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【専門家解説】ジェンダーとは?正しい意味と日本の現状、ビジネスパーソンが知るべき平等の視点

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近年、ニュースやビジネスの現場で「ジェンダー(Gender)」という言葉を耳にする機会が急激に増えました。しかし、「なんとなく男女平等のことだろう」「性差別の話ではないか」といった漠然とした理解に留まり、その本質的な意味や、なぜ今これほどまでに重要視されているのかを正確に説明できる人は多くありません。特に日本のビジネスシーンにおいては、ジェンダーに対する理解不足が、無意識のハラスメントや優秀な人材の離職、ひいては企業の成長阻害要因にさえなり得るのが現状です。

結論から申し上げますと、ジェンダーとは、生物学的な性別(Sex)とは異なり、社会的・文化的につくられた性差や役割のことを指します。「男だから仕事、女だから家庭」「男性は泣くべきではない、女性は愛嬌があるべきだ」といった、私たちが生まれ育つ中で知らず知らずのうちに内面化してきた価値観や規範そのものがジェンダーです。現代社会では、この「つくられた性差」による不平等や生きづらさを解消し、多様性(DEI:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を尊重する姿勢が、企業経営や個人の幸福において不可欠となっています。

この記事では、組織開発・DEI推進コンサルタントとして年間80回以上の研修に登壇し、多くの企業の意識変革に携わってきた筆者が、以下の3点を中心に徹底解説します。

  • 「ジェンダー」と「セックス」の正確な違いと定義、関連用語の整理
  • 日本のジェンダーギャップ指数の衝撃的な現状と、職場に潜む「無意識の偏見」
  • 男性も楽になる?性別役割分担の見直し方と、今日からできる具体的なアクション

ジェンダーの問題を学ぶことは、誰かを責めることではありません。むしろ、これまで「当たり前」だと思っていた常識を疑い、あなた自身や周囲の人々を縛っている「見えない鎖」を解き放つためのポジティブなプロセスです。ぜひ最後までお読みいただき、新しい視点を手に入れてください。

  1. ジェンダー(Gender)の基礎知識:定義と概念を正しく理解する
    1. ジェンダーの定義:「社会的・文化的につくられた性差」とは
    2. 生物学的性(Sex)とジェンダー(Gender)の決定的な違い
    3. ジェンダー・アイデンティティ(性自認)と表現の関係
    4. なぜ今、「ジェンダー」の理解が求められているのか
  2. データで見る日本の現在地:ジェンダー・ギャップ指数の衝撃
    1. 世界経済フォーラム(WEF)「ジェンダー・ギャップ指数」の仕組み
    2. 日本の総合順位と主要先進国(G7)との比較
    3. 分野別スコア分析:政治・経済分野における著しい遅れ
    4. 「教育」と「健康」分野における達成度と課題
    5. 経済損失の視点:ジェンダー不平等が日本経済に与える影響
  3. 職場に潜む「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」
    1. 悪気はないのに傷つける?アンコンシャス・バイアスの正体
    2. 職場によくあるバイアス事例①:役割付与と昇進の壁
    3. 職場によくあるバイアス事例②:マイクロアグレッション(無自覚な攻撃)
    4. 「固定的性別役割分担」が組織の生産性を下げるメカニズム
    5. ハラスメントリスクの回避:管理職が注意すべき言動ライン
  4. 男性にとっても他人事ではない「ジェンダーの呪縛」と生きづらさ
    1. 「男らしさの規範(Masculinity)」がもたらすプレッシャー
    2. 大黒柱バイアスと長時間労働・過労死リスクの関連
    3. 男性育休取得の壁と「パタニティ・ハラスメント」
    4. ケア労働(育児・介護)への参画がもたらすキャリアへの好影響
  5. ジェンダーとセクシュアリティ(LGBTQ+・SOGI)の関係性
    1. ジェンダーと性的指向(Sexual Orientation)の違い
    2. SOGI(ソジ)とは:誰もが持っている「性的指向・性自認」の属性
    3. 職場におけるSOGIハラ(SOGIハラスメント)の防止と対応
    4. 多様性(ダイバーシティ)を尊重する組織風土の作り方
  6. ジェンダー平等のために私たちが今日からできること
    1. 言葉遣い(ランゲージ)のアップデート:性別を特定しない表現へ
    2. 家庭でのアクション:家事・育児の「見えない負担」を可視化する
    3. 職場でのアクション:会議の発言権と意思決定への公平な参加
    4. 企業の取り組み事例:ポジティブ・アクションと制度改革
  7. ジェンダーに関するよくある質問(FAQ)
  8. まとめ:ジェンダーの理解は、誰もが自分らしく生きるための第一歩

ジェンダー(Gender)の基礎知識:定義と概念を正しく理解する

まずは、「ジェンダー」という言葉の正確な定義と、混同されがちな概念について整理していきましょう。ビジネスや日常生活で誤った使い方をしてしまわないよう、基礎を固めることが重要です。ここでは、社会学的な定義に基づき、図解的な視点も交えて解説します。

ジェンダーの定義:「社会的・文化的につくられた性差」とは

ジェンダー(Gender)とは、一言で言えば「社会的・文化的につくられた性別」のことです。これは、生まれ持った身体的特徴によって決まる性別ではなく、その社会や時代、文化の中で「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」と規定された役割、行動規範、価値観などを指します。

例えば、「スカートは女性が履くもの」という認識は、現代の日本や欧米では一般的ですが、歴史を遡れば男性がスカート状の衣服を着用していた時代や地域もありました。また、「家事や育児は女性の役割」という考え方も、生物学的な必然性ではなく、産業革命以降の社会構造の中で強化された「性別役割分担意識」によるものです。このように、時代や地域によって変化する流動的な性差こそがジェンダーの正体です。

重要なのは、これらの規範が「自然なもの」ではなく「つくられたもの」であるという点です。しかし、私たちは生まれた瞬間から「男の子なら青、女の子ならピンク」といった色分けに始まり、家庭、学校、メディアを通じてジェンダー規範を繰り返し刷り込まれるため、それがまるで絶対的な真理であるかのように錯覚してしまいがちです。

生物学的性(Sex)とジェンダー(Gender)の決定的な違い

ジェンダーを正しく理解するためには、生物学的性(Sex)との明確な区別が必要です。英語圏ではこの二つは明確に使い分けられていますが、日本では混同されやすい傾向にあります。

項目 Sex(セックス) Gender(ジェンダー)
定義 生物学的・解剖学的な性別 社会的・文化的につくられた性別
基準 染色体、ホルモン、生殖器などの身体的特徴 社会通念、慣習、歴史、服装、言葉遣い、役割
特徴 基本的に普遍的(国や時代で変わらない) 流動的(国、時代、文化によって変化する)
具体例 「女性は出産できる」「男性は精子をつくる」 「男性は仕事、女性は家庭」「男性は泣かない」「女性は気配り」

このように比較すると、Sexは「変えられない(変えにくい)事実」に基づいているのに対し、Genderは「人間の意識や社会構造によって変えられるもの」であることがわかります。ジェンダー平等の議論において焦点となるのは、Sexによる区別を否定することではなく、Sexの違いを理由に、Gender(社会的役割や機会)を不当に制限したり、格差を生じさせたりすることをなくそうという点にあります。

ジェンダー・アイデンティティ(性自認)と表現の関係

さらに理解を深めるために、「ジェンダー・アイデンティティ(Gender Identity)」という概念も知っておく必要があります。これは「性自認」と訳され、「自分自身の性をどのように認識しているか」という心の性のあり方を指します。

人の性のあり方は、以下の3つの層が重なり合って構成されているとイメージしてください。

  • 身体的性(Sex): 出生時に割り当てられた身体的な性別。
  • 性自認(Gender Identity): 自分が自分の性をどう感じているか(男性、女性、どちらでもない、など)。
  • 社会的性役割(Social Gender Role): 服装、言葉遣い、振る舞いなど、社会に対して表現する性。

多くの人は身体的性と性自認が一致していますが(シスジェンダー)、これらが一致しない人(トランスジェンダー)も存在します。また、性自認は必ずしも「男か女か」の二元論で割り切れるものではなく、その中間に位置したり、流動的であったりする場合もあります(ノンバイナリーなど)。ビジネスの現場においては、外見だけで相手の性自認を決めつけたり、「男のくせに」「女なのに」といった言葉で相手のアイデンティティを否定したりしない配慮が求められます。

なぜ今、「ジェンダー」の理解が求められているのか

今、世界中でこれほどまでにジェンダーへの関心が高まっている背景には、明確な理由があります。それは、既存のジェンダー規範が限界を迎え、社会の持続可能性を脅かしているからです。

かつての高度経済成長期における日本のように、「男性が長時間労働で稼ぎ、女性が専業主婦として家を守る」というモデルが機能していた時代もありました。しかし、少子高齢化による労働人口の減少、産業構造の変化、個人の価値観の多様化が進んだ現代において、この固定的なモデルはもはや維持不可能です。

企業にとっては、性別に関わらず優秀な人材を確保し、多様な視点を取り入れてイノベーションを起こすことが生存戦略となっています。また、SDGs(持続可能な開発目標)の目標5に「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられている通り、ジェンダー平等は人権問題であると同時に、経済合理性の観点からも必須の課題となっているのです。

【補足】「ジェンダーフリー」と「ジェンダーレス」の違い

似たような言葉に「ジェンダーフリー」と「ジェンダーレス」がありますが、ニュアンスが異なります。

  • ジェンダーフリー: 「男らしさ・女らしさ」という固定的な性別役割分担にとらわれず、誰もが自分らしく生きられるようにしようという「考え方」や「社会運動」を指します。性差そのものをなくすことではなく、性差による差別や制限をなくすことが目的です。
  • ジェンダーレス: ファッションやコスメの分野でよく使われる言葉で、性別の境界をなくした、あるいは男女どちらでも使えるデザインやスタイルを指します。より「表現」や「モノ」にフォーカスした言葉と言えます。

ビジネスの文脈では、組織の方針としては「ジェンダーフリー(役割からの解放)」を目指し、商品開発などでは「ジェンダーレス(性別を問わない)」な視点を取り入れる、といった使い分けがされます。

組織開発・DEI推進コンサルタントのアドバイス
「多くの方が『男らしさ・女らしさ』と『生物学的な性』を混同しています。しかし、ビジネスの現場ではこの区別がつかないと、個人の能力よりも性別を優先した配置転換などを行い、優秀な人材の離職を招くリスクがあります。例えば、『女性だから細かい作業が得意だろう』『男性だから転勤も大丈夫だろう』といった判断は、SexではなくGenderの思い込みに基づいています。まずは『変えられる性差(ジェンダー)』と『変えられない性差(セックス)』を明確に区別することが、マネジメントのスタートラインです。」

データで見る日本の現在地:ジェンダー・ギャップ指数の衝撃

ジェンダーの定義を理解したところで、次に日本の現状を客観的なデータで確認します。日本は世界的に見て、ジェンダー平等がどれくらい進んでいるのでしょうか。ここでは、世界経済フォーラム(WEF)が発表している「ジェンダー・ギャップ指数」を中心に解説します。

世界経済フォーラム(WEF)「ジェンダー・ギャップ指数」の仕組み

「ジェンダー・ギャップ指数(Global Gender Gap Index)」とは、スイスに本部を置く世界経済フォーラムが毎年発表している報告書で、各国の男女格差の度合いを数値化したものです。この指数は、以下の4つの分野のデータを基に算出されます。

  • 経済(Economy): 労働参加率、同一労働同一賃金、推定勤労所得、管理職の比率など
  • 教育(Education): 識字率、初等・中等・高等教育への就学率
  • 健康(Health): 出生時の男女比、健康寿命
  • 政治(Politics): 国会議員の比率、閣僚の比率、過去50年間の女性国家元首の在任期間

スコアは「0」が完全不平等、「1」が完全平等を意味し、スコアが高いほど男女格差が小さいことを示します。あくまで「格差」を測るものであり、その国の経済力や女性の幸福度そのものを直接測るものではない点には注意が必要ですが、国際的な達成度を比較する最も信頼性の高い指標の一つとして広く引用されています。

日本の総合順位と主要先進国(G7)との比較

2024年に発表された最新のレポートにおいて、日本の総合順位は調査対象146カ国中118位でした。前年の125位からはわずかに上昇したものの、依然として世界最低水準であり、主要先進国(G7)の中では最下位が定位置となっています。

主要国(G7+近隣国)のジェンダー・ギャップ指数順位(2024年版)
国名 順位 特徴
ドイツ 7位 クオータ制導入などで政治・経済分野が高い
イギリス 14位 教育・健康で高スコア、政治参加も進む
フランス 22位 パリテ法(候補者男女同数法)の効果
アメリカ 43位 経済分野は強いが、政治分野で伸び悩み
イタリア 87位 近年改善傾向にあるが経済分野に課題
韓国 94位 日本と同様に賃金格差などが課題だが日本より上位
日本 118位 政治・経済分野のスコアが極めて低い

この順位は、アジア諸国の中でもフィリピン(25位)やシンガポール(48位)、タイ(65位)などに大きく遅れをとっています。「日本は先進国である」という自負とは裏腹に、ジェンダー平等という観点においては「発展途上国」と言わざるを得ないのが現実です。

分野別スコア分析:政治・経済分野における著しい遅れ

なぜ日本の順位はこれほど低いのでしょうか。その原因は、4つの分野ごとのスコアを見ると明らかです。日本は「教育」と「健康」の分野では世界トップクラスの成績を収めている一方で、「政治」と「経済」の分野で致命的な低スコアを記録し、全体の足を引っ張っています。

  • 政治分野(113位): 女性議員の比率が衆議院で約10%、閣僚における女性比率も低迷しています。意思決定の場に女性が極端に少ないことが、政策決定における多様性の欠如につながっています。
  • 経済分野(120位): 男女の賃金格差、管理職に占める女性比率の低さが顕著です。多くの女性が非正規雇用に従事していることや、出産・育児を機にキャリアが分断される「M字カーブ」の問題が依然として根強く残っています。

「教育」と「健康」分野における達成度と課題

一方で、明るい材料もあります。「教育」分野では、読み書き能力や初等・中等教育への就学率において男女差はほぼ解消されており、世界1位のグループに位置しています(ただし、高等教育への進学率にはまだ若干の差が見られます)。「健康」分野でも、適切な医療へのアクセスや健康寿命において高い水準を維持しています。

しかし、これは「基礎的な能力開発や健康維持までは平等だが、社会に出てからの活躍の機会(政治・経済)で大きな格差が生まれている」という日本の歪な構造を浮き彫りにしています。優秀な教育を受けた女性たちが、社会に出た途端に能力を発揮できないシステムになっていることは、国としての巨大な損失です。

経済損失の視点:ジェンダー不平等が日本経済に与える影響

ジェンダーギャップは単なる倫理的な問題ではありません。経済的な損失に直結しています。ゴールドマン・サックス証券の試算などによると、男女の雇用格差が解消されれば、日本のGDP(国内総生産)は大幅に押し上げられる可能性があると指摘されています。

労働人口が減少する日本において、女性の労働参加と生産性向上は経済成長の必須条件です。また、多様な視点を持つ組織の方が、リスク管理能力が高く、イノベーション創出につながりやすいという研究結果も多数報告されています。ジェンダー平等への取り組みは、企業の成長戦略そのものであるという認識が、投資家や経営者の間でも常識となりつつあります。

組織開発・DEI推進コンサルタントのアドバイス
「『日本は遅れている』と悲観するだけでなく、『伸びしろがある』と捉えましょう。特に経済分野でのスコア改善は、企業のイノベーション創出や人材確保に直結します。実際に、女性管理職比率の高い企業は、低い企業に比べて株式パフォーマンスが良いというデータもあります。経営戦略としてジェンダー平等に取り組む企業が増えているのは、それが『儲かるから』であり『生き残るため』なのです。この順位を、変革への強烈な動機付けとして利用してください。」

職場に潜む「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」

データでマクロな視点を確認した後は、私たちの日常、特に職場環境に焦点を当ててみましょう。制度が整っていても、なぜか女性が活躍しにくい、男性が育休を取りにくいといった空気がある場合、その原因の多くは「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」にあります。

悪気はないのに傷つける?アンコンシャス・バイアスの正体

アンコンシャス・バイアス(Unconscious Bias)とは、誰もが持っている「無意識の偏見」や「ものの見方の歪み」のことです。脳が膨大な情報を効率的に処理するために行う「高速処理」の結果であり、脳の機能そのものなので、持っていること自体が悪いわけではありません。

しかし、このバイアスが「性別」と結びついたとき、知らず知らずのうちに不公平な判断や差別的な言動を生み出してしまいます。厄介なのは、本人には「差別しているつもり」が全くなく、むしろ「良かれと思って」行っている場合さえあることです。

職場によくあるバイアス事例①:役割付与と昇進の壁

あなたの職場で、以下のようなことは起きていないでしょうか。

  • 事例A: 来客へのお茶出しや会議室の片付けを、無意識に若手の女性社員に期待したり、頼んだりしてしまう。
  • 事例B: 新規プロジェクトのリーダー選定で、実力は拮抗しているが、「女性の〇〇さんは小さいお子さんがいて大変だろうから」と配慮のつもりで男性社員を抜擢した。

事例Bは「善意の配慮」に見えますが、本人の意向を確認せずに機会を奪っている点で、「パターナリズム(父権的温情主義)」に基づくバイアスです。これが積み重なると、女性社員は経験を積むチャンスを失い、結果として昇進の道が閉ざされる「ガラスの天井」が形成されてしまいます。

職場によくあるバイアス事例②:マイクロアグレッション(無自覚な攻撃)

日常会話の中にもバイアスは潜んでいます。これを「マイクロアグレッション(微細な攻撃)」と呼びます。

  • 「女性ならではの視点で意見を言ってよ」(女性を一括りにし、個人の専門性を見ていない)
  • 「男なのに甘いものが好きなの?」(男らしさの押し付け)
  • 「ご主人の協力があっていいね」(家事育児は女性の主担当であるという前提)

一つひとつは些細な言葉かもしれませんが、言われた側にとっては「蚊に刺されたような不快感」が蓄積し、モチベーションの低下やメンタルヘルスの悪化を招く原因となります。

「固定的性別役割分担」が組織の生産性を下げるメカニズム

「男は仕事、女は家庭」といった固定的性別役割分担意識が強い組織では、以下のようなメカニズムで生産性が低下します。

  1. 適材適所の阻害: 能力や適性ではなく、性別で仕事が割り振られるため、個人のパフォーマンスが最大化されない。
  2. 心理的安全性の欠如: 「男らしく/女らしく」振る舞うことにエネルギーを使い、本来の業務に集中できない。
  3. 同質性の罠: 似たような価値観の(多くは男性)メンバーだけで意思決定を行うため、市場の変化や多様な顧客ニーズに気づけず、判断ミスを起こす。

ハラスメントリスクの回避:管理職が注意すべき言動ライン

アンコンシャス・バイアスを放置することは、セクシャル・ハラスメント(セクハラ)やパワー・ハラスメント(パワハラ)のリスクにも直結します。特に現代では、受け手がどう感じるかが重視されます。

管理職は、「昔はこれくらい許された」という感覚を捨て、「性別に関する発言は、業務上の必要性がない限り基本的にしない」というくらい慎重な姿勢が必要です。容姿への言及、結婚や出産の予定を聞くこと、性別を理由にした能力の評価などは、即座にレッドカードになり得ることを認識しましょう。

組織開発・DEI推進コンサルタントのアドバイス
「部下に仕事を頼むとき、『これは女性に向いている(気配りなど)』『男性だから体力仕事でも大丈夫』と瞬時に判断していませんか?その判断の根拠が『個人の能力・適性』ではなく『性別』になっていないか、一呼吸置いて問い直す習慣をつけましょう。これを『6秒ルール』と呼んでいます。発言する前に6秒だけ考えることで、脳の直感的なバイアスを理性がコントロールできるようになります。」

男性にとっても他人事ではない「ジェンダーの呪縛」と生きづらさ

ジェンダー平等の話をすると、「女性ばかり優遇されて、男性は肩身が狭い」と感じる男性も少なくありません。しかし、ジェンダーの問題は、実は男性自身を苦しめている「男らしさの呪縛」からの解放という側面も強く持っています。ここでは、男性視点でのジェンダー課題について深掘りします。

「男らしさの規範(Masculinity)」がもたらすプレッシャー

「男は泣くな」「男は弱音を吐くな」「男は競争に勝て」。こうした「男らしさの規範」は、幼少期から男性たちに刷り込まれています。社会学ではこれを「有毒な男らしさ(Toxic Masculinity)」と呼ぶこともあります。

この規範により、多くの男性は自分の弱さや感情を表現することを禁じられ、常に強くあることを強いられてきました。その結果、悩みがあっても誰にも相談できず、孤立を深めたり、メンタルヘルスを悪化させたりするケースが後を絶ちません。自殺者の数において男性が女性よりも圧倒的に多い背景には、この「助けを求められない」ジェンダー規範が影響していると考えられています。

大黒柱バイアスと長時間労働・過労死リスクの関連

「男が家族を養わなければならない」という「大黒柱バイアス」も、男性を長時間労働へと駆り立てる大きな要因です。経済環境が変化し、共働きが当たり前になった現在でも、心のどこかで「稼ぎが少ないのは男として恥だ」というプレッシャーを感じている男性は多いのではないでしょうか。

このプレッシャーは、過労死や過労自殺といった深刻な問題につながっています。ジェンダー平等が進み、「稼ぐ責任」も「ケアする責任」も男女で分かち合うことができれば、男性は過度な重圧から解放され、より健康的に働くことができるようになります。

男性育休取得の壁と「パタニティ・ハラスメント」

近年、男性の育児休業取得が推奨されていますが、現場では依然として高い壁があります。「男が育休なんて取って出世に響かないか」「同僚に迷惑をかけるのではないか」という不安に加え、上司や同僚からの「男のくせに育休か」といった心ない言葉(パタニティ・ハラスメント=パタハラ)が取得を阻んでいます。

これもまた、ジェンダー規範による弊害です。男性が育児に関わる権利を侵害されている状態であり、ここが変わらなければ、女性の家事育児負担も減らず、結果として女性の社会進出も進まないという悪循環に陥ります。

ケア労働(育児・介護)への参画がもたらすキャリアへの好影響

一方で、育児や介護などのケア労働に積極的に関わることは、男性のキャリアにとってもプラスになります。時間制約の中で成果を出すタイムマネジメント能力、子供や高齢者といった「思い通りにならない相手」と接することで磨かれる忍耐力やコミュニケーション能力は、多様な部下をマネジメントする管理職のスキルと直結します。

「家庭を顧みず働く」スタイルしか知らないリーダーよりも、「生活者の視点」を持ったリーダーの方が、現代の消費者のニーズを理解し、部下のワーク・ライフ・バランスに配慮した組織運営ができるため、結果として高く評価される時代になっています。

組織開発・DEI推進コンサルタントの現場エピソード
「ある大手企業の管理職研修での出来事です。強面で知られるベテラン部長が、アンコンシャス・バイアスのワークショップ中に突然涙を流されました。『今まで、男は弱音を吐くなと自分を殺して働いてきた。部下にもそれを強要していた。でも、本当はずっと辛かった』と。その瞬間、会場の空気が変わりました。ジェンダー平等とは、女性のためだけでなく、男性が『鎧』を脱いで、一人の人間として生きるための解放運動でもあるのだと、参加者全員が腹落ちした瞬間でした。」

ジェンダーとセクシュアリティ(LGBTQ+・SOGI)の関係性

ジェンダーを語る上で避けて通れないのが、LGBTQ+などの性的マイノリティに関する話題です。これらは密接に関連していますが、用語や概念を正確に理解していないと、意図せず相手を傷つけてしまうリスクがあります。

ジェンダーと性的指向(Sexual Orientation)の違い

先ほど「ジェンダー・アイデンティティ(性自認)」について触れましたが、もう一つ重要な要素が「性的指向(Sexual Orientation)」です。これは「どんな性別の人を好きになるか(あるいはならないか)」という恋愛・性愛の対象の向きを指します。

  • 性自認(Gender Identity): 自分の性をどう認識しているか(男、女、Xジェンダーなど)。
  • 性的指向(Sexual Orientation): 好きになる対象は誰か(異性、同性、両性、誰も好きにならないなど)。

例えば、トランスジェンダー(身体的性と性自認が一致しない人)が必ずしも同性愛者であるとは限りません。「トランスジェンダー女性(身体は男性、自認は女性)で、女性が好き(レズビアン)」というケースもあります。これらは独立した要素として理解する必要があります。

SOGI(ソジ)とは:誰もが持っている「性的指向・性自認」の属性

最近では、LGBTQ+という言葉に代わり、SOGI(ソジ)という言葉が使われるようになっています。これは、Sexual Orientation(性的指向)と Gender Identity(性自認)の頭文字を取ったものです。

LGBTQ+が「特定のマイノリティの人々」を指す言葉として受け取られがちなのに対し、SOGIは「異性愛者であり、身体と心の性が一致している人」も含めた、すべての人に関わる属性を指します。「肌の色」や「年齢」と同じように、誰もが自分のSOGIを持っています。この視点を持つことで、「あの人たちの問題」から「私たち全員の多様性の問題」へと意識を転換することができます。

職場におけるSOGIハラ(SOGIハラスメント)の防止と対応

SOGIに関連した差別的な言動や嫌がらせを「SOGIハラ」と呼びます。以下のような言動はSOGIハラに該当し、ハラスメント防止法(パワハラ防止法)の指針でも防止措置が義務付けられています。

  • 「まだ結婚しないの?」「彼氏/彼女はいないの?」としつこく聞く(異性愛前提の押し付け)。
  • 同性愛者やトランスジェンダーを嘲笑するような冗談を言う。
  • 本人の許可なく、その人のSOGIを第三者に言いふらす(アウティング)。
  • トランスジェンダーの社員に対し、自認する性に応じたトイレや更衣室の使用を不当に制限する。

多様性(ダイバーシティ)を尊重する組織風土の作り方

SOGIを含めた多様性を尊重する組織を作るためには、制度(ハード)と風土(ソフト)の両面からのアプローチが必要です。同性パートナーシップ制度を福利厚生に適用するなどの制度整備はもちろんですが、それ以上に「どんなSOGIであっても、ここでは安全に働ける」という心理的安全性の醸成が重要です。

具体的には、研修による知識のアップデート、相談窓口の設置、そして何より経営層や管理職が「差別を許さない」という明確なメッセージを発信し続けることが求められます。

組織開発・DEI推進コンサルタントのアドバイス
「部下からカミングアウトを受けた際、良かれと思って『君のことを理解してもらうために、チームのみんなにも話しておこう』と勝手に伝えてしまうのは絶対にいけません。これは『アウティング』という重大な人権侵害になり、場合によっては命に関わる事態を招きます。カミングアウトされたら、まずは『話してくれてありがとう』と受け止め、『誰まで伝えてよいか(あるいは誰にも言わないでほしいか)』を必ず本人に確認してください。情報のコントロール権は常に本人にあります。」

ジェンダー平等のために私たちが今日からできること

ここまで、ジェンダーに関する知識や課題を見てきました。では、私たちは具体的に何をすればよいのでしょうか。特別な活動家になる必要はありません。日常の言葉遣いや行動を少し変えるだけで、周囲への影響は確実に広がります。

言葉遣い(ランゲージ)のアップデート:性別を特定しない表現へ

言葉は思考を作ります。性別を不必要に強調する言葉や、役割を固定する言葉を見直してみましょう。

これまでの表現(見直しの対象) 推奨される表現(ジェンダーニュートラル) 理由
ビジネスマン、営業マン ビジネスパーソン、営業担当 女性も含まれるため
看護婦、保母 看護師、保育士 男性も従事しているため
彼氏、彼女、ご主人、奥さん パートナー、配偶者 異性愛前提や主従関係のニュアンスを避ける
「男らしく」「女らしく」 「あなたらしく」「自分らしく」 性別ではなく個性を尊重

家庭でのアクション:家事・育児の「見えない負担」を可視化する

家庭内では、「名もなき家事」の分担を見直すことが第一歩です。ゴミ出しといっても、ゴミを集め、分別し、新しい袋をセットするところまでが含まれます。料理には、献立を考え、在庫を確認し、買い物に行く工程があります。

男性側が「手伝う」というスタンスでいる限り、主体的な分担はできません。「家庭運営の共同責任者」として、タスクを洗い出し、得意不得意や時間の余裕に合わせて公平に分担し直す話し合いの場を設けてみましょう。

職場でのアクション:会議の発言権と意思決定への公平な参加

会議の場で、女性の発言が遮られたり、女性のアイデアが男性の発言として再評価されたりすることはありませんか? 管理職や進行役は、以下の点に注意して会議を運営してください。

  • 発言の機会が偏らないよう、全員に話を振る(特にマイノリティの意見を拾う)。
  • 誰かが発言を遮ったら、「最後まで聞きましょう」と介入する。
  • 「〇〇さんの意見は素晴らしいですね」と、発案者のクレジットを明確にする。
  • 意思決定の場に女性がいない場合、「なぜいないのか?」「当事者の意見は反映されているか?」と疑問を呈する。

企業の取り組み事例:ポジティブ・アクションと制度改革

企業レベルでは、「ポジティブ・アクション(積極的格差是正措置)」が有効です。これは、過去の経緯による格差が存在する場合、それが解消されるまでの間、暫定的にマイノリティ側を優遇する措置です。

例えば、「管理職候補の研修生を男女同数にする」「採用試験で同等の能力であれば女性を優先して採用する」といった施策です。これは逆差別ではなく、スタートラインを揃えるための「公平性(エクイティ)」の実現手段として、多くのグローバル企業で導入されています。

組織開発・DEI推進コンサルタントのアドバイス
「いきなり全てを変えるのは難しいですが、『男だから/女だから』という言葉を『自分自身』に置き換えるだけでも景色は変わります。『男だから泣いてはいけない』ではなく『自分は今悲しいから泣きたい』と感情を認める。『女だから家事をすべき』ではなく『自分は料理が好きだから担当する』と選択する。まずは自分の半径5メートル以内のコミュニケーションから、主語を『性別』から『私(I)』に変えていきましょう。」

ジェンダーに関するよくある質問(FAQ)

最後に、研修やコンサルティングの現場でよく寄せられる質問にお答えします。

Q. 「ジェンダー平等」は女性優遇(男性差別)になりませんか?

A. なりません。ジェンダー平等が目指すのは、性別による不当な制限や特権をなくし、誰もが公平に扱われる社会です。現状、多くの分野で男性が有利な構造(ゲタを履かされている状態)にあるため、それを是正する過程で「男性の特権」が失われることを「差別された」と感じるケースがありますが、これは「公平な状態への調整」です。長期的には、男性も「男らしさ」の重圧から解放され、より生きやすい社会になるメリットがあります。

Q. 子どもにジェンダーについてどう教えればいいですか?

A. 「決めつけないこと」から始めましょう。おもちゃや服を選ぶときに「それは男の子用だよ」と制限せず、子どもの「好き」を尊重してください。また、絵本やアニメに出てくる「お母さんが料理、お父さんが仕事」といった描写に対して、「いろんな家庭があるよね」と対話することも有効です。親自身が楽しそうに家事や仕事を分担している姿を見せることが、何よりの教材になります。

Q. 企業のSDGs担当になりましたが、何から始めればいいですか?

A. まずは「現状把握」です。自社の男女比率、管理職比率、賃金格差、育休取得率などのデータを可視化してください。次に、「アンコンシャス・バイアス研修」などで社員の意識レベルを揃えること。そして、小さな成功体験(例:男性育休取得者第1号を全力でサポートするなど)を作り、社内に発信していくことが重要です。経営トップのコミットメントを取り付けることも忘れずに。

まとめ:ジェンダーの理解は、誰もが自分らしく生きるための第一歩

本記事では、ジェンダーの定義から日本の現状、職場でのバイアス、そして具体的なアクションまでを解説してきました。ジェンダーの問題は、遠い世界の話ではなく、私たちの毎日の生活、働き方、そして人間関係そのものです。

最後に、重要なポイントを振り返ります。

  • ジェンダーとは、社会的・文化的につくられた性差であり、変えていくことができる。
  • 日本のジェンダーギャップは特に政治・経済分野で深刻であり、企業の成長阻害要因となっている。
  • アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)は誰にでもあり、それに「気づく」ことがスタート。
  • ジェンダー平等は、男性を「男らしさの呪縛」から解放し、全ての人の生きやすさにつながる。
  • 言葉遣いや会議での振る舞いなど、今日からできる小さなアクションが組織を変える。

これからの時代、ビジネスパーソンにとって「ジェンダーの視点(ジェンダー・レンズ)」を持つことは、英語やITスキルと同じくらい必須の教養(リテラシー)となります。この記事をきっかけに、ご自身の職場や家庭での「当たり前」を少しだけ見つめ直し、心地よい関係性を作るための一歩を踏み出していただければ幸いです。

組織開発・DEI推進コンサルタントからのメッセージ
「ジェンダーの問題に向き合うことは、誰かを責めることではなく、私たち自身を縛っている『見えない鎖』を解く作業です。私自身も学び続ける当事者の一人です。正しい知識と少しの想像力を持って、誰もが属性にとらわれず、その人らしく輝けるより良い未来を、一緒に作っていきましょう。」

この記事を書いた人

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