ショートケーキ作りで失敗してしまう原因の9割は、実は「温度管理」と「混ぜ不足」にあることをご存知でしょうか。
「レシピ通りに作ったはずなのに、スポンジが膨らまない」「生クリームがボソボソになってしまい、綺麗に塗れない」
そんな悩みを抱えるあなたのために、本記事では歴20年の現役パティシエである筆者が、家庭の道具でもお店のような「極上の口溶け」を実現するための科学的なコツと全工程を徹底解説します。感覚的な表現になりがちな製菓の工程を、論理的かつ具体的な数値で紐解いていきます。
この記事で習得できることは以下の3点です。
- 「膨らまない」「パサつく」を根本から解決するスポンジ生地(ジェノワーズ)の決定版レシピ
- プロが現場で実践している「ボソボソにならない生クリーム」の扱い方とナッペの技術
- 万が一失敗した時のリカバリー方法と、翌日でも美味しく食べるための保存テクニック
これさえ読めば、もう誕生日やクリスマスに失敗して落ち込むことはありません。ぜひ最後まで読み進めて、パティスリー顔負けのショートケーキを完成させてください。
成功の8割は「準備」で決まる!材料選びと温度管理の科学
お菓子作り、特にショートケーキのようなシンプルな構成のケーキにおいて、最も重要なのは「計量」と「準備」です。多くの失敗は、ミキサーを回し始める前の段階ですでに確定してしまっていることが少なくありません。なぜなら、洋菓子作りは一種の「化学反応」であり、適切な材料を適切な状態で反応させなければ、理想的な結果は得られないからです。
ここでは、単に材料リストを眺めるだけでなく、「なぜその材料を選ぶのか」「それぞれの材料がどのような役割を果たしているのか」を深く理解しましょう。この理屈を知っているだけで、工程ごとの判断ミスが劇的に減ります。
小麦粉・砂糖・卵の黄金比率と選び方
ショートケーキの土台となるスポンジ生地(ジェノワーズ)は、基本的に「卵・砂糖・小麦粉・バター・牛乳」の5つの要素で構成されています。これらはただ混ぜれば良いというわけではなく、それぞれのバランス(配合比率)が食感を決定づけます。
まず小麦粉(薄力粉)についてです。スーパーで売られている一般的な薄力粉でも作ることは可能ですが、より口溶けの良い、プロのようなスポンジを目指すのであれば、タンパク質含有量の低い製菓用薄力粉を選ぶことを強くお勧めします。タンパク質が少ないほど、生地の骨格となる「グルテン」の形成が抑えられ、ふんわりと軽い食感に仕上がるからです。
次に砂糖です。「甘さを控えたい」という理由で砂糖の量を勝手に減らすのは、失敗の元です。砂糖は単に甘みをつけるだけでなく、卵の気泡を安定させ、生地の水分を保持してしっとりさせる「保水性」という重要な役割を担っています。砂糖を減らすと、卵の泡がすぐに消えてしまい、焼き上がりが硬くパサパサになってしまいます。ここでは、水に溶けやすく、すっきりとした甘さが特徴のグラニュー糖を使用します。
そして卵。卵はサイズによって卵黄と卵白の比率が異なりますが、製菓のレシピでは基本的にMサイズ(正味約50g)を基準に設計されていることが多いです。Lサイズを使うと水分量が多くなりすぎたり、バランスが崩れる原因になります。もし厳密に作るなら、殻を割って中身の重量を計量するのがベストです。
▼詳細:推奨する材料リストと分量(15cm型 / 18cm型)
| 材料名 | 15cm型(5号) | 18cm型(6号) | 備考・推奨品 |
|---|---|---|---|
| 全卵(Mサイズ) | 2個(約100g) | 3個(約150g) | 常温に戻さず、冷蔵庫から出したてを使用(湯煎にかけるため) |
| グラニュー糖 | 60g | 90g | 上白糖より焦げ色がつきにくく、キレが良い |
| 薄力粉 | 60g | 90g | 「特宝笠」や「バイオレット」などタンパク質が少ないもの |
| 無塩バター | 10g | 15g | 発酵バターを使うと香りがリッチになる |
| 牛乳 | 10cc | 15cc | 成分無調整牛乳推奨 |
※18cm型で作る場合は、15cm型の約1.5倍の分量になりますが、卵の個数に合わせて調整しています。
生クリームは「乳脂肪分」で使い分けるのが正解
ショートケーキの味の決め手となる生クリーム(クレームシャンティ)。スーパーの棚には様々な種類が並んでいますが、パッケージの裏面を見て「種類別:クリーム(乳成分を含む)」と書かれている動物性生クリームを選んでください。「植物性ホイップ」や「乳等を主要原料とする食品」は、価格は安いですが、口溶けや風味が全く異なります。
さらにこだわりたいのが「乳脂肪分」のパーセンテージです。一般的に35%〜47%程度のものが売られています。
- 35%〜36%(低脂肪):あっさりとしていて口溶けが良い。泡立つのに時間がかかるが、ボソボソになりにくい。ナッペ(コーティング)に向いています。
- 40%〜42%(中脂肪):コクと扱いやすさのバランスが良い万能型。
- 45%〜47%(高脂肪):濃厚でリッチな味わい。すぐに泡立つが、油断すると一瞬でボソボソ(分離)になるため扱いが難しい。サンド用に向いています。
初心者の方におすすめなのは、40%〜42%程度のもの、もしくは35%と45%を1:1でブレンドして使う方法です。これにより、濃厚さと作業性の良さを両立させることができます。
失敗を防ぐための環境作り(室温と道具の準備)
材料が揃ったら、次は環境作りです。プロの厨房と家庭のキッチンで決定的に違うのが「室温」です。特に生クリームを扱う場合、室温が高いと作業中にクリームの温度が上がり、ダレてしまったり分離してしまったりします。
夏場であれば、冷房を最強にして室温を20℃以下に保つのが理想です。逆に冬場は、スポンジ生地を作る際には室温が低すぎると生地の温度が下がりやすく、気泡が安定しにくくなることもあります。
道具については、以下の準備を必ず事前に行います。
- 型の準備:型に敷紙をセットしておく。隙間ができないようにピッチリと敷くことで、焼き上がりの側面が綺麗になります。
- オーブンの予熱:焼成温度より20℃〜30℃高めに設定して予熱を開始します。扉を開けた瞬間に庫内温度が急激に下がるためです。
- 湯煎の準備:卵を温めるための約60℃のお湯と、バターと牛乳を溶かすための湯煎を用意します。
現役パティシエのアドバイス
「冬場のキッチンは想像以上に冷えています。ステンレス製のボウルは熱伝導が良いので、冷たい場所に置いておくと一気に冷えてしまいます。スポンジ作りを始める前に、少しお湯にくぐらせてボウル自体の冷たさを取っておくと、卵液の温度が下がらずスムーズに泡立ちますよ。逆に生クリームを扱う時は、ボウルを冷蔵庫でキンキンに冷やしておくのが鉄則です。」
【工程1】ふわふわ・しっとり!ジェノワーズ(スポンジ)生地の作り方
いよいよ実践です。スポンジ作りは「気泡の確保」と「気泡の維持」の戦いです。卵を泡立てて空気を含ませ(確保)、粉や油脂を混ぜてもその空気を潰さない(維持)ことが成功の鍵です。ここでは、全卵を泡立てる「共立て(ジェノワーズ法)」を解説します。別立て(ビスキュイ法)に比べてしっとりとした口当たりになり、ショートケーキに最適です。
多くのレシピ本には「さっくり混ぜる」と書かれていますが、この曖昧な表現が失敗の元凶です。具体的な回数や状態の目安を示しながら進めていきます。
「共立て」の必須テクニック:湯煎で卵液を 40℃ まで温める理由
ボウルに全卵とグラニュー糖を入れ、軽くほぐしたら、すぐに湯煎(約60℃のお湯)に当てます。ここでの目的は、卵液の温度を人肌より少し温かい「40℃」まで上げることです。
なぜ温める必要があるのでしょうか?それは、卵の「表面張力」を弱めるためです。冷たい卵は粘度が高く、空気を抱き込みにくいのですが、温めることでサラサラになり、効率よく空気を取り込んでボリュームのある泡を作ることができます。また、砂糖を完全に溶かしきるためでもあります。
温度計を使うのが確実ですが、指を入れてみて「お風呂より少し温かい」と感じる程度が目安です。温まったらすぐに湯煎から外してください。熱すぎると卵が煮えてしまいます。
ハンドミキサーの速度調整と「の」の字が書ける泡立ての見極め
湯煎から外したら、ハンドミキサーで泡立てていきます。ここでのポイントは「速度の切り替え」です。
- 高速で一気にボリュームを出す:最初は最高速度で泡立てます。卵液が白っぽくなり、カサが増してきます。
- 中速で泡を安定させる:全体がもったりとしてきたら中速に落とし、さらに泡立てます。
- 低速でキメを整える(最重要):生地を持ち上げた時、落ちた生地で「の」の字が書け、それが数秒間消えずに残る状態になったら、ハンドミキサーを最低速度にします。ここで2〜3分間、ゆっくりとボウルの中でミキサーを動かし、大きな気泡を潰して、キメの細かい均一な泡に整えます。
この「キメ整え」の工程を飛ばすと、焼き上がりのスポンジに大きな穴が空いたり、食感が粗くなったりします。シルクのような艶のある泡を目指しましょう。
現役パティシエのアドバイス
「初心者の多くは『泡立て不足』か、逆に『泡立てすぎ(オーバーラン)』で失敗します。爪楊枝を生地に1cmほど刺して手を離してみてください。爪楊枝が倒れずにスッと立っていれば、泡の強さは十分です。これが倒れてしまうようなら、まだ泡立てが足りません。逆に、泡立てすぎると生地がボソボソになり、焼いた時に膨らみが悪くなるので注意が必要です。」
薄力粉の合わせ方:ゴムベラで「切るように」ではなく「底からすくい上げる」
いよいよ最大の難関、粉合わせです。薄力粉は必ず2回ふるっておき、一度にバサッと加えます。そしてゴムベラに持ち替えます。
よく「切るように混ぜる」と言われますが、このイメージだと混ざりきらずに粉玉が残ることがあります。プロの推奨する動きは、「底からすくい上げて、手首を返して生地を落とす」動作です。
- ゴムベラを時計の2時の位置から入れ、ボウルの底をこするように8時の位置まで通します。
- そのまま手首を返し、生地を中央に落とします。
- 同時に、反対の手(左手)でボウルを手前に(反時計回りに)少し回します。
この一連の動作をリズミカルに行います。粉気がなくなるまで、おおよそ30回〜40回程度が目安です。恐る恐る混ぜていると時間がかかり、逆に泡が消えてしまいます。大きく、深く、手早く動かすのがコツです。
バターと牛乳の乳化:生地を死なせずに混ぜ込むプロの技
粉が見えなくなったら、湯煎で溶かしておいたバターと牛乳(約50℃〜60℃)を加えます。油脂は泡を消す最大の敵ですので、ここが一番緊張する瞬間です。
直接ボウルに流し込むと、重たい油脂が一気に底に沈み、混ざりにくくなります。これを防ぐためのプロの技が「犠牲生地」という手法です。
- 溶かしバターと牛乳が入った小さな器に、本体の生地をひとすくい(ゴムベラ1杯分)入れます。
- 小さな器の中でしっかりと混ぜ合わせ、完全に乳化させます(馴染ませます)。
- この「馴染んだ生地」を、本体のボウルに戻し入れます。
こうすることで、油脂が生地全体に分散しやすくなり、混ぜる回数を最小限に抑えることができます。戻し入れた後は、底からすくい上げるようにさらに20回〜30回程度混ぜ、生地にツヤが出たら終了です。
焼成前の最終チェック:比重と生地のツヤを確認する
型に流す前に、生地の状態を確認します。理想的な生地は、ゴムベラからリボン状に畳まれながら落ちていき、表面にツヤがあります。
型に流し込む際は、高い位置(20cmくらい)から流すと、余分な大きな気泡が潰れてくれます。ボウルの肌に残った生地をゴムベラでこそげ取って入れる場合、その部分は死んだ生地(泡が消えた生地)になりがちなので、型の端の方に入れるようにしましょう。中心に入れると、そこだけ膨らみが悪くなり、焼き上がりが凹む原因になります。
【工程2】焼き上げからスライスまで:縮みを防ぎキメを整える
オーブンに入れたら終わりではありません。焼き上げ後の処理とスライスの工程にも、プロならではの配慮があります。
オーブンの予熱と焼成温度の微調整(家庭用オーブンの癖を知る)
15cm型なら160℃〜170℃で25分〜30分、18cm型なら30分〜35分が目安です。ただし、家庭用オーブンはメーカーによって熱の当たり方が全く異なります。
天板を入れると庫内温度が下がるため、予熱は設定温度より20℃高く設定しておき、ケーキを入れた直後に所定の温度に戻すのがテクニックです。また、焼きムラを防ぐため、焼き時間の残り10分くらいで一度扉を開けずに様子を見て、もし左右で焼き色が違うようなら、素早く天板の前後を入れ替えます(ただし、膨らんでいる途中で開けると萎むので、必ず焼き固まってから行ってください)。
焼き上がり直後の「ショック」と逆さにして冷ます理由
焼き上がったら、すぐにオーブンから取り出し、型ごと20cmくらいの高さから台の上に「ドン!」と落とします。これを「ショックを与える」と言います。生地内部の熱い水蒸気を一気に外に逃し、冷たい空気に入れ替えることで、冷めた時に生地が中央から凹む「焼き縮み」を防ぐ効果があります。
その後、すぐに型から外し、ケーキクーラー(網)の上に逆さまにして冷まします。逆さにすることで、生地の重みで表面が平らになり、キメが均一に整います。乾燥を防ぐため、粗熱が取れたら、まだほんのり温かいうちにポリ袋などですっぽりと覆い、保湿しながら完全に冷まします。
均一な厚さにスライスするための道具とコツ
ショートケーキの断面を美しく見せるためには、スポンジを均一な厚さにスライスする必要があります。通常は3枚(1.5cm厚さ程度)にスライスします。
目分量で切ると斜めになりやすいので、「ルーラー」と呼ばれる厚さを固定する棒を両脇に置くか、爪楊枝を側面に定規で測って刺し、それをガイドにしてナイフを動かすと失敗しません。ナイフは前後に大きく動かし、押し切らないように注意しましょう。
現役パティシエのアドバイス
「実は、スポンジのスライスは『焼いた当日』よりも『翌日』に行うのがベストです。焼きたての生地は不安定でボロボロと崩れやすいのですが、一晩寝かせることで水分が全体に馴染み、生地が落ち着いて切りやすくなります。しかも、しっとり感も増してより美味しくなります。プロの現場でも、ジェノワーズは前日に焼いておくのが鉄則です。」
【工程3】お店の味に変わる!「アンビベ」と「クレームシャンティ」の極意
スポンジが焼けたら、次は味の骨格を作るシロップとクリームの準備です。ここでのひと手間が、家庭の味とプロの味を分ける境界線となります。
アンビベ(シロップ打ち)はたっぷりと:パサつき防止と香りの一体感
「アンビベ(Imbiber)」とは、フランス語で「染み込ませる」という意味です。水と砂糖を沸騰させて作ったシロップ(ボーメ30度など)に、キルシュなどの洋酒を加えて香り付けしたものを、スポンジにたっぷりと打ちます。
多くの人は「ベチャベチャになるのが怖い」とシロップを控えめにしがちですが、これがパサつきの原因です。スポンジとクリームは水分量が異なるため、そのまま合わせるとスポンジがクリームの水分を吸い取ってしまい、クリームがボソボソ、スポンジもパサパサになってしまいます。
シロップは「接着剤」であり「乾燥防止の膜」でもあります。刷毛を使い、スポンジがしっとりと色が変わるくらい、勇気を持ってたっぷりと打ってください。
生クリームの泡立て:氷水必須! 5℃ 以下をキープする重要性
生クリーム(クレームシャンティ)の扱いで最も重要なのは温度管理です。生クリームは10℃を超えると分離のリスクが急激に高まります。
ボウルの底を必ず氷水に当てながら泡立ててください。保冷剤だけでは接触面積が小さく冷却力が足りないことが多いので、水と氷をたっぷり張ったボウルを用意しましょう。作業中も、手が離れる時は必ず冷蔵庫に入れるか、氷水に当てたままにします。
サンド用とナッペ用で「固さ」を変えるテクニック
ショートケーキ作りにおいて、全てのクリームを同じ固さにするのは間違いです。用途に合わせて固さを使い分けるのが、綺麗に仕上げるコツです。
▼詳細解説:用途別生クリームの固さ目安表
| 用途 | 固さの目安(分立て) | 状態の説明 |
|---|---|---|
| サンド用 (間に挟むクリーム) |
8分立て | 泡立て器ですくうとツノがピンと立ち、ボウルを傾けても流れない状態。しっかりとした固さが必要。これより緩いと、いちごの重みでケーキが崩れてしまいます。 |
| ナッペ用 (外側に塗るクリーム) |
6分〜7分立て | 泡立て器ですくうとトロリと落ち、跡がゆっくり消える状態。ツノがお辞儀をするくらい。柔らかい状態でないと、塗っている最中にボソボソになってしまい、綺麗な表面になりません。 |
| 絞り用 (デコレーション) |
8分〜9分立て | サンド用と同様か、それ以上にしっかり泡立てた状態。エッジの効いた綺麗な絞りを出すために必要です。 |
まず全体を緩め(6〜7分立て)に泡立て、ナッペ用を取り分けておきます。その後、残りのクリームをさらに泡立ててサンド用にする、という手順で進めると効率的です。
【工程4】美しく仕上げるデコレーション(ナッペ)と絞りの技術
最後は見た目を決めるデコレーションです。特にクリームを全体に塗る「ナッペ」は難易度が高い技術ですが、理屈を知れば失敗を減らせます。
回転台とパレットナイフの正しい構え方・角度
綺麗なナッペには「回転台」が必須です。回転台がないと、自分が動き回らなければならず、均一に塗ることが不可能です。パレットナイフは、人差し指を柄の上に添えて持ち、ナイフの面をケーキに対して平行、あるいはごくわずかに手前を浮かせる角度で当てます。
下塗り(クラムコート)でスポンジ屑を封じ込める
いきなり厚く塗ろうとすると、スポンジのカス(クラム)がクリームに混ざって汚くなってしまいます。まずは薄くクリームを塗り広げ、スポンジの表面をコーティングする「下塗り(クラムコート)」を行います。これにより、スポンジ屑を封じ込め、本塗りのクリームが滑らかに伸びるようになります。一度冷蔵庫で冷やし固めると、さらに作業しやすくなります。
本塗り:何度も触らないことが「ツヤ」を残すコツ
本塗りでは、たっぷりのクリームを上面に乗せ、回転台を回しながら平らに広げます。側面は、パレットナイフを垂直に立て(時計の8時の位置)、回転台を回してクリームをまとわせます。
ここで重要なのは「触りすぎないこと」です。何度もパレットナイフを行き来させると、クリームの水分が分離し、表面がザラザラになってしまいます。一発で決める勇気が必要です。
現役パティシエのアドバイス
「ナッペの最後、上面の縁に飛び出したクリーム(角)を内側にならす作業が一番緊張しますよね。コツは、パレットナイフを綺麗に拭き取り、ケーキの縁から中心に向かって『スッ』と軽く払うように動かすことです。この時、ナイフの重みだけで動かすイメージで。力を入れると角が潰れてしまいます。一回払うごとにナイフについたクリームを拭き取るのが、美しい角(エッジ)を作る秘訣です。」
失敗しない絞りの基本パターンといちごの配置バランス
絞り袋に入れるクリームは、手の熱で温まらないように少量ずつ入れます。基本の「ローズ絞り(丸く円を描く)」や「シェル絞り(貝殻)」など、練習してから本番に挑みましょう。
いちごの配置は、対角線上に置いていくとバランスが取りやすいです。いちごの向きを揃えるだけでも、プロっぽい仕上がりになります。最後に粉糖(溶けないタイプ)を振ったり、ミントの葉を添えたりすると、赤と白と緑のコントラストで一気に華やかになります。
もし失敗しても大丈夫!パティシエが教えるリカバリー術とQ&A
どんなに注意しても失敗することはあります。しかし、プロは失敗した時の「ごまかし方」も知っています。捨ててしまう前に、以下の方法を試してみてください。
スポンジが膨らまなかった時の救済レシピ
もしスポンジが煎餅のように硬くなってしまったり、膨らまなかった場合は、無理にショートケーキにしようとせず、「トライフル」や「スコップケーキ」に変更しましょう。
スポンジをサイコロ状にカットし、深さのある容器に、クリーム、フルーツ、スポンジを交互に重ねていきます。たっぷりのシロップを打てば、硬いスポンジも水分を吸って美味しくなります。見た目も層になって美しく、むしろ「おしゃれなデザート」として喜ばれます。
生クリームがボソボソになってしまった時の対処法
泡立てすぎてボソボソになったクリームは、元には戻りません。しかし、まだ泡立てていない新しい液体の生クリームを少しずつ加え、ゴムベラで優しく混ぜ合わせることで、ある程度滑らかさを取り戻せる場合があります。それでもダメな場合は、砂糖を足してバターになるまで撹拌するか、温めて溶かしてグラタンやシチューの料理用クリームとして使い切りましょう。
デコレーションが崩れてしまった時の修正テクニック
ナッペの表面がガタガタになってしまったら、スプーンの背を押し付けて模様をつける「ペタペタ塗り」や、フォークで筋をつけるデザインに切り替えましょう。あるいは、側面全体に薄くスライスしたアーモンド(ローストしたもの)や、削ったチョコレートを貼り付けて隠してしまうのも、クラシックで素敵な仕上げ方です。
ショートケーキの美味しさを保つ保存方法と賞味期限
完成したショートケーキ、あるいは余ったケーキを美味しく保存する方法です。
冷蔵庫での乾燥を防ぐ保存容器とラップのかけ方
冷蔵庫の中は非常に乾燥しています。ケーキ箱に入れているだけでは不十分です。カットしたケーキなら、断面に密着するようにラップを貼り付けるか、ケーキ専用のフィルムを巻きましょう。ホールケーキの場合は、ケーキカバー(ドーム型の蓋)を被せるのがベストですが、ない場合は大きめのボウルを逆さにして被せるだけでも乾燥を防げます。
食べ頃はいつ?「出来立て」vs「一晩寝かせ」の味の違い
ショートケーキの食べ頃は、実は「作ってから半日〜一晩寝かせた後」です。出来立てはスポンジとクリームがまだ馴染んでおらず、バラバラの味がします。一晩冷蔵庫で休ませることで、スポンジがクリームの水分とシロップを吸い、全体が一体化して口の中で同時に溶けるようになります。
冷凍保存は可能?いちごとクリームの冷凍耐性について
基本的にショートケーキの冷凍はおすすめしません。生のいちごは冷凍すると解凍時に水分が出てグズグズになり、生クリームも分離して食感が悪くなるからです。もしどうしても冷凍する場合は、いちごを取り除いてから冷凍し、半解凍の状態で「アイスケーキ」として食べるのが良いでしょう。
FAQ:ショートケーキ作りでよくある質問
Q. ハンドミキサーがないと作れませんか?
泡立て器(ホイッパー)と腕力だけで作ることは理論上可能ですが、共立てのスポンジ生地を全卵から手で泡立てるのは、プロでも重労働であり、十分な気泡を含ませるのが極めて困難です。失敗のリスクを考えると、安価なものでも良いのでハンドミキサーを用意することを強く推奨します。
Q. 植物性ホイップでも同じように作れますか?
作れますが、味と作業性が異なります。植物性ホイップは温度変化に強くボソボソになりにくい反面、保形性が弱くダレやすい傾向があります。また、風味があっさりしているため、コクを出すために練乳を少し加えたり、洋酒で香りを補うなどの工夫をすると美味しくなります。
Q. 15cm(5号)の分量を18cm(6号)に換算するには?
型の体積比で考えると、15cm型と18cm型は約1.5倍の差があります。全ての材料を1.5倍にしてください。焼き時間も長くなります。
現役パティシエのアドバイス
「サイズアップした時の焼き時間は、元の時間にプラス5分〜10分を目安にしてください。ただし、表面だけ焦げて中が生焼けになるのを防ぐため、もし焦げそうなら途中でアルミホイルを被せるなどの調整が必要です。竹串チェックは必須ですよ。」
まとめ:理屈がわかればショートケーキは怖くない!
ショートケーキ作りは、魔法ではなく科学です。「温度」と「混ぜ方」という基本ルールさえ守れば、誰でも必ず美味しいケーキが作れます。
最後に、成功のためのチェックリストを確認しましょう。
- 準備:材料は正確に計量し、卵は常温ではなく冷蔵、逆にバターと牛乳は湯煎で温めておく。
- スポンジ:卵液は40℃に温めてから泡立て、粉合わせは底からすくい上げるように。
- 焼成:予熱は高めに設定し、焼き上がりはショックを与えて逆さにして冷ます。
- クリーム:氷水で冷やしながら泡立て、用途に合わせて固さを使い分ける。
- ナッペ:触りすぎない勇気を持ち、シロップはたっぷりと打つ。
最初はナッペが少し不格好でも構いません。大切なのは、大切な人のために手間暇をかけて作ったという事実と、素材の良さを活かした「家庭ならではの優しい味」です。ぜひ、今週末にでもチャレンジして、ふわふわのショートケーキで食卓を笑顔にしてください。
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