人気YouTuberとして活躍する関根りささんの長男が、指定難病「接合部型表皮水疱症(JEB)」との2年7ヶ月に及ぶ壮絶な闘病の末、2024年末に息を引き取りました。そのあまりにも短い、しかし燃えるような命の輝きは、私たちに「生きること」の意味を問いかけると同時に、日本の医療制度が抱える「ドラッグラグ」という重い課題を浮き彫りにしました。
この記事では、元NICU(新生児集中治療室)看護師としての臨床経験と医療ジャーナリストとしての視点から、以下の3点を中心に深く解説します。
- 関根りささんが公表した長男の闘病経過と、最後の家族旅行に込められた真実
- 専門家が解説する「接合部型表皮水疱症」の症状メカニズムと、想像を絶するケアの実態
- なぜ日本で治療薬が使えなかったのか?「ドラッグラグ」の構造的問題と現在の活動
単なるニュースのまとめではなく、一人の母親としての愛と、難病と闘う家族が直面する現実を、医学的な正確性と共感を持って紐解いていきます。
関根りささんが伝えた長男の闘病と別れ【2年7ヶ月の軌跡】
このセクションでは、関根りささんが公表された情報に基づき、長男の誕生から旅立ちまでの2年7ヶ月の軌跡を振り返ります。それは、絶望的な診断と向き合いながらも、一日一日を懸命に生き抜こうとした親子の愛の物語です。
突然の公表から2年7ヶ月での旅立ちまで
2023年4月、関根りささんは自身のYouTubeチャンネルで、長男が「接合部型表皮水疱症(Junctional Epidermolysis Bullosa, JEB)」という重篤な指定難病であることを公表しました。それまで明るいライフスタイルを発信してきた彼女の口から語られたのは、出産直後から始まった過酷な闘病生活の現実でした。
接合部型表皮水疱症は、生まれた瞬間から皮膚が極めて脆弱で、わずかな摩擦で皮膚が剥がれ落ちてしまう病気です。診断を受けた当初、医師からは「1歳を迎えられるかわからない」という厳しい予後を告げられたといいます。しかし、関根さんとパートナーは「できることは全てやる」という決意のもと、24時間体制のケアを続けました。
SNSや動画を通じて発信されたのは、病気の辛さだけではありませんでした。チューブや包帯に巻かれながらも、時折見せる愛らしい表情や、家族で過ごす穏やかな時間の尊さがそこにはありました。しかし、病状は徐々に進行し、2024年末、最愛の息子さんは2年7ヶ月という短い生涯を閉じました。その訃報は、同じ病気を持つ患者家族だけでなく、多くの子育て世代に深い悲しみと、命の尊さについての再考を促しました。
「思い出を力に」最後のディズニーランド旅行
闘病生活の中で特筆すべきエピソードの一つが、亡くなる数ヶ月前に実現したディズニーランドへの家族旅行です。一般的に、常時医療的ケア(人工呼吸器管理や全身の処置)が必要な子供を連れての外出は、想像を絶する困難を伴います。
外出先での感染リスク、電源の確保、処置スペースの有無、そして移動中の振動による皮膚へのダメージ。これら全てのリスクを天秤にかけ、それでも「息子に楽しい思い出を作ってあげたい」「家族の記憶を残したい」という強い想いが、この旅行を実現させました。
関根さんは後に、「息子と会ったからこそ、始まりがある」と語っています。この言葉には、悲しみの中に留まるのではなく、息子が存在した証を未来への力に変えていこうとする、母としての並々ならぬ覚悟が込められています。医療機器に囲まれた状態であっても、ディズニーランドの空気を感じ、家族で写真を撮ったその時間は、彼らにとって永遠に消えることのない宝物となったはずです。
関根りささんの発信から読み解く想い
「普通に抱っこすることもできない」「痛代わってあげたいのに代われない」という無力感に苛まれながらも、彼女は常に「今、息子にとって何が最善か」を問い続けていました。その姿勢は、多くのファンや同じ境遇にある家族に、「どんな状況でも、愛を伝える方法は必ずある」という勇気を与えました。
【元NICU看護師解説】指定難病「接合部型表皮水疱症」の過酷な現実
ここでは、ニュースの見出しだけでは伝わりきらない「接合部型表皮水疱症(JEB)」の医学的な詳細と、実際の生活がいかに過酷であるかを解説します。なぜこれほどまでにケアが大変なのか、その理由を知ることが、患者家族への理解の第一歩となります。
接合部型表皮水疱症(JEB)とはどのような病気か
表皮水疱症(Epidermolysis Bullosa, EB)は、皮膚を構成する「表皮」と「真皮」を繋ぎ止めるタンパク質(接着構造)が生まれつき欠損または不全である遺伝性疾患です。その中でも「接合部型(Junctional type)」は、表皮と真皮の境界部分(基底膜帯)にある「ラミニン332」や「XVII型コラーゲン」といったタンパク質が機能しないことで発症します。
健康な人の皮膚は、表皮と真皮が強力に接着されているため、擦ったり叩いたりしても皮膚が剥がれることはありません。しかし、接合部型表皮水疱症の患者さんの皮膚は、接着剤がない状態に等しく、衣服の摩擦や寝返り、あるいは抱っこなどの日常的な圧力だけで、皮膚が容易に剥離し、水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)を形成してしまいます。
特に重症型(かつてヘルリッツ型と呼ばれたタイプ)では、皮膚だけでなく、口腔内、食道、気道などの粘膜にも水疱ができるため、呼吸困難や栄養摂取障害を引き起こしやすく、生後早期から生命の危険にさらされることになります。
想像を絶する毎日の処置と感染症リスク
この病気のケアにおいて最も過酷なのが、毎日の皮膚処置です。全身にできた水疱や傷を保護するため、特殊な被覆材やガーゼで全身を覆う必要があります。しかし、このガーゼ交換そのものが、患者さんにとっては激痛を伴う処置となります。
ガーゼが浸出液で傷口に張り付いてしまっている場合、それを剥がす際に新たな皮膚剥離を引き起こすリスクがあります。そのため、処置には数時間を要することも珍しくありません。お風呂に入れるだけでも、皮膚を傷つけないよう細心の注意が必要であり、大人数人がかりでの介助が必要になります。
また、広範囲の皮膚剥離は、身体のバリア機能が失われていることを意味します。常に細菌感染のリスクにさらされており、敗血症などの重篤な感染症を引き起こす可能性と隣り合わせの生活です。栄養状態も悪化しやすく(口の中が痛くてミルクが飲めない、傷の修復にエネルギーが奪われるなど)、成長発達にも大きな影響を及ぼします。
▼【元NICU看護師のアドバイス:皮膚ケアの現場と家族の負担】
新生児集中治療室(NICU)で皮膚疾患のお子さんを担当した経験から言えば、表皮水疱症のケアは医療者であっても極めて神経を使います。テープ一つ剥がすのにも、皮膚が一緒に持っていかれないよう、リムーバーを使いながらミリ単位で進める必要があります。
ご家族が自宅でこれを行う精神的・身体的負担は計り知れません。「抱きしめてあげたいのに、抱きしめると傷ができる」「触れるのが怖い」という葛藤は、親御さんにとって最も辛いことの一つです。毎日の処置は、単なる作業ではなく、子供の痛みを目の当たりにし続ける精神的な戦いでもあるのです。
なぜ日本で治療できなかったのか?「ドラッグラグ」と医療の壁
関根りささんが長男の闘病を通じて社会に強く訴えかけたのが、「ドラッグラグ」の問題です。なぜ、救えるかもしれない薬が日本で使えないのか。その背景にある制度的な壁について解説します。
海外にはある薬が日本で使えない現実
「ドラッグラグ(Drug Lag)」とは、海外で既に承認され使用されている薬剤が、日本国内で承認されるまでに長い時間のズレ(ラグ)が生じる現象のことです。さらに深刻なのが、そもそも日本で開発や治験が行われない「ドラッグロス(Drug Loss)」の問題です。
表皮水疱症に関しては、米国などの海外で、遺伝子治療を応用した外用薬などが承認され、治療効果を上げています。関根さんは、こうした海外の先進的な治療薬を息子さんに使用したいと切望しました。しかし、日本では未承認であるため、保険診療で使用することはできません。
未承認薬を使用するための「人道的見地からの治験(コンパッショネート使用)」や「患者申出療養制度」といった枠組みは存在しますが、実施には莫大な費用がかかる上、製薬会社の協力や複雑な手続きが必要となり、一刻を争う病状の子供にはハードルが高すぎるのが現実です。関根さんの発信は、この「制度の谷間」に苦しむ患者家族の声を代弁するものでした。
ハワイでの起業と「Leona and Company」の挑戦
日本での治療の限界を感じた関根さんは、米国での治療の可能性を模索し、ハワイでの起業を決断しました。これは単なるビジネス展開ではなく、米国での就労ビザを取得し、現地の医療保険や医療制度へアクセスするための、母としての執念の行動でした。
設立された「Leona and Company」は、表皮水疱症の子供たちが着用しやすい肌に優しい衣類などを展開するブランドであると同時に、その収益を研究機関へ寄付する仕組みを持っています。息子さんの治療が間に合わなかったとしても、同じ病気で苦しむ未来の子供たちのために、治療法の研究を支援し続ける。その意志は、現在も形を変えて生き続けています。
▼【医療ジャーナリストのアドバイス:日本のドラッグラグ問題の本質】
日本の薬事承認プロセスは安全性重視で世界的に見ても厳格ですが、その反面、海外で標準治療となっている薬が日本で使えるようになるまで数年の遅れが生じることが多々あります。特に関根さんのような希少疾患(患者数が少ない病気)の場合、市場規模が小さいため製薬会社が日本での開発や治験に消極的になりがちです。
これを解消するには、国によるインセンティブの強化や、国際共同治験への積極的な参加が必要です。彼女の発信は、専門家の間だけで議論されていたこの問題を一般層に広く周知させ、世論を動かすきっかけを作った点で非常に大きな社会的意義を持っています。
私たちにできること:現在の活動と支援の方法
この悲しいニュースに触れ、「自分に何かできることはないか」と考える方も多いでしょう。関根りささんの想いを無駄にしないために、私たちができる具体的なアクションについて整理します。
関根りささんの現在の活動とメッセージ
最愛の息子さんを亡くされた後も、関根さんは悲しみを抱えながら活動を続けています。それは、自身のブランド運営やYouTubeでの発信を通じて、表皮水疱症という病気の認知を広め、研究支援のための資金を生み出すためでもあります。
彼女が立ち上げたブランドの売上の一部は、表皮水疱症の治療法開発を行う研究機関や、患者支援団体へ寄付される仕組みになっています。彼女の活動を応援することは、間接的に難病研究を支えることにつながります。
正しい知識を持ち、支援の輪を広げること
最も身近な支援は、この病気について「正しく知る」ことです。表皮水疱症の患者さんは、見た目の包帯や傷から、周囲の視線に傷つくことが少なくありません。「感染る(うつる)病気ではない」「少しの摩擦でも怪我をしてしまう」という知識が広まるだけで、患者さんやご家族が社会で生きやすくなります。
また、難病研究を支援する団体への直接的な寄付や、チャリティ商品の購入も大きな力になります。一人ひとりの小さな行動が集まることで、製薬会社や国を動かし、ドラッグラグの解消につながる可能性があるのです。
難病支援のためのアクション
Leona and Companyの公式サイトや、難病研究支援団体の情報をチェックし、自分にできる範囲での支援を検討してみてください。SNSで正しい情報をシェアすることも、立派な支援活動の一つです。
よくある質問(FAQ)
ここでは、接合部型表皮水疱症に関して、多くの方が疑問に感じる点について、専門家の視点から回答します。
Q. この病気は遺伝するのですか?兄弟への影響は?
▼【元NICU看護師の回答】
表皮水疱症の多くは遺伝性疾患です。接合部型の場合、常染色体劣性遺伝という形式をとることが多く、ご両親共に症状がなくても、原因となる遺伝子の変異を持っている(保因者である)場合に、25%の確率でお子さんに発症する可能性があります。
次のお子さんへの影響を心配される場合は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを受けることが強く推奨されます。遺伝の形式は型によって異なるため、自己判断せず、必ず専門機関で正確な診断と説明を受けることが大切です。
Q. 完治するための治療法は研究されていますか?
現時点では、完全に治す治療法は確立されていませんが、世界中で希望のある研究が進められています。例えば、患者さんの皮膚の細胞を採取し、正常な遺伝子を導入してからシート状に培養して移植する「遺伝子治療」や、骨髄移植による治療などが臨床試験の段階にあります。
関根さんのような活動家による資金援助や啓発活動は、こうした研究のスピードを加速させる重要な役割を果たしています。
Q. 一般的な「肌が弱い」状態とはどう違いますか?
アトピー性皮膚炎や乾燥肌のような「肌が弱い」状態とは、根本的にメカニズムが異なります。表皮水疱症は、皮膚を繋ぎ止める「アンカー(碇)」となるタンパク質自体が欠損しているため、物理的な構造として皮膚が固定されていません。
そのため、保湿などで改善するレベルではなく、日常生活の些細な摩擦(服の縫い目、抱っこ、寝具との接触)が、重度の熱傷(やけど)のような傷に直結します。生命予後に関わる場合がある点でも、一般的な皮膚トラブルとは全く異なる深刻な疾患です。
まとめ:小さな命が遺した大きな希望
関根りささんの長男が懸命に生きた2年7ヶ月の物語は、決して単なる「かわいそうな闘病記」ではありません。それは、過酷な運命の中でも、家族が互いを愛し抜き、最期の瞬間まで「生」を全うした尊い記録です。
そして、彼の存在は、日本の医療制度における「ドラッグラグ」という課題を白日の下に晒し、多くの人々の意識を変えるきっかけとなりました。彼の命は失われてしまいましたが、その影響力は今も波紋のように広がり、未来の医療を変える力となっています。
私たちにできることは、この事実を忘れず、難病と闘う人々への理解と支援を続けることです。ぜひ、今日得た知識を心に留め、あなたなりの方法で支援の輪に加わってみてください。
要点チェックリスト
- 関根りささんの長男は、指定難病「接合部型表皮水疱症(JEB)」と2年7ヶ月間闘い抜いた。
- この病気は、皮膚の接着タンパク質が欠損し、わずかな刺激で全身に水疱や傷ができる過酷な疾患である。
- 海外で承認されている治療薬が日本で使えない「ドラッグラグ」の壁が、治療の選択肢を狭めている現実がある。
- 関根さんはハワイで起業し、ブランドの売上を研究費として寄付する活動を継続している。
- 私たちは「正しく知る」ことや「寄付・応援」を通じて、難病患者支援に参加することができる。
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