「お店のようなしっとりした鶏ハムを作りたいけれど、家で作るとどうしてもパサついてしまう」「食中毒のニュースを見てから、生焼けが怖くて加熱しすぎてしまい、結局美味しくない」
そんな悩みを抱えていませんか?実は、鶏ハムの成功はレシピそのものよりも、「調理科学に基づいた下処理による保水」と「衛生基準を満たす中心温度の管理」で9割が決まります。
この記事では、給食現場で15年以上、大量調理と衛生管理の最前線に立ってきた管理栄養士である筆者が、鍋で放置するだけで誰でも驚くほどしっとり仕上がり、かつ食中毒リスクを極限まで抑える確実な方法を伝授します。感覚や経験則だけに頼らない、理論に裏打ちされた「究極の鶏ハム」作りをマスターしましょう。
この記事でわかること
- パサつきを物理的に防ぎ、肉汁を繊維の中に閉じ込める「砂糖と塩」の黄金比率と下処理の科学
- 鍋に入れて放置するだけ!アイラップやラップを使った、失敗知らずの基本レシピ
- 「ピンク色は生?それとも安全?」の不安を解消する、プロ直伝の断面確認と保存の絶対ルール
鶏ハム作りで「パサパサ失敗」と「食中毒」が起きる科学的理由
鶏ハム作りにおいて、私たちは常に「しっとり美味しく作りたい」という欲求と、「食中毒を起こしたくない」という恐怖の板挟みになっています。このジレンマを解消するためには、まず敵を知ること、つまり「なぜ肉は硬くなるのか」「菌はどの温度で死ぬのか」という基本原理を理解する必要があります。レシピの手順に移る前に、この前提知識を頭に入れておくだけで、失敗の確率は劇的に下がります。
なぜ家で作るとパサついてしまうのか?(タンパク質の熱変性)
鶏むね肉がパサパサになる最大の原因は、「タンパク質の過剰な熱変性」による水分流出です。肉を構成するタンパク質は、温度によってその構造を変化させます。
具体的には、肉のタンパク質には主に「ミオシン」と「アクチン」という2種類が関与しています。50℃付近から変性が始まるミオシンは、変性しても肉の食感にはそれほど悪影響を与えません。しかし、問題は66℃付近から変性が始まる「アクチン」です。アクチンが熱変性を起こすと、肉の繊維がギュッと収縮し、まるで雑巾を絞るように、内部に含まれていた水分(肉汁)を外へ押し出してしまいます。
つまり、沸騰した100℃のお湯でグラグラと煮込んでしまうと、肉の温度は瞬く間に70℃、80℃と上昇し、アクチンが完全に変性して水分が抜けきった「パサパサのゴムのような肉」になってしまうのです。しっとり感を残すためには、このアクチンが変性する手前の温度帯、あるいは変性が緩やかな温度帯で加熱を止める必要があります。
詳細解説:温度上昇と肉の硬化・水分量の推移
| 温度帯 | タンパク質の状態 | 食感と水分量 |
|---|---|---|
| 〜50℃ | 生の状態 | ぶよぶよしている。水分は保持されているが、食中毒菌は活発。 |
| 60℃〜65℃ | ミオシンが変性、アクチンは未変性 | 理想のゾーン。しっとりとして柔らかい。水分は繊維内に留まっている。 |
| 68℃〜 | アクチンが急激に変性開始 | 肉が白く硬くなり始める。水分が分離して外に出始める。 |
| 75℃〜 | 完全凝固 | 繊維が収縮しきり、パサつきを感じる。水分量は大幅に減少。 |
最も怖い「カンピロバクター」のリスクと殺菌条件
一方で、加熱不足は命に関わる危険性があります。鶏肉において最も警戒すべきは「カンピロバクター」という細菌です。この菌は、少量の菌数(数百個程度)でも食中毒を引き起こす強力な感染力を持ち、発熱、激しい下痢、腹痛、時にはギラン・バレー症候群という神経疾患の後遺症を残すことさえあります。
厚生労働省が定める、食肉の加熱殺菌基準は以下の通りです。
- 中心温度75℃で1分以上
- または、これと同等以上の殺菌効果を有する方法(例:中心温度63℃で30分以上)
ここで重要なのは「中心温度」という言葉です。お湯の温度ではありません。肉の最も厚みのある部分の、そのまた中心の温度がこの基準に達していなければ、菌は死滅しません。「表面が白くなっているから大丈夫」という判断は非常に危険です。カンピロバクターは肉の内部にも入り込んでいる可能性があるため、中心部までの確実な加熱が必須となります。
プロが目指すゴール:「安全」と「しっとり」のギリギリの境界線
ここまででお分かりのように、鶏ハム作りは「アクチンの変性を防ぐために65℃以下に抑えたい」という美味しさの追求と、「カンピロバクターを殺すために63℃以上を30分維持したい」という安全性の確保の、非常に狭いストライクゾーンを狙う作業になります。
プロの料理人や私たち管理栄養士は、この「60℃〜65℃」の温度帯をいかに長くキープし、肉の中心まで熱を伝えるかという点に全神経を注いでいます。今回ご紹介する「放置レシピ」は、鍋の余熱を利用することで、自然とこの理想的な温度カーブを描くように設計されています。
管理栄養士・衛生管理アドバイザーのアドバイス
「私が新人栄養士として給食現場に入ったばかりの頃、食中毒を恐れるあまり、マニュアルよりも高い温度で長時間鶏肉を加熱してしまったことがあります。結果、大量の『硬くて噛み切れない鶏肉』が残食として戻ってきてしまい、調理スタッフにも利用者様にも申し訳ない思いをしました。安全は絶対条件ですが、食べられないほど硬くしてしまっては食事としての意味がありません。そこから、温度管理と事前の『保水下処理』の重要性を徹底的に学び直しました。家庭での調理でも、このバランス感覚が成功の鍵です」
【準備編】プロが教える!絶対にしっとりさせる「魔法の漬け込み」と下処理
鶏ハムの成功の8割は、実は加熱前の「準備」で決まります。ここでどれだけ肉に水分を含ませ、加熱しても水が出にくい状態を作れるかが勝負です。高級な地鶏を買う必要はありません。スーパーの特売のむね肉でも、この工程を経ることで驚くほどジューシーに変身します。
鶏むね肉の選び方と常温戻しの鉄則
まずは良い肉の選び方から始めましょう。パックの中に赤い液体(ドリップ)が溜まっていないものを選んでください。ドリップが出ているものは時間が経過しており、既に水分が抜けて臭みが出始めている証拠です。肉に透明感があり、淡いピンク色をしていて、身に弾力があるものが新鮮です。
そして、調理における最初にして最大のポイントが「調理前に必ず常温(室温)に戻すこと」です。
冷蔵庫から出したばかりの鶏肉は、中心温度が約5℃前後です。この冷たい状態のまま熱湯に入れると、表面はすぐに高温になりますが、中心部分はなかなか温度が上がりません。結果として、中心が生焼けになるか、中心に火が通る頃には表面がカチカチになってしまいます。
調理を開始する30分〜1時間前(夏場は30分、冬場は1時間目安)に冷蔵庫から出し、室温(20℃前後)に近づけておくことで、加熱ムラを最小限に抑えることができます。ただし、出しっぱなしによる菌の増殖を防ぐため、長時間放置しすぎないように注意してください。
繊維を壊して水分を入れる「フォーク刺し」と「観音開き」
次に、肉の形状を整えます。鶏むね肉は厚みに偏りがあるため、そのままでは火の通りが均一になりません。厚い部分に包丁を入れ、左右に開く「観音開き」を行って、全体の厚さを1.5cm〜2cm程度に均一化します。これにより、加熱時間の短縮と生焼けリスクの低減が可能になります。
形が整ったら、フォークで肉の両面をこれでもかというほど刺してください。これは単なるストレス解消ではありません。肉の強固な繊維を物理的に断ち切ることで食感を柔らかくすると同時に、後述する調味液が内部まで浸透する「通り道」を作る重要な工程です。皮については、カロリーが気になる場合は取り除き、ジューシーさを優先する場合はそのままで構いませんが、皮と身の間には黄色い脂肪がついていることが多いので、これは臭みの原因になるため取り除きましょう。
驚異の保水力!砂糖と塩の「黄金比率」と漬け込み時間
いよいよ味付けですが、ここで使うのは「砂糖」と「塩」です。これらは単に味をつけるだけでなく、科学的な作用で肉を柔らかくします。
- 砂糖(保水効果): 砂糖の分子は水と非常に結びつきやすい性質(親水性)を持っています。肉の繊維の間に入り込み、水分を抱え込んで離さないため、加熱しても肉汁の流出を防いでくれます。
- 塩(変性作用): 塩は肉のタンパク質を溶解させ、繊維をほぐす作用があります。また、加熱すると溶けたタンパク質が網目状に固まり、水分を閉じ込める壁の役割を果たします。
【黄金比率の目安】
- 鶏むね肉 1枚(約300g)に対して
- 砂糖:小さじ1 〜 大さじ1/2
- 塩:小さじ1/2 〜 小さじ2/3
この分量を肉全体によくすり込みます。さらに効果を高めたい場合は、水100mlに対して塩5g、砂糖5gを溶かした「ブライン液」に漬け込む方法もプロの手法として有効ですが、家庭で手軽に行うなら「すり込み法」で十分です。
すり込んだ後は、ポリ袋に入れて空気を抜き、冷蔵庫で最低でも半日、できれば一晩(8〜12時間)寝かせてください。この「寝かせ時間」が、調味料を肉の中心まで浸透させ、保水力を最大限に高めるために必要不可欠です。
管理栄養士・衛生管理アドバイザーのアドバイス
「『砂糖を使うと甘くなりませんか?』とよく質問されますが、安心してください。小さじ1程度の量であれば、保水効果が勝り、食べた時に甘ったるさを感じることはほとんどありません。むしろ、肉の旨味を引き立ててくれます。もしどうしても気になる場合は、調理前にさっと表面を水洗いしても、浸透した保水効果は残りますので大丈夫です。砂糖は『調味料』というより『保水剤』として考えてみてください」
【実践編】鍋で放置するだけ!究極のしっとり鶏ハムの作り方
下処理が完了したら、いよいよ加熱調理です。ここでは、最も手軽で失敗の少ない「湯煎放置法」を解説します。特別な低温調理器がなくても、鍋とポリ袋(またはラップ)があれば再現可能です。
Step1:成形とラッピング(アイラップ・ラップの使い分け)
寝かせた肉を取り出し、水分が表面に出ている場合はキッチンペーパーで軽く拭き取ります。ここでの成形方法には2つのパターンがあります。
パターンA:耐熱ポリ袋(アイラップ等)を使う場合【推奨】
1. 肉を筒状に丸め、耐熱性のポリ袋に入れます。
2. 大きめのボウルや鍋に水を張り、袋ごと水に沈めます(袋の口は水に入れないように)。
3. 水圧を利用して袋の中の空気を完全に抜きます(真空パックのような状態にします)。
4. 空気が抜けたら、袋の口をねじって高い位置でしっかり結びます。
※この方法は、肉汁が袋の中に留まるため旨味を逃さず、洗い物も少なくて済みます。
パターンB:ラップで直接巻く場合
1. 広げたラップの上に肉を置き、端からきつく巻いてキャンディ状にします。
2. 両端をねじって結ぶか、輪ゴムで止めます。
3. 重要: 万が一お湯が入らないよう、もう一度新しいラップで二重に巻きます。
※形が綺麗に整いやすいのがメリットです。
Step2:湯煎温度の管理と「投入」のタイミング
大きめの鍋(肉が余裕を持って浸かるサイズ)にたっぷりのお湯を沸かします。お湯の量が少ないと、肉を入れた瞬間に温度が急激に下がってしまい、加熱不足の原因になります。必ずたっぷりの水量を確保してください。
お湯が沸騰したら、ここでプロの技を使います。
- 沸騰したら火を止めます(またはごく弱火にします)。
- コップ1杯(約200ml)の水を鍋に加えます。
これにより、100℃だったお湯の温度が80℃〜85℃付近まで下がります。この状態で肉を投入します。沸騰したままの100℃の中にいきなり入れると、外側だけが瞬時に硬くなってしまいます。少し温度を下げてから入れることで、全体をじっくり温める準備が整います。
Step3:蓋をして「放置」する時間の目安
肉を入れたら、すぐに蓋をします。ここからは余熱による調理です。
放置時間の目安:
- 肉1枚(300g前後)の場合:30分〜45分
- 肉2枚を同時に入れる場合:45分〜1時間
肉が浮いてきてしまうと、お湯に浸かっていない部分が生焼けになります。必ず耐熱性の皿などを落とし蓋のように上に乗せ、肉全体が完全にお湯の中に沈んでいる状態をキープしてください。
Step4:取り出しと「余熱」での仕上げ
時間が来たらお湯から取り出しますが、まだ切ってはいけません。
取り出した直後の肉は、内部で肉汁が暴れている状態です。すぐに切ると、せっかく閉じ込めた肉汁がドバッと溢れ出し、パサつきの原因になります。
手で触れるくらいまで粗熱が取れるまで、常温でそのまま置いておきます。この時間にも予熱が中心部へじわじわと伝わり、殺菌を確実にすると同時に、肉汁を繊維の中に落ち着かせることができます。急いで冷やしたい場合は、氷水に袋ごとつけて急冷しても構いませんが、自然放熱の方がしっとり感は増します。
管理栄養士・衛生管理アドバイザーのアドバイス
「鍋の『厚み』と『保温性』は見落としがちなポイントです。薄手のステンレス鍋やアルミ鍋だと、火を止めた後にお湯の温度が急速に下がってしまい、中心まで熱が通る前に温度不足になるリスクがあります。もし薄手の鍋を使う場合は、鍋ごとバスタオルや毛布で包んで保温するか、新聞紙で覆うなどの工夫をしてください。土鍋や厚手のホーロー鍋(ル・クルーゼなど)は保温性が高く、鶏ハム作りに最適です」
食べる前の最終確認!「生焼け」の判断基準とリカバリー法
調理が終わっても、まだ安心はできません。食べる直前の「確認」こそが、食中毒を防ぐ最後の砦です。ここでは、見た目や感触で安全性を判断する具体的な基準を解説します。
断面の色チェック:「危険なピンク」と「安全なピンク」の違い
鶏ハムを切ったとき、断面がうっすらピンク色をしていることがあります。これを見て「生だ!」と慌てて捨てたり、過剰に再加熱したりする方がいますが、実は全てのピンク色が危険なわけではありません。
- 安全なピンク色(ハム色): 質感は不透明で、しっとりとしているが「生肉」のようなグニュグニュ感はない。ロースハムのような均一な薄いピンク色。これは、肉に含まれる色素タンパク質(ミオグロビン)が発色している現象や、硝酸塩(野菜などに含まれる)の影響で起こることがあり、中心温度が適切に上がっていれば問題ありません。
- 危険なピンク色(生焼け): 透明感があり、赤みが強く、血のような色が混じっている。肉の繊維がはっきりせず、ぶよぶよとしていて、切った包丁にねっとりとまとわりつくような質感。これは明らかに加熱不足です。
肉汁と食感のチェックリスト
視覚だけでなく、以下のポイントも確認してください。
- 肉汁の色: 肉を指で軽く押したとき、透明な肉汁が出ればOKです。濁った赤い汁や、ピンク色の汁が出る場合は、内部に血が残っており加熱不足です。
- 弾力: 指で押したときに、しっかりとした弾力(抵抗感)があれば火が通っています。生の肉のように指が沈み込み、戻ってこないような柔らかさは危険信号です。
もし生焼けだったら?安全にリカバリーする方法
もし「これは怪しいな」と思ったら、絶対に食べずにリカバリー(再加熱)を行ってください。「少しくらいなら大丈夫だろう」という油断が、カンピロバクター食中毒を招きます。
リカバリー方法:
- 電子レンジで加熱: スライスした肉を耐熱皿に並べ、ふんわりとラップをして、600Wで30秒〜1分程度、様子を見ながら加熱します。色が変わり、透明感がなくなればOKです。ただし、少し食感は硬くなります。
- ソテーにする: フライパンで表面を焼いたり、野菜と一緒に炒め物にしたりして、確実に火を通します。鶏ハムとしての食感は変わりますが、料理としては美味しく安全に食べられます。
管理栄養士・衛生管理アドバイザーのアドバイス
「目視での確認に自信がない、という不安な方には、調理用の『中心温度計』の使用を強くおすすめします。1,000円〜2,000円程度でホームセンターや通販で購入できます。これを肉の一番厚い部分に刺し、温度が63℃以上になっているか、あるいは75℃に達しているかを確認すれば、科学的に安全を保証できます。プロの現場では必ず温度計を使います。これ一本で、食中毒の恐怖から完全に解放されるなら安い投資です」
作り置きの衛生ルール:正しい保存期間と冷凍・解凍のコツ
鶏ハムは一度にたくさん作って作り置きにする方も多いでしょう。しかし、保存料を使っていない自家製ハムは、市販品ほど日持ちしません。菌を増やさないための正しい保存ルールを守りましょう。
冷蔵保存の日数目安と腐敗のサイン
完成した鶏ハムは、清潔な保存容器(アルコール消毒や煮沸消毒をしたものがベスト)に入れ、冷蔵庫で保存します。
- 保存期間の目安:冷蔵で3〜4日
スライスしてから保存すると、空気に触れる面積が増えて酸化・劣化が進みやすいため、できれば「塊のまま」保存し、食べる直前に切るのが理想です。また、取り出す際は必ず清潔な箸やトングを使い、直箸は避けてください。
腐敗のサイン:
酸っぱい臭いがする、表面にぬめりがある、糸を引いている、変色している(灰色や緑色)などの異変を感じたら、迷わず廃棄してください。
美味しさをキープする冷凍保存テクニック
食べきれない場合は、新鮮なうちに冷凍保存しましょう。
- 保存期間の目安:冷凍で約1ヶ月
1回分ずつ(スライスしたもの、または小分けにした塊)をラップでぴったりと包み、さらにフリーザーバッグに入れて空気を抜いて冷凍します。金属製のトレイに乗せて急速冷凍すると、組織の破壊が少なく、解凍後のドリップを抑えられます。
パサつかせない解凍方法
解凍方法を間違えると、せっかくのしっとり感が台無しになります。電子レンジの解凍モードは、加熱ムラができやすく、部分的に煮えてパサパサになりがちなのでおすすめしません。
ベストな方法は「冷蔵庫での自然解凍」です。食べる半日前に冷蔵庫に移しておけば、ドリップの流出を最小限に抑え、しっとりしたまま食べられます。急いでいる場合は、氷水に袋ごとつけて解凍する「氷水解凍」が、温度上昇を抑えつつ早く解凍できるため安全です。
管理栄養士・衛生管理アドバイザーのアドバイス
「夏場のお弁当に鶏ハムを入れる場合は特に注意が必要です。水分が多い食品は菌が繁殖しやすいため、お弁当に入れる直前に一度フライパンで焼くか、レンジで再加熱して冷ましてから入れることを推奨します。また、保冷剤を必ず添えて、お昼まで低温をキープするようにしてください。汁気は菌の温床になるので、キッチンペーパーで水気をしっかり拭き取るのもポイントです」
失敗知らずの調理器具別アプローチ(炊飯器・低温調理器)
鍋での放置以外にも、家庭にある調理器具を使って鶏ハムを作ることは可能です。それぞれの特性と注意点を理解して使い分けましょう。
炊飯器の「保温モード」を使う場合の注意点
炊飯器の保温機能は、一般的に70℃〜74℃程度に設定されています。これは鶏ハム作りにはやや高めの温度ですが、手軽さは抜群です。
手順と注意:
1. 炊飯器に70℃くらいのお湯(沸騰したお湯と水を混ぜる)と、下処理した肉(袋入り)を入れます。
2. 保温スイッチを押し、1時間程度で取り出します。
注意点: 機種によっては保温温度が高すぎたり、逆に低すぎたりすることがあります。また、長時間(数時間)入れっぱなしにすると、温度が高すぎてパサつく原因になります。必ず1時間程度で取り出すようにしてください。また、炊飯器のメーカーによっては調理目的での使用を推奨していない場合があるため、取扱説明書を確認してください。
低温調理器を使う場合の最適温度設定
BONIQなどの低温調理器をお持ちの方は、最も確実で再現性の高い調理が可能です。温度と時間を1℃、1分単位で管理できるため、プロクオリティの仕上がりになります。
推奨設定:
- 60℃ 〜 61℃ で 1時間30分 〜 2時間(食中毒リスクを考慮し、時間を長めに取る)
- 63℃ で 1時間
60℃付近で作ると、驚くほど柔らかく、生肉に近いような滑らかな食感になりますが、その分、加熱時間の管理はシビアに行う必要があります。63℃設定の方が、安全性と食感のバランスが取りやすく、初心者にはおすすめです。
飽きずに食べ切る!管理栄養士おすすめのアレンジ3選
たくさん作った鶏ハムも、毎日同じ味では飽きてしまいます。ここでは、栄養バランスを整えつつ、味のバリエーションを楽しめる管理栄養士おすすめのアレンジを紹介します。
【子供が喜ぶ】鶏ハムのチーズピカタ風
お子様が「お肉硬い」と言わずにパクパク食べるメニューです。
スライスした鶏ハムに小麦粉を薄くまぶし、粉チーズを混ぜた溶き卵にくぐらせて、フライパンでさっと焼きます。卵のコーティングがパサつきを完全にカバーし、チーズのコクで満足感もアップします。お弁当のおかずにも最適です。
【大人のおつまみ】鶏ハムのピリ辛ユッケ風
晩酌のお供に、低脂質で罪悪感のないおつまみを。
鶏ハムを細切りにし、コチュジャン、ごま油、醤油、少量の砂糖、にんにく(チューブ)で和えます。仕上げに卵黄を落とし、白ごまを振れば完成。ビールやハイボールが進む濃厚な味わいですが、ベースは鶏むね肉なのでヘルシーです。
【リメイク】硬くなってしまった鶏ハムの救済スープ
もし加熱しすぎて硬くなってしまった鶏ハムがあったら、無理してそのまま食べずにスープにしてしまいましょう。
鶏ハムを手で細かく裂いて、鶏ガラスープの素、生姜、ネギと一緒に煮込みます。鶏ハム自体から良い出汁が出ますし、細かく裂くことで繊維の硬さが気にならなくなります。オートミールやご飯を入れれば、消化に良い鶏雑炊になります。
管理栄養士・衛生管理アドバイザーのアドバイス
「鶏ハムは優秀なタンパク源ですが、それだけではビタミンやミネラル、食物繊維が不足します。特にビタミンCやβカロテンを含む『緑黄色野菜』との相性は抜群です。ブロッコリーを添えたり、トマトと一緒にサラダにしたりするだけで、栄養バランスが劇的に整います。保育園の給食でも、鶏ハムには必ず彩りの良い野菜を組み合わせて提供していました」
よくある質問(FAQ)
最後に、鶏ハム作りに関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 鶏皮は取ったほうがいいですか?
A. 目的によります。
カロリーを抑えたいダイエット中の方は、皮を取り除くことでカロリーを約半分近くまでカットできます。一方、ジューシーさやコクを重視する場合は、皮付きのまま調理しても構いません。取った皮は捨てずに、カリカリに焼いて「鶏皮ポン酢」や「鶏皮せんべい」にすると、無駄なく美味しくいただけます。
Q. ブライン液(塩糖水)に漬けすぎるとどうなりますか?
A. 塩辛くなったり、肉が崩れやすくなったりします。
一晩(8〜12時間)程度なら問題ありませんが、丸1日〜2日漬け込むと、塩分が入りすぎてしょっぱくなりすぎることがあります。また、肉の繊維がほどけすぎて、ハムというよりペーストのような食感になってしまうこともあります。長くても24時間以内を目安に調理することをおすすめします。
Q. ハーブやスパイスはいつ入れるのが正解?
A. 成形時に巻き込むのがおすすめです。
下処理の段階で表面にまぶしても良いですが、湯煎中に袋の中で剥がれ落ちてしまうことがあります。ラップで巻く際や袋に入れる際に、肉の内側(観音開きにした面)にハーブ(バジル、ローズマリーなど)や黒胡椒を振ってから巻くと、香りが中心まで移り、切った時の断面も美しく仕上がります。
まとめ:正しい知識があれば「放置」でも安全で美味しい!
鶏ハム作りは、決して難しいものではありません。しかし、「なんとなく」で作ると、パサつきや食中毒のリスクと隣り合わせになってしまいます。
- 調理前に常温に戻すこと。
- 砂糖と塩でしっかりと保水の下処理をすること。
- 沸騰したお湯に水を足して温度を下げ、蓋をしてじっくり放置すること。
- 食べる前に必ず断面と肉汁を確認すること。
これらのポイントは、全て科学的な根拠に基づいています。このルールさえ守れば、忙しい毎日の中でも、放置するだけで高級デリカテッセンのようなしっとり鶏ハムを、家族に安心して振る舞うことができます。ぜひ今日から、この「安全で美味しい」メソッドを実践してみてください。
鶏ハム作り 最終チェックリスト
- [ ] 肉は調理の30分〜1時間前に冷蔵庫から出し、常温に戻したか?
- [ ] 砂糖と塩をすり込み、時間を置いて下処理をしたか?
- [ ] 鍋のお湯はたっぷりの量を用意したか?
- [ ] 沸騰後、差し水をして温度を調整してから肉を入れたか?
- [ ] 蓋をしてからの放置時間(30分〜1時間)を守ったか?
- [ ] 取り出した後、冷めるまで待ってから切ったか?
- [ ] 断面の色(透明感がないか)と肉汁(赤くないか)を確認したか?
食肉の衛生管理や食中毒予防に関するより詳細な情報は、厚生労働省や食品安全委員会の公式サイトなどで確認することができます。正しい知識を身につけ、安全な食生活を送りましょう。
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