「最近、歩き始めに足の付け根がズキッとする」
「靴下を履くときや爪切りの姿勢が辛くなってきた」
「このまま痛みが強くなって、将来歩けなくなるのでは……」
もしあなたがこのような不安を抱えているなら、まずは深呼吸をして、この記事を読み進めてください。50代前後の女性にとって、股関節の違和感は決して珍しいことではありません。しかし、多くの人が「年のせいだから仕方がない」と諦めたり、逆に「痛くても運動しなきゃ」と自己流のストレッチで症状を悪化させたりしてしまっています。
結論から申し上げます。股関節の痛みは、適切な「守りのケア」と正しい原因理解によって、進行を食い止め、快適な生活を取り戻すことは十分に可能です。
私はこれまで20年以上、理学療法士として1万人を超える股関節疾患の患者様のリハビリに携わってきました。その経験から断言できるのは、手術はあくまで最終手段であり、その前にできることは山ほどあるということです。
この記事では、以下の3つのポイントを軸に、専門家の視点で徹底解説します。
- 50代女性に多い「股関節の痛み」の正体と、自宅でできるセルフチェック法
- 良かれと思って逆効果になっている「やってはいけない」NG動作
- 手術を避けるために今日から実践できる、医学的根拠に基づいた生活習慣の改善策
インターネット上には玉石混交の情報が溢れていますが、ここでは臨床現場のリアルな知見に基づいた、安全で確実な情報をお届けします。痛みのない日常を取り戻すための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
なぜ足の付け根が痛むのか?50代女性に多い股関節トラブルの原因
「なぜ私だけがこんなに痛い思いをするの?」そう思われるかもしれません。しかし、股関節の痛みには明確な理由があります。特に日本人の女性は、骨格的な特徴やホルモンバランスの影響から、股関節トラブルを抱えやすい傾向にあります。
まずは敵を知ること、つまり「痛みの原因」を正しく理解することが治療のスタートラインです。ここでは、50代以降の女性に最も多く見られる原因について、専門用語を噛み砕いて解説します。
最も多い原因「変形性股関節症」とは?初期症状の特徴
中高年の股関節痛において、最も代表的な原因が「変形性股関節症」です。これは、股関節のクッションの役割を果たしている「関節軟骨」が、長年の使用や負担によってすり減り、骨と骨が直接ぶつかったり変形したりすることで炎症が起きる疾患です。
実は、軟骨自体には神経が通っていないため、すり減り始めた初期段階では痛みを感じないことが多いのです。しかし、すり減った軟骨の欠片が周囲の組織(滑膜)を刺激して炎症(滑膜炎)を起こしたり、進行して骨自体に負担がかかるようになると、強い痛みとして現れます。
初期症状には以下のような特徴があります。
- 動作開始時痛: 椅子から立ち上がった瞬間や、歩き始めの数歩に痛みが出るが、少し動いていると楽になる。
- 可動域制限: 以前より足が開きにくくなった、靴下が履きにくくなったと感じる。
- 疲労感: 長時間歩いた後や夕方に、足の付け根やお尻周りが重だるくなる。
これらのサインを見逃さず、早めに対処することで、進行を大幅に遅らせることが可能です。
生まれつきの浅さが影響?「臼蓋形成不全」と痛みの関係
日本人の変形性股関節症の約8割は、「臼蓋形成不全」が原因であると言われています。これは、生まれつき、あるいは発育過程において、骨盤側の受け皿(臼蓋)が浅く、大腿骨の骨頭(ボール部分)を十分に覆えていない状態を指します。
正常な股関節であれば、体重がかかった際にかかる圧力が広い面積に分散されます。しかし、受け皿が浅いと、接触面積が狭くなるため、一点に集中して過度な圧力がかかってしまいます。例えるなら、スニーカーで踏まれるのと、ハイヒールのかかとで踏まれるのとの違いのようなものです。
若い頃は筋力や軟骨の弾力性でカバーできていても、40代、50代となり、筋力が低下したり更年期の影響を受けたりすることで、蓄積された負担が限界を超え、痛みとして表面化してくるのです。「若い頃は股関節が柔らかかった(実は関節が緩かった)」という方ほど、この傾向が見られることがあります。
筋肉や腱の炎症(グロインペイン等)の可能性
関節の中(骨や軟骨)ではなく、関節の周りにある筋肉や腱が原因で痛むこともあります。これを関節外の痛みと呼びます。スポーツ選手によく見られる「グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)」などが有名ですが、一般の女性でも起こり得ます。
例えば、股関節を曲げる筋肉である「腸腰筋」や、内ももの「内転筋」が硬くなり、付着部で炎症を起こしているケースです。これは、変形性股関節症をかばって歩くことで、特定の筋肉に過剰な負担がかかり続けた結果として生じる「二次的な痛み」であることも少なくありません。
この場合、レントゲンで骨に異常がなくても痛みが生じます。適切なストレッチや休養で改善しやすいのが特徴ですが、放置すると慢性化するため注意が必要です。
腰からくる痛み(坐骨神経痛)との見分け方
「お尻や太ももの裏が痛い」と感じる場合、それが股関節の問題なのか、腰(腰椎)の問題なのかを見分けるのは、プロでも慎重に行う必要があります。腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などによる坐骨神経痛が、股関節周辺の痛みとして放散することがあるからです。
簡易的な見分け方のチャートを作成しましたので、参考にしてください。
| 痛む場所・特徴 | 股関節が原因の可能性が高い | 腰が原因の可能性が高い |
|---|---|---|
| 痛みの中心 | 鼠径部(ビキニライン)、お尻の横 | お尻の後ろ、太ももの裏、すね |
| 痛む動作 | 靴下の着脱、あぐら、足の爪切り | 前屈、後ろ反らし、長時間座りっぱなし |
| しびれ | 基本的にない(あっても局所的) | 足先までしびれることがある |
もちろん、これらは併発していることもあります(Hip-Spine Syndromeと呼ばれます)。自己判断せず、専門医の診断を仰ぐことが大切です。
現役理学療法士のアドバイス
「女性ホルモンの減少は、実は軟骨や関節の健康に大きく影響します。エストロゲンには関節内の炎症を抑えたり、軟骨を保護したりする作用があると考えられているからです。閉経前後に急に股関節の違和感が出始めるのはこのためです。だからこそ、50代からのケアは『今まで通り』ではなく、『より丁寧に、より愛護的に』体を扱う意識転換が必要なのです。」
病院に行く前に確認!自宅でできる股関節の状態セルフチェック
「病院に行くべきか、もう少し様子を見るべきか……」と悩んでいる方のために、自宅で簡単にできるセルフチェック方法をご紹介します。これらは私たち理学療法士が臨床現場で最初に行う評価の一部を、一般の方向けにアレンジしたものです。
今の自分の股関節がどの程度の状態なのかを客観的に把握することは、適切な対策を立てるための第一歩です。
チェック1:可動域の確認(あぐら、爪切り動作がしにくい)
股関節の異常は、まず「動きの制限(可動域制限)」として現れます。以下の動作を試してみてください。
- あぐらをかく: 膝が床から高く浮いてしまったり、鼠径部に突っ張り感や痛みが出たりしませんか?
- 爪切りや靴下履き: 足を手元に引き寄せる動作が辛く、体を過剰に丸めたり、息を止めたりしていませんか?
- 和式トイレ座り(しゃがみ込み): かかとをつけたまま深くしゃがむことができますか?
これらの動作に左右差がある場合、あるいは以前より明らかに硬くなっている場合は、関節の適合性が悪くなっているか、関節包(関節を包む袋)が硬縮している可能性があります。
チェック2:痛むタイミング(動き始め、歩行時、安静時)
痛みが「いつ出るか」は、病気の進行度を推測する重要な手がかりです。
- 初期レベル: 「動き始め(Start up pain)」のみ痛む。歩いていると消える。
- 進行期レベル: 長時間歩くと痛くなる。階段の上り下りで痛む。
- 末期レベル: 安静にしていても痛い(夜間痛)。寝返りで目が覚める。
特に「安静にしていてもズキズキ痛む」場合は、関節内で強い炎症が起きている可能性が高いため、早急に整形外科を受診することをお勧めします。
チェック3:左右差と脚の長さの確認方法
変形性股関節症が進行すると、軟骨がすり減った分、あるいは骨の変形によって、脚の長さ(脚長)に左右差が出ることがあります。
仰向けに寝て、両足を揃えて伸ばしてください。家族の方などに、かかとの位置を見てもらいましょう。痛い方の脚が短くなっている場合、股関節の変形が進んでいる可能性があります。また、ご自身で鏡の前に立った時、肩の高さや骨盤の高さが左右で違っていないかも確認してみてください。
「パトリックテスト」で股関節の異常を簡易スクリーニング
これは整形外科テストの一つで、股関節の炎症や変形をチェックする代表的な方法です。無理のない範囲で行ってください。
詳細:パトリックテストの正しいやり方(クリックして開く)
手順:
- 硬めのベッドや床に仰向けになります。
- 片方の足(テストする側)の外くるぶしを、反対側の足の膝の上に乗せます。上から見ると、脚で数字の「4」の字を作るような形になります。
- その状態で、曲げている方の膝を、手でゆっくりと床方向へ押していきます。
判定:
- 陽性(問題あり): 鼠径部(足の付け根)やお尻に痛みが出る。または、膝が床から大きく浮いたままで、反対側と比べて明らかに硬い。
- 陰性(正常): 痛みなく、膝が床近くまでスムーズに下がる。
注意点: 痛みが強い場合は、無理に押さないでください。テスト自体で痛みを悪化させないよう、ゆっくり行ってください。
現役理学療法士のアドバイス
「セルフチェックを行う際、最も大切なのは『愛護的』に行うことです。痛いかどうかを確認するために、グイグイと無理に動かしたり、痛みを我慢して限界まで曲げたりするのは絶対にNGです。痛みは体からの『それ以上はやめて!』という警告信号です。チェックは優しく、違和感を感じた時点でストップしてください。」
【重要】良かれと思って逆効果?股関節に負担をかける「やってはいけない」NG動作
ここが本記事の中で最も重要なセクションかもしれません。私のリハビリ現場に来られる患者様の中には、「テレビや動画で見た健康法を一生懸命実践して、かえって股関節を悪化させてしまった」という方が後を絶ちません。
股関節にトラブルがある場合、健康な人には良い運動でも、あなたにとっては「毒」になることがあります。以下のNG動作をしていないか、今すぐ確認してください。
痛みを我慢してのウォーキング・筋トレ
「筋肉をつけなきゃいけないから、痛くても毎日1万歩歩いています」
これは最悪のパターンです。股関節には、歩行時に体重の約3〜4倍の負荷がかかります。軟骨がすり減り炎症が起きている状態で、さらに長時間荷重をかけ続けることは、傷口を紙やすりでこするようなものです。
痛みがある時期は、体重をかける運動(荷重運動)は極力控え、後述する「荷重をかけない運動」に切り替える必要があります。「痛みを我慢して頑張る」ことは、股関節ケアにおいては美徳ではなく、関節寿命を縮める行為です。
反動をつけた無理な開脚ストレッチ
「股関節が硬いのが原因だ」と思い込み、お相撲さんのように無理やり股割りや開脚ストレッチをしていませんか?
変形性股関節症や臼蓋形成不全がある場合、関節の構造自体が変形して可動域が狭くなっていることがあります。これを無理に広げようと反動をつけてストレッチすると、関節唇(かんせつしん)という軟骨組織を損傷したり、脱臼しかけのような状態を作り出し、痛みを増大させます。
ストレッチは「痛気持ちいい」範囲で止め、決して反動をつけず、呼吸を止めずにゆっくり行うのが鉄則です。
柔らかいソファや低い椅子への座り込み
ふかふかの低いソファは一見楽そうですが、股関節にとっては大敵です。お尻が深く沈み込むことで股関節が深く曲がり(屈曲)、立ち上がる際に大きな筋力と関節への負担が必要になるからです。
同様に、お風呂の低い椅子や、低すぎるトイレも負担になります。生活環境では、膝の高さよりもお尻の位置が高くなるような、座面の硬い椅子を選ぶのが正解です。
重い荷物を持っての階段昇降や長時間の立ち仕事
重い荷物を持つと、その重さの分だけでなく、バランスを取るための筋収縮も加わり、股関節への圧縮力は跳ね上がります。特に階段の上り下りでは、体重の6〜7倍以上の負荷がかかるとも言われています。
買い物はカートを使う、ネットスーパーを利用する、階段ではなくエレベーターを使うなど、物理的な負荷を減らす工夫を「手抜き」と思わず積極的に行ってください。
「横座り」「ぺたんこ座り(アヒル座り)」の危険性
床での生活習慣がある方で注意したいのが座り方です。
- 横座り(お姉さん座り): 片方の股関節を内側にねじり、骨盤を歪ませます。脱臼しやすい方向への力がかかり続けます。
- ぺたんこ座り(アヒル座り・割り座): 両足を外に開いてお尻を落とす座り方。股関節を極端に内旋(内側にねじる)させるため、靭帯や関節への負担が非常に大きいです。
床に座るなら「正座」が比較的負担が少ないですが、膝への負担も考慮すると、やはり「椅子生活」への切り替えが最も推奨されます。
現役理学療法士のアドバイス
「現場でよく見るのは、真面目で頑張り屋さんな方ほど、痛みを我慢して運動し、悪化させてしまうケースです。『運動不足だから痛い』のではなく『負担過多だから痛い』という時期があることを知ってください。今は『鍛える時期』ではなく『休めて守る時期』かもしれません。その見極めが、手術を回避する鍵となります。」
理学療法士が推奨!手術を遠ざけるための「守りのセルフケア」と運動療法
NG動作を理解したところで、次は「では、何をすればいいのか?」という具体的な解決策をお伝えします。目指すのは、股関節への負担を減らしつつ、関節を支える筋肉を維持し、軟骨に栄養を届けることです。
ここでは、関節に負担をかけない安全な「守りのケア」を厳選しました。
炎症がある時期の基本ケア:安静とアイシングの使い分け
ズキズキと痛む急性期(炎症期)は、運動よりも「安静」が最優先です。そして、熱を持っているような痛みがある場合は「アイシング」が効果的です。氷嚢や保冷剤をタオルで巻き、10分〜15分程度、患部(鼠径部やお尻)を冷やします。これにより炎症を鎮静化させます。
逆に、慢性的な重だるさや、朝のこわばりがある場合は、温めて血流を良くする方が楽になることが多いです。痛みの質によって使い分けましょう。
軟骨に栄養を送る「貧乏ゆすり(ジグリング)」の驚くべき効果
「貧乏ゆすり」はお行儀が悪いと言われますが、股関節にとっては最高のセルフケアです。専門的には「ジグリング」と呼ばれます。
軟骨には血管がないため、関節液から栄養を吸収しています。関節を小刻みに動かすことで関節液の循環が良くなり、軟骨への栄養補給が促進されます。また、筋肉を持続的に緩めるリラックス効果もあります。
椅子に座り、かかとを軽く上げて、つま先を床につけたまま、膝を小刻みに上下に揺らします。1日何回でも、テレビを見ながら行ってください。
寝たままできる!股関節に負担をかけない「お尻(中殿筋)トレーニング」
歩くときに骨盤を支え、股関節にかかる負担を減らしてくれる最も重要な筋肉が、お尻の横にある「中殿筋(ちゅうでんきん)」です。立ったまま行うトレーニングは体重がかかるため、ここでは「寝たまま」できる安全な方法をご紹介します。
手順:寝たままできる中殿筋トレーニング(アブダクション)
準備姿勢:
- 痛くない側を下にして、横向きに寝ます。
- 下側の脚は、安定させるために膝を軽く曲げます。
- 上側の脚(トレーニングする側)は、膝をしっかりと伸ばし、体と一直線にします。
動作:
- 上側の脚を、膝を伸ばしたまま、真上にゆっくりと持ち上げます。高く上げる必要はありません(30度〜45度くらいで十分)。
- 脚を上げたところで3秒間キープします。
- ゆっくりと元の位置に戻します。
回数: 左右10回 × 2セットを目安に行います。
重要ポイント: 脚を上げる時に、つま先が上を向かないように(骨盤が開かないように)注意してください。かかとから持ち上げるイメージで行うと、中殿筋にしっかり効きます。
股関節の負担を減らす「水中ウォーキング」のメリットと歩き方
もしプールに通える環境があれば、水中ウォーキングは最強の運動療法です。水の浮力によって体重による負荷が約1/3〜1/10まで軽減されるため、陸上では痛くて歩けない方でも、水中なら痛みなく歩けることが多いのです。
さらに、水の抵抗が適度な筋力トレーニングになり、水圧がむくみの解消にも役立ちます。大股で歩く、横歩きをする、後ろ歩きをするなど、バリエーションを持たせることで、股関節周りの筋肉をバランスよく鍛えることができます。
固まった筋肉をほぐすテニスボールマッサージ(お尻・太もも)
変形性股関節症の方は、痛みをかばうために周囲の筋肉(特にお尻や太ももの外側)がカチカチに固まっていることが多いです。これをほぐすだけで痛みが軽減することがあります。
硬式テニスボールを1個用意してください。仰向けに寝て、お尻のえくぼのあたりや、凝っていると感じる部分の下にボールを入れます。自分の体重を利用して、じわーっと圧をかけます(グリグリ動かさず、持続圧迫でOK)。30秒程度圧迫したら、場所を少しずらします。痛気持ちいい範囲で行ってください。
現役理学療法士のアドバイス
「リハビリの鉄則は『痛くない範囲で』そして『毎日コツコツ』です。1週間に1回激しい運動をするよりも、毎日5分の貧乏ゆすりと寝たままトレーニングを続ける方が、股関節を守る効果は高いです。歯磨きのように、生活の一部に組み込んでしまいましょう。」
日常生活を変えれば股関節は守れる!今日からできる生活習慣の工夫
特別な運動の時間以外の、残りの23時間をどう過ごすか。実はこれが股関節の寿命を左右します。日常生活のちょっとした工夫で、股関節への負担(メカニカルストレス)を劇的に減らすことができます。
体重コントロールの重要性:1kg増で股関節負担は3kg増える?
耳の痛い話かもしれませんが、体重管理は避けて通れません。歩行時、股関節には体重の約3倍、階段昇降時には約7倍の力がかかります。
つまり、体重が1kg増えると、股関節にかかる負担は歩くたびに3kg、階段では7kgも増える計算になります。逆に言えば、1kg痩せるだけで、それだけの負担を減らすことができるのです。無理なダイエットは不要ですが、標準体重を維持することは、最も効果的な「治療」の一つと言えます。
靴選びを見直す:クッション性とヒールの高さの最適解
おしゃれも大切ですが、股関節のためには靴選びが重要です。
- クッション性: 衝撃を吸収する厚底のスニーカーや、インソールがしっかりしたウォーキングシューズを選びましょう。硬い革靴やペタンコのパンプスは衝撃が直に伝わります。
- ヒールの高さ: ハイヒールは骨盤を前傾させ、股関節のかぶりを浅くしてしまうためNGです。逆に完全なフラットよりも、2〜3cm程度のヒール差(ドロップ)がある方が歩きやすい場合もあります。
杖(トレッキングポール)の使用は恥ずかしくない!正しい使い方と効果
「まだ杖なんてつきたくない」という心理的抵抗はよく分かります。しかし、杖は「歩けなくなってから使うもの」ではなく、「歩けなくならないために使う予防具」です。
杖を一本使うだけで、股関節にかかる負担を20〜30%軽減できるというデータがあります。最近では、両手に持つ「トレッキングポール(ノルディックウォーキングポール)」もおしゃれで人気です。これならスポーツ感覚で使えますし、姿勢も良くなり、全身運動にもなるため一石三鳥です。痛い側の足と反対の手に杖を持つのが基本です。
家事動作の工夫:キッチンでの立ち方、洗濯物の干し方
- キッチン: 長時間の立ち仕事は負担です。足元に低い台を置き、片足を乗せると骨盤が安定し、腰や股関節の負担が減ります。また、キャスター付きの椅子(丸椅子など)を置いて、座りながら作業するのも良いでしょう。
- 洗濯物: 重い洗濯カゴを床から持ち上げる動作は避けましょう。カゴを台や椅子の上に置いてから干すようにします。
- 掃除機: 前かがみにならず、柄を長くして背筋を伸ばしてかけます。ロボット掃除機の導入も立派な股関節ケアです。
和式生活から洋式生活への切り替え(ベッド、椅子、トイレ)
畳に布団、ちゃぶ台での食事といった「床生活」は、立ち座りのたびにスクワットをしているようなもので、股関節への負担が極めて大きいです。
- 寝具: 布団ではなくベッドへ(起き上がりが楽な高さのもの)。
- 食事・リビング: 椅子とテーブルの生活へ。
- トイレ: 和式は避け、洋式を使用する。
これらを徹底するだけで、1日の負担総量は大幅に減少します。
現役理学療法士のアドバイス
「杖を使うことを『負け』だと思わないでください。杖はあなたのアクティブな生活を支える『賢い相棒』です。痛みを我慢して変な歩き方(跛行)を続けると、腰や反対側の足まで壊してしまいます。きれいなフォームで歩くために、道具を頼ることは恥ずかしいことではありません。」
専門家が答える!股関節の痛みに関するQ&A
日々の診療の中で、患者様から頻繁にいただく質問とその回答をまとめました。不安解消にお役立てください。
Q. 整骨院・整体院と整形外科、まずはどちらに行くべき?
A. まずは必ず「整形外科」を受診してください。
痛みの原因が骨の変形なのか、炎症なのか、あるいは別の病気なのかをレントゲンやMRIで「診断」できるのは医師だけです。整骨院や整体院は診断ができません。まずは整形外科で確定診断を受け、医師の指示の下でリハビリを行うのが基本です。整体等は、医師の許可を得てから補助的に利用するのが安全です。
Q. サプリメント(グルコサミン等)は本当に効果があるの?
A. 劇的な効果は期待せず、あくまで補助的なものと考えてください。
グルコサミンやコンドロイチンなどのサプリメントは人気ですが、医学的なエビデンス(科学的根拠)としては、飲めばすり減った軟骨が再生するという確証は得られていません。しかし、「飲むと調子が良い」と感じる方もいらっしゃいます。プラシーボ効果も含め、否定はしませんが、これだけに頼らず運動療法と併用することが大切です。
Q. 温めるのと冷やすの、どっちが正解?
A. 「急な激痛・熱感」は冷やす、「慢性の痛み・こわばり」は温める。
基本的には温める方が良いケースが多いです。血流を良くすることで筋肉がほぐれ、痛みが和らぎます。お風呂にゆっくり浸かるのは非常に有効です。ただし、運動直後や急に痛くなった時は炎症を抑えるために冷やします。
Q. 手術(人工関節)を勧められる基準は?
A. 「痛みで日常生活が送れない」時が手術のタイミングです。
レントゲンでの変形の度合いよりも、患者様本人の「困り度」が基準になります。「痛くて眠れない」「買い物に行けない」「旅行に行きたいのに諦めている」など、QOL(生活の質)が著しく低下し、保存療法(リハビリや薬)でも改善しない場合に手術を検討します。
Q. 将来歩けなくなるのが怖いです。必ず進行しますか?
A. 必ずしも進行して歩けなくなるわけではありません。
変形性股関節症は進行性の疾患ですが、適切なケア(体重管理、筋力維持、生活習慣の見直し)を行うことで、進行を停止させたり、痛みのない状態で長く維持できている方はたくさんいらっしゃいます。「変形=歩けない」ではありません。正しい管理ができれば、一生ご自身の足で歩くことも十分に可能です。
現役理学療法士のアドバイス
「『手術と言われたらどうしよう』と怖がって受診を先延ばしにするのが一番良くありません。早期発見であれば、手術以外の選択肢がたくさん残されています。また、仮に手術になったとしても、最近の人工股関節手術は技術が進歩しており、術後の回復も驚くほど早いです。過度に恐れず、まずは現状を知る勇気を持ってください。」
信頼できる病院の選び方と受診時に伝えるべきポイント
最後に、実際に病院を受診する際のアドバイスです。どこの整形外科でも良いわけではありません。
「股関節専門医」がいる病院を探すメリット
整形外科の中でも「手」「脊椎」「膝」「股関節」など専門分野が分かれています。ホームページなどで医師の経歴を確認し、「日本整形外科学会認定専門医」であり、かつ専門分野に「股関節」と明記されている医師を探しましょう。経験豊富な専門医であれば、レントゲンの微妙な変化も見逃さず、将来の予測も含めた的確なアドバイスがもらえます。
保存療法(リハビリ)に力を入れているかチェックする方法
「すぐに手術しましょう」と言う病院よりも、まずは「リハビリで様子を見ましょう」と提案し、理学療法士による運動療法が充実している病院を選びましょう。リハビリテーション科があり、理学療法士の人数が多いかどうかもチェックポイントです。
医師に伝えるべき「痛み」の具体的なメモの取り方
短い診察時間で症状を正確に伝えるために、事前にメモを書いて持参することをお勧めします。
受診時のお助けメモリスト:
- いつから痛いか:(例:半年前から、急に3日前から)
- どんな時に痛いか:(例:歩き始め、階段を降りる時、寝ている時)
- どこが痛いか:(例:鼠径部、お尻の横、太もも)
- 痛みの程度:(例:10段階で言うと5くらい、痛み止めを飲むほどではない)
- 希望すること:(例:まずはリハビリで治したい、原因を知りたい)
まとめ:正しい知識とケアで、股関節の痛みと上手に付き合っていきましょう
股関節の痛みは、あなたの人生を制限する鎖ではありません。それは体からの「少し休んで、使い方を見直してほしい」というメッセージです。
今回ご紹介したように、手術という選択をする前にできることはたくさんあります。
- 自分の股関節の状態を正しく知る
- NG動作を避けて負担を減らす
- 貧乏ゆすりや水中ウォーキングなどの「守りのケア」を実践する
- 体重管理や道具の活用で生活習慣を変える
これらを今日から一つずつでも取り入れてみてください。焦る必要はありません。股関節ケアは、短距離走ではなくマラソンです。正しい知識を持って、コツコツと自分の体をいたわってあげれば、体は必ず応えてくれます。
現役理学療法士のアドバイス
「私の患者様でも、最初は『もう旅行なんて無理』と泣いていた方が、リハビリと生活改善を経て、笑顔で温泉旅行に行けるようになった姿を何度も見てきました。諦める必要はありません。今日が、あなたの股関節を守るための新しいスタートの日です。ぜひ、できることから始めてみてください。」
股関節を守る生活習慣チェックリスト
最後に、今日から意識してほしいポイントをまとめました。
- □ 痛い時は無理に歩かず、安静にする勇気を持つ
- □ 椅子やベッド中心の「洋式生活」に切り替える
- □ 1日3回、テレビを見ながら「貧乏ゆすり」をする
- □ 重い荷物は持たず、キャリーカートなどを使う
- □ 体重計に毎日乗り、1kgの増減に気をつける
- □ 信頼できる専門医を見つけ、定期的にチェックしてもらう
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