「手や顔に赤い発疹が出て痒くてたまらない」
「子供の肌がガサガサしているけれど、市販薬で様子を見てもいいの?」
突然の皮膚トラブルに見舞われると、痒みによるストレスはもちろん、見た目の変化や「なにか悪い病気ではないか」という不安に襲われるものです。特に家事や育児、仕事に追われる毎日の中で、皮膚科に行く時間を確保するのは容易ではありません。しかし、湿疹は初期対応を誤ると慢性化し、治りにくい「苔癬化(たいせんか)」という状態へ進行してしまうリスクがあります。
結論から申し上げますと、湿疹は「皮膚のバリア機能低下」と外部からの「刺激」によって引き起こされる炎症反応です。自己判断で放置したり、症状に合わない誤った薬を使ったりすると、かえって悪化させる原因になります。逆に言えば、原因ごとの正しい対処法と、適切なタイミングでの治療介入ができれば、早期に苦痛から解放されることが可能です。
この記事では、長年多くの患者さんの肌トラブルに向き合ってきた皮膚科専門医の監修のもと、以下の3点を中心に徹底解説します。
- 部位・症状別に見る「よくある湿疹」の種類と見分け方
- 市販薬で治せる?病院へ行くべき?危険なサインと受診基準
- 専門医が教える「ステロイド外用薬」の正しい選び方と塗り方(FTU)
痒みのない快適な生活を取り戻すために、ぜひ最後までお読みいただき、今日からのケアに役立ててください。
湿疹(皮膚炎)とは?かゆみと炎症が起こるメカニズム
そもそも、私たちが日常的に「湿疹」と呼んでいる症状は、医学的にはどのような状態を指すのでしょうか。
このセクションでは、まず湿疹が発生するメカニズムと、よく似た症状である「蕁麻疹(じんましん)」との違い、そして放置することで症状がどのように進行していくのかを解説します。敵を知ることが、正しい治療への第一歩です。
湿疹の正体は「表皮」の炎症反応
湿疹(Eczema)とは、皮膚の最も外側にある「表皮」やその下の「真皮」上層で起こる炎症の総称であり、医学用語では「皮膚炎」と同義で使われます。
私たちの皮膚には、本来、外部の刺激から体を守る「バリア機能」が備わっています。健康な肌は、皮脂膜や角質層が隙間なく並ぶことで、細菌、ウイルス、アレルゲン(花粉やダニなど)、化学物質といった異物の侵入を防ぎ、同時に体内の水分蒸発を防いでいます。
しかし、乾燥や摩擦、体調不良などでこのバリア機能が低下すると、外部からの刺激物質が容易に皮膚内部へ侵入してしまいます。すると、体は侵入者を排除しようとして免疫システムを作動させます。この免疫反応の結果として放出されるヒスタミンなどの化学物質が、血管を拡張させて「赤み」を起こし、神経を刺激して「痒み」を引き起こすのです。これが湿疹の正体です。
つまり、湿疹は「肌のガードが緩んだ場所に敵が侵入し、体が必死に戦っている状態」と言い換えることができます。
「湿疹」と「蕁麻疹(じんましん)」の違い
「肌が赤くて痒い」という症状が出たとき、多くの方が迷うのが「これは湿疹なのか、それとも蕁麻疹なのか?」という点です。
両者は治療法や対処法が異なるため、正しく見分けることが重要です。最大の違いは、「皮膚の盛り上がり方」と「症状が消えるまでの時間」にあります。
以下の比較表で、それぞれの特徴を確認してみましょう。
▼ 表:湿疹・蕁麻疹・あせもの特徴比較
| 特徴 | 湿疹(皮膚炎) | 蕁麻疹(じんましん) | あせも(汗疹) |
|---|---|---|---|
| 見た目 | 赤くブツブツしている、表面がガサガサ、皮がむける、水ぶくれ | 蚊に刺されたように境界がはっきり盛り上がる(膨疹)、地図状に広がる | 小さな赤いブツブツや透明な水ぶくれが密集する |
| 表面の触感 | ザラザラ、ゴワゴワしている | ツルッとしていることが多い | ザラザラしている |
| 持続時間 | 数日〜数週間続く(治療しないと治らないことが多い) | 数十分〜24時間以内に跡形もなく消える(場所を変えてまた出ることもある) | 汗をかいた後に発生し、数日で引くことが多い |
| 痒みの質 | いつまでも続くしつこい痒み | 焼けるような強い痒み(チクチクする場合も) | チクチクした痒み |
| 主な原因 | かぶれ、乾燥、アトピー素因など | 食べ物、ストレス、温度差、物理的刺激など(原因不明も多い) | 大量の発汗による汗管の詰まり |
もし、「朝起きたら跡形もなく消えていた」という場合は蕁麻疹の可能性が高く、逆に「数日間ずっと同じ場所が赤くて痒い、表面がザラザラしている」という場合は湿疹である可能性が高いと言えます。
湿疹の進行プロセス(急性から慢性へ)
湿疹は、発症してから治るまでの間に、いくつかの段階を経て変化します。この流れを理解しておくと、現在の自分の肌がどの段階にあるのかを把握しやすくなります。
- 第1段階:紅斑(こうはん)
初期段階です。皮膚の毛細血管が拡張し、赤くなります。触ると少し熱を持っていることがありますが、まだ盛り上がりは目立ちません。 - 第2段階:丘疹(きゅうしん)
炎症が進み、ポツポツとした小さな赤い盛り上がりができます。痒みが強くなってくる時期です。 - 第3段階:小水疱(しょうすいほう)・膿疱(のうほう)
さらに炎症が強まると、組織液が溜まって小さな水ぶくれができたり、膿がたまったりします。 - 第4段階:湿潤(しつじゅん)・びらん
水ぶくれが破れ、ジクジクと汁(浸出液)が出ている状態です。皮膚のバリア機能は崩壊しており、細菌感染のリスクが最も高い危険な状態です。 - 第5段階:結痂(けっか)
ジクジクした液が乾燥して固まり、かさぶたになります。治りかけのサインですが、無理に剥がすと出血します。 - 第6段階:落屑(らくせつ)
かさぶたが取れ、新しい皮膚ができ始めますが、表面の白い粉(角質)がポロポロと剥がれ落ちます。
これらの急性期の反応が治まりきらず、炎症が長期間繰り返されると「慢性湿疹」へと移行します。慢性化すると、皮膚は分厚く硬くなり(苔癬化)、ゴワゴワとした象の皮膚のような状態になってしまいます。こうなると市販薬だけでの完治は難しくなり、長期的な治療が必要になります。
現役皮膚科専門医のアドバイス
「湿疹治療で最も避けなければならないのは、『イッチ・スクラッチ・サイクル(痒みと掻破の悪循環)』です。痒いから掻く、掻くことで皮膚バリアがさらに壊れる、バリアが壊れるから神経が過敏になり余計に痒くなる…という負のループです。このサイクルに入ると、最初は小さな湿疹だったものが、あっという間に全身へ広がることがあります。痒みを感じたら『我慢』ではなく、直ちに『薬で炎症を抑える』または『冷やす』といった物理的な対処を行い、サイクルを断ち切ることが重要です。」
【写真・イラスト解説】部位・症状別 よくある湿疹の種類5選
「湿疹」と一口に言っても、その原因や特徴は様々です。ここでは、皮膚科外来で頻繁に見られる代表的な5つの湿疹について解説します。ご自身の症状がどれに当てはまるか、特徴を照らし合わせてみてください。
接触皮膚炎(かぶれ):特定の物質に触れた場所に発症
一般的に「かぶれ」と呼ばれるものです。原因物質(アレルゲンや刺激物質)が触れた部分だけに、境界線がくっきりとした赤みや痒み、水ぶくれが現れるのが特徴です。
- 刺激性接触皮膚炎:肌の弱い人が、洗剤、石鹸、植物の汁などに触れることで起こります。誰にでも起こりうる反応です。
- アレルギー性接触皮膚炎:特定の物質にアレルギーを持つ人だけに起こります。金属(ピアス、ベルトのバックル)、化粧品、ゴム製品、ウルシなどが代表的です。
見分けるポイント:「マスクの紐が当たる耳の後ろだけ赤い」「腕時計をしていた手首だけ痒い」など、何かが触れていた場所と炎症の範囲が一致していれば、接触皮膚炎の可能性が高いでしょう。原因物質を特定し、避けることが最大の治療法です。
手湿疹(主婦湿疹):水仕事や洗剤によるバリア機能破壊
水仕事の多い主婦や、美容師、調理師、医療従事者によく見られる湿疹です。お湯や洗剤によって皮脂膜が洗い流され、バリア機能が極端に低下することで起こります。
- 乾燥型:指先や手のひらがカサカサし、ひび割れ(あかぎれ)ができるタイプ。冬場に悪化しやすいです。
- 湿潤型:小さな水ぶくれができたり、指の腹が赤く腫れてジクジクするタイプ。痒みが強いのが特徴です。
ハンドクリームだけでは追いつかないことが多く、炎症がある場合はステロイド外用薬で一度しっかり治してから、保湿ケアに移行する必要があります。
皮脂欠乏性湿疹(乾燥性湿疹):カサカサ肌が悪化した状態
もともとは乾燥肌(皮脂欠乏症)だったものが悪化し、湿疹となった状態です。中高年の方や、冬場の乾燥する時期に子供の頬や腕、太もも、すねなどによく見られます。
皮膚表面が白く粉を吹いたようになり、亀甲状(亀の甲羅のような形)にひび割れて赤くなります。入浴後や就寝時など、体が温まると強い痒みを感じるのが特徴です。「ただの乾燥」と侮っていると、掻き壊して貨幣状湿疹(コインのような丸い湿疹)へと悪化することがあります。
脂漏性皮膚炎:頭皮や顔のTゾーンに赤みとフケ
皮脂の分泌が多い場所にできる湿疹です。頭皮、眉毛、鼻の脇、耳の後ろなどが好発部位です。
原因は、誰の皮膚にも存在する常在菌の一種「マラセチア菌(カビの一種)」が、皮脂を分解する際に出す物質による刺激だと考えられています。赤みとともに、黄色っぽい脂ぎったフケや、カサカサした皮剥けが見られます。新生児にもよく見られます(乳児脂漏性湿疹)が、大人の場合はストレスやビタミン不足、ホルモンバランスの乱れも関与し、慢性化しやすい傾向があります。
アトピー性皮膚炎:左右対称・慢性的な痒みを伴う
もともとアレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)や、皮膚のバリア機能が弱い体質の人に発症します。
- 特徴:「痒みのある湿疹」が、「良くなったり悪くなったり」を繰り返します。
- 部位:顔、首、肘の内側、膝の裏など、関節部分に左右対称に現れることが多いです。
- 期間:乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上症状が続く場合に診断されます。
アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚病ではなく全身の免疫バランスの問題が関わっているため、皮膚科専門医による長期的なコントロールが必要です。
現役皮膚科専門医のアドバイス
「『足の指が痒いから湿疹だろう』と思ってステロイドを塗っていたら、実は『水虫(白癬)』だったというケースが非常に多く見受けられます。水虫はカビ(真菌)による感染症なので、免疫を抑えるステロイドを塗ると、カビが爆発的に増殖し、症状が劇的に悪化してしまいます。特に、足や股間、頭皮などの湿疹が市販薬で良くならない場合は、自己判断を中止し、必ず顕微鏡検査ができる皮膚科を受診してください。」
市販薬で様子見?それとも皮膚科?受診の目安と危険なサイン
「忙しくて病院に行けない」「この程度の痒みで受診していいのか迷う」という方は多いでしょう。しかし、湿疹の中には一刻も早い処置が必要なものや、内臓疾患が隠れているものもあります。
ここでは、セルフケアで対応可能なラインと、迷わず受診すべき危険なサインの境界線を明確にします。
今すぐ皮膚科を受診すべき「危険な湿疹」のサイン
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、市販薬での対応は不適切です。なるべく早く皮膚科を受診してください。
- 全身に症状が広がっている:アレルギー反応が全身に及んでいる可能性があります。
- 発熱、倦怠感、関節痛を伴う:ウイルス性疾患(麻疹、風疹、帯状疱疹など)や膠原病などの全身疾患の可能性があります。
- 痛みが強い、熱を持っている:細菌感染(蜂窩織炎など)を起こしている可能性があります。
- 水ぶくれや膿が多発している:とびひ(伝染性膿痂疹)やヘルペスの可能性があります。
- 唇、まぶた、口の中が腫れている:アナフィラキシーの前兆や血管性浮腫の可能性があります。
- 市販薬を5〜6日使っても改善しない、または悪化した:診断が間違っているか、薬の強さが足りていません。
市販薬でセルフケアが可能なケースと期間の目安
逆に、以下の条件がすべて揃っている場合は、まずは市販のステロイド外用薬などで様子を見ても良いでしょう。
- 患部が手のひら2〜3枚分以内の狭い範囲である。
- 原因がある程度思い当たる(新しい洗剤を使った、虫に刺された、乾燥している等)。
- 痛みや発熱はなく、痒みと赤みが主症状である。
- 患部が顔、陰部、粘膜ではない(これらの部位は吸収率が高く副作用が出やすいため、弱い薬を選ぶか受診が推奨されます)。
セルフケアの期間制限:
市販薬を使用する場合、「5〜6日」を目安にしてください。これで改善傾向が見られない場合は、薬が合っていない証拠です。漫然と使い続けることは避けてください。
赤ちゃん・子供の湿疹で受診するタイミング
乳幼児の皮膚は大人に比べて薄く、バリア機能が未熟です。そのため、症状が急変しやすいのが特徴です。
- 生後3ヶ月未満:脂漏性湿疹が多い時期ですが、アトピー性皮膚炎の初期である可能性もあります。範囲が広ければ早めに小児科か皮膚科へ。
- 痒みで眠れていない・機嫌が悪い:成長ホルモンの分泌や発育に影響するため、早急に痒みを止める治療が必要です。
- 食物アレルギーの疑い:食後に口の周りや体に蕁麻疹・湿疹が出た場合は、アナフィラキシーの危険があるため即受診が必要です。
▼ チェックリスト:受診判断フローチャート
以下の質問に「Yes」がある場合は、皮膚科受診をお勧めします。
- □ 患部が全身に広がっている
- □ 強い痛みや熱感がある
- □ 38度以上の発熱がある
- □ 目の周りや唇、陰部に症状がある
- □ 水ぶくれの中に膿が溜まっている
- □ 1週間以内に新しい薬を飲み始めた(薬疹の可能性)
- □ 市販薬を1週間塗っても治らない
- □ 痒みで夜眠れない
すべて「No」であれば、適切な市販薬を選んでセルフケアを開始しましょう。
早く治すための「薬の選び方」と「正しい塗り方」徹底解説
湿疹治療の基本は、炎症を抑える「ステロイド外用薬」と、肌を保護する「保湿剤」の2本柱です。
しかし、「ステロイドは怖い」というイメージから使うのをためらったり、逆に自己判断で強い薬を顔に塗り続けたりと、誤った使い方が後を絶ちません。ここでは、専門医が推奨する正しい薬の選び方と、効果を最大限に引き出す塗り方を解説します。
ステロイド外用薬のランク(強さ)と部位別の使い分け
ステロイド外用薬は、その抗炎症作用の強さによって5つのランクに分類されています。皮膚の厚さは部位によって異なり、薬剤の吸収率も大きく違うため、部位に合わせたランクを選ぶことが鉄則です。
| ランク(強さ) | 主な対象部位 | 市販薬での取り扱い |
|---|---|---|
| 1. Strongest(最も強い) | 重症例、苔癬化した皮膚 | なし(処方箋のみ) |
| 2. Very Strong(非常に強い) | 体幹、手足の重い湿疹 | なし(処方箋のみ) |
| 3. Strong(強い) | 体、手足 | あり(ベタメタゾン吉草酸エステルなど) ※セルフケアの主力 |
| 4. Medium(中程度) | 顔、首、デリケートゾーン、子供の体 | あり(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルなど) |
| 5. Weak(弱い) | 顔、子供、軽度の湿疹 | あり(非ステロイド剤など) |
選び方のポイント:
- 体や手足:皮膚が厚いため、「Strong(強い)」ランクを選びます。弱い薬では炎症が抑えきれず、長引いてしまいます。
- 顔・首・陰部:皮膚が薄く吸収率が高いため、「Medium(中程度)」または「Weak(弱い)」を選びます。顔にStrongランクを長期使用するのは避けてください。
- 子供:大人の1ランク下の強さを選ぶのが基本です。体ならMedium、顔ならWeakを目安にします。
「副作用が怖い」は誤解?ステロイドの安全性と注意点
「ステロイドを塗ると皮膚が黒くなる」「一度使うと辞められなくなる」といった噂を耳にすることがありますが、これらは医学的に誤解です。
- 皮膚が黒くなる?:ステロイドのせいではなく、炎症が長く続いた結果として起こる「炎症後色素沈着」です。むしろ、ステロイドで早期に炎症を鎮火させた方が、色素沈着は残りにくくなります。
- 皮膚が薄くなる?:確かに、長期間(数ヶ月〜年単位)漫然と塗り続けると皮膚萎縮などの副作用が出ることがあります。しかし、医師の指示通りや、市販薬の用法(1週間程度)を守って短期間使用する分には、副作用のリスクは極めて低いです。
最も危険なのは、「副作用を怖がって、ちびちびと少量だけ塗る」「治りきっていないのに自己判断でやめる」ことです。これにより炎症がくすぶり続け、結果として治療期間が長引いてしまいます。
専門医が指導する「FTU(フィンガーチップユニット)」での塗り方
良い薬を選んでも、塗る量が少なければ効果は発揮されません。皮膚科で推奨される世界共通の塗布量の単位が「1FTU(フィンガーチップユニット)」です。
1FTUの定義:
大人の人差し指の先端から第一関節まで、チューブから絞り出した量(約0.5g)。
塗れる面積:
この1FTUで、「大人の手のひら2枚分」の面積を塗ることができます。
多くの患者さんは、この半分以下の量しか塗っていないと言われています。塗った後の肌表面にティッシュペーパーを乗せても落ちないくらい、あるいは肌がテカテカ光るくらいが適量です。「薄く伸ばす」のではなく、「乗せる」イメージで優しく広げてください。
保湿剤(ワセリン・ヘパリン類似物質)との併用順序
乾燥性湿疹やアトピー性皮膚炎では、保湿剤とステロイドの併用が必須です。この場合、塗る順番はどうすればよいのでしょうか。
- 基本:保湿剤が先、ステロイドが後
まず広い範囲に保湿剤(ヘパリン類似物質やワセリン)をたっぷりと塗り、肌のベースを整えます。その上で、赤みや痒みがある湿疹部分にだけ、ステロイドを重ねて塗ります。こうすることで、ステロイドを正常な皮膚に広げすぎるのを防ぐことができます。
現役皮膚科専門医のアドバイス
「薬を塗る際、『すり込む』のは絶対にNGです。早く浸透させようとしてゴシゴシ擦り込む方がいらっしゃいますが、その摩擦自体が刺激となり、痒みを増幅させてしまいます。薬は皮膚に乗せて、優しく広げるだけで十分浸透します。赤ちゃんの肌に塗るようなタッチを意識してください。」
湿疹を繰り返さないための生活習慣とホームケア
薬で一時的に症状が治まっても、生活習慣の中に「悪化因子」が潜んでいれば、湿疹は何度でも再発します。治療後の再発を防ぎ、バリア機能を高めるためのホームケアを見直しましょう。
正しい入浴方法と洗浄剤の選び方
入浴は肌を清潔にするために重要ですが、間違った方法は肌の乾燥を招く最大の要因です。
- お湯の温度:40℃以下のぬるま湯が理想です。42℃以上の熱いお湯は、必要な皮脂まで溶かし出し、痒み神経を刺激します。
- 洗い方:ナイロンタオルでゴシゴシ擦るのは厳禁です。石鹸をよく泡立て、手のひらで泡を転がすように優しく洗ってください。
- 洗浄剤:「殺菌」や「強力洗浄」を謳うものではなく、アミノ酸系や敏感肌用などのマイルドな洗浄剤を選びましょう。
痒みが我慢できない時の応急処置
どうしても痒くてたまらない時、掻いてしまうと症状が悪化します。そんな時は以下の方法で痒みを紛らわせてください。
- 冷やす(クーリング):保冷剤をタオルで巻き、患部に当てます。皮膚の温度を下げることで、痒みを伝える神経の興奮を鎮めることができます。
- 保湿する:乾燥によって痒みが出ている場合、保湿クリームを塗るだけで治まることがあります。
- 抗ヒスタミン薬を飲む:塗り薬だけでなく、市販の「痒み止め飲み薬(抗ヒスタミン薬)」を併用すると、体内から痒みを抑えることができます。
衣類・洗剤・室温管理で肌への刺激を減らす工夫
- 衣類:直接肌に触れる下着やパジャマは、綿(コットン)やシルクなどの天然素材を選びましょう。ウールや化繊(ヒートテックなど)は痒みを誘発することがあります。
- 洗濯洗剤:すすぎ残しは刺激になります。洗剤の量を守り、すすぎ回数を増やすか、残留しにくい液体洗剤を使用してください。柔軟剤も刺激になる場合があるため、使用を控えるか低刺激なものを選びましょう。
- 室温・湿度:部屋が暑すぎたり乾燥しすぎたりすると痒みが増します。湿度は50〜60%を保ち、冬場は加湿器を活用しましょう。
ストレス・睡眠不足と肌トラブルの関係
皮膚は「内臓の鏡」とも言われますが、ストレスの影響もダイレクトに受けます。ストレスや睡眠不足が続くと、自律神経が乱れて血管の収縮・拡張のコントロールが効かなくなったり、免疫機能が低下したりします。
特にアトピー性皮膚炎や慢性湿疹の方は、ストレスが痒みの引き金になることが多いため、十分な睡眠とリラックスする時間を確保することが、遠回りのようで確実な治療につながります。
現役皮膚科専門医のアドバイス
「バリア機能が低下している肌にとって、最大の敵は『洗いすぎ』です。清潔にしようとするあまり、朝晩2回石鹸で洗ったり、長風呂をしたりしていませんか?肌の調子が悪い時ほど、お風呂は短めに、石鹸は脇や足など汚れが気になるところだけ使い、乾燥している部分はぬるま湯で流す程度にする『引き算のケア』を試してみてください。」
湿疹に関するよくある質問(FAQ)
最後に、診察室で患者さんからよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 湿疹は他人にうつりますか?
A. うつりません。
湿疹やアトピー性皮膚炎は、アレルギーや体質、環境要因によるものであり、ウイルスや細菌による感染症ではないため、家族や他人にうつることはありません。ただし、「とびひ(伝染性膿痂疹)」や「水虫(白癬)」、「疥癬(かいせん)」などの感染症は湿疹と見た目が似ており、これらはうつります。見分けがつかない場合は皮膚科で検査を受けてください。
Q. 跡(色素沈着)を残さずに治すにはどうすればいいですか?
A. 早期治療で炎症を早く鎮め、絶対に掻かないことです。
茶色い跡(炎症後色素沈着)は、炎症によってメラノサイトが刺激され、メラニン色素が過剰に作られることで残ります。炎症が長引けば長引くほど、また強く掻けば掻くほど、跡は濃く残りやすくなります。「薬を使わずに自然治癒」を待つよりも、ステロイド等を使って短期間でスパッと治す方が、結果的にきれいな肌に戻ります。
Q. ステロイドを塗ると皮膚が黒くなるって本当ですか?
A. いいえ、誤解です。
前述の通り、皮膚が黒くなるのはステロイドの副作用ではなく、治らなかった炎症の結果(色素沈着)です。むしろ、ステロイドを避けて炎症を長引かせる方が、黒ずみが残るリスクが高まります。
Q. 妊娠中や授乳中に市販の湿疹薬を使っても大丈夫ですか?
A. 外用薬(塗り薬)であれば、基本的に問題ありません。
ステロイド外用薬は、皮膚からは吸収されますが、血液中に移行する量はごく微量です。通常の範囲で使用する分には、胎児や母乳への影響は無視できるレベルと考えられています。ただし、広範囲に大量に使用する場合や、飲み薬を検討する場合は、必ず主治医や薬剤師に相談してください。
まとめ:湿疹は早期の正しい治療で完治を目指せます
湿疹は、誰にでも起こりうる身近な皮膚トラブルですが、その辛さは本人にしか分からないものです。「たかが湿疹」と放置せず、適切なケアを行うことで、痒みのない平穏な日常を取り戻すことができます。
最後に、今回の記事の要点を振り返りましょう。
湿疹ケアの要点チェックリスト
- 識別:湿疹は「ザラザラ・長引く」、蕁麻疹は「盛り上がる・すぐ消える」。
- 受診判断:全身に広がる、発熱がある、5〜6日市販薬を使っても治らない場合は皮膚科へ。
- 薬選び:体には「Strong(強い)」、顔には「Medium(中)〜Weak(弱い)」を選ぶ。
- 塗り方:擦り込まず、1FTU(指先から第一関節まで=手のひら2枚分)をたっぷりと乗せる。
- 予防:熱いお風呂は避け、保湿を徹底し、バリア機能を維持する。
現役皮膚科専門医のアドバイス
「治療で最も大切なのは、『見た目が良くなっても、すぐに薬を止めない』ことです。赤みが引いても、皮膚の奥にはまだ炎症の火種が残っています。急に薬をやめるとリバウンドしてしまうため、塗る回数を1日2回から1回へ、2日に1回へと徐々に減らしていく『プロアクティブ療法』のような考え方が再発防止の鍵となります。自己判断でゴールを決めず、しっかり治しきりましょう。」
あなたの肌の悩みが一日も早く解消されることを願っています。もし症状に不安がある場合は、迷わずお近くの皮膚科専門医を頼ってください。
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