「その仕事は素人仕事だ」
「いやいや、私はその分野に関しては素人ですので」
ビジネスシーンや日常生活において、私たちは頻繁に「素人(しろうと)」という言葉を耳にします。あるいは、自分自身をへりくだって表現するために使うこともあるでしょう。しかし、あなたはこの言葉の正確な定義や、対義語である「玄人(くろうと)」との決定的な境界線を、明確な言葉で説明できるでしょうか。
一般的に「素人」とは、その道に関する経験や専門知識を持たない人を指します。しかし、現代社会においてプロフェッショナル(玄人)と素人を分かつものは、単なるスキルや知識の有無だけではありません。そこには、「責任の所在」と「顧客視点の有無」という、より本質的な違いが存在するのです。
この記事では、現役の日本語講師でありビジネスコミュニケーションの専門家である筆者が、言葉の語源から紐解き、現代ビジネスにおける「プロ意識」の正体までを徹底的に解説します。単なる用語解説にとどまらず、あなたが明日から「脱・素人」を果たし、周囲から信頼されるプロフェッショナルへと変貌するための具体的な思考法をお伝えします。
この記事でわかることは以下の3点です。
- 素人の正確な定義・語源と、アマチュア・初心者との細かいニュアンスの違い
- 専門家が教える「素人」と「玄人(プロ)」を分ける5つの明確な境界線
- 「素人質問ですが」の効果的な使い方と、プロ意識を持つための具体的なステップ
読み終える頃には、何気なく使っていた「素人」という言葉の深みに触れ、自身の仕事に対する姿勢が一段階引き上げられていることをお約束します。
「素人(しろうと)」の正しい意味と語源などの基礎知識
まずは、言葉としての「素人」を正しく理解することから始めましょう。普段何気なく使っている言葉でも、その語源や本来の意味を知ることで、ビジネス現場での使い方がより洗練されたものになります。ここでは、辞書的な定義に加え、意外と知られていない語源や歴史的背景について、日本語教育の視点から深掘りしていきます。
辞書的な定義と「玄人(くろうと)」との対比
国語辞典などの定義を参照すると、「素人」とは主に以下の2つの意味を持っています。
- その事柄について経験のない人。専門家ではない人。
- 特別の技能を持たない人。
対義語はご存知の通り「玄人(くろうと)」です。玄人は、一つの技芸や学問などに熟達した人、専門家として職業にしている人を指します。この二つの言葉は、単に「上手か下手か」という技術レベルの話だけでなく、その道で生計を立てているか、社会的な役割として認知されているかという点でも対比されます。
例えば、趣味で料理を作るのが非常に上手な人がいたとします。その腕前がプロ顔負けであったとしても、それを職業とせず、対価を得ていなければ、辞書的な定義では「素人」の範疇に含まれることが多いのです。しかし、現代ではSNSや副業の普及により、この境界線は非常に曖昧になりつつあります。だからこそ、言葉の定義を正しく理解した上で、文脈に応じた使い分けが求められるのです。
なぜ「白人」と書く?意外と知らない語源と歴史
「素人」という漢字を見て、不思議に思ったことはないでしょうか。なぜ「素(もと)」の人と書くのか。また、古い文献や当て字では「白人」と書いて「しろうと」と読ませることがあります。
実は、「素人(しろうと)」の語源は、「白人(しろひと)」にあるという説が有力です。「白」という色は、何にも染まっていない状態、つまりその道の色に染まっていない無垢な状態を表します。まだ何の技術も知識も身につけていない、真っ白な状態の人という意味から「しろひと」と呼ばれ、それが音変化して「しろうと」になりました。
一方で対義語の「玄人(くろうと)」は、「玄人(くろひと)」が語源です。「玄(げん)」は黒色や奥深い道理を意味します。何度も何度も経験を重ね、その道の色に深く染まり、黒くなるまで修練を積んだ人という意味が込められています。また、一説には、囲碁の石の色(白と黒)から来ているとも言われていますが、日本語の色彩感覚として「未熟な白」と「熟達の黒」という対比は非常に興味深いものです。
「素」という漢字が当てられるようになったのは、「素(もと)」のままである、つまり加工されていない、手を加えられていない状態という意味が「白」のイメージと合致したためと考えられます。
現代における「素人」の使われ方の変化(ネットスラング含む)
言葉は生き物であり、時代とともにそのニュアンスは変化します。「素人」という言葉も例外ではありません。かつては単に「未熟者」を指す言葉でしたが、現代、特にインターネット文化の中では多様な意味合いで使われています。
ポジティブな文脈では、「素人ならではの視点」や「素人目線」という言葉があるように、専門知識に縛られない自由な発想や、一般消費者に最も近い感覚を持つ人として重宝される場合があります。マーケティングの世界では、玄人の固定観念を打破するために、あえて素人の意見を取り入れることも珍しくありません。
一方で、ネガティブな文脈、あるいはネットスラングとしては、「ド素人」と強調して相手を揶揄したり、知識不足を厳しく指摘する際に使われることもあります。また、特定の業界(例えば投資や創作活動など)では、経験年数が浅いことを自虐的に表現するために「素人ですが」と前置きするケースも多々見られます。
現役日本語講師のアドバイス
「素人」という言葉は、かつては単に「未熟」を意味しましたが、現代では「純粋な視点を持つ人」というポジティブな文脈や、逆に「責任感のない人」という厳しい文脈でも使われます。TPOに合わせた解釈が必要です。特にビジネスメールなどで自分を「素人」と表現する際は、謙遜のつもりでも「責任逃れ」と受け取られないよう注意が必要です。
【徹底比較】素人と玄人(プロ)を分ける5つの決定的な違い
ここからが本記事の核心部分です。辞書的な意味での「経験の有無」を超えて、実社会において「あの人はプロ(玄人)だ」「あの仕事は素人だ」と評価を分ける境界線はどこにあるのでしょうか。
多くの人が「お金をもらっているかどうか」を基準にしがちですが、それだけでは本質は見えてきません。現役のビジネスパーソンとして、そして言葉の専門家として観察してきた中で見出した、素人と玄人を分ける5つの決定的な違いを解説します。
違い1:金銭の授受と「生計」を立てているか
最も分かりやすい指標は、やはり対価(金銭)が発生しているかどうかです。しかし、ここで重要なのは「一度でもお金をもらえばプロか」という点です。
玄人(プロ)の定義として重要なのは、その活動が「生計を立てる手段」になっている、あるいはそれに準ずる規模の経済活動として成立していることです。素人の活動は、多くの場合「趣味」や「ボランティア」の延長線上にあり、自分がお金を払って楽しむ(消費活動)か、無償で提供することが基本です。
玄人は、自分のスキルや成果物に対して他者から対価を受け取ります。これは単にお金が入るということ以上に、「お金を払ってでもその価値を享受したい」と他者に思わせるだけの価値提供ができていることの証明でもあります。厳しい言い方をすれば、どれだけ高尚な活動をしていても、誰からも対価を支払われないのであれば、それはビジネスの文脈では「素人の域を出ない」と判断されることが多いのです。
違い2:成果物に対する「責任」の重さと保証
私がビジネスコミュニケーションの研修でよくお話しするエピソードがあります。ある新人のライターが納期に遅れた際、「すみません、まだ経験が浅くて(素人なので)」と言い訳をしました。しかし、クライアントにとって書き手が新人かベテランかは関係ありません。発注した通りの品質のものが、期日通りに納品されるかどうか。それが全てです。
玄人は、自分の成果物に対して無限の責任を負います。もしミスがあれば、修正はもちろん、損害賠償や信用の失墜というリスクを背負って仕事をしています。一方、素人は「うまくいかなくても仕方がない」「趣味だから」という逃げ道が無意識のうちに用意されています。
また、玄人は成果物の品質を「保証」します。「今回はたまたま美味しくできた」ではなく、「いつ来ても同じ美味しさを提供する」のがプロの料理人です。この結果に対するコミットメント(約束)の強さこそが、素人と玄人の精神的な分水嶺と言えるでしょう。
違い3:顧客視点(他者評価)か自己満足(自己評価)か
素人の活動の多くは、ベクトルが「自分」に向いています。「自分が楽しいか」「自分が納得できるか」「自分が表現したいか」。これは趣味としては最高ですが、仕事としては不十分です。
対して玄人のベクトルは、常に「顧客(相手)」に向いています。「顧客は何を求めているか」「どうすれば相手の課題を解決できるか」「相手が期待する以上の価値を提供できるか」。玄人は、自分のやりたいことよりも、求められていることを優先できる強さを持っています。
評価基準も異なります。素人は「自分なりに頑張った」という自己評価で満足できますが、玄人の評価は100%、他者評価で決まります。どれだけ自分が努力したと主張しても、顧客が「NO」と言えばそれは失敗であり、プロとしての仕事とは認められません。この厳しさに耐え、他者の視点に立ち続けられるかが、プロになるための大きな壁となります。
違い4:再現性と安定性(ムラの有無)
「ホームランを打てること」よりも、「毎回ヒットを打てること」の方が、ビジネスにおける玄人の条件としては重要です。素人でも、調子が良い時や運が味方した時には、プロ顔負けの成果を出すことがあります。これを「ビギナーズラック」と呼ぶこともあります。
しかし、玄人との決定的な差は「再現性」にあります。玄人は、体調が悪かろうが、気分が乗らなかろうが、環境が悪かろうが、一定の基準(合格点)以上の成果を必ず出します。なぜなら、彼らは感覚だけでなく、理論や経験に裏打ちされた「技術」を持っているからです。
ムラがないこと、計算ができること。これは信頼に直結します。「あの人に頼めば、少なくともこのレベルのものは上がってくる」という安心感こそが、玄人が対価を得られる理由の一つです。
違い5:道具へのこだわりとメンテナンス意識
最後に、物理的な側面として「道具」への向き合い方を挙げます。一流の職人やスポーツ選手が、自分の商売道具を大切に扱う話は有名です。玄人は、道具が自分のパフォーマンスを支えるパートナーであることを熟知しているため、そのメンテナンスに時間と労力を惜しみません。
素人は、道具の手入れを怠ったり、逆に形から入って高価な道具を揃えるだけで満足してしまったりすることがあります。玄人の道具選びは「見栄」ではなく「機能」と「結果」に基づいています。パソコン一台、包丁一本、あるいは自身の「体調管理」に至るまで、仕事に必要なリソースを常に最良の状態に保つ姿勢は、プロフェッショナルの証です。
▼図解:素人と玄人の比較マトリクス表(クリックで展開)
| 比較項目 | 素人(アマチュア) | 玄人(プロフェッショナル) |
|---|---|---|
| 目的 | 自己実現、楽しみ、趣味 | 顧客への価値提供、課題解決 |
| 対価 | 支払う側(消費)、または無償 | 受け取る側(報酬)、生計を立てる |
| 責任 | 限定的(「好きでやっている」が免罪符) | 無限責任(結果に対して全責任を負う) |
| 評価軸 | 自己評価(自分が満足か) | 他者評価(顧客が満足か) |
| 再現性 | ムラがある、一発屋も多い | 常に一定品質以上を担保する |
| 成長動機 | 「もっと楽しみたいから」 | 「より高い価値を提供するため」 |
ビジネスコミュニケーション専門家のアドバイス
「多くの方が『技術があればプロ』と誤解していますが、最大の差は『調子が悪い時でも一定の品質を出せるか(再現性)』と『期待値コントロールができるか』にあります。プロは自分ができないことを安請け合いしません。できる範囲とできない範囲を明確にし、その中で最高の結果を出す約束を守る。これが信頼を生むのです。」
似ているようで違う?「アマチュア」「初心者」との使い分け
「素人」という言葉には、いくつかの類語が存在します。「アマチュア」「初心者」「未経験者」などです。これらは似たような意味で使われることが多いですが、厳密にはニュアンスが異なります。言葉の専門家として、これらの使い分けを整理し、あなたの語彙力を高めるお手伝いをしましょう。
素人と「アマチュア」:愛好家としての熱量の差
「アマチュア」という言葉は、ラテン語の「amare(愛する)」を語源としています。つまり、その物事を心から愛し、情熱を持って取り組んでいる人を指します。日本語の「愛好家」に近いニュアンスです。
「素人」が単に「経験がない」「専門家ではない」というフラット、あるいはややネガティブな意味を含むことがあるのに対し、「アマチュア」には「技術はあるが、職業にはしていない」というポジティブな意味合いが含まれることが多いです。オリンピック選手がかつて「アマチュア」と呼ばれていたように、スキルレベルはプロ(玄人)と同等、あるいはそれ以上であるケースもあります。
したがって、高い技術を持つ人に対して「素人ですね」と言うと失礼になることがありますが、「素晴らしいアマチュアですね」と言えば、その情熱や純粋さを称賛する意味になります。
素人と「初心者(ビギナー)」:これから始める人との違い
「初心者」や「ビギナー」は、時間軸に焦点を当てた言葉です。「その道を歩み始めたばかりの人」を指します。ここには、「これから成長していく」「今は未熟だが未来がある」というニュアンスが含まれます。
対して「素人」は、必ずしも始めたばかりとは限りません。何十年も趣味で続けているが、専門家ではないという場合も「素人」と呼ばれます。「初心者」は一時的な状態を指すことが多く、「素人」はその人の属性や立場を指すことが多いと言えるでしょう。
職場で新入社員に対して使うべきは「初心者」や「新人」であり、「素人」と呼ぶと突き放したような冷たい印象を与えてしまうため注意が必要です。
素人と「凡人」:才能や性質に関する言葉との区別
少し毛色が違いますが、「凡人(ぼんじん)」という言葉とも混同されがちです。凡人は「優れた才能や特徴を持たない、ごく普通の人」を指します。これは生まれ持った性質や才能にフォーカスした言葉です。
「素人」はあくまで「その分野の専門家ではない」という役割や経験の話であり、才能の有無とは関係ありません。天才的な才能を持っていても、訓練を受けていなければその分野では「素人」ですし、凡人であっても長年の修練で「玄人」になることは可能です。
▼一覧表:類語(素人・アマチュア・初心者・未経験者)のニュアンス比較
| 言葉 | 主な意味・ニュアンス | 使用例 |
|---|---|---|
| 素人 | 専門家ではない人。経験がない人。 | 「素人考えですが」「投資に関しては素人です」 |
| アマチュア | それを職業としない愛好家。熱意がある。 | 「アマチュア無線」「アマチュアバンド」 |
| 初心者 | 習い始めたばかりの人。ビギナー。 | 「パソコン初心者」「初心者マーク」 |
| 未経験者 | その業務や経験が全くない人。 | 「未経験者歓迎」「業界未経験」 |
ビジネス現場で役立つ「素人」関連フレーズと処世術
ビジネスの現場では、「素人」という言葉や立場を戦略的に利用することで、コミュニケーションを円滑にしたり、リスクを回避したりすることができます。ここでは、明日から使える実践的なフレーズと、その裏にある処世術を紹介します。
「素人質問で恐縮ですが」の正しい使い方と効果
学会やビジネス会議でよく耳にする「素人質問で恐縮ですが」というフレーズ。これは、単なる謙遜以上の強力な効果を持つ「クッション言葉(マジックワード)」です。
この言葉には、以下の3つの効果があります。
- ハードルを下げる: 「専門的なことはわかりませんが」と前置きすることで、もし的違いな質問をしても「素人だから仕方ない」と許容される空気を作ります。
- 本質的な問いを投げかける: 専門家同士では常識すぎて聞けないような根本的な疑問(「そもそもなぜこれをやるのですか?」など)を、素人のふりをして投げかけることで、議論の核心を突くことができます。
- 相手の自尊心を満たす: 相手を「専門家(先生)」として立て、教えを請う姿勢を見せることで、相手は気持ちよく回答してくれます。
ただし、使いすぎには注意が必要です。毎回これを言っていると「いつまで経っても勉強しない人」「責任感がない人」というレッテルを貼られてしまいます。ここぞという場面、特に専門家が専門用語で煙に巻こうとしている時などに、ナイフのように鋭く使うのが効果的です。
上司や取引先に「素人考え」と言われた時の対処法
もしあなたが提案をした際に、上司や取引先から「それは素人考えだ」と却下されたら、どう反応すべきでしょうか。カッとなって反論するのは得策ではありません。この言葉が出た時、相手は「現場の複雑さやリスクを分かっていない」と感じています。
対処法としては、まず相手の「玄人としての懸念点」を尊重することです。
「おっしゃる通り、現場の細かな事情への配慮が不足していたかもしれません。プロの視点から見て、具体的にどの部分がリスクになりますでしょうか?」
このように、相手の専門性を認めた上で、具体的なフィードバックを求める質問に切り替えます。すると相手は「素人考え」と切り捨てるモードから、「教えてやる」モードに切り替わり、建設的な議論が可能になります。「素人」と言われたことを、学びのチャンスに変える柔軟性が重要です。
あえて「素人の視点」を武器にするマーケティング思考
開発者や提供者は、どうしても製品やサービスに詳しくなりすぎてしまい、初めて使うユーザーの気持ち(素人感覚)を忘れてしまいがちです。これを「知識の呪縛」と呼びます。
ビジネスにおいて、あえて「素人の視点」を持ち続けることは強力な武器になります。「説明書を読まなくても使えるか?」「専門用語を知らない人でも価値が伝わるか?」という問いは、素人の感覚を持っていなければ生まれません。
会議で全員が専門用語で盛り上がっている時こそ、勇気を持って「素人の顧客代表」として振る舞いましょう。「その機能、普通のお客さんは使いますか?」という一言が、プロジェクトの方向修正につながることは多々あります。
現役日本語講師のアドバイス
「『素人質問ですが』は、相手の専門知識を引き出し、かつ自分の無知を防御する強力な武器です。しかし、この言葉の真価は『相手へのリスペクト』にあります。相手を敬う気持ちがあれば、どんな初歩的な質問でも失礼にはなりません。逆に、皮肉や攻撃のためにこの言葉を使うと、すぐに見透かされ、信頼を失いますので注意しましょう。」
▼すぐに使える「素人質問」例文テンプレート(クリックで展開)
シーン1:会議で基本的な前提を確認したい時
「素人質問で大変恐縮ですが、今回のプロジェクトの『最大の目的』について、改めて認識を合わせさせていただいてもよろしいでしょうか? 専門的な議論の前に、根本的な部分を理解しておきたく存じます。」
シーン2:専門用語がわからず話についていけない時
「勉強不足で申し訳ありません。今おっしゃった〇〇という用語について、素人の私にもわかるように簡単にご教示いただけますでしょうか? 正確に理解して進めたいと考えております。」
シーン3:専門家の視点とは異なる、ユーザー目線の意見を言いたい時
「技術的なことは専門家の皆様にお任せいたしますが、素人のユーザー視点から一つだけ感想を申し上げてもよろしいでしょうか? 初めてこの画面を見た時、どこを押せばいいか少し迷ってしまったのです。」
「脱・素人」してプロフェッショナルになるための3ステップ
ここまで「素人」の定義や処世術を見てきましたが、もしあなたが今の仕事で「素人」から脱却し、真の「玄人(プロフェッショナル)」を目指したいのであれば、意識と行動を変える必要があります。私が多くのビジネスパーソンを見てきた経験から、プロになるための確実な3つのステップを提案します。
Step1:守破離(しゅはり)の「守」を徹底する
日本の武道や芸道には「守破離(しゅはり)」という教えがあります。プロへの第一歩は、まず「守」を徹底することです。
- 守(しゅ): 師匠や先輩の教え、型、基本ルールを忠実に守り、完全にコピーする段階。
- 破(は): 基本を身につけた上で、自分なりの工夫を加え、型を破っていく段階。
- 離(り): 独自のスタイルを確立し、師匠から離れて自立する段階。
素人が陥りがちなのが、基本(守)ができていないのに、いきなりオリジナリティ(破・離)を出そうとすることです。これを「形無し」と呼びます。型があるからこそ「型破り」になれるのです。まずは、徹底的な模倣と基本の習得に時間を費やしてください。地味な作業ですが、これが最短の近道です。
Step2:自分の仕事に「値札」を付ける意識を持つ
たとえ会社員であっても、自分の仕事に「値札」を付ける想像をしてください。「今日の私の会議での発言は、いくらの価値があったか?」「この資料作成に3時間かけたが、会社にそれ以上の利益をもたらしたか?」。
素人は時間を「消費」しますが、玄人は時間を「投資」して価値を生み出します。自分の行動一つ一つが、誰かからお金をいただけるレベルにあるかを自問自答する癖をつけましょう。副業やフリーランスで小さくても良いので実際にお金を稼いでみる経験も、この意識を養うのに非常に有効です。
Step3:フィードバックを恐れず、修正能力を高める
素人は批判を恐れ、褒められることを求めます。しかし、玄人は「批判(フィードバック)」を成長の糧として歓迎します。
自分の作ったもの、考えたことを、他者に容赦なく評価してもらう場に身を置いてください。そして、指摘されたことを素直に受け入れ、即座に修正する能力(修正力)を磨くことです。プロとは、最初から完璧な人ではなく、誰よりも早く、正確に修正できる人のことを指す場合も多いのです。耳の痛い意見こそが、あなたを素人から玄人へと引き上げてくれる師匠です。
ビジネスコミュニケーション専門家のアドバイス
「素人を脱する一番の近道は、自分の成果物を『他人に厳しく評価してもらう』環境に身を置くことです。自己満足の殻を破ることがスタートラインです。私が新人の頃、自信満々で出した企画書を上司に赤ペンで真っ赤にされたことがあります。その時は落ち込みましたが、その『赤ペン』こそが、私をプロへと育ててくれた愛情だったと今では理解しています。」
素人に関するよくある質問 (FAQ)
最後に、「素人」という言葉や概念に関して、よく検索される疑問や、研修の現場で実際に受ける質問にお答えします。
Q. 副業で稼いでいる場合は素人ですか?玄人ですか?
A. お金をいただいている以上、クライアントにとっては「玄人(プロ)」です。
副業であっても、本業であっても、対価を支払う相手からすれば関係ありません。「副業だから」という甘えは通用しないと考えましょう。ただし、スキルレベルとしては「駆け出し」や「中級者」という段階はあるでしょう。マインドセットは玄人、スキルは研鑽中、という状態が正しい認識です。
Q. 「ド素人」という言葉は失礼になりますか?
A. はい、非常に失礼にあたる可能性が高い言葉です。
「ド」は強調を表す接頭語ですが、多くの場合、相手の無知や無能さを嘲笑したり、強く非難したりするニュアンスを含みます。親しい間柄での冗談を除き、ビジネスや公の場で他人に向けて使うべきではありません。自分自身に対して「ド素人ですが」と使う場合も、卑下しすぎている印象を与えるため、「未経験ですが」「勉強中ですが」と言い換える方がスマートです。
Q. どのくらいの期間経験すれば素人ではなくなりますか?
A. 期間よりも「密度」と「成果」で決まります。
「1万時間の法則(ある分野の専門家になるには1万時間の練習が必要)」という説もありますが、単にダラダラと10年続けている人(万年素人)よりも、1年間必死に没頭し、数多くの実践と失敗を繰り返した人の方が、玄人に近づくことがあります。期間を気にするよりも、「再現性のある成果を出せるようになったか」「他者から対価を払いたいと思われるようになったか」を基準にしてください。
現役日本語講師のアドバイス
「『10年やっても素人』の人もいれば、『1年でプロ顔負け』の人もいます。この差は、漫然と繰り返したか、意図を持って試行錯誤(PDCA)を回したかの違いです。期間はあくまで目安。重要なのは、その期間中にどれだけの『質の高い失敗』と『改善』を積み重ねたかです。」
まとめ:素人の視点を忘れずに、玄人の技術を目指そう
ここまで、「素人」と「玄人」の違いについて、言葉の定義から精神性まで多角的に解説してきました。改めて要点を整理します。
- 素人とは: 経験や専門知識がなく、それを生計の手段としていない人。語源は「白人(無垢な人)」。
- 玄人との違い: 最大の違いは「責任の所在」「顧客視点」「再現性」にある。
- 言葉の力: 「素人質問ですが」などのフレーズは、使い方次第で強力なビジネスツールになる。
- 脱・素人の道: 守破離の徹底、仕事への値付け、フィードバックの受容が鍵となる。
最後に、あなたにお伝えしたいことがあります。それは、「素人であることは恥ではない」ということです。誰でも最初は素人です。そして、「素人」であるということは、既成概念に囚われない自由な発想ができるということでもあります。
目指すべきは、「玄人の技術と責任感を持ちながら、素人のような純粋な視点と好奇心を忘れないプロフェッショナル」です。技術に溺れず、常に顧客の目線(素人目線)で物事を考えられる人こそが、真に求められる人材です。
今日から、あなたの仕事に対する意識を少しだけ変えてみてください。「これはお金をいただけるレベルか?」「相手はどう感じるか?」。その問いかけの積み重ねが、あなたを確実に玄人の領域へと導いてくれるはずです。
プロ意識を高めるための最終チェックリスト
明日からの行動を変えるために、以下のリストを定期的に確認してみてください。
- 自分の仕事に対して「値札(対価)」を意識して取り組んでいるか?
- 「自分がやりたいか」より「相手(顧客)が求めているか」を優先できているか?
- 体調や気分に左右されず、一定の品質(成果)を出し続けているか?
- 道具や環境のメンテナンスを怠っていないか?
- 「わからない」ことを素直に認め、批判を受け入れて学ぶ姿勢があるか?
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