刑事事件において「執行猶予」という言葉は、被告人とそのご家族にとって、まさに運命を分ける希望の光です。結論から申し上げますと、執行猶予とは、有罪判決を受けながらも直ちに刑務所へ収監されることなく、社会生活を送りながら更生のチャンスを与えられる制度です。
この期間を無事に過ごせば刑の言渡しの効力は消滅しますが、ひとたび条件を破れば「実刑」へと転じる、いわば「社会内での試用期間」とも言えます。
突然の逮捕や起訴により、不安の渦中にいらっしゃるご家族のために、本記事では以下の3点を中心に、刑事事件専門の弁護士が徹底解説します。
- 執行猶予がつくための「3つの法的条件」と裁判官の判断基準
- 痴漢・横領・窃盗など、罪種別の執行猶予獲得率と期間の相場
- 家族と弁護士が連携して、執行猶予の可能性を極限まで高める具体的な活動
「夫は刑務所に行かなくて済むのか」「会社や生活はどうなるのか」。その切実な疑問に対し、法律の専門家としての知見と経験に基づき、正確かつ実践的な情報をお届けします。
執行猶予とは?実刑・無罪との違いと基本的な仕組み
刑事裁判において最も恐れられているのは「実刑判決」により刑務所へ収監されることです。しかし、有罪判決が出たからといって、必ずしも刑務所に行かなければならないわけではありません。ここでは、ペルソナである皆様が最も知りたい「執行猶予の基本的な仕組み」と、実刑や無罪との決定的な違いについて解説します。
「執行猶予」の定義:社会内で更生するチャンス
執行猶予とは、裁判所が判決を下す際に、情状(犯行に至った経緯や反省の態度など)を考慮して、その刑の執行を一定期間待ってくれる制度です。例えば「懲役2年・執行猶予4年」という判決が出たとしましょう。これは、「本来なら2年間刑務所に入ってもらうべき罪だが、4年間真面目に社会生活を送るならば、その2年の懲役刑はなかったことにする」という意味を持ちます。
この制度の最大の目的は、過ちを犯した者に対し、刑務所という閉鎖的な環境ではなく、社会の中で働き、家族と共に生活しながら更生する機会を与えることにあります。特に初犯の方や、更生の環境が整っている方に対しては、裁判官も積極的にこの制度を適用する傾向にあります。
「実刑判決」との決定的な違い:刑務所への収監有無
執行猶予付き判決と実刑判決の最大の違いは、「判決直後に家に帰れるか、そのまま刑務所(拘置所)へ連れて行かれるか」という点に尽きます。これは天と地ほどの差があります。
実刑判決の場合、法廷で判決が言い渡されたその瞬間から身体拘束が継続(または開始)され、社会との隔絶が始まります。一方、執行猶予判決であれば、その日のうちに自宅へ戻り、翌日から職場や学校へ復帰することも物理的には可能です。
以下の表で、その違いを整理しました。
| 項目 | 執行猶予付き判決 | 実刑判決 |
|---|---|---|
| 判決後の居場所 | 自宅(社会内) | 刑務所 |
| 身体の自由 | あり(通常の生活が可能) | なし(厳格な規律下で生活) |
| 職業・学業 | 継続可能な場合が多い | 退職・退学を余儀なくされる |
| 社会復帰の難易度 | 比較的スムーズ | ブランクが生じ、極めて困難 |
「無罪」とは全く異なる:有罪であり「前科」はつく
よくある誤解の一つに、「執行猶予=無罪放免」という認識がありますが、これは法的に大きな間違いです。執行猶予判決は、あくまで「有罪判決」の一種です。裁判所が「あなたは犯罪を犯しました」と認定した上で、刑務所行きを猶予しているに過ぎません。
したがって、執行猶予付き判決であっても「前科」はつきます。警察や検察庁のデータベースには犯罪歴として記録され、市町村の犯罪人名簿(既決犯罪人名簿)にも一定期間記載されることになります。ただし、一般の戸籍謄本や住民票に前科が記載されることはありませんので、その点はご安心ください。
執行猶予期間が満了するとどうなるのか(刑の言渡しの効力消滅)
では、執行猶予期間(前述の例で言えば4年間)を何事もなく無事に過ごし終えた場合、どうなるのでしょうか。刑法第27条には「刑の言渡しは、効力を失う」と規定されています。
これは、法的には「刑罰を受けたという事実そのものが消滅する」ことを意味します。これにより、法律上の資格制限(医師免許や教員免許の欠格事由など)が解除され、名実ともに完全な社会復帰を果たすことができます。ただし、捜査機関の内部記録としての前科情報は残るため、将来もし再び罪を犯した場合には、過去の犯罪歴として考慮されることになります。
刑事事件専門の弁護士のアドバイス
「執行猶予判決を受けた直後の依頼者様には、必ず『これは許されたわけではなく、試されている期間です』とお伝えしています。裁判官はあなたを信じて猶予を与えましたが、その信頼を裏切れば、猶予されていた刑と新たな刑の両方を償うことになります。この重みを忘れず、一日一日を大切に過ごすことが、真の更生への第一歩です。」
執行猶予がつく3つの条件と裁判官の判断基準
「夫は執行猶予になるのでしょうか?」というご質問は、私が受ける相談の中で最も多いものの一つです。執行猶予がつくかどうかは、裁判官の気まぐれで決まるものではありません。刑法第25条には明確な条件が定められています。ここでは、その条件と実務上の判断基準について詳しく解説します。
条件1:3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金の言渡し
まず、大前提となるのが「言い渡される刑の重さ」です。法律上、執行猶予をつけることができるのは、判決で言い渡される刑が「3年以下の懲役・禁錮」または「50万円以下の罰金」である場合に限られます。
つまり、殺人や強盗致傷などの重大犯罪で、どんなに減刑されても懲役4年や5年となるようなケースでは、制度上、執行猶予をつけることは不可能です。逆に言えば、検察官が「懲役3年」以下の求刑をした場合は、執行猶予獲得の土俵に乗っていると考えて良いでしょう。
条件2:以前に禁錮以上の刑に処せられたことがない(初犯など)
次に、被告人の過去の経歴が問われます。基本的には「初犯」であることが有利に働きますが、正確には以下のいずれかに該当する必要があります。
- これまでに禁錮以上の刑(刑務所に入る刑)を受けたことがない者
- 以前に禁錮以上の刑を受けたことがあっても、その執行を終えた日(または免除された日)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
つまり、過去に前科があっても、それが罰金刑のみであったり、前回の刑務所出所から5年以上経過して真面目に生活していたりすれば、再び執行猶予が付く可能性(再度の執行猶予)は法的に残されています。
条件3:情状酌量の余地がある(反省、示談、再犯防止策など)
上記の2つの条件はあくまで「入り口」に過ぎません。実際に執行猶予をつけるかどうかを決めるのは、第3の条件である「情状」です。裁判官は、以下の要素を総合的に判断します。
- 犯行の悪質性:計画的か突発的か、手口は巧妙か。
- 結果の重大性:被害額の大きさ、怪我の程度。
- 被害弁償と示談:被害者が許しているか、損害は回復されたか。
- 反省の態度:罪を認めているか、真摯に反省しているか。
- 更生環境:監督する家族がいるか、定職があるか。
特に、被害者がいる犯罪においては、「示談の成立」が決定的な要素となります。
「初犯なら必ず執行猶予」は間違い?実刑になるケースとは
「初犯だから大丈夫だろう」と安易に考えるのは危険です。たとえ初犯であっても、以下のようなケースでは実刑判決が下される可能性が十分にあります。
- 被害額が極めて高額(数百万〜一千万円単位)で、弁済が全くなされていない横領や詐欺。
- 悪質なあおり運転による死亡事故や、ひき逃げ事件。
- 営利目的での大量の薬物所持。
- 組織的な特殊詐欺(受け子・出し子含む)への関与。
このような事案では、社会的な影響や処罰感情が重視され、「見せしめ」的な意味合いも含めて厳しい判決が出ることがあります。
▼補足:刑法第25条(執行猶予)の条文解説
【刑法第25条1項】
次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けるときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
解説:
法律用語は難解ですが、要点は「3年以下の刑」「罰金50万円以下」という枠内で、「情状(事情)」が良い場合に限り、「1年〜5年の間」刑務所行きを待つことができる、という規定です。この「情状」をいかに裁判官に伝えるかが、弁護士の腕の見せ所となります。
刑事事件専門の弁護士のアドバイス
「裁判官が最終的に執行猶予の判決文を書くとき、最も重視するのは『この被告人を社会に戻しても、再犯の可能性がないか』という点です。過去を変えることはできませんが、未来の更生可能性を証明することは可能です。そのために、ご家族の監督能力や具体的な生活環境の調整が大きな意味を持つのです。」
【罪状別】執行猶予がつく確率と期間の相場
ご家族が逮捕された罪名によって、執行猶予がつく難易度や傾向は異なります。ここでは、代表的な犯罪類型ごとに、私の実務経験と統計データに基づいた「相場感」を解説します。ただし、これらはあくまで目安であり、個別の事情によって結果は大きく変わることをご承知おきください。
痴漢・盗撮(迷惑防止条例違反等):初犯での猶予率と傾向
痴漢や盗撮といった性犯罪の場合、初犯であれば執行猶予がつく可能性は極めて高いと言えます。多くの場合、略式起訴による罰金刑で済むこともありますが、公判請求(正式裁判)された場合でも、しっかりとした示談と再犯防止策(性依存症治療など)を提示できれば、実刑になることは稀です。
目安:懲役6ヶ月〜1年・執行猶予3年程度
業務上横領・窃盗:被害金額と示談有無による分岐点
財産犯において最も重要なのは「被害金額」と「弁済」です。万引き(窃盗)の初犯であれば、ほとんどが微罪処分や罰金刑ですが、常習性がある場合や「クレプトマニア(窃盗症)」の疑いがある場合は、治療の意思を示す必要があります。
業務上横領の場合、被害額が数百万円を超えると、初犯でも実刑のリスクが高まります。全額弁済し、示談が成立していれば執行猶予の可能性は高まりますが、弁済が不十分だと厳しい判決が予想されます。
目安:懲役1年6ヶ月〜3年・執行猶予3年〜5年(被害額による変動大)
薬物事件(大麻・覚醒剤):使用・所持の回数と依存症治療の有無
大麻や覚醒剤の自己使用・単純所持で、初犯の場合は、ほぼ確実に執行猶予がつきます。これは「薬物事犯には治療が必要であり、刑務所よりも社会内での更生が効果的」という司法の傾向があるためです。
しかし、営利目的(売買)が絡む場合や、再犯の場合は一気に厳しくなります。特に同種前科がある中での再犯は、原則として実刑となります。
目安:懲役1年6ヶ月・執行猶予3年(初犯・自己使用の場合)
傷害・暴行:被害者の怪我の程度と処罰感情の影響
粗暴犯では、被害者の怪我の程度(全治何週間か)と、被害者の処罰感情がカギを握ります。全治1〜2週間の軽傷で、示談が成立していれば不起訴や罰金で終わることも多いですが、後遺症が残るような重傷を負わせた場合は、初犯でも実刑が視野に入ります。
目安:懲役1年〜2年・執行猶予3年〜4年
交通犯罪(飲酒運転・人身事故):実刑判決が出やすいケース
近年、厳罰化が進んでいるのが交通犯罪です。特に飲酒運転による人身事故や、ひき逃げに関しては、初犯であっても実刑判決が出ることが珍しくありません。被害者が死亡している場合、示談が成立していても実刑となるケースがあります。
目安:ケースバイケース(死亡事故等は実刑リスク高)
| 罪名 | 初犯での猶予獲得率 | 主な判断要素 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 痴漢・盗撮 | 極めて高い(90%以上) | 示談成立、再犯防止策 | 3年 |
| 窃盗・万引き | 高い | 被害弁済、常習性の有無 | 3年 |
| 業務上横領 | 金額次第(中〜高) | 全額弁済の可否 | 3年〜5年 |
| 薬物使用 | 極めて高い(ほぼ100%) | 依存症治療への着手 | 3年 |
| 傷害 | 高い | 示談成立、怪我の程度 | 3年〜4年 |
執行猶予獲得率を高めるために弁護士と家族ができること
「弁護士に任せておけば大丈夫」と安心しきってしまうのは危険です。執行猶予を確実に勝ち取るためには、弁護士の法廷活動に加え、ご家族の協力が不可欠です。ここでは、私が実際に依頼者のご家族にお願いしている、具体的なアクションプランをご紹介します。
被害者との「示談」成立が最大のカギとなる理由
刑事裁判において、被害者との示談成立は「最強の情状事実」です。示談が成立しているということは、被害者が「加害者を許した(あるいは処罰を望まない)」という意思表示をしたことになります。裁判官は被害者の感情を非常に重視するため、示談書が提出されれば、実刑判決を下すハードルは劇的に上がります。
ただし、加害者本人が被害者に接触することは禁じられている場合が多く、また感情的な対立から交渉が難航することがほとんどです。そのため、第三者である弁護士が間に入り、冷静かつ誠実に謝罪と賠償の提案を行う必要があります。
「情状証人」としての家族の役割:監督能力と覚悟を示す
裁判では、ご家族(妻、親など)に「情状証人」として出廷していただくことがよくあります。これは単に「かわいそうだから許してやってください」と泣きつく場ではありません。裁判官に対して、論理的かつ具体的に「今後の監督プラン」をプレゼンテーションする場です。
- 被告人と同居し、生活リズムを管理できるか。
- 被告人が再び犯罪に走りそうな兆候をどうやって察知するか。
- 万が一約束を破った場合、家族としてどう対応するか。
これらの質問に対し、具体的かつ覚悟を持った回答ができるかどうかが、裁判官の心証を大きく左右します。
刑事事件専門の弁護士のアドバイス
「法廷で『私がしっかり監督します』と言うのは簡単ですが、裁判官は『具体的にどうやって?』と突っ込んできます。例えば、お酒で事件を起こした夫の妻であれば、『晩酌の買い置きを一切やめ、夫の財布にはその日に必要な昼食代しか入れません。毎晩の帰宅時には私が玄関で迎え、飲酒していないか確認します』といった、生活に踏み込んだ具体的な証言が効果的です。」
具体的な再犯防止策の提示(クリニック通院、環境調整など)
口先だけの反省ではなく、行動で再犯防止を示すことも重要です。例えば、薬物や性犯罪、窃盗症(クレプトマニア)などの場合、専門のクリニックに通院し、治療を開始しているという診断書や通院記録を証拠として提出します。また、事件の原因が職場環境や交友関係にある場合は、転職や転居を行い、犯罪を誘発する環境から物理的に離れることも有効なアピールになります。
贖罪寄付(しょくざいきふ)の活用と効果
被害者がいない犯罪(薬物事犯など)や、被害者が示談を頑なに拒否している場合、「贖罪寄付」という方法があります。これは、弁護士会や公益団体などに寄付を行い、その領収書を裁判所に提出することで、「罪を償おうとする意思」を示すものです。示談ほどの強力な効果はありませんが、何もしないよりは遥かに良い心証を与えます。
早期の弁護士依頼が結果を左右する理由(起訴前の活動含む)
執行猶予を目指す活動は、起訴されて裁判が決まってから始めるのでは遅い場合があります。逮捕直後から弁護士が介入し、被害者と早期に示談を成立させることで、そもそも「起訴されない(不起訴処分)」という最高の結果を得られる可能性もあるからです。
また、起訴された場合でも、早い段階から保釈請求や証拠収集に動くことで、裁判に向けた十分な準備期間を確保できます。刑事事件は時間との勝負です。迷っている時間は、被告人にとって不利にしか働きません。
執行猶予判決後の生活はどう変わる?仕事・就職への影響
無事に執行猶予付き判決を勝ち取ったとして、その後の生活にはどのような変化や制限があるのでしょうか。「会社にバレずに働き続けられるのか」「海外旅行には行けるのか」。生活防衛の観点から、判決後のリアルな実情を解説します。
判決当日の流れ:そのまますぐに帰宅できるのか
執行猶予付きの判決が言い渡されたその瞬間、被告人の身体拘束は解かれます。それまで拘置所に勾留されていた場合でも、法廷から直接自宅へ帰ることができます(荷物の引き取り手続き等はあります)。数ヶ月ぶりに家族と共に夕食を囲み、自分の布団で眠ることができるのです。この「日常の回復」こそが、執行猶予の最大の恩恵と言えるでしょう。
会社への報告義務と解雇リスク:就業規則の確認ポイント
会社員にとって最大の懸念は「解雇」です。まず、法律上、有罪判決を受けたことを会社に報告する義務は一般的にはありません。しかし、就業規則に「刑事事件で有罪判決を受けた場合は懲戒解雇とする」といった規定がある場合、報告を怠ったことが後に発覚すると、経歴詐称や信頼関係の破壊として問題になる可能性があります。
また、逮捕の事実が実名報道されていたり、長期間無断欠勤していたりする場合は、事実上の解雇や依願退職を迫られるケースも少なくありません。復職を目指す場合は、弁護士を通じて会社側と慎重に交渉する必要があります。
履歴書への記載義務と「賞罰」欄の書き方
就職活動において、履歴書に「賞罰」欄がある場合、執行猶予期間中は前科を記載する義務があります。「〇年〇月 〇〇罪により懲役〇年執行猶予〇年の判決」と正直に書かなければなりません。これを隠して入社すると、後に発覚した際に「経歴詐称」として解雇されるリスクがあります。
ただし、最近のJIS規格の履歴書には賞罰欄がないものが多く、その場合は自ら進んで記載する必要はありません。面接で「過去に賞罰はありますか?」と聞かれた場合にのみ、正直に答える必要があります。
資格制限:医師、教員、公務員などが失職するケース
特定の国家資格や職業については、法律で「欠格事由」が定められており、執行猶予付き判決であっても、その期間中は資格を失ったり、業務ができなくなったりします。これは生活の糧を失う重大な問題ですので、事前に必ず確認が必要です。
| 職業・資格 | 制限の内容 |
|---|---|
| 公務員 | 禁錮以上の刑(執行猶予含む)が確定すると、原則として失職します(国家公務員法・地方公務員法)。 |
| 教員 | 学校教育法により、教員免許が失効し、教職に就くことができません。 |
| 医師・看護師 | 罰金以上の刑で免許の取消しや業務停止処分の対象となります(行政処分)。 |
| 保育士 | 禁錮以上の刑に処せられた場合、登録が取り消されます。 |
| 警備員 | 警備業法により、執行猶予期間中は警備業務に従事できません。 |
海外旅行への制限:パスポート取得と入国審査の注意点
執行猶予中でもパスポートの取得は可能ですが、申請時に「刑罰等関係欄」への記載が必要となり、発給が制限されたり、審査に時間がかかったりすることがあります。
より深刻なのは相手国の入国審査です。例えばアメリカの場合、前科がある人は一般的なビザ免除プログラム(ESTA)を利用できず、大使館でビザの面接審査を受ける必要があります。国によっては入国を拒否されることもあるため、海外出張や旅行を計画する際は、事前に大使館等へ確認することをお勧めします。
執行猶予が取り消されるリスクと期間中の過ごし方
執行猶予判決はゴールではなく、スタートです。判決文にある「執行猶予〇年」という期間は、いわば「薄氷の上を歩く期間」です。この期間中に問題を起こすと、猶予が取り消され、刑務所行きが現実のものとなります。どのような場合に取消しとなるのか、正しい知識でリスクに備えましょう。
「必要的取消」:必ず刑務所行きになるケース(再犯など)
以下の場合、裁判官の裁量に関係なく、法律上必ず執行猶予が取り消されます。
- 猶予期間中にさらに罪を犯し、禁錮以上の実刑判決を受けた場合。
- 猶予期間中にさらに罪を犯し、禁錮以上の刑(執行猶予付き含む)を受け、その際に「再度の執行猶予」がつかなかった場合。
例えば、執行猶予中に再び窃盗をして実刑判決を受けた場合、今回の刑期に加え、前の執行猶予分の刑期もプラスされて服役することになります。まさに「泣きっ面に蜂」の状態です。
「裁量的取消」:裁判官の判断で取り消されるケース(遵守事項違反など)
以下の場合、裁判官の判断によって執行猶予が取り消されることがあります。
- 猶予期間中にさらに罪を犯し、罰金刑を受けた場合。
- 保護観察付きの執行猶予の場合に、保護観察所の遵守事項に違反した場合。
「罰金くらいなら大丈夫」と高を括っていると、悪質だと判断された場合に猶予を取り消される可能性があります。
執行猶予期間中の交通違反(スピード違反など)の影響
日常生活で最も起こり得るのは交通違反です。一時停止違反や軽微なスピード違反などの「青切符(反則金)」レベルであれば、刑事処分(罰金刑以上)ではないため、執行猶予が取り消されることはありません。
しかし、大幅なスピード違反(赤切符)や無免許運転、飲酒運転などで「罰金刑」以上の判決を受けると、前述の「裁量的取消」の対象となり、最悪の場合は執行猶予が取り消されるリスクが生じます。期間中は、車の運転を控えるくらいの慎重さが求められます。
保護観察が付いた場合の義務と保護司との面談
執行猶予には「保護観察」が付く場合と付かない場合があります。保護観察が付いた場合、月に1〜2回程度、担当の「保護司」と面談し、生活状況を報告する義務が生じます。正当な理由なく面談をすっぽかしたり、連絡を絶ったりすると、遵守事項違反として執行猶予が取り消される原因となります。
刑事事件専門の弁護士のアドバイス
「執行猶予期間中に最も怖いのは『気の緩み』です。判決から半年も経つと、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまい、以前と同じような生活に戻ってしまう方がいます。特にアルコールやギャンブルが原因の事件では、スリップ(再発)が命取りになります。ご家族は、猶予期間が終わるその日まで、決して監視の目を緩めないであげてください。」
執行猶予に関するよくある質問(FAQ)
最後に、執行猶予に関してご家族からよく寄せられる細かい疑問に、Q&A形式でお答えします。
Q. 執行猶予判決に不服がある場合、控訴できますか?
A. 可能です。
執行猶予がついたとしても、「無罪を主張していたのに有罪になった」「事実認定が間違っている」といった理由で控訴することは可能です。ただし、検察側も控訴してくるリスクがあり、控訴審でさらに重い判決が出る可能性もゼロではありません。弁護士と慎重に相談して決定すべきです。
Q. 執行猶予期間を短縮することはできますか?
A. できません。
判決で確定した執行猶予期間(例:3年)を、後から短くする制度はありません。真面目に生活していても、期間満了の日まで待つ必要があります。ただし、恩赦(おんしゃ)によって効力が消滅する極めて稀なケースはありますが、期待できるものではありません。
Q. 執行猶予中に結婚や引越しはできますか?
A. 自由にできます。
保護観察が付いていない限り、結婚、離婚、引越しなどは自由に行えます。誰かの許可を得る必要もありません。ただし、保護観察が付いている場合は、住居の変更(引越し)や長期の旅行には保護観察所の許可が必要です。
Q. 前科は戸籍に残りますか?誰かに調べられますか?
A. 戸籍には残りません。
前科が戸籍謄本や住民票に記載されることは一切ありません。したがって、結婚相手や就職先が役所で戸籍を取り寄せても、前科がバレることはありません。ただし、インターネット上の実名報道記事などは残り続けるため、そこから発覚するリスクは現代社会特有の問題として存在します。
Q. 国選弁護人と私選弁護人で執行猶予の確率は変わりますか?
A. 制度上は変わりませんが、活動量に差が出ることはあります。
国選弁護人も優秀な弁護士が多いですが、業務多忙等の理由で、きめ細やかな家族対応や示談交渉に十分な時間を割けないケースがあるのも事実です。私選弁護人であれば、着手金をいただく分、スピード感を持って示談交渉に動いたり、土日や夜間でも家族の相談に応じたりと、手厚いサポートが期待できます。人生のかかった局面ですので、納得のいく弁護士を選ぶことをお勧めします。
まとめ:執行猶予獲得は時間との勝負。早期に専門家へ相談を
本記事では、執行猶予の仕組みから獲得条件、そして判決後の生活までを解説してきました。執行猶予は、決して「自動的に与えられる温情」ではなく、弁護士による適切な法廷活動と、ご家族による更生環境の整備があって初めて勝ち取れる「未来への切符」です。
最後に、執行猶予を獲得するために、今すぐご家族が確認すべき事項をチェックリストにまとめました。
要点チェックリスト:執行猶予獲得に向けた準備事項
- 被害者がいる場合、謝罪と示談交渉は進んでいますか?
- 同居や生活指導など、家族による具体的な監督体制は整っていますか?
- 再犯防止策(クリニックの受診予約など)を具体化できていますか?
- 刑事事件の実績が豊富な弁護士に、今後の見通しを相談しましたか?
もし、まだ弁護士に相談していない、あるいは現在の弁護活動に不安がある場合は、一刻も早く刑事事件に強い専門家のアドバイスを求めてください。逮捕から起訴、判決までの時間はあっという間に過ぎ去ります。
あなたとご家族が、再び平穏な日常を取り戻せることを、心より願っております。決して一人で悩まず、まずは専門家にその不安を吐き出してください。そこから、解決への道筋が必ず見えてくるはずです。
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