
- 【独自試算】日米の税金やエージェントフィーを引いた、大谷選手の「本当の手取り額」
- 日本ハム時代から現在までの年俸推移と、世界のアスリートとの詳細な収入比較
単なる金額の羅列ではなく、その裏にある「勝利への執念」と「究極の資産防衛戦略」を読み解いていきましょう。
ドジャースとの「10年7億ドル」契約の全貌と基礎知識
まずは、ニュースの見出しを飾った「7億ドル」という数字の正確な中身と、それが意味するものを整理します。このセクションでは、契約の基本構造、為替レートによる日本円価値の変動、そして契約に含まれる特殊な条項について、事実に基づき詳細に解説します。
史上最高額「7億ドル」は日本円でいくらか?(為替レートの影響)
契約総額「7億ドル」は、北米4大スポーツ(MLB、NFL、NBA、NHL)のみならず、世界のスポーツ史においても単一の契約としては最高額です。しかし、我々日本人にとって重要なのは「日本円でいくらか」という点でしょう。ここに、為替レートという変数が大きく関わってきます。
契約が合意に至った2023年12月時点の為替レートは、1ドル=約145円でした。このレートで換算すると、7億ドルは約1,015億円となります。これが日本のメディアで一斉に報じられた数字です。しかし、為替市場は常に変動しています。仮に円安が進行し、1ドル=155円になったとすれば、その価値は1,085億円に跳ね上がります。逆に円高に振れれば、日本円での価値は目減りします。
ビジネスパーソンとして押さえておくべきは、契約のベースはあくまで「米ドル」であるという点です。大谷選手が受け取るのはドルであり、彼がアメリカで生活し、投資を行う上では、ドルの購買力が基準となります。日本円換算額はあくまで「日本の感覚で理解するための目安」に過ぎないことを理解しておきましょう。
契約の内訳:年俸と契約金、インセンティブの有無
通常のMLBの大型契約には、「サイニングボーナス(契約金)」が含まれることが一般的です。これは契約成立時にまとまった現金が支払われるもので、選手にとっては即座に手に入るキャッシュとして魅力的なものです。しかし、大谷選手の契約には、このサイニングボーナスが含まれていません。
7億ドルのすべてが「年俸(Salary)」として計上されています。これは極めて珍しいケースです。また、成績に応じた出来高払い(インセンティブ)も設定されていないと報じられています。つまり、ホームランを何本打とうが、投げて何勝しようが、支払われる総額は固定されています。これは、球団側が彼の実力を完全に信頼し、怪我などのリスクも含めて全ての価値を保証したことを意味します。
契約に含まれる特殊条項(オプトアウト、トレード拒否権など)
この契約には、金額以外にもいくつかの重要な条項が含まれています。その一つが「全チームに対するトレード拒否権」です。これにより、大谷選手の同意なしに他球団へトレードすることは不可能となり、彼が望む限りドジャースでプレーし続ける権利が保障されています。
また、「オプトアウト(契約破棄)条項」が付いていない点も特徴的でしたが、報道によると「特定の球団幹部(オーナーのマーク・ウォルター氏や編成本部長のアンドリュー・フリードマン氏)が退任した場合、契約を解除できる」という特殊な条項(キーマン条項)が存在するとされています。これは、彼が「ドジャースという組織」だけでなく、「信頼できるこの首脳陣と一緒に勝ちたい」という強い意志を持っていることの表れです。
詳細データ:大谷翔平×ドジャース 契約概要まとめ表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約期間 | 2024年〜2033年(10年間) |
| 契約総額 | 7億ドル(約1,015億円 ※契約時レート) |
| 支払いスケジュール |
|
| 契約金 | なし(全額年俸扱い) |
| インセンティブ | なし |
| トレード拒否権 | あり(全球団対象) |
| オプトアウト | なし(ただし、特定役員の退任時に解除可能な条項あり) |
※日本円換算は2023年12月のレート(1ドル=145円)に基づく。
MLBビジネス・データアナリストのアドバイス
「契約発表時(2023年12月)の為替レートは約145円でしたが、現在は円安が進行し、日本円換算での価値はさらに変動しています。ビジネスパーソンとしては、ドルベースでの契約額(7億ドル)を基準に考えることが、選手の市場価値を正しく理解する第一歩です。為替リスクを負っているのは、日本円で資産を評価しようとする我々の方かもしれません。」
なぜ「97%後払い」なのか?MLBビジネスの裏側を解説
この契約の最大の焦点であり、最も議論を呼んだのが「後払い(Deferrals)」の比率です。総額の97%にあたる6億8000万ドルを、契約終了後の10年間に受け取る。なぜこのような極端な契約を結んだのでしょうか?ここには、MLB特有のルール「贅沢税(CBT)」と、大谷選手の「勝利への渇望」が複雑に絡み合っています。
「後払い(Deferrals)」の仕組みと支払いスケジュール詳細
通常の契約であれば、7億ドルを10年で割った「年7000万ドル」が毎年支払われます。しかし、大谷選手の契約では、毎年の受取額をわずか200万ドルに設定しました。残りの6800万ドルは、契約期間が終わった後の2034年から2043年にかけて、無利子で支払われます。
つまり、現役としてプレーしている間(2024年〜2033年)は、メジャーリーグのトップスターとしては破格の安さである年俸200万ドルでプレーすることになります。そして引退後(あるいは移籍後)の10年間で、毎年6800万ドルという巨額の年金のような形で報酬を受け取るのです。これにより、総額7億ドルの支払いは2043年まで続くことになります。
図解:支払いスケジュールとキャッシュフローの極端な対比
| 期間 | 年数 | 年間の受取額 | 期間合計 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年〜2033年 (契約期間中) |
10年間 | 200万ドル (約3億円) |
2,000万ドル | 現役中の球団からのキャッシュフローは極小化 |
| 2034年〜2043年 (契約終了後) |
10年間 | 6,800万ドル (約100億円) |
6億8,000万ドル | 引退後等に巨額の支払いが発生(無利子) |
| 合計 | 20年間 | – | 7億ドル | 支払いは2043年まで続く |
ドジャース側のメリット:贅沢税(CBT)とチーム強化費の捻出
この契約構造の最大の受益者は、実はドジャースというチームそのものです。MLBには「サラリーキャップ(総年俸の上限)」はありませんが、その代わりに「競争均衡税(Competitive Balance Tax:通称 贅沢税/CBT)」という制度が存在します。これは、チームの総年俸が一定の基準額を超えた場合、超過分に対して高率の税金をリーグに納めなければならないというペナルティです。
CBTの計算において、年俸は「契約総額 ÷ 年数」の単純平均(AAV)で算出されるのが基本ですが、今回のような「大幅な後払い」がある場合、将来支払う金額を「現在の価値」に割り引いて計算することが認められています(貨幣の時間的価値の考慮)。
具体的には、7億ドルの契約ですが、CBT計算上の年俸は約4,600万ドルとして計上されます。もし後払いがなければ、毎年7,000万ドルが計上されていたはずですから、ドジャースは毎年約2,400万ドル(約35億円)もの「計算上の空きスペース」を作ることができたのです。この浮いた枠を使って、山本由伸投手やタイラー・グラスノー投手といった他のスター選手を獲得することが可能になりました。
大谷側のメリットとリスク:勝利への渇望とインフレによる価値目減り
大谷選手側のメリットは明確です。「自分が身を削ることでチームに資金的余裕を与え、強力な味方を補強してもらうこと」。エンゼルス時代、自身の孤軍奮闘にもかかわらずプレーオフに進めなかった悔しさが、この提案の原動力となっています。彼は金銭よりも「勝てる環境」を優先したのです。
一方で、リスクも存在します。それは「インフレによる価値の目減り」です。後払いされる6億8000万ドルは無利子です。もし今後10年間でアメリカの物価が上昇し続けた場合、10年後に受け取る1ドルの価値は、現在の1ドルよりも実質的に下がってしまいます。経済学的に見れば、彼はインフレリスクを一身に背負い、実質的な契約価値を自ら引き下げてまで、チームへの貢献を選んだと言えます。
貨幣の時間的価値(Time Value of Money)で見る「実質契約額」
金融の世界には「今日の100円は、明日の100円よりも価値がある」という原則があります。これを適用して、将来受け取る6億8000万ドルを現在の価値に割り引いて計算すると、この7億ドルの契約の「実質的価値(現在価値:PV)」は、約4億6,000万ドル程度になると試算されています。
それでも4億6000万ドル(約670億円)はMLB史上最高額級ですが、額面通りの7億ドルとは大きな乖離があります。メディアが報じる「7億ドル」はあくまで支払総額であり、経済的実態としては「約4.6億ドルの契約を、球団に有利な分割払いで結んだ」と解釈するのが正確です。
MLBビジネス・データアナリストのアドバイス
「この契約の真の凄さは、大谷選手が自身の年俸受取を繰り延べることで、球団のペイロール(総年俸)に余裕を持たせ、山本由伸選手やグラスノー投手といった他のスター選手を獲得する資金力を生み出した点にあります。これは単なる雇用契約を超えた、事実上の『共同投資』に近い性質を持っています。選手がGM(ゼネラルマネージャー)のような視点で契約を設計した、前例のないケースです。」
【独自試算】今シーズンの年収と「手取り」はいくらになる?
「年俸200万ドル(約3億円)で、あんな豪華な生活ができるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、大谷選手の収入構造は、球団からの年俸だけではありません。ここでは、スポンサー収入を含めたトータルのキャッシュフローと、日米の複雑な税金を考慮した「本当の手取り額」を独自に試算します。
球団からの受取額:年200万ドル(約3億円)の現実
前述の通り、ドジャースから振り込まれる年俸は200万ドルです。これはメジャーリーグの最低保証年俸(約74万ドル)よりは高いものの、レギュラークラスの選手としては決して高くない金額です。しかし、これはあくまで「本業」の収入の一部に過ぎません。
莫大な「フィールド外収入」:スポンサー契約の規模と内訳
大谷選手の真の経済力は、グラウンドの外にあります。彼のスポンサー収入(エンドースメント契約)は、MLB選手の中で断トツの1位であり、世界のアスリートの中でもトップクラスです。アメリカの経済誌等の推計によると、その額は年間で約6,500万ドル(約95億円)に達すると言われています。
主なスポンサー企業一覧(一部抜粋)
- New Balance(スポーツ用品):グローバルアンバサダー契約。用具提供だけでなく、専用ロゴの展開など包括的なパートナーシップ。
- Porsche(自動車):アンバサダー契約。背番号を譲ったチームメイトの妻にポルシェを贈呈したエピソードも有名。
- JAL(日本航空):長年にわたるサポート契約。
- 伊藤園(お〜いお茶):グローバル契約を締結し、世界中で広告展開。
- SEIKO(時計):日本ハム時代からのパートナー。
- KOWA(バンテリン)、西川(寝具)、三菱UFJ銀行、ECC、ディップ、ラプソード、コナミなど多数。
つまり、球団からの200万ドルと合わせて、年間の総収入は約6,700万ドル(約98億円)規模になります。年俸の後払いは、この莫大な副収入があるからこそ可能な選択だったのです。
日米の税金事情:連邦税、カリフォルニア州税、エージェントフィー
では、ここからどれくらい引かれるのでしょうか。アメリカ、特にドジャースの本拠地があるカリフォルニア州は、税金が高いことで知られています。
- 連邦所得税(Federal Tax):最高税率37%。
- カリフォルニア州税(State Tax):最高税率約13.3%〜14.4%(収入による)。
- ジョック・タックス(Jock Tax):遠征先の州や都市で課税される税金。
- エージェントフィー:代理人に支払う手数料(通常、年俸の5%程度)。
これらを合算すると、収入の約50%以上が税金や経費として消えていく計算になります。
最終的な「手取り(キャッシュフロー)」の試算結果
非常に概算ですが、今シーズンのキャッシュフローを試算してみましょう。
【収入】
球団年俸:200万ドル
スポンサー収入:6,500万ドル
合計:6,700万ドル
【支出(税金・経費)概算】
連邦税(約37%):2,479万ドル
州税(約14%):938万ドル
エージェントフィー(5%):335万ドル
その他(Jock Tax、FICA等):200万ドル
合計控除額:約3,952万ドル
【手取り額】
6,700万ドル – 3,952万ドル = 約2,748万ドル(約40億円)
たとえ半分以上を税金で持っていかれたとしても、年間で約40億円の手取りキャッシュフローが残ります。年俸を後回しにしても、生活やトレーニング環境への投資には全く支障がないレベルです。
MLBビジネス・データアナリストのアドバイス
「カリフォルニア州は全米でもトップクラスに所得税が高い(最高税率約13-14%)州です。しかし、後払い分の受け取りを現役引退後に州外(所得税のないフロリダ州やテキサス州、あるいは日本)で行えば、数十億円規模の節税が可能になる可能性があります。連邦法上の解釈議論はありますが、これは資産防衛の観点からも極めて合理的なスキームと言えます。」
日本ハム入団から現在までの年俸推移グラフ
ここでは、大谷選手の年俸がどのように推移してきたのかを振り返ります。日本のプロ野球(NPB)時代から、メジャー挑戦、そして現在のメガディールに至るまでの軌跡は、まさに彼の成長と市場価値の高まりを映し出す鏡です。
【NPB時代】日本ハムでの年俸推移(2013-2017)
花巻東高校からドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団した大谷選手。高卒ルーキーとしては破格の条件でしたが、現在の金額と比べれば可愛らしく見えます。
- 2013年(1年目):1,500万円(契約金1億円)
- 2014年(2年目):3,000万円
- 2015年(3年目):1億円(高卒3年目での1億円到達は松坂大輔以来)
- 2016年(4年目):2億円
- 2017年(5年目):2億7,000万円
日本時代も順調に昇給していましたが、当時のレートで約250万ドル程度がMAXでした。
【MLB初期】エンゼルスでのメジャー最低保証年俸からのスタート(2018-2020)
2017年オフ、彼はポスティングシステムを利用してメジャーへ移籍します。しかし、「25歳ルール(海外選手獲得の年齢制限)」により、マイナー契約からのスタートを余儀なくされました。これにより、実力に見合わない「格安年俸」でのプレーが続きます。
- 2018年:54万5,000ドル(約6,000万円)※メジャー最低保証年俸
- 2019年:65万ドル
- 2020年:70万ドル(※コロナ禍による短縮シーズンで日割り計算のため実受取額は減少)
この期間、彼は新人王を獲得するなど活躍しましたが、年俸は日本のプロ野球選手の平均以下という異常事態でした。これが「世界一コストパフォーマンスの良い選手」と言われた時期です。
【年俸調停・FA前】MVP獲得と年俸3000万ドルへのジャンプアップ(2021-2023)
年俸調停権を得て、さらにMVP級の活躍を続けたことで、年俸は急上昇します。
- 2021年:300万ドル(2年850万ドル契約の1年目)
- 2022年:550万ドル
- 2023年:3,000万ドル(約43億円)※FA前の単年契約として史上最高額
【現在】ドジャースとのメガディール(2024-2033)
そしてFA権を取得し、ドジャースとの10年7億ドル契約へと至ります。NPB時代の1,500万円からスタートし、総額約1,000億円の契約を手にするまでの道のりは、実力で市場価値を証明し続けた歴史そのものです。
図解:大谷翔平 年俸推移データまとめ
| 年度 | 所属 | 年俸(推定) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2013 | 日本ハム | 1,500万円 | ルーキー |
| 2015 | 日本ハム | 1億円 | 初の1億円突破 |
| 2017 | 日本ハム | 2億7,000万円 | NPB最終年 |
| 2018 | エンゼルス | 54.5万ドル | MLB最低年俸 |
| 2021 | エンゼルス | 300万ドル | 満票MVP獲得 |
| 2023 | エンゼルス | 3,000万ドル | FA前最終年 |
| 2024- | ドジャース | 7億ドル | 10年契約総額(支払いは変則) |
MLBビジネス・データアナリストのアドバイス
「大谷選手は25歳ルールにより、メジャー移籍当初はマイナー契約からのスタートでした。エンゼルス時代の初期、彼のパフォーマンス対費用効果(コスパ)は、MLB史上最も『球団にお得な契約』だったと言われています。その反動と実績が、今回の歴史的契約に繋がっています。彼は若い時期の金銭的損失を、実力による超大型契約で一気に回収した形になります。」
世界のアスリート・MLB歴代選手との年俸比較
7億ドルという金額がいかに規格外か、他のスーパースターたちと比較してみましょう。野球界だけでなく、世界のスポーツビジネス全体における大谷選手の立ち位置が見えてきます。
MLB歴代大型契約ランキング(トラウト、ベッツ、ジャッジとの比較)
これまでのMLBの契約総額ランキングを見ると、大谷選手の数字が突出していることがわかります。
- 大谷翔平(ドジャース):7億ドル(10年)
- マイク・トラウト(エンゼルス):4億2,650万ドル(12年)
- ムーキー・ベッツ(ドジャース):3億6,500万ドル(12年)
- アーロン・ジャッジ(ヤンキース):3億6,000万ドル(9年)
- マニー・マチャド(パドレス):3億5,000万ドル(11年)
2位のトラウト選手に約3億ドル近い差をつけての1位です。しかも、トラウトやベッツの契約期間が12年であるのに対し、大谷選手は10年。年平均(AAV)で見ても7,000万ドルとなり、従来の最高額(マックス・シャーザー等の約4,333万ドル)を大幅に更新しました。
世界のスポーツ選手長者番付における大谷翔平の順位
Forbes誌などが発表する「世界で最も稼ぐアスリートランキング」においても、大谷選手はトップグループに食い込んでいます。サッカーのクリスティアーノ・ロナウドやリオネル・メッシ、NBAのレブロン・ジェームズといった世界的アイコンたちと肩を並べる存在です。
特に「競技による収入(年俸)」と「競技外収入(スポンサー)」のバランスにおいて、野球選手としては異例の「競技外収入の多さ」が際立っています。通常、野球選手は用具契約などが主で、NBA選手のような巨額の広告収入を得にくい傾向にありましたが、大谷選手はその常識を覆しました。
チームメイト(山本由伸など)との契約比較
同じくドジャースに加入した山本由伸投手の契約は「12年総額3億2,500万ドル」です。これも投手としてはMLB史上最高額の契約ですが、大谷選手の総額はその倍以上です。いかに「二刀流」という付加価値が、1人の選手としてだけでなく「2人分以上の価値」として評価されているかがわかります。
MLBビジネス・データアナリストのアドバイス
「総額7億ドルは、北米4大スポーツ(MLB, NFL, NBA, NHL)の歴史においても最大規模です。特筆すべきは、彼が『投手』と『打者』の2人分の価値を1つの契約枠で提供している点であり、比較対象が存在しない唯一無二の価値評価がなされています。NFLのパトリック・マホームズ(10年4.5億ドル)すら超えるこの契約は、スポーツビジネス史の教科書に載る出来事です。」
ドジャースは元を取れるのか?経済効果とビジネス戦略
「1人の選手に1000億円も払って、球団経営は大丈夫なのか?」という疑問は当然浮かびます。しかし、ビジネスのプロたちの見解は「ドジャースにとって、これはバーゲン価格かもしれない」というものです。その理由を経済効果の面から解説します。
チケット売上・放映権・グッズ販売への波及効果
大谷選手の加入直後、ドジャースの開幕戦チケット価格は高騰し、シーズンチケットへの問い合わせが殺到しました。彼のユニフォームは発売から48時間の売上記録を更新。これらは直接的な収益増となります。
さらに重要なのが放映権です。ドジャースの試合は日本でも連日放送されます。これに伴う放映権料の分配や、地元放送局との契約交渉において、球団は極めて有利な立場に立つことができます。
日本企業からのスポンサーシップとスタジアム広告
ドジャースタジアムのバックネット裏や外野フェンスを見てください。ダイソー、築地銀だこ、ANA、TOYO TIREなど、日本企業の広告がずらりと並んでいます。これらの看板広告料は、大谷選手の加入によって価値が跳ね上がっています。企業は「大谷選手が映る映像」を通して世界中にブランドを露出するために、高額な広告費を支払います。この収入は球団に直接入るため、年俸の支払原資として大きな役割を果たします。
ドジャースタジアムの観客動員数への影響
ドジャースはもともと人気球団で観客動員数はメジャートップクラスですが、大谷効果でさらなる集客が見込まれます。特に日本からの観光客によるインバウンド消費(チケット、グッズ、スタジアムでの飲食)は無視できない規模になります。ロサンゼルス地域の経済全体への波及効果は、年間数百億円規模とも試算されています。
MLBビジネス・データアナリストのアドバイス
「大谷選手の獲得は、単なる収益増だけでなく、ドジャースというブランドの国際化(特にアジア市場への浸透)を加速させました。球団の資産価値(バリュエーション)自体を押し上げる効果があり、7億ドルという投資は長期的には十分に回収可能、あるいは『安い』とさえ評価されています。投資会社であるオーナーグループにとって、彼は最高のリターンを生む資産なのです。」
よくある質問(FAQ)
最後に、大谷選手の年俸や契約に関して、検索されることが多い疑問にQ&A形式で簡潔にお答えします。
Q. 後払いの利子はつきますか?
A. つきません。
後払いされる6億8,000万ドルは無利子で支払われます。そのため、インフレが進めば進むほど、実質的な価値は目減りすることになります。これが大谷選手側の最大のリスクテイクです。
Q. もし契約途中でトレードされたらどうなりますか?
A. トレード拒否権がありますが、もし移籍しても契約は継続されます。
大谷選手は全球団に対するトレード拒否権を持っています。仮に本人が同意してトレードされた場合でも、この契約内容は引き継がれます。その場合、後払い分の支払義務をどちらの球団がどう負担するかは、トレード時の交渉次第となります。
Q. 引退後の支払いは誰が負担するのですか?
A. ドジャース(または契約を引き継いだ球団)です。
球団は将来の支払いに備えて、現在から資金を積み立てておく義務(エスクロー口座への預入など)がMLBのルールで定められています。そのため、球団の経営が悪化しても支払いが滞るリスクは低減されています。
Q. 円安が進むと大谷選手にとって有利ですか?
A. 日本で使う分には有利ですが、生活拠点がアメリカなら影響は限定的です。
報酬はドルで支払われるため、円安になれば日本円換算額は増えます。将来、日本に帰国して生活する場合や、日本へ送金する場合には資産価値が増大します。しかし、アメリカで生活し、ドルで消費・投資をする限りは、為替の影響は直接的には関係ありません。
まとめ:大谷翔平の年俸は「数字」以上の歴史的価値がある
大谷翔平選手の「10年7億ドル」契約について、その構造と背景を解説してきました。この契約は単なる「高額報酬」ではなく、彼が勝つために選び抜いた戦略的パートナーシップであることがお分かりいただけたでしょうか。
最後に、本記事の要点をチェックリストで振り返ります。
- 契約総額は10年7億ドルだが、貨幣の時間的価値を考慮した実質価値(現在価値)は約4.6億ドルである
- 支払いの97%を後払いにすることで、球団の贅沢税負担を軽減し、山本由伸ら他のスター選手の獲得資金を確保した
- 今季の球団からの受取額は200万ドルだが、スポンサー収入だけで約100億円近くあり、資金繰りに問題はない
- 後払い契約は、将来的に所得税の低い地域で受け取ることで、巨額の節税(資産防衛)に繋がる可能性がある
- ドジャースにとっても、広告収入や球団価値向上により、7億ドルは十分に回収可能な投資である
大谷選手の契約は、スポーツビジネスの新たな可能性を示しました。私たちビジネスパーソンも、表面的な数字だけでなく、その裏にある「構造」や「戦略」を読み解くことで、ニュースをより深く楽しむことができるはずです。彼の活躍と共に、この歴史的契約がどう完遂されるのか、今後も見守っていきましょう。
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