「子供の咳がもう1週間も続いているけれど、熱はそれほど高くない」
「夜になると咳き込んで眠れず、風邪薬を飲んでも全く効いている気がしない」
もし、あなたやご家族がこのような症状に悩まされているなら、それは単なる風邪ではなく「マイコプラズマ肺炎」の可能性があります。
マイコプラズマ肺炎は「乾いたしつこい咳」と「発熱」が特徴的な呼吸器感染症で、一般的な風邪薬や抗生物質では治らないケースが多いのが厄介な点です。早期に適切な抗生物質(マクロライド系など)を服用すれば改善に向かいますが、近年は薬が効きにくい「耐性菌」も増えており、治療には専門的な判断が必要です。
自己判断で様子を見ていると、肺炎が悪化して入院が必要になることもあります。長引く咳は決して放置せず、呼吸器内科への受診が必要です。
この記事では、以下の3つのポイントを中心に、現役の呼吸器内科専門医である私が詳しく解説します。
- 風邪とは違う?マイコプラズマ肺炎の初期症状とチェックリスト
- 医師が解説する最新の治療法と、薬が効かない場合の対処法
- 子供の登園・登校基準と、家族への感染を防ぐホームケア
正しい知識を持ち、適切なタイミングで医療機関を受診することで、辛い症状を一日でも早く解消しましょう。
マイコプラズマ肺炎とは?風邪との違いと特徴的な症状
このセクションでは、マイコプラズマ肺炎の基本的な特徴と、一般的な風邪やインフルエンザとの決定的な違いについて解説します。まずは、ご自身やお子様の症状がマイコプラズマ肺炎に当てはまるかどうかを確認してみましょう。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「診察室でよく遭遇するのは、『風邪だと思って市販薬を飲んでいたが、咳だけが残って酷くなった』という患者さんです。マイコプラズマ肺炎の怖さは、初期段階では聴診器で胸の音を聞いても雑音が聞こえず、異常なしと判断されやすいことです。これを私たちは『聴診所見とレントゲン所見の解離』と呼びますが、音が綺麗でもレントゲンを撮ると肺が真っ白、ということが珍しくありません。咳が長引く場合は、必ずレントゲン検査ができる医療機関を受診してください」
【セルフチェック】マイコプラズマ肺炎の可能性が高い5つのサイン
マイコプラズマ肺炎は、一般的な風邪とは異なる特徴的なサインがあります。以下の項目にいくつ当てはまるかチェックしてみてください。
- 痰(たん)が絡まない、コンコンという乾いた咳が出る
- 発熱があるが、元気で食欲もある(比較的全身状態が良い)
- 咳が早朝や夜間に激しくなり、眠れないことがある
- 市販の風邪薬や、ペニシリン系・セフェム系の抗生物質を飲んでも効かない
- 家族や学校、職場で同様の咳をしている人がいる
これらに複数当てはまる場合、マイコプラズマへの感染が強く疑われます。特に「薬が効かない」「夜間の咳」は重要なキーワードです。
他の呼吸器感染症との違いを以下の表にまとめました。症状の比較に役立ててください。
▼ 風邪・インフルエンザ・マイコプラズマの症状比較表(クリックで開く)
| 特徴 | 一般的な風邪 | インフルエンザ | マイコプラズマ肺炎 |
|---|---|---|---|
| 咳の特徴 | 湿った咳(痰が絡む) 喉の痛みと共に現れる |
乾いた咳だが、 全身症状の方が強い |
乾いた激しい咳(しつこい) 解熱後も数週間続くことがある |
| 発熱 | 微熱〜38度程度 数日で下がる |
38度以上の高熱が 急激に出る |
37度〜39度と個人差大 微熱がダラダラ続くことも多い |
| 全身症状 | 鼻水、喉の痛み、くしゃみ | 関節痛、筋肉痛、全身倦怠感 | 比較的元気(全身状態は良好) 「歩ける肺炎」とも呼ばれる |
| 好発年齢 | 全年齢 | 全年齢 | 幼児〜学童期、若年成人 (集団生活で流行しやすい) |
最大の特徴は「乾いた咳」と「夜間の悪化」
マイコプラズマ肺炎の最大の特徴は、なんといってもその「咳」の性質にあります。初期には「コンコン」「ケンケン」といった、痰の絡まない乾いた咳(乾性咳嗽)が出始めます。これは、マイコプラズマという病原体が気管支や肺の繊毛上皮細胞に付着し、そこを破壊することで直接的な刺激を与えるために起こります。
病状が進行すると、徐々に痰が絡む湿った咳に変化することもありますが、多くの患者さんが訴えるのは「咳き込みすぎて嘔吐してしまう」「夜布団に入って体が温まると咳が止まらなくなる」という症状です。この咳は非常に頑固で、熱が下がった後も3〜4週間ほど続くことがあります。これが「しつこい咳」と言われる所以であり、患者さんの生活の質(睡眠不足や仕事への支障)を著しく低下させる要因となります。
発熱のパターン:高熱が出る場合と微熱で続く場合
発熱のパターンも多様です。典型的なケースでは38度以上の高熱が出ますが、インフルエンザのように急激に悪寒を伴って上がるというよりは、数日かけて徐々に上がったり、下がったりを繰り返すことがあります。
一方で、37度台の微熱がダラダラと続くケースも少なくありません。特に大人の場合や、免疫機能が十分に働いている学童期以降の子供では、高熱が出ずに「なんとなく体がだるい」「微熱があるけれど動ける」という状態で経過することもあります。この「高熱が出ない」という特徴が、受診を遅らせる原因にもなっています。「熱がないから肺炎ではないだろう」という自己判断は禁物です。
「歩ける肺炎(Walking Pneumonia)」と呼ばれる理由とリスク
マイコプラズマ肺炎は、英語圏では「Walking Pneumonia(歩ける肺炎)」という別名で呼ばれています。これは、レントゲン写真で肺に真っ白な影が映るほどの肺炎を起こしていても、患者さん本人は比較的元気で、入院せずに通院(歩いて病院に来られる)で治療できるケースが多いことに由来します。
肺炎球菌による一般的な肺炎では、高熱や呼吸困難でぐったりし、入院が必要になることが多いのに対し、マイコプラズマ肺炎は「元気なのに肺炎」というギャップが特徴です。しかし、これが逆にリスクとなります。「元気だから大丈夫」と無理をして学校や仕事に行ってしまい、周囲に感染を広げてしまう(スーパースプレッダーとなる)可能性が高いのです。また、無理をして活動することで、急激に呼吸状態が悪化し、重症化するリスクも潜んでいます。「歩けるから軽症」とは限らないことを肝に銘じておく必要があります。
感染経路と潜伏期間:いつ、どこでうつるのか?
マイコプラズマ肺炎は感染力が強く、学校や家庭内で流行しやすい病気です。「どこでうつったのか?」「家族にうつさないためにはどうすればいいか?」という疑問に対し、感染のメカニズムと具体的な対策を解説します。
主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」
マイコプラズマの主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。
飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみによって飛び散ったしぶき(飛沫)を、近くにいる人が吸い込むことで感染します。マイコプラズマ肺炎の特徴である激しい咳は、病原体を遠くまで飛ばす強力な拡散装置となってしまいます。学校の教室や家庭のリビングなど、閉鎖空間で長時間一緒に過ごす「濃厚接触」が感染のリスクを最大化します。
接触感染は、感染者が咳を押さえた手でドアノブ、スイッチ、おもちゃ、タオルなどを触り、そこに付着した病原体を別の人が触れ、その手で口や鼻を触ることで感染します。家庭内ではタオルの共用や、子供同士のおもちゃの貸し借りが主な原因となります。
潜伏期間は2〜3週間と長いのが特徴
インフルエンザの潜伏期間が1〜3日であるのに対し、マイコプラズマ肺炎の潜伏期間は2〜3週間と非常に長いのが特徴です。場合によっては1ヶ月近く潜伏することもあります。
これは、「いつ誰からうつされたか」を特定するのが難しいことを意味します。例えば、子供が発症した場合、その原因は「昨日遊んだ友達」ではなく、「2〜3週間前に接触した誰か」である可能性が高いのです。また、兄弟間で感染する場合、上の子が発症してから2週間後に下の子が発症し、さらにその2週間後に親が発症するというように、家庭内で忘れた頃にリレー形式で感染が広がり、看病が1ヶ月以上続くという事態もよく起こります。
感染力が強い期間はいつまで?発症前後の注意点
マイコプラズマの感染力は、発症する前の潜伏期間の終わり頃から始まり、発症後の初期(特に咳が激しい時期)に最も強くなります。さらに厄介なことに、熱が下がって症状が改善した後も、数週間(長い場合は4〜6週間以上)にわたって気道から菌が排出され続けることがあります。
つまり、「熱が下がったからもううつらない」わけではないのです。もちろん、抗生物質による治療を開始すれば、数日で菌の量は減少し、感染力は弱まりますが、ゼロにはなりません。治療後もしばらくはマスクの着用や手洗いを徹底することが、周囲への思いやりとして重要です。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「家庭内で感染を広げないための最大のポイントは『隔離』と『換気』です。感染したお子さんと寝室を分けることが理想ですが、難しい場合は、枕の向きを互い違いにするだけでも飛沫を吸い込むリスクを減らせます。また、マイコプラズマは空気中を漂う微小な粒子(エアロゾル)でも感染する可能性があるため、1時間に1回、5分程度窓を開けて空気を入れ替えることが非常に有効です。看病する方はマスクを着用し、お子さんの咳しぶきを直接浴びないように注意してください」
病院での検査と診断方法:何科を受診すべき?
「咳が止まらないけれど、どのタイミングで病院に行くべき?」と迷っている方へ。ここでは受診の目安と、病院で行われる具体的な検査内容、診断の流れについて詳しく解説します。マイコプラズマ肺炎は早期発見が治療のカギです。
受診の目安:咳が何日続いたら病院へ行くべきか
受診すべき診療科は、大人は呼吸器内科または内科、子供は小児科です。以下の状況に当てはまる場合は、早めの受診をおすすめします。
- 3〜4日以上、高熱が続いている
- 熱は下がったが、咳がどんどん酷くなっている(特に夜間)
- 咳き込んで嘔吐してしまう、呼吸が苦しそう(ゼーゼーする)
- 周囲でマイコプラズマ肺炎が流行っている
特に、「風邪だと思って市販薬や以前もらった薬を飲んでいるが、3日経っても改善しない」場合は、マイコプラズマ肺炎や他の細菌性肺炎の可能性が高いため、薬の見直しが必要です。受診の際は、「いつから症状があるか」「周りに似た症状の人はいるか」「どんな薬を飲んだか」を医師に伝えると診断がスムーズです。
呼吸器内科・小児科で行われる主な検査(PCR・LAMP法・迅速キット・血液検査)
マイコプラズマ肺炎の確定診断には、病原体を検出する検査が必要です。現在、主に以下の検査方法が行われています。
▼ 各検査方法の特徴・判定時間・精度の比較(クリックで開く)
| 検査方法 | 判定時間 | 精度(感度) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| LAMP法 (核酸増幅法) |
15〜60分 | 非常に高い | 専用機器が必要。菌のDNAを増幅して検出するため、少ない菌量でも発見可能。現在の診断の主流になりつつある。 |
| 迅速抗原検査 (イムノクロマト法) |
15分程度 | 低い〜中程度 | インフルエンザ検査のように綿棒で喉を拭う。簡便だが、発症初期や菌量が少ないと「偽陰性(本当は感染しているのに陰性と出る)」になりやすい。 |
| 血液検査 (抗体価測定) |
数日〜1週間 | 確実だが遅い | 採血して抗体の上昇を見る。ペア血清(発症時と2週間後)での比較が必要なため、その場での診断には不向き。 |
| PCR検査 | 数時間〜数日 | 最も高い | 非常に高感度だが、実施できる施設が限られるか、外部機関への委託となるため結果判明に時間がかかることがある。 |
最近では、クリニックレベルでも精度の高いLAMP法を導入しているところが増えていますが、すべての病院で実施できるわけではありません。多くの場合は、症状や流行状況、レントゲン所見、そして迅速検査の結果を総合的に判断して診断を行います。
レントゲン検査の重要性:すりガラス様陰影とは
マイコプラズマ肺炎の診断において、最も重要かつ基本となるのが胸部レントゲン検査です。聴診器で胸の音を聞いただけでは異常が見つからない場合でも、レントゲンを撮ると肺に影が映ることが多々あります。
マイコプラズマ肺炎のレントゲン像は、一般的な細菌性肺炎(くっきりとした濃い影)とは異なり、「すりガラス様陰影」や「淡い浸潤影」と呼ばれる、薄くぼんやりとした影が特徴です。これは、肺胞(空気の袋)そのものではなく、その周りの間質という部分に炎症が起きていることを示しています。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「検査キットで『陰性』が出たからといって、マイコプラズマではないと断定することはできません。特に迅速抗原検査は、発症初期には感度が低く、3〜4割程度は見逃してしまうことがあります。そのため、検査結果が陰性であっても、特徴的な咳やレントゲンでの影、周囲の流行状況があれば、医師の判断でマイコプラズマの治療(抗生物質の処方)を開始することがあります。これを『臨床診断』と言います。検査結果だけに頼らず、症状全体を診ることが大切なのです」
【重要】マイコプラズマ肺炎の治療薬と「薬剤耐性菌」への対応
マイコプラズマ肺炎と診断された場合、どのような治療が行われるのでしょうか。ここでは、特効薬である抗生物質の種類と、近年深刻な問題となっている「薬が効かない耐性菌」への対処法について、専門的な視点から解説します。
第一選択薬は「マクロライド系」抗生物質(クラリス、ジスロマックなど)
マイコプラズマは細菌の一種ですが、一般的な細菌とは異なり「細胞壁」を持っていません。そのため、細胞壁を壊して菌を殺すタイプのお薬(ペニシリン系やセフェム系など、一般的な風邪や中耳炎で処方される抗生物質)は全く効果がありません。
治療の第一選択となるのは、マイコプラズマのタンパク質合成を阻害して増殖を抑える「マクロライド系」の抗生物質です。代表的な薬剤には以下のようなものがあります。
- クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッドなど):1日2回服用するタイプ。
- アジスロマイシン(商品名:ジスロマックなど):1日1回、3日間の服用で1週間効果が持続するタイプ。
通常であれば、これらの薬を服用開始して48時間〜72時間以内には熱が下がり、症状が改善に向かいます。
薬を飲んでも熱が下がらない…「マクロライド耐性菌」の増加
しかし、近年問題となっているのが、このマクロライド系抗生物質が効かない「マクロライド耐性マイコプラズマ」の増加です。特に小児の患者さんにおいて、耐性菌の検出率が高い傾向にあります。
もし、処方されたマクロライド系の薬を2〜3日間(ジスロマックなら飲みきった後も含め3日程度)しっかり服用しても、38度以上の熱が下がらない場合や、症状が悪化している場合は、耐性菌に感染している可能性が高いと考えられます。
耐性菌だった場合の治療法:薬の変更(キノロン系・テトラサイクリン系)について
耐性菌であると判断された場合、医師は薬の種類を変更します。次に選択されるのは、主に以下の2系統の抗生物質です。
- キノロン系(トスフロキサシン、レボフロキサシンなど)
- テトラサイクリン系(ミノサイクリン、ドキシサイクリンなど)
これらの薬は耐性菌にも高い効果を発揮します。ただし、テトラサイクリン系は8歳未満の小児に使用すると歯が黄色くなる(歯牙黄染)副作用のリスクがあるため、年齢や重症度を慎重に考慮して処方されます。小児の場合は、副作用の少ないキノロン系(オゼックスなど)が選ばれることが多いです。
咳止めや解熱剤は併用しても大丈夫?
抗生物質は原因菌を叩くための薬ですが、辛い症状を和らげるために、咳止め(鎮咳薬)、去痰薬、解熱鎮痛剤を併用することは問題ありません。むしろ、激しい咳による体力の消耗や睡眠不足を防ぐために、積極的に対症療法を行うことが推奨されます。
ただし、咳は体内の異物を排出しようとする防御反応でもあるため、強力すぎる咳止めで完全に咳を止めてしまうと、痰が溜まって肺炎が悪化することもあります。医師の指示に従って適切に使用してください。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「最も大切なのは、処方された抗生物質を自己判断で中断せず、最後まで飲み切ることです。熱が下がったからといって途中でやめてしまうと、体内に菌が残り、ぶり返したり、新たな耐性菌を生み出す原因になります。また、薬を飲んで2〜3日経っても解熱しない場合は、遠慮なく再受診してください。耐性菌への切り替え判断は、早ければ早いほど重症化を防げます」
自宅療養のポイントと学校・仕事の復帰基準
診断を受け、治療が始まったら、あとは自宅での療養が中心となります。「家でどう過ごせばいい?」「いつから学校に行っていいの?」という疑問に対し、具体的なホームケアと社会復帰の基準を解説します。
辛い咳を和らげるための部屋の環境(湿度・室温)と食事
マイコプラズマ肺炎の咳は、乾燥や冷気によって誘発されやすくなります。自宅療養では、気道の粘膜を守る環境づくりが重要です。
- 湿度管理:加湿器などを使い、部屋の湿度を50〜60%に保ちましょう。湿度が上がると、喉の粘膜が潤い、咳が出にくくなります。
- 水分補給:熱や咳で水分が失われやすいため、こまめに水分を摂りましょう。冷たい水よりも、常温の水や温かい飲み物の方が気道を刺激しません。
- 食事:喉への刺激が少ない、消化の良いものを選びましょう。ゼリー、プリン、おかゆ、うどんなどがおすすめです。柑橘系のジュースや香辛料の効いた料理は、咳を誘発することがあるので避けてください。
- 姿勢:夜寝る時は、上半身を少し高くする(枕やクッションを重ねる)と、咳き込みが和らぎ呼吸が楽になることがあります。
子供の登園・登校はいつから?学校保健安全法の基準解説
マイコプラズマ肺炎は、学校保健安全法で「第三種学校感染症」に指定されていませんが、条件によっては出席停止の扱いとなる感染症です。明確な出席停止期間の日数は決まっていませんが、基準は以下の通りです。
「発熱や激しい咳などの症状が治まり、全身状態が良いこと」
具体的には、解熱してから24時間以上経過し、食事もしっかり摂れて元気であれば登校可能です。ただし、咳が少し残っていても、マスクをして授業を受けられる程度であれば登校できる場合が多いですが、激しい咳が続いている場合は休ませるべきです。最終的な判断は学校医や主治医の指示に従ってください。
▼ 解熱後の経過と登校許可の目安タイムライン(クリックで開く)
| 経過 | 状態 | 行動の目安 |
|---|---|---|
| 発症〜治療開始 | 発熱、激しい咳 | 自宅療養(外出禁止) |
| 治療2〜3日目 | 解熱傾向、咳は続く | 自宅療養。解熱剤を使わずに平熱か確認。 |
| 解熱後1日目 | 平熱で安定、食欲回復 | 自宅内で安静に過ごす。様子見。 |
| 解熱後2日目以降 | 元気、咳は軽度残存 | 登校・登園可能の目安。 ※マスク着用必須。体育などは見学推奨。 |
大人の出勤基準と診断書の必要性について
大人の場合、法律による出勤停止の規定はありませんが、周囲への感染リスクを考慮し、解熱後もしばらくはマスクを着用して出勤することがマナーです。基本的には子供と同様、解熱して体力が回復していれば出勤可能です。
会社によっては診断書や治癒証明書の提出を求められることがあります。診断書の発行には文書料がかかる場合が多いため、事前に就業規則を確認するか、上司に相談することをおすすめします。「領収書」や「処方薬の説明書(薬剤情報提供書)」で代用できる場合もあります。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「登校許可証(治癒証明書)が必要な場合、朝の忙しい時間に受診すると待ち時間が長くなることがあります。再受診のタイミングは、症状が落ち着いた午後の診療時間などが比較的スムーズです。また、登校再開後も咳が残ることがありますが、これは気道の炎症が治りきっていないためで、必ずしも他人にうつす感染力が強いわけではありません。マスク着用を条件に、無理のない範囲で日常生活に戻していきましょう」
大人のマイコプラズマ肺炎は重症化しやすい?
「子供の病気」と思われがちなマイコプラズマ肺炎ですが、大人が感染すると重症化しやすい傾向があります。ご自身の健康を守るために知っておくべきリスクについて解説します。
大人特有の症状経過と重症化リスク
子供は免疫反応が未発達な部分もあり、比較的軽症で済むことも多いですが、大人は免疫機能が完成しているため、病原体に対して過剰な免疫反応(アレルギー反応に近いもの)を起こすことがあります。これにより、肺の炎症が激しくなり、重症化しやすいと言われています。
大人が感染すると、38〜39度の高熱が長引き、咳も非常に激しくなる傾向があります。重症化すると、胸に水が溜まる(胸水)ことや、呼吸不全に陥り酸素吸入が必要になるケースもあります。「たかが咳」と侮らず、大人の場合こそ早めの治療が重要です。
喘息持ちの人は要注意!合併症のリスク
気管支喘息の持病がある方がマイコプラズマに感染すると、喘息発作が誘発され、呼吸状態が急激に悪化することがあります(喘息の増悪)。マイコプラズマは気道を直接刺激するため、普段コントロールされている喘息でも、発作が頻発しやすくなります。
また、稀ではありますが、肺炎以外にも合併症を引き起こすことがあります。中耳炎、発疹(スティーブンス・ジョンソン症候群など)、脳炎・髄膜炎、心筋炎など、肺以外の臓器に影響が出ることも報告されています。咳以外の症状(耳の痛み、皮膚の異常、激しい頭痛など)が出た場合は、すぐに医師に伝えてください。
妊婦が感染した場合の胎児への影響と薬の選び方
妊娠中にマイコプラズマ肺炎にかかっても、胎児に直接感染したり、奇形を引き起こしたりするリスクは低いとされています。しかし、激しい咳による腹圧の上昇や、母体の発熱・酸素不足は赤ちゃんにとってストレスとなります。
治療薬に関しては、マクロライド系のアジスロマイシンやエリスロマイシンなどは、妊婦への使用経験も多く、比較的安全に使用できるとされています。一方で、テトラサイクリン系やキノロン系は胎児への影響が懸念されるため、通常は使用しません。妊娠中の方は必ず産婦人科医または内科医に妊娠の事実を伝え、安全な薬を処方してもらうようにしてください。
よくある質問に専門医が回答 (FAQ)
最後に、診療室で患者さんから頻繁に寄せられる質問について、Q&A形式で回答します。
Q. 一度かかったら免疫ができて、もうかからない?
A. 残念ながら、何度でもかかります。
マイコプラズマに対する免疫は、一度感染しても長期間持続しません。また、マイコプラズマにはいくつかの型があるため、数年後に再感染することも珍しくありません。大人になってから子供にうつされて数回かかる方もいます。
Q. 自然治癒することはある?放置するとどうなる?
A. 自然治癒することもありますが、おすすめしません。
軽症であれば、自身の免疫力で自然に治ることもあります。しかし、適切な抗生物質を服用しない場合、咳が長期間(1ヶ月以上)続いたり、治るまでに時間がかかったりします。その間、周囲に菌をばら撒き続けることになりますし、重症化するリスクも否定できません。早期に治療したほうが、本人も楽ですし、周囲への感染拡大も防げます。
Q. 市販の風邪薬や咳止めは効果がある?
A. 一時的な症状緩和にはなりますが、根本治療にはなりません。
市販の総合感冒薬や咳止めは、症状を和らげる対症療法に過ぎません。原因であるマイコプラズマ菌を殺すことはできないため、薬が切れれば症状は戻ります。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「市販薬で様子を見るのは『最大3日』を限度にしてください。3日間服用しても熱が下がらない、咳が改善しない、あるいは悪化している場合は、市販薬では対応できない病気である可能性が高いです。漫然と飲み続けず、医療機関を受診してください」
Q. 入院が必要になるのはどのような状態?
A. 呼吸困難や脱水、食事摂取困難が見られる場合です。
「安静にしていても息が苦しい」「酸素飽和度(パルスオキシメーターの数値)が93%以下」「水分も摂れず脱水症状がある」「意識がぼーっとしている」といった場合は、入院治療が必要です。特に高齢者や基礎疾患がある方、乳幼児は重症化しやすいので注意が必要です。
まとめ:長引く咳は放置せず、早めの受診で安心を
マイコプラズマ肺炎は、風邪と似て非なる感染症です。「ただの咳」と軽く見ていると、自分自身が辛い思いをするだけでなく、大切な家族や同僚に感染を広げてしまう可能性があります。
最後に、今回の記事の要点を振り返りましょう。
- 乾いたしつこい咳と発熱が続く場合はマイコプラズマを疑う。
- 潜伏期間が長いため、家族内で時間差で感染が広がることがある。
- 治療の基本はマクロライド系抗生物質だが、効かない耐性菌も増えている。
- 薬を飲んでも2〜3日改善しない場合は、すぐに再受診して薬を変更してもらう。
- 登校・出勤は解熱して全身状態が良くなってから。咳が残る場合はマスク着用を徹底。
現役呼吸器内科専門医のアドバイス
「『咳が長引いているけれど、熱はないから病院に行くほどではない』と我慢されている方が非常に多いです。しかし、マイコプラズマ肺炎は早期に適切な抗生物質を使えば、劇的に症状が改善する病気でもあります。夜眠れないほどの咳は、体からのSOSです。一人で悩まず、呼吸器内科や小児科を受診し、適切な診断と治療を受けてください。それが、あなたとあなたの大切な人を守る一番の近道です」
受診の際は、以下の情報を整理していくとスムーズです。
▼ 受診前の準備・確認チェックリスト(クリックで開く)
- いつから症状(発熱・咳)が始まったか
- 熱の最高体温と変動パターン
- 咳の性質(乾いているか、痰が絡むか、夜間に悪化するか)
- 周囲(学校・職場・家族)に似た症状の人はいるか
- これまでに服用した薬(お薬手帳を持参するのがベスト)
- 薬のアレルギーや副作用の経験はあるか
この記事が、不安な症状を抱えるあなたの助けとなり、一日も早い回復につながることを願っています。
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