ビジネスシーンにおいて、自分の会社のことを指す言葉として「弊社(へいしゃ)」と「当社(とうしゃ)」のどちらを使うべきか、一瞬迷ってしまった経験はありませんか?
メールを作成している時、電話で応対している時、あるいは重要なプレゼンテーションや採用面接の場において、この二つの言葉を適切に使い分けることは、社会人としての基本的なマナーであり、相手に与える印象を大きく左右する重要な要素です。
結論から申し上げますと、「弊社(へいしゃ)」は社外の人に対して自分たちをへりくだって表現する謙譲語であり、「当社(とうしゃ)」は社内の人間や公式な場で事実を伝える際に用いる丁寧語です。この使い分けの根底には、日本独特の「ウチ(身内)」と「ソト(外部)」という文化的な概念が存在します。
この記事では、業界歴20年のビジネスマナー講師である筆者が、言葉の定義だけでなく、実際のビジネス現場ですぐに使える具体的なフレーズや、ベテラン社員でも間違いやすい微妙なニュアンスの違いについて、徹底的に解説します。
以下の3つのポイントを中心に、あなたの疑問を完全に解消し、自信を持って言葉を選べるようになるためのガイドを提供します。
- 【一覧表あり】弊社・当社・自社の決定的な違いと使い分けルール
- メール・電話・面接ですぐ使える、状況別の正しいフレーズ実例集
- 「小社」は使う?クレーム対応は?プロが教える応用テクニック
言葉遣いは、あなたのビジネススキルや教養を表す鏡です。正しい使い分けをマスターして、相手に信頼されるビジネスパーソンへの第一歩を踏み出しましょう。
3秒で解決!「弊社・当社・自社」の違いと使い分け早見表
ビジネスの現場では、瞬時の判断が求められることが多々あります。電話が鳴っている最中や、メールの送信ボタンを押す直前に「あれ、どっちだっけ?」と迷わないよう、まずは結論となる使い分けの全体像を把握しましょう。
「弊社」と「当社」、そして客観的な表現である「自社」。さらに相手を呼ぶ時の「御社」「貴社」。これら5つの用語は、それぞれ明確な役割と使用シーンが決まっています。以下のセクションで、それぞれの定義と関係性を整理します。
【図解】社外は「弊社」、社内は「当社」が基本ルール
最も基本的かつ重要なルールは、話し相手が「社外の人」か「社内の人」かによって使い分けるということです。以下のマトリクス(早見表)をご覧いただければ、その違いが一目瞭然です。
| 用語 | 読み方 | 分類(敬語の種類) | 主な相手・対象 | 具体的な使用シーン |
|---|---|---|---|---|
| 弊社 | へいしゃ | 謙譲語 (へりくだる) |
社外の人 (顧客、取引先) |
商談、メール、電話応対、謝罪時、挨拶 |
| 当社 | とうしゃ | 丁寧語 (事実を伝える) |
社内の人 (上司、同僚) 不特定多数 |
社内会議、報告書、プレスリリース、会社案内、就職説明会 |
| 自社 | じしゃ | 客観的表現 (敬語ではない) |
自分自身 分析対象 |
他社比較、市場分析、戦略立案時の思考 |
| 御社 | おんしゃ | 尊敬語 (相手を立てる) |
相手企業 | 話し言葉(面接、商談、電話) |
| 貴社 | きしゃ | 尊敬語 (相手を立てる) |
相手企業 | 書き言葉(メール、履歴書、送付状) |
この表からわかるように、「弊社」は相手を自分より高い位置に置くために、自分たち(会社)を低く表現する言葉です。一方、「当社」は対等な立場、あるいはへりくだる必要がない場面で、自らの会社を丁寧に指す言葉です。
この基本さえ押さえておけば、大きなマナー違反を犯すことはありません。まずは「相手がお客様なら弊社、身内なら当社」とシンプルに記憶してください。
なぜ使い分ける必要がある?「ウチ」と「ソト」の概念
なぜ日本語には、同じ「自分の会社」を指す言葉が複数存在するのでしょうか。これを理解するためには、日本文化における「ウチ(内)」と「ソト(外)」という概念を知る必要があります。
日本のビジネスコミュニケーションにおいて、組織(会社)は一つの「家」や「家族」のようなものとして扱われます。この「ウチ」のメンバーである社員同士が話すときは、お互いに対等、あるいは役職に基づいた関係性で話します。しかし、一歩外に出て「ソト」の人(顧客や取引先)と接するときは、会社全体が一つの謙虚な姿勢を示す必要があります。
「弊社」という言葉には、「弊(つい)える」や「疲弊(ひへい)」といった漢字が使われている通り、本来は「私のボロボロの会社」という意味合いが含まれています。もちろん実際に会社がボロボロであるわけではありませんが、あえて自分たちの所有物を低く表現することで、相対的に相手(ソトの人)を高め、敬意を表すのです。
逆に、社内の会議で「弊社の課題は……」と言ってしまうと、身内に対してよそよそしい態度を取っているように聞こえたり、あるいは会社そのものを卑下しすぎているような違和感を与えてしまいます。社内では「私たちの会社」というニュアンスに近い「当社」を使うことで、帰属意識や事実に基づいた議論が可能になります。
ビジネスマナー講師のアドバイス
「言葉の使い分けは、単なる暗記テストではありません。目の前の相手と自分との『距離感』や『関係性』を測るためのものさしです。『弊社』と言うとき、あなたは組織を代表して頭を下げています。『当社』と言うとき、あなたは組織の一員として胸を張っています。この心の持ちようが、言葉の響きに表れるのです。」
「自社」はいつ使う?客観的な視点が必要な場面
「弊社」と「当社」の影に隠れがちですが、「自社(じしゃ)」という言葉もビジネスでは頻繁に登場します。この言葉は敬語(謙譲語や尊敬語)の枠組みには入らず、あくまで客観的な事実として「自分の会社」を指す場合に用いられます。
「自社」を使うべき主な場面は、感情や上下関係を排除した「分析」や「比較」を行う時です。
- 競合他社との比較分析を行う時
例:「A社と比較して、自社の強みは技術力にあります」 - システムやツールの設定画面などで自社環境を指す時
例:「自社サーバーの設定を確認してください」 - 客観的な市場調査レポートを作成する時
例:「自社製品の市場シェアは現在15%です」
このように、「自社」は相手に敬意を示すためではなく、情報を正確に区別するために使われます。したがって、取引先との商談で「自社の製品は……」と言うと、少し冷たい、あるいは事務的すぎる印象を与える可能性があります。商談の場では、やはり「弊社」あるいは自信を持って「当社」と言うのが適切です。
ビジネスマナー講師のアドバイス
「迷った時の判断基準として、相手を『立てる』必要があるなら『弊社』、事実を『伝える』だけなら『当社』、客観的に『区別する』なら『自社』と覚えましょう。特に新入社員のうちは、お客様相手ならすべて『弊社』で統一しても大きな失礼にはなりません。まずは『へりくだる姿勢』を示すことが、信頼獲得への第一歩です。」
【例文付】「弊社」を使うべき具体的なシーンとフレーズ集
基本ルールを理解したところで、次は実践編です。「弊社」という言葉は、社外の人とのコミュニケーションにおいて最も頻繁に使用される一人称です。ここでは、メール、商談、プレゼンテーションという3つの主要なシーンに分けて、そのまま使える具体的なフレーズを紹介します。
これらのフレーズを自然に口にできるようになれば、あなたのビジネスマナーは格段に向上し、相手に「しっかりした教育を受けている人だ」という安心感を与えることができます。
社外宛てのメール・文書(書き言葉)
ビジネスメールにおいて「弊社」は必須の単語です。見積書の送付、アポイントの調整、お礼やお詫びなど、あらゆる場面で登場します。書き言葉では、話し言葉以上に丁寧さが求められるため、謙譲語である「弊社」の役割は非常に大きいです。
以下に、日常業務で頻出するメール文面のテンプレートを用意しました。状況に合わせてアレンジしてご活用ください。
▼そのまま使えるメール文面テンプレート(クリックして展開)
【新規取引先への挨拶メール】
件名:新規お取引のご挨拶(〇〇株式会社 佐藤)
本文:
〇〇株式会社
営業部 田中様
突然のご連絡失礼いたします。
〇〇株式会社の佐藤と申します。
この度は、弊社のサービス「△△」にご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。
弊社では、長年にわたり〇〇業界の課題解決に取り組んでまいりました。
つきましては、一度貴社の課題やご要望を伺う機会をいただけないでしょうか。
弊社の実績事例なども交えて、詳しくご説明させていただければと存じます。
(以下略)
【見積書送付のメール】
件名:お見積書の送付について
本文:
いつも大変お世話になっております。
先日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。
ご依頼いただきました件につきまして、弊社にて見積書を作成いたしましたので、添付ファイルにてお送りいたします。
ご検討のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
【お詫びのメール】
件名:【重要】システム障害に関するお詫び
本文:
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
昨日発生いたしましたシステム障害につきまして、多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
現在、弊社技術チームが総力を挙げて復旧作業にあたっております。
弊社の管理体制の不備により、このような事態を招きましたこと、重ねてお詫び申し上げます。
メール文面では、「弊社」を使うことで文章全体が引き締まります。ただし、一文の中に何度も「弊社」が登場するとくどくなるため、2回目以降は「私ども」や主語を省略するなどの工夫をすると、より洗練された文章になります。
取引先との商談・電話対応(話し言葉)
電話対応や対面の商談では、とっさの言葉遣いが問われます。「弊社」は書き言葉だけでなく、話し言葉としても非常に一般的で使いやすい表現です。
特に電話口では、相手の顔が見えない分、言葉遣いによる印象形成が重要になります。第一声で「はい、株式会社〇〇でございます」と社名を名乗った後、会話の中で自社を指す場合は「弊社」を使います。
- 会社説明をする時
「弊社の強みは、24時間365日のサポート体制にございます。」 - 担当者が不在の場合(電話応対)
「申し訳ございません。担当の鈴木はただいま席を外しております。戻り次第、弊社より折り返しご連絡差し上げます。」 - 提案をする時
「貴社の課題解決に向けて、弊社としてできる限りの協力をさせていただきます。」 - 謝罪をする時
「この度は弊社の手違いにより、ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。」
会話の中で自然に「弊社」が出てくるようになれば、一人前のビジネスパーソンと言えるでしょう。特に謝罪の場面では、「私個人のミス」であっても、組織として責任を負う姿勢を示すために「弊社」や「私ども」を使うのがマナーです。
プレゼンテーション・会社説明会
多数の社外の人間に向けて話すプレゼンテーションや会社説明会でも、基本的には「弊社」を使います。ここでは、特定の個人(目の前の担当者)だけでなく、聴衆全体に対して敬意を払う必要があります。
ただし、プレゼンテーションの内容によっては、あまりにへりくだりすぎると「自信がない」ように見えてしまうリスクがあります。そのため、冒頭の挨拶や会社概要の説明では「弊社」を使い、製品の優位性や将来のビジョンを語るパートでは、あえて「当社」や「私たち」を使って力強さをアピールするという高度なテクニックもあります。
基本フレーズとしては以下のようなものが挙げられます。
- 「本日はお忙しい中、弊社の説明会にお越しいただきありがとうございます。」
- 「弊社がこれまでに培ってきたノウハウを、余すことなくご提供いたします。」
- 「今回のプロジェクトは、弊社にとっても新たな挑戦となります。」
ビジネスマナー講師のアドバイス
「会話の中で『弊社』を連発しすぎると、耳障りで慇懃無礼(丁寧すぎて逆に失礼、あるいはよそよそしい)な印象を与えることがあります。例えば『弊社の製品は、弊社工場で生産され、弊社の検査基準をクリアしており……』といった具合です。このような場合は、『私ども』や『私たち』といった少し柔らかい表現を適度に混ぜるのが、こなれた大人のマナーです。」
【例文付】「当社」を使うべき具体的なシーンとフレーズ集
次に、「当社」を使うべきシーンについて解説します。「弊社」が相手を立てるための言葉であるのに対し、「当社」は事実を淡々と、あるいは自信を持って伝えるための言葉です。「弊社」との混同を防ぐため、明確に「当社」を使うべきシチュエーションを理解しておきましょう。
社内での会議・報告・プレゼン
社内の人間しかいない会議室で「弊社」を使うのは、基本的にNGです。上司や同僚は「身内」であり、へりくだる対象ではないからです。社内会議で「弊社の売上は……」と言うと、「君は外部の人間なのか?」と皮肉を言われかねません。
社内では、自分たちの組織を客観的かつ主体的に指す言葉として「当社」または「我が社」を使います。
- 役員会議での報告
「当社の上半期の業績についてご報告いたします。」 - 社内プレゼン
「今回のプロジェクトが成功すれば、当社の市場シェアはトップになります。」 - 部署間での打ち合わせ
「開発部としては、当社の技術基準を満たす設計を提案します。」
体験談挿入: 筆者の失敗談
「私も新入社員時代、社長が出席する全体会議で緊張のあまり『弊社の課題は……』と発言してしまったことがあります。会議後、先輩から『社長は身内だぞ。外部の人みたいに話すな』と指摘され、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしました。社内では『当社』、これは鉄則です。」
自社サイトの会社概要・プレスリリース・公式文書
会社の公式ウェブサイトにある「会社概要」ページや、メディア向けの「プレスリリース」、株主向けの「事業報告書」などの公式文書では、「当社」を使用するのが一般的です。
これらの文書は、特定の相手(顧客一人ひとり)に向けた手紙ではなく、不特定多数のステークホルダー(顧客、株主、投資家、求職者、地域社会など)に向けた公的な情報発信です。そのため、過度にへりくだる必要はなく、企業の主体性や品格を示すために「当社」という丁寧語を用います。
- 会社概要ページ
「当社は創業以来、品質第一をモットーに歩んでまいりました。」 - プレスリリース
「当社はこの度、新製品〇〇を発売いたします。」 - 求人情報
「当社で働く魅力は、風通しの良さにあります。」
ここで「弊社」を使ってしまうと、企業としての自信や威厳が損なわれたり、文章全体が弱々しい印象になってしまったりするため注意が必要です。
報道関係者への対応・インタビュー
新聞やテレビなどのメディア取材を受ける際も、「当社」を使うケースが多く見られます。これは、取材を通してその背後にいる「社会全体」に対して情報を発信しているからです。
また、不祥事などの謝罪会見においては、責任の所在を明確にするために「当社」と「弊社」が使い分けられることがあります。事実関係の説明(「当社におきましては……」)では客観性を保ち、被害者へのお詫び(「弊社といたしましては深くお詫び申し上げます」)では謙譲の意を示す、といった具合です。
ビジネスマナー講師のアドバイス
「商談であっても、自社の実績や方針を自信を持って主張したい場面では、あえて『当社』を使うテクニックがあります。『弊社の製品は……』と下からお願いするよりも、『当社の技術は世界基準です』と言い切ることで、信頼感やプロフェッショナルとしての自信を相手に強く印象付けることができます。言葉の選び方一つで、交渉の主導権が変わることもあるのです。」
就活生・転職者必見!面接で自分の会社をどう呼ぶ?
就職活動や転職活動中の面接において、志望動機や自己PRを話す際、言葉の使い分けに迷う方は非常に多いです。「今の会社」のことを何と呼べばいいのか、そして「目の前の面接官の会社」を何と呼ぶべきか。ここでは、採用面接という特殊な場における正解を解説します。
現職の会社の話をする時は「現職」または「現在の会社」
転職面接において、現在勤めている(または直近まで勤めていた)会社の話をする際、「弊社」を使うのは不適切です。なぜなら、面接先の企業にとって、あなたの今の会社は「弊社(へりくだるべき身内)」ではないからです。
また、「当社」と言うと、まるであなたがその会社の代表者であるかのような、あるいはまだその会社に強い帰属意識を持っているかのような印象を与えてしまうリスクがあります。
最も無難で適切な表現は、「現職(げんしょく)」または「現在の会社」「前職(ぜんしょく)」という言葉です。
- OK例:「現職では、主に法人営業を担当しております。」
- OK例:「前職の経験を活かし、御社に貢献したいと考えております。」
- NG例:「弊社では、チームリーダーをしておりました。」(面接官にとっての『弊社』と混同する)
面接官の会社を呼ぶ時は「御社」が鉄則
これは基本中の基本ですが、面接を受けている相手の会社を呼ぶ時は、話し言葉の尊敬語である「御社(おんしゃ)」を使います。履歴書やエントリーシートなどの書き言葉では「貴社(きしゃ)」と書きますが、面接の場(口頭)では「御社」で統一しましょう。
「貴社」は同音異義語(記者、汽車、帰社など)が多く、耳で聞いた時に紛らわしいため、話し言葉としては避けられる傾向にあります。
自分のことは「私(わたくし)」で統一
会社の話ではありませんが、自分自身の一人称についても触れておきます。面接の場では、男女問わず「私(わたくし)」を使うのが最もフォーマルで好印象です。「わたし」でも間違いではありませんが、少しカジュアルな響きになります。「僕」「自分」などはビジネスの場では不適切ですので避けましょう。
元採用担当のアドバイス
「面接で緊張して『弊社』と言ってしまっても、それだけで即不採用になることはありません。それよりも、言い間違いに気づいて動揺し、話の内容が飛んでしまう方がマイナスです。もし間違えたら、『失礼しました、現職では……』と落ち着いて言い直せば大丈夫です。むしろ、ミスを冷静にリカバリーできる姿勢は『修正能力がある』としてプラス評価につながることもあります。」
「小社」「我々」「私ども」…その他の言い換え表現と使い所
「弊社」と「当社」以外にも、ビジネスシーンではいくつかの類似表現が存在します。これらを知っておくと、表現の幅が広がり、より繊細なニュアンスを伝えることができるようになります。
「小社(しょうしゃ)」は使うべき?現代での位置づけ
「小社(しょうしゃ)」は、「弊社」と同様に自分の会社をへりくだって言う謙譲語です。「小さい会社」という意味で、相手を立てるニュアンスが含まれます。
しかし、現代のビジネスシーンにおいて「小社」が使われることは極めて稀です。あまりにへりくだりすぎているため、卑屈な印象を与えたり、あるいは「死語」のように古臭い印象を持たれたりする可能性があります。基本的には「弊社」を使っておけば問題ありません。あえて使うとすれば、伝統的な業界で、相手が大企業、自社が小規模な企業である場合に、古風な礼儀正しさを演出したい時などに限られます。
クレーム対応で役立つ「私ども(わたくしども)」
「弊社」という言葉は、少し硬く、組織的で冷たい響きを持つことがあります。特に、顧客からのクレーム対応や、感情的な寄り添いが必要な場面では、「弊社」よりも「私ども(わたくしども)」という表現が効果的です。
「私ども」には、「私を含む人間たち」というニュアンスがあり、組織としての責任を認めつつも、人間味や温かみを感じさせることができます。
- クレーム対応時
「私どもの配慮が足りず、お客様に不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。」 - 感謝を伝える時
「お客様の温かいお言葉が、私どもスタッフ一同の励みになります。」
チーム感を強調する「我々(われわれ)」「私たち」
プロジェクトの進行中など、社内外のメンバーを含めた「チーム全体」の一体感を醸成したい場合や、強い意志を示したい場合には、「我々(われわれ)」や「私たち」という表現が適しています。
これは硬いビジネス用語というよりは、熱意やビジョンを共有するための言葉です。
- 「この難局を乗り越えるために、我々は全力を尽くします。」
- 「私たちが目指すのは、業界の常識を変えることです。」
言葉の柔らかさと丁寧度を整理すると、以下のようになります。
| 堅い・フォーマル | 中間 | 柔らかい・カジュアル |
|---|---|---|
| 弊社、小社 | 当社、私ども | 私たち、我々、ウチ |
実はベテランも間違える?注意すべきNG事例5選
どれだけ経験を積んでも、ふとした瞬間に間違った敬語を使ってしまうことはあります。ここでは、ベテラン社員でも陥りやすい「弊社・当社」にまつわるNG事例や注意点を紹介します。これらを事前に知っておくことで、恥ずかしい失敗を未然に防ぐことができます。
1. 身内の行事に「弊社」を使ってしまう(社内行事など)
社内の運動会や忘年会、創立記念パーティーなどの司会進行で、「本日は弊社の忘年会にお集まりいただき……」と言ってしまうケースです。参加者が社員のみであれば、これは間違いです。身内の集まりでへりくだる必要はないため、「当社の忘年会」や「わが社の恒例行事」とするのが自然です。
2. グループ会社や出向先での呼び方(複雑な「ウチ」の範囲)
大企業のグループ会社間や、出向先での言葉遣いは非常に複雑です。基本ルールは「相手が誰か」によって「ウチ」の範囲が変わるということです。
- 親会社の人と話す時:自社(子会社)のことは「弊社」または「こちらの会社」と言い、親会社のことは「御社」や「本体」と呼ぶことが多いです。
- グループ外の顧客と話す時:親会社も含めてグループ全体を「ウチ」とみなすため、親会社のことも「弊社(グループ)」として語ることがあります。
ビジネスマナー講師のアドバイス
「グループ会社間の会議では、それぞれの会社を『当社(自社)』『そちら(相手)』と区別して呼ぶのが一般的です。しかし、顧客の前に出れば『私たちはワンチーム』です。この『相対的なウチとソト』の感覚を掴むのが、上級者へのステップです。迷ったら、その場の最上位者の言葉遣いに合わせるのも一つの処世術です。」
3. 「弊社様」などの二重敬語・過剰敬語
これは笑い話のようですが、極度の緊張からメールの宛名などで「〇〇株式会社 弊社様」と書いてしまったり、自社の社長のことを社外の人に「弊社の佐藤社長様が……」と言ってしまったりするミスです。
自社の人間には敬称(様、社長、部長など)を付けず、「弊社の佐藤が」「社長の佐藤が」と呼び捨てにするのがビジネスマナーの鉄則です。
4. 相手が「御社」と言ったのに「御社」と返してしまう(オウム返しNG)
相手:「御社のサービスは素晴らしいですね」
自分:「ありがとうございます。御社のおかげです」
この会話は成立していますが、文脈によっては混乱を招くことがあります。相手が「御社(あなたの会社)」と言ったのに対し、こちらも「御社(相手の会社)」と返すと、どっちの会社の話をしているのか分かりにくくなる瞬間があります。明確に「弊社」と言い換えることで、会話の主語がはっきりします。
5. 入社前の内定者が「弊社」を使ってしまう
内定者懇親会などで、張り切って「弊社のビジョンに共感し……」と話す学生がいますが、厳密には入社式を終えるまでは「外部の人間」です。まだ社員ではないため、「御社」と呼ぶのが適切です。「弊社」を使うのは、正式に入社辞令を受け取ってからです。
よくある質問(FAQ)
最後に、「弊社」と「当社」の使い分けに関して、よく寄せられる質問に簡潔にお答えします。
Q. 「我が社」と言ってもいいのは誰ですか?
A. 一般的には社長や役員など、会社を代表する立場の人です。
「我が社(わがしゃ)」という言葉には、強い所有意識や威厳が含まれます。一般社員が「我が社の業績は……」と言うと、少し偉そうに聞こえたり、芝居がかった印象を与えたりするため、避けるのが無難です。一般社員は「当社」を使いましょう。
Q. メールで「弊社」と書くとき、改行やスペースは必要?
A. 不要です。文脈の中で自然に使用してください。
かつての公文書の慣習で、敬意を表す対象(天皇や貴人)の前で改行する「平出(へいしゅつ)」という作法がありましたが、現代のビジネスメールで「弊社」や「貴社」の前後にスペースや改行を入れる必要はありません。
Q. 英語で「弊社」「当社」はどう使い分ける?
A. 英語には謙譲語の概念が薄いため、基本は区別しません。
英語では、自社のことは文脈に関わらず “We” や “Our company” と表現します。相手を敬うかどうかは、単語の選択(Company ではなく Firm を使うなど)や、丁寧な助動詞(Could, Would)を使うことで表現します。「弊社」に当たる直訳語を探すよりも、丁寧なフレーズ全体で敬意を表すことが大切です。
まとめ:言葉の使い分けは「相手への配慮」から始まる
ここまで、「弊社」と「当社」の違いを中心に、ビジネスシーンでの正しい使い分けについて解説してきました。最後に、要点を整理したチェックリストを確認しましょう。
「弊社」と「当社」の使い分けチェックリスト
- [ ] 相手は社外の人(顧客・取引先)ですか?
→ YESなら「弊社」(へりくだって相手を立てる) - [ ] 相手は社内の人(上司・同僚)ですか?
→ YESなら「当社」(事実を丁寧に伝える) - [ ] 公式文書、プレスリリース、会社概要ですか?
→ YESなら「当社」(組織としての主体性を示す) - [ ] 謝罪やお願いをする場面、またはクレーム対応ですか?
→ YESなら「弊社」または「私ども」(謙虚な姿勢を示す) - [ ] 就職・転職活動の面接中ですか?
→ YESなら、今の会社は「現職」、相手の会社は「御社」
日本語の敬語や呼称のルールは非常に複雑で、時にはベテランでも迷うことがあります。しかし、これらすべてのルールの根底にあるのは、「相手を敬い、円滑にコミュニケーションをとりたい」という配慮の心です。
形式にとらわれすぎて、会話がぎこちなくなってしまっては本末転倒です。「弊社」か「当社」か迷ったときは、より相手を立てる「弊社」を選んでおけば、大きな間違いにはなりません。
ビジネスマナー講師からの最後のエール
「敬語は、相手とあなたの間に適切な距離感を築き、信頼関係をスムーズにするための潤滑油です。最初はマニュアルを見ながらでも構いません。正しい言葉遣いを意識して使い続けるうちに、それが自然な『あなたの言葉』になり、ビジネスパーソンとしての品格が備わってきます。この記事を参考に、ぜひ自信を持ってビジネスの現場で活躍してください。」
今日から送るメール、今日から話す電話の一言一言が、あなたの信頼を積み上げていきます。まずは次のメールで、意識的に「弊社」を使ってみることから始めてみましょう。
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