レストランのメニューや輸入食品店の棚で「ヘリン(Herring)」という文字を見かけ、ふと足を止めたことはないでしょうか。あるいは、北欧インテリアや海外の食文化に触れる中で、この言葉に出会ったのかもしれません。
結論から申し上げますと、ヘリンとは英語で「ニシン」のことを指します。しかし、私たち日本人がイメージする「ニシン(鰊)」と、欧米の食文化における「ヘリン」には、単なる翻訳では片付けられない大きな違いがあります。それは、使用される魚の種類であったり、調理法であったり、何よりもその魚が食卓で果たす役割そのものが異なっているのです。
日本のニシンが「昆布巻き」や「ニシン蕎麦」といった、出汁の効いた和の味わいを象徴するものであるならば、欧州のヘリンは「ワインやビールに合う洗練された前菜」としての顔を持っています。特に大西洋ニシンを使った酢漬けやオイル漬けは、脂の乗りが良く、酸味とハーブの香りが食欲をそそる、全く別の美食体験を提供してくれます。
この記事では、欧州在住経験を持ち、数々の輸入食材を日本に紹介してきた筆者が、ヘリンの基礎知識から、オランダや北欧の本場の楽しみ方、そしてIKEAなどの市販品を使って家庭で簡単に再現できる絶品アレンジレシピまでを網羅的に解説します。
※なお、医薬品の「ヘパリン(抗凝固薬)」や工業用潤滑剤の情報をお探しの方は、検索キーワードが異なりますので、お手数ですがブラウザで再度検索を行ってください。本記事は「魚のヘリン」に関する食文化の特集です。
この記事でわかること
- 「ヘリン」と日本の「ニシン」の決定的な違いと、それぞれの文化的背景
- オランダや北欧諸国で愛されている「ハーリング」や「シル」の本場の食べ方
- IKEAやカルディで購入できる瓶詰めを、絶品おつまみに変えるプロのアレンジレシピ
ヘリン(Herring)の基礎知識:日本のニシンと何が違う?
「ヘリン」という言葉を聞いて、すぐに魚の姿が思い浮かぶ方は、かなりの食通か海外経験豊富な方でしょう。日本ではまだ馴染みの薄いこの呼び名ですが、世界的に見れば、ヘリンは歴史を動かすほど重要な魚として扱われてきました。ここでは、生物学的な定義や分類の話は最小限にとどめ、私たちが最も知りたい「味わい」や「食文化」としての違いに焦点を当てて解説していきます。
日本の食卓に並ぶニシンと、欧州のバルで提供されるヘリン。同じ魚でありながら、なぜこれほどまでに印象が異なるのでしょうか。その秘密は、魚が育つ海の違いと、長い歴史の中で培われてきた保存技術の進化の方向にあります。このセクションを読み終える頃には、メニューに書かれた「ヘリン」の文字を見る目が変わっているはずです。
欧州食文化研究家のアドバイス
「レストランのメニューで『ヘリンのマリネ』や『ヘリンの酢漬け』と書かれていたら、それは日本の身欠きニシンのような硬い食感ではなく、『とろけるような脂の甘みと、キリッとした酸味のハーモニー』を期待してください。特に『Matjes(マティエス)』と表記があれば、それは初夏に獲れたばかりの、まだ卵を持っていない脂の乗り切った若いニシンを指します。これは白ワイン、特にリースリングやピノ・グリとの相性が抜群ですよ」
言葉の定義:英語のHerringと日本語のニシン
まず言葉の定義から整理しましょう。「Herring(ヘリング、ヘリン)」は、ニシン目ニシン科に属する魚の英名です。日本語では「ニシン」と訳されます。ドイツ語では「Hering(ヘーリング)」、オランダ語では「Haring(ハーリング)」、スウェーデン語では「Sill(シル)」と呼ばれます。
しかし、日本の食品売り場やレストランでカタカナの「ヘリン」が使われる場合、それは単に「ニシン」と言い換える以上の意味を含んでいることがほとんどです。一般的に、和食の文脈(煮付け、昆布巻き、蕎麦、数の子など)では「ニシン」と表記され、洋食の文脈(マリネ、オイル漬け、燻製、北欧料理など)では「ヘリン」と表記される傾向があります。
これは、「サーモン」と「鮭」の使い分けに似ています。「鮭」と言えば塩焼きやおにぎりの具を連想しますが、「サーモン」と言えばカルパッチョやクリーム煮を連想するのと同様に、「ヘリン」という言葉には、欧米風の調理法や食スタイルへの期待が込められているのです。
種類の違い:大西洋ニシンと太平洋ニシンの脂の乗り
「ヘリン」と「ニシン」の違いを語る上で欠かせないのが、魚種の違いです。私たちが日本近海や北太平洋で漁獲し、古くから食べてきたニシンは、主に「太平洋ニシン(Pacific Herring)」です。一方、ヨーロッパの食文化を支えてきたのは「大西洋ニシン(Atlantic Herring)」です。
この二つは生物学的には近縁種ですが、味わいには明確な違いがあります。一般的に、大西洋ニシンの方が太平洋ニシンに比べて脂質含有量が高い傾向にあります。特に北海やバルト海で獲れる大西洋ニシンは、冷たい海で育つため、身にたっぷりと脂を蓄えています。
この「脂の乗り」こそが、欧州で「生食に近い形での酢漬け」が発達した理由の一つです。脂が多いため、酢で締めても身がパサつかず、むしろバターのような濃厚なコクが生まれます。対して、太平洋ニシンは身が締まっており、乾燥させて保存性を高める「身欠きニシン」のような加工法に適していました。私たちが「ヘリン」を食べた時に感じる「とろっとした食感」は、この大西洋ニシン特有の脂質によるものが多いのです。
食文化の違い:和食の「煮付け・蕎麦」vs 欧州の「生食・マリネ」
日本と欧州では、ニシンに対するアプローチが真逆と言っても過言ではありません。日本では、かつて冷蔵技術がなかった時代、ニシンを乾燥させて「身欠きニシン」にし、それを米のとぎ汁で戻して甘露煮にするという、手間暇かけた保存食文化が発展しました。これは「旨味を凝縮させる」方向性の進化です。
一方、欧州、特にオランダや北欧では、塩と酢を使った「マリネ(酢漬け)」や「塩漬け」が主流となりました。これは魚の鮮度感を保ちつつ、保存性を高める技術です。彼らにとってヘリンは、パンに挟んだり、ジャガイモに添えたりして、日常的に食べるファストフードであり、同時に特別な日の御馳走でもあります。
以下の表に、日本と欧州におけるニシンの扱いの違いをまとめました。これを見れば、なぜ「ヘリン」があれほどまでにワインに合うのかが理解できるでしょう。
| 特徴 | ヘリン(欧州流) | ニシン(日本流) |
|---|---|---|
| 主な魚種 | 大西洋ニシン(Atlantic Herring) | 太平洋ニシン(Pacific Herring) |
| 主な調理法 | 酢漬け(マリネ)、塩漬け、オイル漬け、燻製 | 煮付け、甘露煮、昆布巻き、干物、塩焼き |
| 食感の特徴 | 脂が乗って柔らかい、とろける食感、ジューシー | 身が締まっている、ホロホロとした繊維感、凝縮感 |
| 味の方向性 | 酸味、ハーブ(ディル等)、クリーミー、塩気 | 醤油、砂糖、出汁、甘辛い味 |
| 合わせる主食 | ライ麦パン、ジャガイモ、クラッカー | 白米、蕎麦 |
| 合わせるお酒 | 白ワイン、ビール(ピルスナー)、アクアビット | 日本酒、焼酎 |
このように、「ヘリン」を知ることは、単に魚の名前を知ることではなく、遠く離れたヨーロッパの海と人々の暮らしに思いを馳せることなのです。次章では、実際に現地の人々がどのようにヘリンを楽しんでいるのか、その熱狂的な食文化をご紹介します。
【現地レポート】欧州各国で愛されるヘリンの食文化
「ヘリン」がどれほど欧州の人々に愛されているか、その熱量は日本にいるとなかなか伝わりにくいかもしれません。しかし現地では、季節の到来を告げる風物詩であり、国民食とも呼べる存在です。ここでは、筆者が実際に現地で体験したエピソードを交えながら、オランダ、北欧、ドイツそれぞれの国で異なるヘリンの楽しみ方をご紹介します。
これを読めば、まるでヨーロッパの港町の市場を歩いているような気分になれるはずです。そして、次の旅行先で何を食べるべきか、あるいは輸入食品店でどの国のスタイルの瓶詰めを選ぶべきかのヒントが得られるでしょう。
オランダの初夏の風物詩「ハーリング(Hollandse Nieuwe)」
オランダにおいて、ヘリン(現地ではハーリング)は特別な意味を持ちます。特に毎年6月中旬頃に解禁される「Hollandse Nieuwe(ホランセ・ニーウエ=オランダの新ニシン)」は、日本でいうボジョレー・ヌーヴォーのような盛り上がりを見せます。この時期のニシンは、産卵前で脂肪分が20%近くにも達し、信じられないほどクリーミーです。
オランダの街角には「Haringhandel(ハーリングハンデル)」と呼ばれる専門の屋台が登場します。ここでは、軽く塩漬けにされただけの、ほぼ生に近い状態のニシンが提供されます。注文すると、その場で魚をさばき、刻んだ生玉ねぎをたっぷりとまぶして渡してくれます。
筆者の体験談:アムステルダムの市場にて
「初めてアムステルダムのアルバート・カイプ市場を訪れた時のことです。現地の人が屋台の前で、ニシンの尻尾をつまみ、顔を上に向けて、そのまま魚を丸ごと口に滑り込ませている光景に衝撃を受けました。『あんな食べ方をして生臭くないのか?』と恐る恐る私も注文してみたのです。渡されたハーリングは銀色に輝いていました。見よう見まねで上を向き、一口かじると、想像していた生臭さは皆無。代わりに、口の中の体温で脂が瞬時に溶け出し、濃厚なバターのような甘みが広がりました。そこに玉ねぎのシャキシャキ感と辛味がアクセントになり、後味は驚くほどさっぱり。気がつけば2尾目を注文していました。これは魚料理というより、極上のスイーツに近い感動でした」
この「尻尾を持って上を向いて食べる」スタイルはオランダの伝統的な作法です。もちろん、パンに挟んで「ブローチェ・ハーリング(ハーリングサンド)」として食べるのも一般的で、ランチタイムには多くのビジネスマンが屋台に列を作ります。
北欧(スウェーデン・ノルウェー)の食卓に欠かせない「シル(Sill)」
場所を北に移して、スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国では、「シル(Sill)」と呼ばれ、さらに多様な味付けで親しまれています。北欧のヘリン文化の特徴は、その「甘み」と「スパイス使い」にあります。
IKEAのレストランやフードマーケットで見かける瓶詰めが、まさにこのスタイルです。基本の酢漬けには砂糖がたっぷりと使われ、甘酸っぱい味わいが特徴です。そこにディル(香草)、マスタード、トマト、カレー、さらにはウイスキーやシェリー酒など、様々なフレーバーで味付けされたシルが食卓に並びます。
北欧では、夏至祭(ミッドサマー)やクリスマス、イースターといった主要な祝祭のテーブルに、シルは絶対に欠かせない存在です。茹でたてのジャガイモ(特に初夏の新じゃが)、サワークリーム、刻んだチャイブ、そしてクリスプブレッドと共に食べるのが定番中の定番。これに「アクアビット」と呼ばれるジャガイモから作られた強い蒸留酒を合わせ、歌を歌いながら乾杯するのが北欧流の宴です。
ドイツやフランスでの楽しみ方(ロールモップスなど)
ドイツやフランスのアルザス地方などでも、ヘリンは「Bismarckhering(ビスマルクヘリング)」や「Rollmops(ロールモップス)」として愛されています。ビスマルクヘリングは、当時の鉄血宰相ビスマルクがこの魚を大変好んだことから名付けられたと言われる、酸味の効いた酢漬けです。
一方、ロールモップスは、開いたニシンのフィレでキュウリのピクルスや玉ねぎをくるくると巻き、楊枝で止めて酢漬けにしたものです。見た目も可愛らしく、酸味が強いため、ドイツではビールのおつまみとしてはもちろん、「二日酔いの朝に食べる朝食(Katerfrühstück)」としても知られています。酸味と塩分が、疲れた体に染み渡るのだそうです。
フランスでは、茹でたジャガイモと一緒にオイルとビネガーで和えた「Harengs Pommes à l’Huile(アラン・ポム・ア・ルイル)」というビストロの定番前菜があります。シンプルながらも、素材の味を最大限に引き出すフランスらしい一皿です。
このように、一口に「ヘリン」と言っても、国によってその表情は様々です。次章では、これらの魅力的な欧州の味を、日本の家庭で手軽に再現する方法をご紹介します。
市販品で手軽に!ヘリンの美味しい食べ方とアレンジレシピ
「現地の話を聞いて食べてみたくなったけれど、生の大西洋ニシンなんて手に入らない」と思われた方もご安心ください。日本にいながらにして、本場のヘリンを楽しむ方法はいくつもあります。最も手軽で確実なのが、IKEAやカルディ、成城石井、あるいはネット通販で手に入る「瓶詰め」を活用することです。
しかし、瓶詰めを買ってみたものの、「どうやって食べればいいか分からない」「そのまま食べたら味が濃すぎた」という声もよく耳にします。ここでは、市販の瓶詰めを劇的に美味しくするプロのテクニックと、おもてなしにも使えるアレンジレシピをご紹介します。これさえ知っていれば、冷蔵庫の常備菜としてヘリンが欠かせなくなるはずです。
欧州食文化研究家のアドバイス
「輸入食品店でヘリンの瓶詰めを選ぶ際、まずは『液体の色』に注目してください。透明な液体ならスタンダードな酢漬け(マリネ)、白濁していればクリームやマヨネーズソース、黄色ならマスタードソース、赤ならトマトソースです。初心者はまず透明なタイプの『酢漬け(Pickled Herring)』を選びましょう。これが最もアレンジが効きやすく、和食の南蛮漬けに近い感覚で食べられるため失敗がありません」
初心者向け:IKEAやカルディで買える「酢漬け瓶詰め」の活用法
市販のヘリンの酢漬けは、保存性を高めるために味が濃いめに作られています。そのまま食べると「酸っぱい!」「甘すぎる!」と感じることがあるかもしれません。美味しく食べる最大のコツは、「乳製品」や「芋」と合わせることです。
最もシンプルな食べ方は、以下の通りです。
- サワークリームを添える: 酸味の角が取れ、まろやかなコクが生まれます。サワークリームがなければ、水切りヨーグルトでも代用可能です。
- 茹でたジャガイモと一緒に: ホクホクのジャガイモと一緒に口に運ぶと、ヘリンの塩気と酸味が絶妙なドレッシング代わりになります。
- 薬味をたっぷりと: ディル(必須!)、赤玉ねぎのスライス、万能ねぎなどを散らすと、風味が豊かになり、見た目も華やかになります。
これらをワンプレートに盛り付けるだけで、立派な北欧風の前菜が完成します。お皿は白やブルー系のシンプルなものを選ぶと、ヘリンの銀皮が映えて美しく見えます。
【レシピ】5分で完成!ヘリンとビーツの北欧風オープンサンド
デンマークの伝統料理「スモーブロー」をイメージした、写真映え間違いなしのオープンサンドです。ランチやブランチに最適です。
材料(1人分)
- ライ麦パン(なければ全粒粉パンやバゲット):1枚
- 有塩バター:適量(たっぷりと塗るのが現地流)
- ヘリンの酢漬け(市販):3〜4切れ
- ビーツ(水煮缶やパウチでOK):スライス2〜3枚
- ゆで卵:スライス2〜3枚
- 赤玉ねぎ:薄切り少々
- ディル:適量
作り方
- ライ麦パンに室温に戻したバターを厚めに塗ります。これが具材の水分をパンに染み込ませないための土台となります。
- ビーツの水気を切り、パンの上に並べます。
- その上にゆで卵のスライスを重ねます。
- ヘリンの酢漬けを、立体感が出るようにふんわりと乗せます。
- 赤玉ねぎとディルをトッピングして完成です。
ポイント: ビーツの赤と卵の黄色、ヘリンの銀色、ディルの緑のコントラストを意識して盛り付けてください。ナイフとフォークを使って優雅にいただきましょう。
【レシピ】白ワインが進む!ヘリンのディル風味マリネサラダ
市販の酢漬けを野菜と和えるだけで、レストラン級のサラダに変身します。キリッと冷やした白ワイン(ソーヴィニヨン・ブランやリースリング)を用意してください。
材料(2人分)
- ヘリンの酢漬け(市販):100g
- きゅうり:1/2本(薄い輪切り)
- リンゴ:1/4個(薄いいちょう切り)
- フェンネル(あれば):薄切り少々
- プレーンヨーグルト:大さじ2
- マヨネーズ:大さじ1
- レモン汁:小さじ1
- 黒こしょう:少々
作り方
- きゅうりは塩もみして水気をしっかり絞ります。リンゴも変色しないよう塩水にさらしてから水気を切ります。
- ボウルにヨーグルト、マヨネーズ、レモン汁、黒こしょうを混ぜ合わせ、ドレッシングを作ります。
- ヘリン(大きければ一口大にカット)、きゅうり、リンゴ、フェンネルをボウルに入れて和えます。
- 冷蔵庫で30分ほど冷やして味を馴染ませてから器に盛ります。
ポイント: リンゴのシャキシャキ感と甘酸っぱさが、ヘリンの旨味を引き立てます。北欧では魚と果物を合わせるのが一般的です。
上級編:鮮魚(生ニシン)が手に入った時の自家製マリネ手順
もし、鮮魚店で新鮮な生のニシン(大西洋ニシンではなく太平洋ニシンでも可)が手に入ったら、自家製マリネに挑戦するチャンスです。ただし、市販品とは違い、自分で塩加減と酢加減をコントロールする必要があります。
筆者の失敗談:塩加減の黄金比率
「かつて、見よう見まねでニシンのマリネを作った時、保存性を気にするあまり塩を振りすぎてしまい、塩辛くて食べられない失敗をしたことがあります。逆に塩が薄すぎると身が締まらず、生臭さが残ります。試行錯誤の末にたどり着いた黄金比率は、『強めの塩で脱水し、その後しっかり塩抜きをしてから、甘酢に漬ける』という工程です。塩漬けの段階では魚の重量の15%ほどの塩を使い、一晩置いて水分と臭みを抜きます。その後、流水で塩を洗い流し、真水に1〜2時間浸して塩抜きをします。端を少し切って食べてみて『少し塩気がある刺身』くらいになればOK。そこから酢、砂糖、水、スパイスを煮溶かして冷ましたマリネ液に漬け込みます」
自家製を作る際は、後述するアニサキス対策が必須となりますので、必ず次のセクションの注意点を熟読してから行ってください。
▼ クリックして表示|ヘリンと相性の良い食材・ハーブ・お酒のマトリクス図
| カテゴリ | ベストパートナー(相性抜群) | グッドパートナー(相性良し) |
|---|---|---|
| 野菜・果物 | ジャガイモ、赤玉ねぎ、ビーツ、リンゴ | きゅうり、フェンネル、ラディッシュ |
| 乳製品 | サワークリーム、有塩バター | クリームチーズ、ヨーグルト |
| ハーブ・スパイス | ディル(必須)、マスタードシード | チャイブ、パセリ、黒こしょう、ジュニパーベリー |
| パン | ライ麦パン(黒パン)、クリスプブレッド | バゲット、クラッカー |
| お酒 | アクアビット、ピルスナービール、リースリング | ウォッカ、辛口のシードル、シェリー酒 |
ヘリンを安全に楽しむための注意点とQ&A
生や半生の魚を扱う食文化において、最も重要なのは「安全性」です。特にニシンは寄生虫のリスクがある魚として知られています。しかし、正しい知識と処理方法を守れば、恐れることはありません。ここでは、安心してヘリンを楽しむための必須知識と、よくある疑問にお答えします。
アニサキス食中毒のリスクと冷凍処理の重要性
ヘリン(ニシン)を生、あるいは酢漬けで食べる際に、絶対に避けて通れないのが「アニサキス」の問題です。アニサキスは魚介類の内臓に寄生する線虫で、誤って生きたまま摂取すると激しい腹痛や嘔吐を引き起こします。
重要な事実は、「一般的な酢漬けや塩漬けでは、アニサキスは死滅しない」ということです。酢や塩の浸透圧程度では、彼らは生き延びてしまいます。では、なぜ欧州では生に近いマリネが安全に食べられているのでしょうか?
欧州食文化研究家のアドバイス
「オランダやEU諸国では、生食用のニシンに対して厳格な法律があります。それは『食べる前に必ずマイナス20度以下で24時間以上冷凍すること』という義務です。この冷凍処理によってアニサキスは死滅します。日本で生のニシンを買ってきて自家製マリネを作る場合は、必ずこの『一度冷凍する』工程を挟んでください。3枚におろした後、ラップで包んで家庭用冷凍庫で48時間以上(家庭用は温度が高めな場合があるため長めに)冷凍し、それから解凍して調理すれば安全です。市販の瓶詰め製品は、製造過程で処理済みですのでそのまま食べて問題ありません」
Q. 開封後の瓶詰めはどれくらい日持ちする?
A. 開封後は冷蔵庫で保管し、1週間〜10日程度を目安に食べきってください。
酢漬けは保存食ですが、市販の瓶詰めは開封すると空気に触れ、雑菌が入り込む可能性があります。また、時間が経つと魚の身が酸化したり、食感が悪くなったりします。清潔な箸やフォークを使って取り出し、液面から魚が出ないようにしておくと長持ちします。もしカビが生えたり、異臭がしたり、炭酸ガスが発生しているような場合は、迷わず廃棄してください。
Q. 塩辛すぎたり酸っぱすぎたりする場合の対処法は?
A. 牛乳や水に浸して「塩抜き・酢抜き」をするか、甘みを足して調整します。
海外製の瓶詰めは味が濃いことが多いです。その場合、食べる分だけ取り出し、少量の牛乳または水に30分ほど浸しておくと、塩気と酸味がマイルドになります。また、和える際にハチミツや砂糖を少し加えたり、マヨネーズやサワークリームなどの脂肪分と混ぜることで、刺激的な味を和らげることができます。
Q. 「キッパー(Kipper)」や「シュールストレミング」との違いは?
A. これらは全てニシンの加工品ですが、製法と味が全く異なります。
- ヘリン(Herring): 主に酢漬けやオイル漬け。甘酸っぱい、または塩気のある味。
- キッパー(Kipper): ニシンの開きを塩漬けにしてから冷燻(燻製)にしたもの。イギリスの朝食の定番で、焼いて食べます。スモーキーな香りが特徴です。
- シュールストレミング(Surströmming): スウェーデンの発酵食品。塩漬けにしたニシンを缶の中で発酵させたもの。
▼ 世界一臭い缶詰「シュールストレミング」についての豆知識
シュールストレミングは、同じニシンを使っていますが、ヘリン(酢漬け)とは全く別次元の食べ物です。加熱殺菌せずに缶詰にするため、缶の中で乳酸発酵が進み続け、強烈なガスと臭気を放ちます。「世界一臭い食べ物」として有名ですが、現地では屋外で開封し、洗ってからパンやジャガイモと食べます。通常の「ヘリンの缶詰・瓶詰め」とは明確に区別して購入してください。誤って室内で開けると大変なことになります。
まとめ:ヘリンを取り入れて食卓に北欧の彩りを
ここまで、ヘリン(Herring)という魚の魅力について、言葉の定義から現地の文化、そして美味しい食べ方まで深く掘り下げてきました。日本の「ニシン」とは一味違う、欧州の風を感じる「ヘリン」の世界。それは単なる食材の一つではなく、長い冬を越え、初夏の光を待ちわびるヨーロッパの人々の喜びが詰まった食文化そのものです。
最初は独特の酸味や甘みに驚くかもしれませんが、一度その味に慣れると、キリッと冷えた白ワインやビールには欠かせない最高のパートナーになります。IKEAや輸入食品店で瓶詰めを見かけたら、それは新しい味覚へのパスポートです。
欧州食文化研究家のアドバイス
「まずは小さな瓶詰めを一つ買って、週末のランチにオープンサンドを作ってみることから『ヘリン生活』を始めてみてください。特別な調理は必要ありません。美味しいパンとバター、そして少しのディルがあれば、いつもの食卓が北欧のカフェに早変わりします。食を通じて、遠い国の文化を体感する。それこそが、輸入食材を楽しむ最大の醍醐味なのです」
最後に、これからヘリンを楽しむための買い物リストをまとめました。ぜひスクリーンショットを撮って、お店に向かってください。
ヘリンを楽しむための買い物リスト(Checklist)
- ヘリンの瓶詰め(最初はプレーンな酢漬けタイプがおすすめ)
- ディル(生のハーブコーナーにあります。これがあるだけで本格的な味に!)
- サワークリーム(または水切りヨーグルト)
- ライ麦パン(黒パンや全粒粉パン、クラッカーでも可)
- ジャガイモ(メークインなど煮崩れしにくい品種がおすすめ)
- 赤玉ねぎ(辛味が少なく彩りが綺麗です)
- 白ワイン(リースリングやソーヴィニヨン・ブラン)またはピルスナービール
ぜひ今日から、ヘリンのある豊かな食卓を楽しんでみてください。
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