「この患者さんは全アだから、ケアに入るときは必ず二人で対応してね」
新人看護師として病棟に配属されたばかりの頃、先輩からの申し送りで飛び交う「全ア」「Pア」という言葉に戸惑った経験はありませんか?教科書では「全介助」と習ったはずなのに、現場では略語が当たり前のように使われています。さらに難しいのは、その言葉の意味を知っているだけでは業務が回らないという現実です。「どこまで手伝えば全アで、どこからがPア(一部介助)なのか?」という明確な線引きができなければ、患者さんの残存機能を奪ってしまったり、逆に転倒事故を引き起こしたりするリスクがあるからです。
この記事では、現役の看護実習指導者が、現場で即座に役立つ「全ア」の正しい知識と判断基準を徹底解説します。曖昧になりがちな「介助量のボーダーライン」をシーン別に整理し、先輩に突っ込まれないカルテ記載のコツまで網羅しました。
この記事でわかること
- 「全ア(全介助)」と「Pア(一部介助)」の明確な境界線と、迷った時の判断基準
- 食事・排泄・移動など、日常業務のシーン別に見る具体的な介助レベル判定表
- 「根拠は?」と聞かれても困らない、正確なカルテ記載や申し送りのポイント
明日からの業務で自信を持ってアセスメントできるよう、ぜひ最後まで目を通してください。
「全ア」の基礎知識:意味と語源を正しく理解する
新人看護師がまず最初に押さえておくべきなのは、言葉の正確な定義と、なぜ現場でその言葉が使われているのかという背景です。単なる業界用語として覚えるのではなく、患者さんのADL(日常生活動作)レベルを示す重要な指標として理解しましょう。
全ア=Total Assist(トータルアシスト)
結論から申し上げますと、「全ア」とは「全介助(Total Assistance)」の略語です。医療・介護の現場において、患者さんが自力で日常生活動作を行うことが困難であり、看護師や介護士が全面的に介入して援助を行う状態を指します。
語源となっている「ア」は、英語の「Assist(アシスト)」、またはドイツ語の「Assistenz(アシステンツ)」に由来しています。かつての日本の医学界ではドイツ語が主流でしたが、現在は英語由来の用語が多く使われています。つまり、「全ア」は「全ての動作をアシストする」という意味になります。
具体的には、以下のような状態が「全ア」に該当します。
- 意識レベルが低く、自発的な動作が全く見られない場合(JCSやGCSで評価される意識障害がある状態など)
- 四肢に重度の麻痺があり、自力での体位変換や移動が不可能な場合
- 重度の認知症や精神疾患により、動作の手順を理解・実行することが困難で、すべての工程に介助が必要な場合
- 安静度が「絶対安静」であり、治療上の理由から患者さん自身による動作を制限し、医療者がすべて代行しなければならない場合
ここで重要なのは、「全ア」という言葉が単に「手伝う」ことだけを意味するのではないという点です。全介助の患者さんに対しては、安全安楽を守るための「管理」と、廃用症候群を予防するための「機能維持」の両面が求められます。新人看護師の皆さんは、「全ア=何もしなくていい患者さん」ではなく、「最も密度の高いケアが必要な患者さん」であると認識を改めてください。
なぜ現場では略語を使うのか?(業務効率とカルテ記載)
「なぜ普通に『全介助』と言わないのですか?」と疑問に思う新人さんも多いでしょう。これには、医療現場特有のスピード感と情報量の多さが関係しています。
看護師の業務は分刻みで進行します。申し送りやカンファレンスの限られた時間内で、患者さんの状態を端的に伝えるためには、短い言葉で共通認識を持てる用語が必要不可欠です。「〇〇さんは移動、移乗、排泄、更衣、食事のすべてにおいて介助が必要です」と説明するよりも、「〇〇さんはADL全アです」と伝えた方が、わずか数秒でチーム全員が「全面的に手が必要な状態である」と理解できます。
また、手書きのメモやホワイトボードへの記載においても、画数の多い「介助」という漢字を書くよりも、「ア」とカタカナ一文字で済ませる方が効率的です。しかし、ここに大きな落とし穴があります。略語はあくまで「院内やチーム内での共通言語」であり、公的な記録や患者さん・ご家族への説明では不適切な場合があるということです。
特に電子カルテの普及に伴い、選択式で入力する場合は問題ありませんが、自由記述欄(SOAPなど)に入力する際は、病院の規定に従う必要があります。多くの病院では、医療安全管理の観点から「誰が見ても誤解のない記録」が求められるため、正式名称である「全介助」と記載することが推奨されています。「全ア」はあくまで口頭やメモ書きレベルの略語であると心得ておきましょう。
関連用語との関係図(自立・見守り・Pア・全ア)
「全ア」を正しく理解するためには、対義語や関連語との位置関係を把握することが近道です。患者さんのADLレベルは、グラデーションのように変化していきます。以下に、介助度のレベルを段階的に解説します。
1. 自立(Independent)
誰の手も借りず、自分一人で安全に動作が完結できる状態です。補助具(杖や歩行器など)を使用していても、着脱や操作を自分で行えれば「自立」とみなされることが多いですが、FIMなどの評価基準では点数が変わることもあります。
2. 見守り(Observation / Supervision)
身体的な接触は必要ないものの、転倒のリスクや認知機能の低下があるため、看護師がそばについて監視や声かけを行う必要がある状態です。「近位見守り(手の届く範囲)」や「遠位見守り(視界に入る範囲)」など、距離感によって細分化されることもあります。
3. Pア(Partial Assist:一部介助)
患者さん自身でできる動作はあるものの、部分的に介助が必要な状態です。「半介助」とも呼ばれます。例えば、「ズボンの上げ下げはできるが、ボタンが留められない」「スプーンは持てるが、おかずをすくう動作が難しい」といったケースです。全アとの境界線が最も難しく、アセスメント能力が問われる領域です。
4. 全ア(Total Assist:全介助)
先述の通り、動作のほぼ100%を看護師が行う状態です。患者さんの身体機能や認知機能が著しく低下している場合や、治療上の制限がある場合に適用されます。
これらの用語は、ピラミッドのように積み重なっているイメージを持ってください。底辺にあるのが最も手厚い「全ア」であり、リハビリや治療を経て、Pア、見守り、そして頂点の自立へとステップアップしていくことが、私たち看護師の目標でもあります。
▼【図解イメージ】ADL介助度レベル別ピラミッドの解説
| レベル | 用語(略語) | 介助量の目安 | 看護師の関わり方 |
|---|---|---|---|
| Level 1 (最重度) |
全ア (Total Assist) |
100% 〜 75% | 全面的に実施。 安全確保と安楽が最優先。 |
| Level 2 | Pア (Partial Assist) |
75% 〜 25% | 不足している部分のみ手を貸す。 「待つ」ケアが重要。 |
| Level 3 | 見守り (Observation) |
0% (接触なし) |
手は出さず、目と声をかける。 転倒予防のポジショニング。 |
| Level 4 (目標) |
自立 (Independent) |
0% | 環境整備のみ。 定期的な再評価を行う。 |
現役看護実習指導者のアドバイス
「学生さんや新人さんがよくやってしまうミスに、公的な看護記録やサマリーに『全ア』と書いてしまうことがあります。略語は便利ですが、他院への転院時や、万が一の医療訴訟など第三者がカルテを見る場面では『意味が不明確』と判断されるリスクがあります。プロとして、公式な書類には必ず『全介助』と記載する癖をつけましょう。これは自分自身を守るためでもあります。」
【決定版】全アとPア(一部介助)の違いは?シーン別判断基準
新人看護師が現場で最も頭を悩ませるのが、「この患者さんは全アなのか、それともPアなのか?」という判断です。先輩によって言うことが違ったり、患者さんの日々の体調によって変動したりするため、明確な基準が見えにくいのが現状です。
しかし、この判断を誤ると、本来自分でできるはずの機能を奪ってしまう「過剰介助」や、逆に必要な介助を行わずに事故につながる「過少介助」を引き起こしてしまいます。ここでは、曖昧さを排除するための具体的な行動基準をシーン別に解説します。
判定の基本ルール:患者さんの「残存機能」をどう見るか
全アとPアを分ける最大のポイントは、「患者さんが動作の何割を自力で行えるか」という量的評価と、「その動作を安全に完遂できるか」という質的評価の掛け合わせにあります。
一般的に、FIM(機能的自立度評価法)などの基準では、介助者が手助けする量が25%未満なら「監視・準備(見守り)」、25%以上75%未満なら「一部介助(Pア)」、75%以上なら「全介助(全ア)」と分類されます。しかし、現場でいちいちパーセンテージを計算することは現実的ではありません。
現場での実践的な判断基準として、以下の「残存機能」に着目してください。
- 運動機能:手足が動くか、体幹を保持できるか、握力があるか。
- 認知機能:指示が入るか、動作の目的を理解しているか、危険予測ができるか。
例えば、「手足は動くが、認知症で食事であることを認識できず、口を開けない」場合は、運動機能があっても食事動作としては「全ア」に近くなります。逆に、「四肢麻痺があるが、自助具を使えば自分で食べられる」場合は、セッティングさえすれば「Pア」や「自立」に近づきます。このように、単に体が動くかどうかだけでなく、「目的とする動作を遂行できるか」を基準に考えることが重要です。
【食事編】スプーンを持てるならPア?全ア?
食事介助は、患者さんの楽しみに関わる重要なケアですが、誤嚥(ごえん)のリスクと隣り合わせの危険な業務でもあります。
全アと判断すべきケース:
患者さんがスプーンや箸を持つことが全くできない、あるいは持てても口まで運ぶコントロールが効かない場合です。また、覚醒レベルが悪く、食事中に眠ってしまうため、常に刺激を与えながら口に運ぶ必要がある場合も全アとなります。特に、嚥下障害が重度で、一口ごとの飲み込み確認や、ペース配分を完全に看護師が管理しなければならない場合は、たとえ手が動いても「安全管理上の全ア」と判断します。
Pアと判断すべきケース:
スプーンを持って口に運ぶことはできるが、お皿の奥にあるおかずをすくえない、最後の方になると疲れて手が止まってしまう、といった場合です。この場合、看護師はお皿を寄せたり、すくいやすいように集めたり、疲れた時だけ手を添えるといった「一部」の介助を行います。ここで重要なのは、最初から全部食べさせてしまわないことです。「まずは自分で食べてみましょう」と促し、できない部分だけを補うのがPアの鉄則です。
【排泄編】オムツ交換は全ア、ポータブルトイレは?
排泄はプライバシーに関わるため、可能な限り自立を促したい領域ですが、転倒リスクが最も高い場面でもあります。
全アと判断すべきケース(オムツ交換):
ベッド上で寝たきりの状態であり、腰を浮かせたり(除圧)、横を向いたり(側臥位)する動作が自力では不可能な場合です。オムツ交換の一連の動作(テープを外す、陰部洗浄をする、新しいオムツを当てる、体位を戻す)のすべてを看護師が行うため、完全な全アです。
Pアと判断すべきケース(トイレ・ポータブルトイレ):
「トイレに行きたい」という尿意・便意があり、手すりを持って立位を数秒間保持できる場合はPアの可能性が高いです。ズボンの上げ下げや、清拭(お尻を拭くこと)だけ介助が必要な場合、あるいはトイレまでの移動は車椅子で介助し、移乗動作だけ一部手伝う場合などが該当します。「立位保持ができるかどうか」が、オムツ(全ア)かトイレ(Pア)かの大きな分かれ道となります。
【移動・移乗編】端坐位保持ができるかどうかの重要性
移動(ベッドから車椅子へ移るなど)の介助は、看護師の腰痛原因No.1であり、ボディメカニクスが必須のスキルです。
全アと判断すべきケース:
ベッドの端に座らせても、支えがないとすぐに倒れてしまう(端坐位保持不可)場合は、基本的に全アです。自分の足で体重を支えることができないため、トランスファーボードやリフトを使用するか、看護師が全重量を支えて抱え上げる(推奨されませんが)必要があります。この状態で無理に立たせようとするのは極めて危険です。
Pアと判断すべきケース:
端坐位が安定しており、手すりなどを掴めば立ち上がることができる場合です。看護師は、膝折れ防止のために膝を支えたり、腰を誘導したりする程度の介助を行います。患者さんの「立ち上がる力」を利用できるため、看護師の負担も軽減されます。ここでも「患者さんの足の裏がしっかり床についているか」を確認し、力を入れやすい環境を作ることがPアを成功させるコツです。
▼【保存版】シーン別「全ア vs Pア」判断チェックリスト
| シーン | チェック項目 | 判定:全ア(全介助) | 判定:Pア(一部介助) |
|---|---|---|---|
| 食事 | スプーン操作 | 持てない、口へ運べない | 持てるがすくえない、こぼす |
| 嚥下・意識 | 覚醒不良、嚥下反射微弱 | 覚醒良好、時々むせる程度 | |
| 排泄 | 移動能力 | ベッド上から動けない | 車椅子や歩行器でトイレへ行ける |
| 動作遂行 | オムツ内で排泄、事後処理不能 | ズボンの上げ下げや清拭のみ介助 | |
| 移動 移乗 |
端坐位保持 | 支えがないと倒れる(保持不可) | 自力で座っていられる(保持可能) |
| 下肢筋力 | 踏ん張りが効かない | 数秒間なら立位を保てる | |
| 更衣 | 着脱動作 | 寝たきりで全工程を委ねる | 麻痺側を通す時やボタンのみ介助 |
| 入浴 | 洗体動作 | ストレッチャー浴で全て洗ってもらう | 背中や足先など届かない所のみ介助 |
現役看護実習指導者のアドバイス
「新人の皆さんが陥りやすいのが『過剰介助の罠』です。忙しいと、患者さんが自分でやるのを待つよりも、パパッと全部やってしまった方が早いですよね。でも、それは患者さんの『できること』を奪う行為です。特にPアの患者さんに対して全アのような関わりを続けていると、あっという間に筋力が低下し、本当に全アになってしまいます。時間はかかっても『待つ』ことが、看護師としての本当の仕事だと覚えておいてください。」
現場で迷わない!複雑なケースのカルテ記載と申し送り
現場では、「食事は自分で食べられるけれど、トイレは全く動けないから全介助」といった、ADL項目によって介助度が異なる「混合ケース」が多々あります。このような場合、単に「全アです」と伝えてしまうと、誤った情報が伝わり、転倒などの事故につながる恐れがあります。
ここでは、複雑な患者さんの状態を正確に記録し、先輩や多職種に正しく伝えるためのテクニックを解説します。
項目によって介助度が異なる場合の記録方法(SOAPの書き方例)
看護記録の基本であるSOAP形式を用いて、ADLの項目ごとに介助度を書き分けることが重要です。「ADL:全ア」と一括りにするのではなく、具体的にどの動作が自立で、どの動作に介助が必要なのかを明記します。
特に、看護計画の評価やサマリーにおいては、FIMの項目を意識した記述が推奨されます。以下に、よくある混合ケースの具体的な記載例を紹介します。
▼【実例】項目別介助度のカルテ記載サンプル(SOAP形式)
ケース:脳梗塞後遺症(右片麻痺)で、食事は左手で自立しているが、移動と排泄は全介助のAさん
S (Subjective data):
「トイレに行きたい感じがするけど、自分じゃ動けないから頼むよ」
O (Objective data):
・食事:左手を使用し、自助具(スプーン)にて全量摂取可能。セッティングのみ介助(自立〜見守りレベル)。
・移動:右片麻痺著明、端坐位保持困難。車椅子への移乗は看護師2名による全介助を実施。
・排泄:尿意あり。立位保持困難なため、ベッド上にてオムツ交換を実施(全介助)。仙骨部に発赤なし。
A (Assessment):
食事動作は残存機能(左上肢)を活用できているが、下肢筋力低下と麻痺により移動・排泄動作は全介助が必要である。尿意の訴えはあるため、排泄リズムに合わせた定時のオムツ交換により、不快感の軽減と皮膚トラブルの予防を図る必要がある。
P (Plan):
・食事時は左手での摂取を継続し、疲労度を観察。
・排泄は2時間ごとの定時交換とし、スキントラブルの有無を確認。
・移乗時は転落リスク高いため、必ず2名対応とする。
このように、「食事は自立」「移動は全ア」と分けることで、次に担当する看護師が「食事の時は手を出さなくていいんだな」「トイレコールの時はすぐに二人で行かないといけないな」と具体的な行動をイメージできるようになります。
先輩への申し送りで「全アです」と伝えて良い場面・ダメな場面
申し送りは時間との勝負ですが、省略しすぎてはいけないポイントがあります。
「全アです」と伝えて良い場面:
意識レベルがJCS III桁などで、食事・排泄・移動・更衣・入浴のすべてのADLにおいて完全な介助が必要な場合です。この場合は、「ADLはフル(Full)で全アです」と伝えると、相手も「完全に寝たきりの状態だな」と理解できます。
「全アです」と伝えてダメな場面:
一部でも自分でできることがある場合です。例えば、「移動は全アですが、食事はPアです」と言うべきところを「全アです」と言ってしまうと、聞いた先輩は食事介助も全てやってしまうかもしれません。これは患者さんのリハビリ機会を奪うことになります。
正しい申し送りの構文としては、「メインの介助度 + 例外事項」の形がおすすめです。
例:「基本的には全アですが、食事のみ自助具を使用して自立しています」
例:「ADLは自立されていますが、認知機能低下のため服薬管理のみ全ア(看護師管理)です」
FIM(機能的自立度評価法)の点数と全アの相関関係
リハビリテーションスタッフ(PT/OT/ST)との連携において、共通言語となるのが「FIM(Functional Independence Measure)」です。看護師もこの点数の意味を知っておくと、より専門的なアセスメントが可能になります。
FIMは1点から7点で評価されますが、「全ア」に相当するのは以下の点数です。
- 1点(全介助):患者が行う運動努力が25%未満。介助者が75%以上を手助けする、または2人での介助が必要な場合。
- 2点(最大介助):患者が行う運動努力が25%以上50%未満。介助者が半分以上手助けする場合。
現場感覚としての「全ア」は、このFIMの1点・2点に相当します。一方、3点(中等度介助)や4点(最小介助)は「Pア」の領域に入ります。カルテに「移乗 FIM 1点」と記載があれば、それは専門的な根拠に基づいた「全ア」の証明となります。
現役看護実習指導者のアドバイス
「先輩が『その全アの根拠は?』と意地悪く(笑)聞いてくることがありますが、これはあなたをいじめたいわけではありません。『なんとなく』で判断していないかを確認したいのです。その時に『端坐位保持ができず、FIMで言うと1点相当だからです』や『右麻痺で自力での寝返りが不可だからです』と、身体機能に基づいた理由を返せれば、先輩は『おっ、この新人はしっかりアセスメントできているな』と安心し、信頼してくれるようになりますよ。」
全アの患者さんを担当する際のケアのポイントと注意点
全介助の患者さんを担当するということは、その方の命と生活のすべてを預かるという重い責任を負うことです。同時に、体重のある患者さんを支えることは、看護師自身の身体への負担も大きくなります。ここでは、患者さんの安全と、看護師自身の健康を守るための実践的なケアのポイントを紹介します。
各セクションのボリュームを十分に確保し、具体的な技術論に踏み込みます。
ボディメカニクスを活用した腰を痛めないトランス技術
全アの患者さんのオムツ交換や体位変換、移乗介助は、力任せに行うと一発で腰を痛めます。看護師生命を長く保つために、ボディメカニクスの基本原則を徹底してください。
- 支持基底面を広くする:足を肩幅以上に開き、安定した姿勢を作ります。足が揃っていると不安定になり、余計な筋力を使ってしまいます。
- 重心を低くする:膝を軽く曲げ、腰を落とします。重心が低いほど姿勢は安定します。
- 患者さんを小さくまとめる:患者さんの腕を胸の前で組んでもらい、膝を曲げてもらいます。対象物がコンパクトになるほど、回転モーメントが小さくなり、少ない力で動かせます。
- てこの原理を使う:持ち上げるのではなく、支点を決めて「回す」「滑らせる」イメージです。例えば、体位変換では膝や肩を支点にして回転させます。
- 重心を近づける:患者さんの体に自分の体を密着させます。離れれば離れるほど、腕や腰への負担が増大します。
特に全アの患者さんのトランス(移乗)では、無理に一人で行わず、スライディングシートやボードなどの福祉用具を積極的に活用するか、必ず二人以上で対応することを心がけてください。「これくらいなら一人でいける」という過信が、腰痛と事故の元凶です。
褥瘡(ジョクソウ)予防のための体位変換とポジショニング
全アの患者さんは、自力で寝返りを打つことができません。同じ姿勢が続くと、自身の体重で皮膚や皮下組織が圧迫され、血流障害が起きて褥瘡(床ずれ)が発生してしまいます。褥瘡を作らないことは、看護師の恥じないケアの証とも言えます。
2時間ごとの体位変換(タイペン):
基本は2時間おきに向きを変えます(右側臥位→仰臥位→左側臥位)。ただし、患者さんの皮膚状態によってはもっと頻回に行う必要があります。最近では、高機能エアマットレスの使用により、4時間ごとでも可とするケースもありますが、観察は怠ってはいけません。
30度側臥位の徹底:
90度真横に向けるのではなく、背中にクッション(ピロー)を入れ、30度程度の傾きを作ります。これにより、仙骨部や大転子部への圧集中を避けることができます。「広い面で支える」ことを意識し、クッションの端が体に食い込まないように丁寧にフィッティングを行いましょう。
背抜き・足抜きの実施:
体位変換やギャッジアップ(ベッドの頭を上げること)をした後は、必ず背中や足の下に手を入れて、服やシーツのシワを伸ばし、圧を逃がす「背抜き」を行ってください。これをするかしないかで、褥瘡発生リスクは劇的に変わります。
誤嚥性肺炎を防ぐ食事介助(全介助時の姿勢とペース)
全アの患者さんへの食事介助は、単に口に食べ物を運ぶ作業ではありません。誤嚥性肺炎は高齢者の死因上位であり、介助の質が生命予後に直結します。
姿勢の調整(ポジショニング):
ベッド上で食べる場合、30度〜60度のギャッジアップを行いますが、重要なのは「首の角度」です。顎が上がっていると気道が広がり、誤嚥しやすくなります。枕を調整して必ず「顎を引いた(頸部前屈)」姿勢を作ります。麻痺がある場合は、麻痺側にクッションを入れて身体が傾かないよう補正します。
ペースと一口量:
看護師のペースで次々と口に運んではいけません。患者さんの喉の動き(嚥下反射)を見て、ゴックンと飲み込んだことを確認してから次の一口を運びます。また、スプーン山盛りにせず、少量を舌の中央に乗せることがポイントです。水分でむせやすい場合は、とろみ剤を適切に使用し、お茶ゼリーなどを活用します。
口腔ケアの重要性:
食後の口腔ケアは必須です。口の中に食べカスが残っていると、それが気管に入り肺炎の原因になります。全アの患者さんはうがいができないことが多いため、口腔ケア用のスポンジブラシやウェットティッシュを用いて、確実に汚れを除去してください。
現役看護実習指導者のアドバイス
「全アの患者さんは、自分から『痛い』『苦しい』と言えないことが多いです。だからこそ、私たち看護師の『声かけ』が命綱になります。『体を動かしますね』『お口を開けてくださいね』と、反応がなくても声をかけ続けてください。それは患者さんの尊厳を守ると同時に、ふとした瞬間の表情の変化や筋緊張の異常に気づくきっかけにもなります。サイレントな異変に気づけるのが、プロの看護師ですよ。」
よくある質問(FAQ)
最後に、新人看護師さんからよく寄せられる、全アに関する素朴な疑問にお答えします。モヤモヤを解消して、スッキリした気持ちで業務に向かいましょう。
Q. 「全A」と「全介」は同じ意味ですか?
はい、全く同じ意味です。「全A」は「全ア(全Assist)」の表記揺れであり、「全介」は日本語の「全介助」の略です。カルテや申し送りでは、その病棟や病院の慣習によって使い分けられていますが、指している状態(ADL全介助)は同一です。ただし、新人のうちは独自の略語を使わず、先輩が使っている言葉に合わせるか、正式名称を使うのが無難です。
Q. 患者さんが「自分でやる」と言っても全アにしていいですか?
患者さんの意欲は尊重すべきですが、安全が最優先です。明らかに転倒や誤嚥のリスクが高い場合、心を鬼にして介入する必要があります。ただし、頭ごなしに「ダメです、私がやります」と否定するのはNGです。「私が支えているので、一緒にやってみましょう」と提案し、安全を確保した上で(実質的には全介助に近い状態で)動作を行ってもらうのがベストです。これを「参加型介助」と呼びます。
Q. 介護施設でも「全ア」という言葉は通じますか?
通じることが多いですが、介護現場ではより生活に密着した用語が使われる傾向があります。例えば、「全介助」という言葉のほかに、介護保険制度上の「要介護5」という区分や、具体的なケア内容(「移乗はリフト対応」「食事は全介助」など)で表現されることが一般的です。医療用語としての「全ア」は、病院文化の色が濃い言葉であると認識しておきましょう。
まとめ:全アの正しい理解は患者さんの安全と自立支援の第一歩
ここまで、「全ア(全介助)」の定義から判断基準、実践的なケアのポイントまでを解説してきました。全アという言葉は、単なる業務上の記号ではありません。その裏側には、患者さんの生活、尊厳、そして安全を守るための深いアセスメントが隠されています。
最後に、今回の重要ポイントをチェックリストにまとめました。日々の業務で迷ったときに振り返ってみてください。
- 「全ア」はTotal Assistの略。公的記録には「全介助」と書く。
- 判断に迷ったら「残存機能」と「安全性」を天秤にかける。
- 「スプーンが持てるか」「端坐位が保てるか」がPアとの境界線。
- カルテには「食事は自立、移動は全ア」のように項目別に具体的に書く。
- 全アのケアはボディメカニクスと声かけが命。自分の腰も守る。
新人のうちは判断に迷うことがあって当然です。そんな時は、一人で抱え込まずに「この患者さん、手は動くのですが、移動は全アで対応した方が安全でしょうか?」と先輩に相談してください。根拠を持った相談なら、先輩も必ず力になってくれます。
この記事が、あなたの看護師としての成長と、患者さんの安楽な療養生活の一助となることを願っています。
現役看護実習指導者のアドバイス
「『全ア』の患者さんが、ある日ふと自分でお茶碗を持とうとする瞬間があります。その小さな変化に気づき、『Pアに挑戦してみませんか?』とチームに提案できる看護師になってください。全介助から一部介助へ、そして自立へ。その回復のプロセスを支えることこそが、看護の最大の喜びです。焦らず、一つひとつ経験を積み重ねていきましょう。応援しています!」
▼【付録】全ア・Pア判定 最終確認シート
| 確認項目 | YES(Pア・自立の可能性あり) | NO(全アの可能性大) |
|---|---|---|
| 指示理解 | こちらの指示通りに動ける | 指示が入らない、反応がない |
| 筋力・麻痺 | 手すりを握れる、足に力が入る | 脱力している、完全麻痺 |
| 座位保持 | 支えなしで座っていられる | すぐに倒れてしまう |
| 危険予測 | 「危ない」とわかって止まれる | 衝動的に動いてしまう |
| 疲労度 | 動作後も呼吸が安定している | 一動作で激しく消耗する |
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