「キャストリス」という言葉を検索されたあなたは、おそらくこれからナイトビジネスへの参入を検討されている経営者様、あるいは新しい形態のお店で働こうと考えている方ではないでしょうか。結論から申し上げますと、「キャストリス」という法律用語や専門用語は存在しません。これは、客の隣に座って接待を行わない営業形態である「キャストレス(Castless)」の誤入力、あるいは誤った呼称が広まったものです。
しかし、単なる言葉の間違いと笑って済ませることはできません。「キャストレスなら、カウンター越しだから何をしても大丈夫」「風営法の許可を取らなくても深夜まで営業できる」といった安易な認識で開業し、結果として無許可風俗営業として警察に摘発されるケースが後を絶たないからです。警察は店舗の名称ではなく、「実態として何が行われているか」を見て判断します。
この記事では、風俗営業適正化法(風営法)の実務に精通した専門家の視点から、以下の3点を徹底的に解説します。
- キャストレス営業(深夜酒類提供飲食店)とキャバクラ(風俗営業)の法的な決定的な違い
- カラオケ・ダーツ・連絡先交換はOK?警察判断に基づく「接待行為」の境界線
- 摘発リスクをゼロにするための店舗設備基準と正しい開業手続き
これから解説する内容は、インターネット上の噂レベルの話ではなく、実際の法の運用基準と取り締まり現場の現実に即したものです。ぜひ最後まで読み込み、安全で健全な店舗経営の指針としてください。
「キャストリス」は間違い?キャストレス(接待なし)営業の基礎知識
このセクションでは、まず言葉の定義を明確にし、なぜ今この「キャストレス」という業態が注目されているのか、その背景と経営的なメリットについて解説します。誤解に基づいたまま事業計画を進めることは、将来的な法的リスクを抱え込むことになります。
正しくは「キャストレス(Castless)」:言葉の意味と由来
冒頭でも触れましたが、検索キーワードとして見られる「キャストリス」は、正しくは「キャストレス(Castless)」です。「Cast(配役・接客係)」が「Less(ない・少ない)」という造語であり、一般的には「お客様の横に座って接客(接待)をする専任のキャストが存在しない」、あるいは「接待行為そのものを行わない」営業スタイルを指します。
もともとは、キャバクラなどの「接待を伴う飲食店」との差別化を図るために生まれた業界用語です。キャバクラでは、女性キャストが客席に同席し、お酒を作り、タバコに火をつけ、会話を楽しむことがサービスの主体となります。これに対し、キャストレスな店舗では、スタッフはカウンターの中に留まり、お客様とは物理的な距離を保ちながら接客を行います。
「キャストリス」と誤解される原因の一つに、パズルゲームの名称との混同や、単なる聞き間違いがあるようですが、ナイトワーク業界においてこの言葉を使う際は「接待なし営業」を指していると理解してください。この定義の正確な理解が、後述する風営法上の区分を理解する第一歩となります。
なぜ「キャストレス」が注目されるのか?経営者視点のメリット
現在、繁華街においてキャストレス業態(主にガールズバーやコンセプトカフェ)が急増しているのには、経営者にとって明確なメリットがあるからです。大きく分けて「人件費の抑制」と「営業時間の優位性」の2点が挙げられます。
まず人件費についてです。キャバクラの場合、キャストの指名料や売上バックなどの給与システムが複雑で高額になりがちです。また、高度な接客スキルが求められるため、採用コストも嵩みます。一方、キャストレス業態であれば、あくまで「飲食店のホールスタッフ」としての業務が中心となるため、時給設定を比較的抑えることが可能です。未経験者でも採用しやすく、人材確保のハードルが低い点は大きな魅力でしょう。
次に、営業時間のメリットです。これが最大の要因と言えます。通常のキャバクラ(風俗営業1号許可店舗)は、風営法の規定により、原則として深夜0時(地域によっては1時)までしか営業できません。しかし、接待を行わないキャストレス業態であれば、要件を満たして「深夜酒類提供飲食店営業」の届出を行うことで、朝までの深夜営業が可能になります。二次会、三次会需要を取り込めるこの時間帯の営業権は、収益性に直結します。
一般的な業態例:ガールズバー、コンセプトカフェ、ボーイズバー
キャストレス営業の代表的な例として挙げられるのが「ガールズバー」です。女性バーテンダーがカウンター越しに接客を行い、客の隣には座りません。同様に、メイドカフェや特定の衣装・世界観を売りにした「コンセプトカフェ(コンカフェ)」も、基本的にはこのカテゴリーに含まれます。男性が接客する「ボーイズバー」も同様です。
しかし、これらの店舗名称はあくまで自称に過ぎません。「ガールズバー」と名乗っていても、実態として客の横に座って接客していれば、それは法的には「キャバクラ(風俗営業)」とみなされます。重要なのは看板の名前ではなく、「どのようなサービスを提供しているか」という実態です。以下の表で、法的な区分と一般的な営業スタイルの違いを整理しましょう。
▼詳細比較:キャバクラとキャストレス店舗(ガールズバー)の違い
| 項目 | キャバクラ(風俗営業1号) | キャストレス店舗(深夜酒類提供飲食店) |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 風営法 第2条第1項第1号 | 風営法 第33条(深夜酒類提供飲食店営業) |
| 必要な手続き | 風俗営業許可申請(許可制) | 深夜酒類提供飲食店営業開始届(届出制) |
| 接客スタイル | 客の隣に座り、接待を行う | カウンター越し、接待を行わない |
| 営業時間 | 原則深夜0時まで(一部地域を除く) | 24時間営業可能(朝までOK) |
| 客単価目安 | 10,000円〜数万円(セット料金+指名料) | 3,000円〜10,000円(飲み放題システム等) |
| 年齢制限 | 客・従業員ともに18歳未満禁止 | 客は制限なし(飲酒は20歳〜)、従業員は22時以降18歳未満禁止 |
【重要】風営法における「接待」の定義と2つの営業許可区分
ここからは、この記事の核となる法的な解説に入ります。経営者が最も恐れるべきは「知らなかった」では済まされない法律の壁です。特に風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下、風営法)における「接待」の定義は非常に広範囲であり、一般的な感覚とは異なる部分があります。
現役風営法専門行政書士のアドバイス
「警察の立ち入り調査において、捜査員は店舗の『マニュアル』や『建前』を見ているのではありません。彼らが見ているのは、その瞬間の『実態』です。たとえ『当店は接待をしません』と張り紙をしていても、従業員が特定の客と親密に話し込み、その場の雰囲気を盛り上げている事実があれば、それは接待と認定される可能性が極めて高いのです。法律の条文を都合よく解釈せず、厳しめに見積もることが身を守る唯一の手段です。」
「風俗営業許可(1号営業)」と「深夜酒類提供飲食店営業届出」の違い
ナイトビジネスを開業する際、必ず直面するのがこの2つの区分の選択です。どちらを選ぶかによって、営業できる時間帯と、許されるサービス内容が完全に異なります。
風俗営業許可(1号営業)
いわゆるキャバクラ、ホストクラブ、スナックなどが該当します。「設備を設けて客に飲食をさせる営業」のうち、「客の接待をして客に遊興または飲食をさせる営業」を指します。この許可を取得すれば、堂々と接待行為ができますが、その代わり深夜0時以降の営業は禁止されます。
深夜酒類提供飲食店営業届出
いわゆるバー、居酒屋、そして適法なガールズバーが該当します。深夜(午前0時から日の出まで)において、酒類をメインに提供する飲食店です。この届出を行えば朝まで営業できますが、「接待行為」は一切禁止されます。ここが最大のポイントです。「少しぐらいならいいだろう」という甘えは通用しません。
法律が定める「接待」とは?(風営法第2条第3項の解釈)
では、禁止されている「接待」とは具体的に何を指すのでしょうか。風営法第2条第3項には、次のように定義されています。
「接待とは、歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすことをいう。」
非常に抽象的な表現ですが、警察庁はこれについて詳細な「解釈運用基準」を定めています。これによると、単に注文を聞いて料理を運ぶ、あるいは挨拶をするといった行為は接待には当たりません。しかし、「特定少数の客」に対して「継続して」相手をすること、客の気分を良くするために会話や遊興を共にすることは接待に該当します。
「歓楽的雰囲気を醸し出す方法」によるおもてなしの禁止
「歓楽的雰囲気を醸し出す」という言葉の解釈が、しばしば摘発の争点となります。これは、単なる食事の提供を超えて、異性によるサービスやショー、ゲームなどを通じて、客に非日常的な楽しみや慰安を与える行為全般を指します。
例えば、カウンター越しのガールズバーであっても、スタッフが特定の客の専属のようになり、長時間にわたって恋愛話や世間話で盛り上がり、客を楽しませている状況は、「歓楽的雰囲気を醸し出している」と判断されます。つまり、物理的に隣に座っているかどうか(位置関係)だけでなく、精神的な距離感やサービスの質も判断材料になるのです。
深夜0時以降の営業可否が分かれるポイント
多くの経営者が目指す「キャストレス(深夜営業のガールズバー)」が成立するための条件は、以下の論理式で表せます。
「深夜酒類提供飲食店営業の届出済み」 + 「接待行為を一切行わない」 = 深夜営業可能
もし、深夜営業をしている店舗で、警察官が「接待行為あり」と認定した場合、その店舗は「無許可風俗営業(風営法違反)」として摘発されます。許可を取らずにキャバクラ営業をしていたのと同じ扱いになり、非常に重い罰則が科せられます。深夜0時以降に営業を続けたいのであれば、「接待」の要素を徹底的に排除しなければなりません。
どこまでが違法?事例で見る「接待行為」のグレーゾーン判定基準
ペルソナである皆様が最も知りたいのは、「具体的に何がOKで、何がNGなのか」という線引きでしょう。ここでは、警察庁の解釈運用基準に基づき、現場でよくある行為のグレーゾーンを白黒はっきりさせていきます。
現役風営法専門行政書士のアドバイス
「摘発現場で警察官がチェックするキーワードは『特定性』と『継続性』の2つです。誰か特定のお客さん一人だけを相手にしているか?その行為が一瞬ではなく続いているか?この2点が揃えば、カウンター越しであろうと接待とみなされます。」
談笑の基準:特定少数の客と継続して会話するのはNG?
飲食店において、店員と客が会話すること自体は自然な行為です。しかし、キャストレス店舗においては注意が必要です。
NGな例:
特定のスタッフが特定の客の前に立ち止まり、他のお客様へのサービスを中断して、5分も10分も話し込んでいる状態。内容が世間話や趣味の話など、遊興に関わるものであれば、それは「談笑」による接待となります。
OKな範囲:
注文を取る際の会話、料理の説明、あるいは挨拶程度の短時間の会話。また、カウンター内で常に動き回りながら、不特定多数の客全体に対して話題を振るようなスタイルであれば、接待とはみなされにくい傾向にあります。
カラオケ・ダーツ:一緒に歌う(デュエット)、一緒に遊ぶ行為のリスク
店内にカラオケやダーツマシンを設置すること自体は問題ありません。問題は「誰が」「どのように」使うかです。
- 一緒に歌う(デュエット):【完全NG】
客と一緒に歌う行為は、明確に「遊興の相手」をしているとみなされ、接待に該当します。 - 手拍子や合いの手:【NGの可能性大】
客の歌唱に合わせてタンバリンを叩いたり、過度に盛り上げたりする行為も、歓楽的雰囲気を醸し出す行為と判断されます。 - 一緒にダーツを投げる:【完全NG】
「負けた方がテキーラ」などのゲーム性を持たせて一緒に遊ぶことは、典型的な接待行為です。
キャストレス店舗においては、カラオケやダーツは「お客様同士で楽しんでいただく設備」であり、スタッフは参加しないというのが鉄則です。
お酌とタバコの着火:カウンター越しなら許されるのか
ここが最も誤解されやすいポイントです。「カウンター越しならお酌をしてもいい」と思っている方が多いですが、厳密な法解釈では注意が必要です。
警察庁の基準では、「客の傍らに立ち、酒類等を注いだりする行為」は接待に当たるとされています。カウンター越しであっても、特定の客に対してつきっきりでお酒を作り続けたり、タバコを取り出すたびにライターで火をつけたりする行為は、接待とみなされるリスクがあります。キャストレス店舗では、ボトルとグラスを提供し、手酌で飲んでもらうスタイル、あるいはスタッフがドリンクを作って渡すだけで、注ぎ足し行為は行わないスタイルが安全です。
連絡先交換と同伴・アフター:店外デートは営業とみなされるか
LINEやSNSの交換、そして店外での食事(同伴・アフター)は、キャバクラ等の重要な営業手法です。しかし、キャストレス店舗でこれを組織的に行うことは極めて危険です。
もし店側がスタッフに対して「同伴ノルマ」や「連絡先回収率」などの指標を設け、業務の一環として店外デートを推奨している場合、それは店外であっても「営業活動の一部」とみなされ、全体として風俗営業の実態があると判断される可能性があります。スタッフ個人の自由意志によるプライベートな付き合いであれば直ちに違法とはなりませんが、経営者としては「店としての関与」を疑われないよう、業務命令としての同伴は禁止すべきです。
ゲーム・手品・ショー:客参加型イベントの注意点
トランプゲーム、サイコロ、またはスタッフによるダンスショーなどはどうでしょうか。
スタッフが客と一緒にゲームに興じることは、前述のダーツ同様に接待となります。また、ショーを見せる場合でも、特定の客に向けてアピールしたり、客をステージに上げて参加させたりすると、接待性が認められます。あくまで「鑑賞させる」に留め、双方向のコミュニケーション(客との絡み)が発生しないようにする必要があります。
▼行為別「接待」判定〇×リスト(カウンター越しの場合の警察庁解釈基準)
| 行為 | 判定 | 解説 |
|---|---|---|
| 注文聞き・配膳 | 〇 | 通常の飲食店の業務範囲内。 |
| 特定の客との長時間の談笑 | × | 継続性・特定性があるため接待となる。 |
| カラオケのデュエット | × | 「共に遊興する」行為は明確な接待。 |
| 客の歌への拍手(儀礼的) | △〜〇 | 終了後の拍手程度ならセーフだが、過度な盛り上げはNG。 |
| ダーツ対戦 | × | 共に遊ぶ行為は接待。 |
| タバコの着火 | × | 特定の客への奉仕行為とみなされる。 |
| お見送り | 〇 | 儀礼的な範囲であれば問題なし。 |
| ゲーム・手品等の披露 | △ | 不特定多数に見せるならOKだが、特定客の席で行うのはNG。 |
摘発を避けるための「構造・設備」要件と内装工事の罠
「接待をしない」というソフト面の対策と同じくらい重要なのが、店舗の「構造・設備」というハード面の基準です。実は、内装工事の時点で「キャストレス店舗(深夜酒類提供飲食店)」として認められない構造を作ってしまう失敗例が多発しています。
カウンターの高さ「1メートル以上」の壁と、その理由
キャストレス店舗、特にガールズバーにおいて最も重要な設備要件が「高さ1メートル以上のカウンター等の仕切り」です。
なぜ1メートルなのか。これは、客と従業員の作業スペースを明確に区分するためです。1メートル未満の低いカウンターや、仕切りのないテーブル席では、客と従業員の距離が近づきやすく、容易に身体接触や隣席での接客が可能になってしまいます。警察は、この仕切りがない、あるいは低い場合、「構造的に接待を行うことを前提としている」と判断する傾向があります。
カウンターの中にいるスタッフと、客席との間に、物理的に乗り越えにくい1メートル以上の壁があること。これが「私たちは隣に座りません」という意思表示になります。
店内の見通しを遮る「個室」「高い背もたれ」の禁止
深夜酒類提供飲食店では、「客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと」が求められます。具体的には、床から高さ1メートル以上の部分に、視線を遮るような仕切り、衝立、カーテン、背の高い椅子の背もたれなどを設置してはいけません。
個室や死角が多い店舗は、密室でのわいせつ行為や違法な接待の温床になりやすいため、風営法で厳しく規制されています。VIPルームのような完全個室を設けたい場合、その部屋の面積が一定以上(9.5平方メートル等、地域による)なければならず、かつ内部が見通せる構造でなければ許可が下りないケースがほとんどです。
照明の明るさ(照度)基準:薄暗い店内は風俗営業とみなされる?
店内の明るさ(照度)にも基準があります。深夜酒類提供飲食店の場合、客席の照度は20ルクス以上でなければなりません。20ルクスとは、新聞や化粧品のラベルの文字がなんとか読める程度の明るさです。
これより暗い、いわゆる「ムードのある薄暗いバー」は、風俗営業の「低照度飲食店」という区分に該当してしまい、原則として風俗営業許可が必要になります(その場合、深夜営業ができなくなります)。ダウンライトを絞りすぎて、真っ暗に近い状態で営業していると、照度違反で指導を受ける対象となります。
客室の床面積要件とスライダックス(調光器)の設置禁止
さらに細かい点ですが、客室の床面積が9.5平方メートル未満の小部屋がある場合、風俗営業とみなされる可能性があります。また、照明の明るさを自由に調整できる「スライダックス(調光器・つまみ)」の設置は、警察検査の際に非常に嫌われます。「普段は暗くして営業し、警察が来た時だけ明るくするつもりだろう」と疑われるからです。スイッチはON/OFFのみの単純なものが推奨されます。
現役店舗開業コンサルタントのアドバイス
「内装工事が終わってから警察署に相談に行き、『このカウンターの高さでは届出を受理できません』と言われ、泣く泣くカウンターを作り直したオーナー様を何人も見てきました。数百万円の工事費が無駄になります。必ず、物件契約前、あるいは工事着工前に、専門家に図面を見せてチェックを受けることを強くお勧めします。」
「キャストレス」を装った違法営業(無許可営業)の罰則とリスク
ここでは、ルールを破った場合にどのようなペナルティが待っているのか、現実を直視していただきます。コンプライアンス意識の欠如は、経営者自身の人生を狂わせます。
摘発されたらどうなる?逮捕、罰金、営業停止処分の実態
無許可で風俗営業(接待行為)を行った場合、風営法違反として以下の罰則が科される可能性があります。
- 2年以下の懲役 または 200万円以下の罰金(もしくはその併科)
これは経営者だけでなく、実際に接待を行っていた従業員(店長やキャスト)も逮捕・送検の対象となり得ます。さらに、店舗に対しては最大6ヶ月の営業停止処分が下されます。家賃を払いながら半年間売上がゼロになるわけですから、事実上の廃業宣告に近いダメージとなります。
「名義貸し」は絶対NG!オーナーと店長が共に逮捕されるケース
過去に逮捕歴がある、あるいは反社会的勢力との関わりがあるなどの理由で、自分では許可や届出が出せない経営者が、知人の名前を借りて営業する「名義貸し」。これは風営法の中でも特に悪質とみなされ、名義を貸した人も借りた人も逮捕されます。アルバイトの店長に「書類上だけオーナーになってくれ」と頼むケースがありますが、その店長も前科持ちになってしまうのです。
警察の立ち入り調査(臨店)でチェックされる具体的な項目
警察の生活安全課の担当官は、予告なしに店舗にやってきます(立ち入り調査)。彼らは客を装って入店する場合もあれば、制服で堂々と入ってくる場合もあります。チェックされるのは主に以下の点です。
- 従業者名簿は正しく備え付けられているか
- カウンター越しであっても、特定の客と長時間話し込んでいないか
- 客と一緒にダーツやカラオケをしていないか
- 照明は暗すぎないか、仕切りは高すぎないか
- メニューの料金表示は明確か
▼筆者が目撃した「キャストレス」店舗の摘発事例
ある地方都市のガールズバーでの事例です。その店は「キャストレス」を謳い、深夜酒類提供飲食店の届出を出して営業していました。しかし、売上を伸ばすために、常連客に対してカウンター越しに「あっち向いてホイ」や「カードゲーム」を行い、負けた方がドリンクを飲むというサービスを恒常化させていました。
ある夜、覆面捜査員が客として潜入。女性スタッフが捜査員に対して「一緒にゲームしましょうよ」と持ちかけ、1時間近くゲームと談笑を続けました。後日、警察が踏み込み、経営者は「無許可風俗営業」の容疑で逮捕。略式起訴され多額の罰金を納めることになり、店は営業停止処分を受け、そのまま閉店に追い込まれました。「カウンター越しだから大丈夫」という過信が招いた典型的な事例です。
安全にキャストレス店舗を開業するための正しい手順
リスクを理解した上で、それでも健全にキャストレス店舗を開業したいという方に向けて、正しい手続きのステップを解説します。順序を間違えると、開業自体ができなくなることもあります。
現役風営法専門行政書士のアドバイス
「最も多い失敗は、物件を契約してから『ここは用途地域的に営業できない場所だった』と気づくケースです。住居専用地域などでは、そもそも深夜営業や風俗営業が禁止されています。物件契約の判を押す前に、必ず専門家に用途地域の調査を依頼してください。」
ステップ1:物件選定(用途地域と保護対象施設の確認)
まず、その場所で「深夜酒類提供飲食店営業」ができるかを確認します。都市計画法上の「用途地域」を確認し、住居地域でないこと(商業地域や近隣商業地域が望ましい)を確認します。また、風俗営業許可を取る可能性がある場合は、学校や病院などの「保護対象施設」から一定の距離が離れている必要があります。
ステップ2:内装工事と測量(図面の作成)
前述した「1メートル以上のカウンター」「見通しの確保」「照度」などの要件を満たす内装設計を行います。工事完了後、正確な図面(求積図、設備図、照明配置図など)を作成する必要があります。この図面はミリ単位の正確さが求められるため、専門の測量士や行政書士に依頼するのが一般的です。
ステップ3:警察署への「深夜酒類提供飲食店営業開始届」の提出
店舗の所在地を管轄する警察署の生活安全課に届出を行います。法的には「営業開始の10日前まで」に提出する必要があります。提出書類には、営業の方法を記載した書類、図面、住民票、賃貸契約書の写し、飲食店営業許可証の写しなどが含まれます。
ステップ4:従業者名簿の備え付けとスタッフ教育
開業までに、スタッフ全員分の「従業者名簿」を作成し、店内に備え置く義務があります。本籍地記載の住民票などで本人確認を行い、年齢確認を徹底します(18歳未満を22時以降働かせることは労働基準法および風営法違反です)。そして何より重要なのが、スタッフへのコンプライアンス教育です。「お客様の隣には座らない」「一緒にゲームはしない」といったルールを徹底させましょう。
▼開業までのタイムラインと必要書類リスト(概要)
- D-60日:物件探索・用途地域調査
- D-45日:物件契約・内装工事発注
- D-30日:保健所へ飲食店営業許可申請
- D-20日:内装工事完了・測量・図面作成
- D-15日:飲食店営業許可取得
- D-10日:警察署へ深夜酒類提供飲食店営業開始届を提出
- D-day:オープン
主な必要書類:
- 営業開始届出書
- 営業の方法を記載した書類
- 平面図・求積図・照明音響設備図
- 住民票(本籍地記載)
- 保健所の飲食店営業許可証の写し
- 定款・登記簿謄本(法人の場合)
よくある質問(FAQ)に専門家が回答
最後に、開業予定者や求職者から寄せられることの多い疑問について、専門家の視点から回答します。
Q. キャバクラのキャストが「キャストレス」のお店で働く際の注意点は?
A. 接客スタイルの「癖」を抜く必要があります。
キャバクラ経験者は、良かれと思ってお客様のタバコに火をつけたり、お酒を作ってあげたり、親密な会話で盛り上げようとしたりしがちです。しかし、キャストレス店舗ではそれらが「過剰なサービス(接待)」となり、店に迷惑をかける可能性があります。「お客様とは一定の距離を保つ」「聞き役に徹しすぎず、サッパリと接客する」という意識の切り替えが重要です。
Q. お客さんの隣に座らなければ、カウンターから出て接客してもいい?
現役風営法専門行政書士のアドバイス
「非常に危険です。立ち位置よりも『行為の継続性』が問われます。カウンターから出てホール側でお客様と立ち話をしたり、ボックス席の近くに立って接客したりすると、物理的な遮蔽物(カウンター)がないため、警察からは『すぐに隣に座れる状態』『実質的に接待を行っている』とみなされやすくなります。原則としてカウンター内から出ない運用を強く推奨します。」
Q. ビラ配りや客引き(キャッチ)はしても大丈夫?
A. 多くの地域で条例により禁止されています。
風営法および各都道府県の迷惑防止条例により、路上での執拗な客引き行為、スカウト行為、ビラ配りなどは厳しく規制されています。特に「キャッチ」を使って客を集める行為は、摘発の対象になりやすく、店自体の評判も落とします。SNSやWeb広告など、適法な集客手段に注力すべきです。
Q. 「15分交代」などのローテーション制なら接待にならない?
A. リスクは軽減されますが、絶対ではありません。
スタッフを15分ごとに交代させ、特定の客に張り付かせない「ローテーション制」は、特定性を排除するという意味で有効な対策の一つです。しかし、交代しても全員が同じように濃厚な接客(ダーツやカラオケなど)をしていれば、店全体として「接待営業」を行っているとみなされます。時間の管理だけでなく、サービス内容自体の健全性が前提です。
まとめ:正しい知識で「キャストレス」な健全経営を
「キャストリス」という誤解から始まったこの解説ですが、ここまで読み進めていただいた方は、キャストレス(接待なし)営業の難しさと、コンプライアンスの重要性を深く理解されたことと思います。
キャストレス営業は、人件費を抑え、深夜営業が可能になるという大きなメリットがありますが、それは「接待という武器を捨てる」こととのトレードオフです。「接待はしたい、でも深夜営業もしたい」といういいとこ取りは、法律が許しません。
最後に、安全な経営のためのセルフチェックリストを掲載します。これらに一つでも不安がある場合は、直ちに改善するか、専門家に相談してください。
- スタッフはカウンターの中から絶対に出ないルールになっているか
- カウンターの高さは1メートル以上あり、内部が見通せる構造か
- 特定の客と長時間の話し込みや、ダーツ・カラオケの共遊をしていないか
- 店内の照明は新聞が読める程度の明るさ(20ルクス以上)を保っているか
- 従業員名簿は最新の状態で備え付けられているか
- 「うちはガールズバーだから大丈夫」と根拠なく過信していないか
現役ナイトビジネス開業コンサルタントのアドバイス
「法律のグレーゾーンを攻める経営は、いつ警察が来るかという恐怖と隣り合わせです。そんなストレスを抱えるよりも、ホワイトな経営を徹底し、お客様に『健全で楽しい場所』として認知してもらうことこそが、長く安定して利益を上げ続ける秘訣です。正しい知識で、胸を張れるお店作りをしてください。」
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