「お店で食べるパンナコッタはあんなに滑らかなのに、家で作るとどうしても分離してしまう」「二層に分かれてしまい、上は濃厚だけど下は硬いゼリーのようになってしまった」
そんな経験はありませんか?実は、パンナコッタ作りにおいて最も多くの人が陥る失敗がこの「分離」であり、同時に最も誤解されているのが「ただ混ぜて冷やせばいい」という思い込みです。
結論から申し上げます。極上のパンナコッタを作るための極意は、「生クリームと牛乳の黄金比率」を知ること、そして何より「乳化させるための徹底的な温度管理」にあります。材料を混ぜ合わせた後、冷蔵庫に入れる前の「あるひと手間」を加えるだけで、口に入れた瞬間にスッと溶ける、プロ顔負けの食感を生み出すことができるのです。
この記事では、現役パティシエとして15年以上、数え切れないほどのスイーツ開発に携わってきた筆者が、レシピサイトには書かれていない「科学的な成功ロジック」を余すところなく公開します。
この記事で習得できる内容は以下の3点です。
- 現役パティシエが長年の試作の末にたどり着いた、濃厚かつ滑らかな「究極の黄金比率」
- 絶対に分離させず、均一な口溶けを実現するための「氷水冷却」と「乳化」のプロテクニック
- プリンやババロアとの構造的な違いから、万が一失敗してしまった時のリカバリー方法まで
週末のおうちカフェを、一流ホテルのデザートタイムへと格上げする準備はできましたか?それでは、奥深いパンナコッタの世界へご案内します。
パンナコッタとは?プリン・ババロアとの決定的な違い
レシピの詳細に入る前に、まずは「パンナコッタ」というスイーツの正体を正しく理解しておきましょう。名前は知っていても、プリンやババロア、あるいはブランマンジェと何が違うのか、明確に説明できる方は少ないかもしれません。
この違いを理解することは、単なる知識としてだけでなく、「なぜこの材料を使うのか」「なぜこの工程が必要なのか」という調理の必然性を理解する上で非常に重要です。それぞれのスイーツが目指す食感のゴールがわかれば、自分好みの調整も自在になります。
パンナコッタの定義と発祥(イタリアの「煮たクリーム」)
パンナコッタ(Panna Cotta)は、イタリア発祥の伝統的なドルチェ(デザート)です。イタリア語で「Panna」は「生クリーム」、「Cotta」は「煮た・火を通した」という意味を持ちます。つまり、直訳すれば「煮た生クリーム」となります。
発祥については諸説ありますが、北イタリアのピエモンテ州が発祥の地とされており、古くは余った生クリームを消費するために作られた家庭料理が起源だと言われています。本来は卵白などを使って固めていた時代もあったようですが、現在ではゼラチンを使って冷やし固めるスタイルが一般的です。
最大の特徴は、卵を使用しないため、生クリームと牛乳本来の真っ白な色合いと、乳製品特有のピュアな風味をダイレクトに楽しめる点にあります。卵のコクに頼らない分、素材の質と、それをまとめる「口溶け」の技術が味の良し悪しを決定づけます。
プリン・ババロア・ブランマンジェとの違い一覧
似たような見た目の「白いプルプルしたスイーツ」は他にもありますが、材料と凝固の仕組みには明確な違いがあります。以下の表に、それぞれの特徴を整理しました。これを見れば、パンナコッタがいかに「乳製品の純粋な味わい」に特化したスイーツであるかがわかるはずです。
| スイーツ名 | 主な材料 | 凝固剤 | 食感と特徴 |
|---|---|---|---|
| パンナコッタ | 生クリーム、牛乳、砂糖 | ゼラチン | ツルッとした滑らかさと、ねっとりした濃厚さ。卵を使わないため色が白く、ミルキーな風味が主役。 |
| カスタードプリン | 牛乳、卵、砂糖 | 卵(熱凝固) | 適度な弾力と歯切れの良さ。卵のタンパク質が熱で固まる力を利用しており、卵のコクが強い。 |
| ババロア | 牛乳、卵黄、砂糖、生クリーム | ゼラチン | フワッとした軽い口当たり。泡立てた生クリーム(ホイップ)を混ぜ込むため、気泡を含んだエアリーな食感になる。 |
| ブランマンジェ | 牛乳、アーモンド、砂糖 | ゼラチン(本来はコーンスターチ) | 「白い食べ物」の意味。アーモンドの香りを牛乳に移して作るのが最大の特徴。食感はパンナコッタに近いが香りが異なる。 |
このように比較すると、パンナコッタは「泡立てない(空気を抱き込ませない)」ためババロアよりも密度が高く、「卵を使わない」ためプリンよりもすっきりとした後味であることがわかります。だからこそ、食後のデザートとして重宝されるのです。
なぜパンナコッタは「ゼラチン」でなければならないのか
近年は寒天やアガー(海藻由来の凝固剤)を使ったレシピも見かけますが、本来のパンナコッタを目指すのであれば、凝固剤は「ゼラチン」一択です。これには科学的な理由があります。
寒天は「歯切れの良さ」や「ほろっと崩れる食感」を生み出しますが、口の中の体温だけでは溶けきらない性質があります。一方でゼラチンは、融点(溶ける温度)が約25〜30℃前後と人間の体温よりも低いため、口に入れた瞬間に液体へと戻ります。
パンナコッタの醍醐味は、スプーンですくった時は固形なのに、舌の上に乗せた瞬間に濃厚なクリームソースへと変化する、そのギャップにあります。この「口溶けのマジック」を実現できるのはゼラチンだけなのです。
現役パティシエのアドバイス
「稀に『ヘルシーにしたいから』と寒天で代用される方がいらっしゃいますが、それではパンナコッタ特有の『とろける余韻』が失われ、単なる『牛乳寒天』になってしまいます。牛乳寒天も美味しいお菓子ですが、パンナコッタとは別物です。プロがゼラチンにこだわるのは、この口溶けによる『風味の広がり方』を計算しているからなのです。ぜひ、勇気を持ってゼラチンを選んでください」
【準備編】プロが選ぶ材料と「濃厚さ」を決める黄金比率
パンナコッタ作りは、キッチンに立つ前の「買い物」の段階で勝負の8割が決まっていると言っても過言ではありません。シンプルな材料しか使わないからこそ、一つ一つの選び方と配合比率が完成度を左右します。
ここでは、失敗しないための材料選びと、私が長年の経験から導き出した「黄金比率」について解説します。
生クリームの「脂肪分」で味が激変する理由(35% vs 42%以上)
スーパーの乳製品売り場に行くと、生クリームには「脂肪分35%」「42%」「47%」など、いくつかの種類があることに気づくでしょう。また、「植物性ホイップ」も並んでいます。
まず大前提として、美味しいパンナコッタを作るなら「動物性の純正生クリーム(種類別:クリーム)」を選んでください。植物性は価格が手頃ですが、加熱すると油っぽさが際立ち、冷やした時の口溶けが悪くなる傾向があります。
次に脂肪分の選び方です。
- 脂肪分35〜36%(低脂肪): さっぱりとしていて軽い口当たり。食後のデザートとして軽く食べたい場合や、フルーツソースを目立たせたい場合に適しています。
- 脂肪分42〜47%(高脂肪): 非常に濃厚でコクがあり、リッチな味わい。お店のような「ねっとり」とした高級感を出したいならこちらがおすすめですが、濃厚すぎて重く感じることもあります。
初心者が扱いやすく、味のバランスが良いのは35%〜42%の間です。もし迷ったら、標準的な35%前後のものを選ぶか、あるいは35%と45%をブレンドして好みの濃度を作るのも、プロがよく使うテクニックです。
牛乳と生クリームの比率で食感をコントロールする
「生クリームと牛乳の割合をどうするか」。これこそがパンナコッタのレシピにおける最大の論点であり、好みが分かれるポイントです。
一般的には「1:1」が基本とされていますが、比率を変えることで全く異なる表情のスイーツになります。以下のマトリクスを参考に、その日の気分や合わせるソースによって調整してみてください。
▼比率別(1:1, 1:2, 2:1)の濃厚さ・口溶けマトリクス図
| 比率(生クリーム:牛乳) | 濃厚さレベル | 特徴とおすすめのシチュエーション |
|---|---|---|
| 1:2(さっぱり) 例:生クリ100ml : 牛乳200ml |
★☆☆☆☆ | 「ミルクゼリー」に近い軽やかさ。 夏場や、脂っこい食事の後のデザートに最適。カロリーを抑えたい時にも。ただし、分離しにくい反面、リッチ感は薄れる。 |
| 1:1(基本のバランス) 例:生クリ150ml : 牛乳150ml |
★★★☆☆ | 最も失敗が少なく、バランスが良い王道。 適度なコクとスッキリ感の共存。初めて作るならまずはこの比率からスタートするのが鉄則。 |
| 2:1(超濃厚) 例:生クリ200ml : 牛乳100ml |
★★★★★ | 高級レストランのデセールのような重厚感。 ねっとりと舌に絡みつく濃厚さ。エスプレッソソースなど苦味のあるソースと相性抜群。ただし、乳化させないと分離しやすいので難易度は高め。 |
現役パティシエのアドバイス
「私が自分の店で提供している『究極の黄金比』をこっそりお教えします。それは『生クリーム 1 : 牛乳 1.2』です。生クリームのコクをしっかり感じさせつつ、最後は牛乳の水分ですっと消えていく。この『1.2』という微妙な牛乳の多さが、飽きずに最後まで食べられる魔法のバランスなのです。ぜひ一度試してみてください」
砂糖の種類とバニラビーンズの重要性
甘みをつける砂糖は、「グラニュー糖」が最適です。上白糖でも作れますが、上白糖特有のコクや吸湿性が、パンナコッタのすっきりとした白さや切れ味を少し鈍らせてしまうことがあります。グラニュー糖を使うことで、キレのある甘さと透明感のある味わいに仕上がります。
そして、パンナコッタの命とも言えるのが「香り」です。材料がシンプルな分、乳製品の臭みを消し、芳醇な香りをまとわせる「バニラ」は必須アイテムです。
可能であれば、バニラエッセンスやオイルではなく、「バニラビーンズ(さや)」を使ってください。黒い粒々が生地に入っているだけで、「本格的な手作り感」が視覚的にも伝わりますし、香りの奥行きが段違いです。高価な材料ですが、ここにお金をかけるだけで、スーパーの材料がパティスリーの味に化けます。
ゼラチンの種類(板・粉)と正しいふやかし方
ゼラチンには「板ゼラチン」と「粉ゼラチン」がありますが、プロの現場では計量が楽で透明度が高い「板ゼラチン」をよく使用します。しかし、家庭では入手しやすい粉ゼラチンでも全く問題ありません。
重要なのは種類よりも「ふやかし方」です。
- 粉ゼラチン: 必ず「冷水」に粉ゼラチンを振り入れてください。先に粉を容器に入れ、上から水を注ぐとダマになります。水はゼラチンの重さの5倍量が基本です(例:ゼラチン5gなら水25g)。
- 板ゼラチン: たっぷりの「氷水」に1枚ずつ入れて浸します。ぬるい水だと、ふやかしている間に溶け出して分量が減ってしまい、固まらない原因になります。
この「冷水で十分に吸水させる」プロセスを怠ると、温めた牛乳に加えた時に溶け残りが発生し、舌触りがザラつく原因になります。調理開始の10分前には準備しておきましょう。
【実践編】写真でわかる!絶対に失敗しない極上パンナコッタの作り方
いよいよ実践です。ここからの工程で最も意識していただきたいのは、「温度」と「混ぜ方」です。
パンナコッタ作りは「温めて溶かす」工程と「冷やして固める」工程に分かれますが、多くのレシピでは省略されている「とろみがつくまで氷水で混ぜながら冷やす」という工程こそが、プロと家庭の味を分ける最大の分水嶺です。
このレシピでは、直径7cmのプリンカップ約4〜5個分の分量を想定しています。
- 牛乳:200ml
- 生クリーム(脂肪分35〜42%):200ml
- グラニュー糖:50g
- 板ゼラチン:5g(粉ゼラチンの場合は5g+水25ml)
- バニラビーンズ:1/3本(またはバニラオイル少々)
手順1:ゼラチンを正しくふやかす(温度と時間の目安)
調理を始める前に、まずゼラチンをふやかします。
板ゼラチンの場合は、ボウルにたっぷりの氷水を用意し、ゼラチンが重ならないように1枚ずつ入れます。そのまま10分ほど置き、柔らかくなるまで待ちます。
粉ゼラチンの場合は、小さな器に冷水(25ml)を入れ、そこへ粉ゼラチン(5g)をパラパラと振り入れます。スプーンで軽く混ぜて全体に水を行き渡らせ、冷蔵庫で10分以上置いて吸水させます。これを「ゼラチンマス」と呼びます。
手順2:牛乳と砂糖を温め、香りを移す(沸騰直前の見極め)
手鍋に牛乳全量とグラニュー糖を入れます。バニラビーンズは縦にナイフで裂け目を入れ、包丁の背で中の黒い種をしごき出し、種とさやの両方を鍋に入れます。
中火にかけ、ゴムベラでゆっくり混ぜながら砂糖を溶かします。ここで重要なのは、絶対に沸騰させないことです。
牛乳が沸騰すると、表面に膜(ラムスデン現象)が張ったり、風味が変化してしまいます。鍋の縁がフツフツとして湯気が上がり始めたら(約80℃)、すぐに火を止めてください。この温度で十分に砂糖は溶け、バニラの香りが抽出されます。
※この段階ではまだ生クリームは加えません。生クリームは加熱しすぎると分離しやすくなるため、後の工程で加えるのがプロのコツです。
手順3:ゼラチンを溶かし、生クリームを加えるタイミング
火を止めた鍋に、水気をよく絞った板ゼラチン(またはふやかした粉ゼラチン)を加えます。予熱だけで十分に溶けますので、ゴムベラで静かに混ぜて完全に溶かしきります。
ゼラチンが溶けたら、ここで初めて冷たい生クリームを加えます。冷たい生クリームが入ることで液体の温度が一気に下がり、熱による風味の劣化を防ぐことができます。また、生クリームの脂肪球を傷つけずに混ぜ合わせることが可能です。
手順4:【最重要】氷水で「とろみ」がつくまで冷やす(乳化の工程)
ここが今回のレシピのハイライトであり、絶対に飛ばしてはいけない工程です。
鍋の中身をボウルに移し替えます(鍋のままだと熱が逃げにくいため)。一回り大きなボウルに氷水を張り、その上にパンナコッタ液の入ったボウルを重ねます。
ゴムベラで底から静かに混ぜながら、液体の温度を下げていきます。最初はサラサラの液体ですが、温度が20℃を下回ったあたりから、少しずつ重くなり、「とろみ」がついてきます。
なぜこの工程が必要なのか?
温かいサラサラの状態でカップに注いで冷蔵庫に入れると、冷えるまでの間に比重の軽い「生クリームの脂肪分」が上に浮き、比重の重い「牛乳と水分」が下に沈みます。これが分離の原因です。
氷水に当てて混ぜながら冷やし、液体自体に粘度(とろみ)を持たせることで、脂肪分が浮き上がるのを物理的に阻止し、全体を均一な状態で「乳化」させたまま固めることができるのです。
体験談:修業時代の失敗
「新人の頃、ランチタイムの忙しさに追われ、この冷却工程を『冷蔵庫に入れればどうせ冷えるだろう』と省略してカップに流したことがありました。結果、100個のパンナコッタ全てが二層にくっきりと分離。上は脂っこく、下は薄いゼリーという無惨なものになり、シェフに『お客様に実験台の料理を出すな』と激怒され、全て廃棄処分となりました。あの時の悔しさと生クリームの無駄遣いは、今でも私の戒めです。このひと手間だけは、どうか惜しまないでください」
手順5:容器に流し入れ、冷蔵庫でじっくり冷やし固める
液にとろみがつき、ゴムベラを持ち上げた時に跡が残るくらいの粘度(飲むヨーグルト程度)になったら、氷水から外します。
お好みのカップやグラスに流し入れます。表面に気泡ができた場合は、チャッカマン等のライターの火を近づけて一瞬炙るか、アルコールスプレーをひと吹きすると綺麗に消えます。
冷蔵庫に入れ、最低でも3時間、できれば一晩じっくり冷やし固めます。時間をかけることでゼラチンの網目構造が安定し、より滑らかな口溶けになります。
▼視覚イメージ:工程別「正解の状態」
- 加熱終了時: 鍋肌に小さな泡が出始め、湯気が立つ状態(沸騰はしていない)。
- とろみ付け完了時: ゴムベラですくうと、一瞬盛り上がってからトロトロと落ちる状態。サラサラの水状ではない。
- 完成時: カップを揺らすと、全体がプルプルと波打つような弾力。
「分離した」「固まらない」を防ぐ!失敗の科学とトラブルシューティング
どんなに気をつけていても、失敗してしまうことはあります。しかし、原因さえわかれば恐れることはありません。ここでは、パンナコッタ作りで遭遇する2大トラブル「分離」と「凝固不良」について、科学的な視点から原因と対策を解説します。
なぜ二層に分離してしまうのか?(比重の違いと温度の関係)
最も多い悩みが「上が濃厚クリーム、下が半透明ゼリー」の二層に分かれてしまう現象です。これは、前述の通り「比重の違い」によって起こります。
脂肪分(生クリーム)は水よりも軽いため、液体の中で浮き上がろうとします。逆に、水分や糖分は下に沈もうとします。液体がサラサラで温度が高い状態が長く続くと、この移動が自由に行われてしまい、固まる前に完全に分離してしまうのです。
これを防ぐ唯一の方法が、手順4で解説した「とろみがつくまで冷やしてから流す」ことです。粘度が高ければ、脂肪分は身動きが取れなくなり、その場に留まったまま固まります。これが均一なパンナコッタの正体です。
ゼラチンが固まらない3つの主な原因と対策
「冷蔵庫に一晩入れたのに、液体のまま固まらない」という場合、以下の3つのどれかが原因である可能性が高いです。
- ゼラチンの沸騰: ゼラチンの主成分はタンパク質(コラーゲン)です。沸騰した液体に入れたり、ゼラチンを入れてから煮立たせたりすると、タンパク質の構造が熱で分解され、固める力(ゲル化力)が著しく低下します。必ず火を止めてから、または80℃以下の液体に加えてください。
- 計量ミスとふやかし不足: ゼラチンの量が少なすぎる、または水でふやかす時間が短く芯が残っていたため、完全に溶けきらなかったケースです。特に粉ゼラチンは計量を正確に行いましょう。
- 酸や酵素の影響: レモン汁を大量に入れたり、生のトロピカルフルーツ(パイナップル、キウイなど)を混ぜると、タンパク質分解酵素の働きで固まらなくなります。これについてはQ&Aセクションで詳しく解説します。
「ブツブツ」した食感になるのを防ぐ「濾す(こす)」ひと手間
味は良いのに、舌触りがザラザラしたり、小さな粒が残っていることがあります。これは、溶け残ったゼラチンや、牛乳の膜、バニラのさやの破片などが混入しているためです。
カップに注ぐ直前に、茶こしや目の細かいザルで一度「濾す」ことを強くお勧めします。この数秒の作業を加えるだけで、シルクのような極上の舌触りが保証されます。バニラビーンズの黒い粒は細かい網目なら通過しますが、大きなさやのカスは取り除けるので、見た目も美しくなります。
もし失敗してしまったら?リメイクと救済措置
万が一分離してしまったり、固まらなかったとしても、捨てる必要はありません。
- 分離した場合: 味自体は悪くありません。「二層仕立てのデザート」としてそのまま食べるのもアリです。どうしても直したい場合は、一度鍋に戻して弱火で溶かし、再度氷水でしっかり冷やして乳化させ直せば、リカバリー可能です。
- 固まらなかった場合: ゼラチンの力が失われているので、再度加熱しても固まりません。この場合は、冷凍庫で凍らせて「ミルクアイス」にするか、ミキサーで氷と一緒に撹拌して「バニラシェイク」にすると美味しくいただけます。
現役パティシエのアドバイス
「分離してしまったパンナコッタは、実はトーストに塗ると最高に美味しい『ミルキースプレッド』になります。濃厚な上の層をバターのように熱いパンに塗ってみてください。失敗が怪我の功名と思えるほどの絶品ですよ」
お店の味に格上げ!おすすめソースとアレンジレシピ
基本の白いパンナコッタが作れるようになったら、ソースやフレーバーを変えてバリエーションを楽しみましょう。パンナコッタ自体がシンプルな味なので、酸味のあるフルーツや苦味のあるソースとは相性抜群です。
定番:甘酸っぱいベリーソース(フランボワーズ・イチゴ)
濃厚なクリームの味を引き締めるには、ベリー系の酸味がベストパートナーです。冷凍のミックスベリーを使えば、年中手軽に作れます。
大人味:ほろ苦キャラメルソースまたはエスプレッソソース
甘さを抑えたい方には、焦がしキャラメルや濃いめのエスプレッソをかけたアフォガート風がおすすめ。ビターな風味が乳脂肪分の甘みを際立たせます。
ヘルシーアレンジ:豆乳を使ったさっぱりパンナコッタ
牛乳の全量、または半分を「無調整豆乳」に置き換えると、カロリーを抑えつつ大豆の優しい風味が香る和風テイストになります。黒蜜やきな粉との相性が抜群です。
和風アレンジ:抹茶と黒蜜のパンナコッタ
温めた牛乳の一部で抹茶パウダーを溶いてから混ぜ合わせれば、鮮やかなグリーンの抹茶パンナコッタに。あずきをトッピングすれば、立派な和スイーツの完成です。
▼詳細レシピ:各ソース・アレンジの分量と手順
【ベリーソース】
冷凍ベリー100gとグラニュー糖30g、レモン汁小さじ1を耐熱容器に入れ、電子レンジ(600W)で2〜3分加熱。軽く潰して冷ますだけ。
【キャラメルソース】
グラニュー糖50gと水小さじ1を鍋に入れ、強火で茶色くなるまで焦がす。火を止め、熱湯50mlを少しずつ加えて(跳ねるので注意)溶かし伸ばす。
【豆乳パンナコッタの比率】
牛乳200ml → 無調整豆乳200mlに置換。生クリームはそのまま使用することで、豆乳臭さを消しつつコクを維持できます。
パンナコッタ作りに関するQ&A
最後に、読者の皆様からよく寄せられる疑問に、プロの視点でお答えします。
Q. 生クリームなし(牛乳だけ)で作れますか?
A. 作れますが、それはパンナコッタではなく「ミルクゼリー」になります。
パンナコッタ特有のねっとりとした濃厚さは生クリームの脂肪分によるものです。牛乳だけで作ると、さっぱりとした給食のゼリーのような味わいになります。もし生クリームがない場合は、牛乳にバターを少し溶かし込むか、練乳を加えるとコクを補うことができます。
Q. 日持ちはどのくらい?冷凍保存は可能?
A. 冷蔵で2〜3日が目安です。冷凍はおすすめしません。
保存料が入っていないため、作ってから3日以内に食べ切るのが安全です。冷凍すると、解凍した際に水分が抜け出てしまい(離水)、ボソボソとしたスポンジのような食感に劣化してしまいます。どうしても長期保存したい場合は、半解凍でシャーベットとして食べるのが良いでしょう。
現役パティシエのアドバイス
「冷凍するとゼラチンの網目構造が壊れてしまうため、あの滑らかさは二度と戻りません。しかし、あえて冷凍して半解凍状態で食べると、シャリッとした後にトロリと溶ける不思議な食感が楽しめます。これはこれで『プロの裏メニュー』的な楽しみ方です」
Q. 固まるまでの時間は最短でどのくらい?
A. 小さな容器なら冷蔵庫で2〜3時間です。
急ぎたい場合は、金属製のバットに並べて冷蔵庫に入れるか、冷凍庫に30分ほど入れてから冷蔵庫に移すと早く固まります(凍らせないよう注意)。ただし、時間をかけてゆっくり固めた方が口溶けは良くなります。
Q. キウイやパイナップルを入れると固まらないのはなぜ?
A. タンパク質分解酵素が含まれているからです。
生のキウイ、パイナップル、メロン、イチジクなどには、ゼラチンの主成分であるタンパク質を分解する酵素が含まれています。これらを具材にする場合は、一度加熱して酵素を失活させるか、缶詰のフルーツ(加熱処理済み)を使用してください。
まとめ:ひと手間でプロの味!週末は極上パンナコッタを楽しもう
ここまで、プロが教えるパンナコッタの作り方と、失敗しないための理論を解説してきました。一見すると「混ぜて冷やすだけ」の簡単なお菓子に見えますが、そこには「乳化」と「温度管理」という製菓理論の基本が詰まっています。
最後に、成功のための3つの鉄則をおさらいしましょう。
- 黄金比率を守る: 「生クリーム 1:牛乳 1(〜1.2)」のバランスで、濃厚さと口溶けを両立させる。
- 沸騰させない: 牛乳とゼラチンは80℃まで。沸騰は風味の敵であり、固まらない原因になる。
- とろみがつくまで混ぜる: 氷水で冷やしながらとろみをつける工程こそが、分離を防ぎ、均一な口溶けを生む最大の鍵。
この3点さえ守れば、ご家庭のキッチンで、高級レストランのデザートワゴンに並ぶような極上のパンナコッタを作ることができます。
次の週末は、お気に入りの紅茶やコーヒーを淹れて、自分で作った「世界一美味しいパンナコッタ」で贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。その一口が、日々の疲れを優しく溶かしてくれるはずです。
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