民間軍事会社ワグネルは、創設者であるプリゴジン氏の死後も完全には消滅していません。組織は事実上解体・再編され、その機能の多くはロシア国防省傘下の「アフリカ軍団」や「国家親衛隊(ロスグヴァルディア)」等の公的組織に吸収・統合されつつあります。
かつて「影の軍隊」として世界を震撼させた組織は、今や国家の直接管理下にある「公然たるツール」へと変貌を遂げました。その実態を正確に把握することは、今後の国際情勢やビジネスリスクを予測する上で不可欠です。
この記事でわかること
- プリゴジン死後のワグネルの解体・再編状況と現在の組織体制
- ロシア国防省傘下「アフリカ軍団」としての新たな活動と利権構造
- 専門家が分析する今後のロシア情勢と企業が警戒すべき地政学リスク
Note|曖昧性回避
本記事ではロシアの民間軍事会社(PMC)について解説します。
慶應義塾大学の合唱団については「ワグネル・ソサィエティー男声合唱団 公式サイト」をご覧ください。
化学者・作曲家については「コトバンク:ワグネル」をご覧ください。
【最新情勢】ワグネルは今どうなっているのか?解体と再編の全貌
結論から申し上げますと、かつて世界的にその名を知られた民間軍事会社「ワグネル・グループ」という単一の組織体は、もはや過去のものとなりました。しかし、それは組織の消滅を意味するものではありません。むしろ、その軍事機能、諜報ネットワーク、そして海外利権は、ロシア国家という巨大なシステムの中に「吸収」され、より強固に再構築されています。
多くのメディアが報じた「ワグネル崩壊」という言葉は、一面的な真実に過ぎません。実際には、創設者の個人的な私兵集団から、国家が直接コントロールする「準正規軍」への脱皮が行われたのです。ここでは、その複雑な解体と再編のプロセスを詳細に紐解いていきます。
「ワグネル」という名称の消滅と機能の存続
2023年8月の創設者死亡事故以降、ロシア国内において「ワグネル」という名称の使用は公的に避けられる傾向にあります。かつては愛国者の象徴として宣伝されたそのブランドは、反乱の記憶とともに封印されつつあるのです。しかし、看板が外された建物の内部では、以前と変わらぬ、あるいはそれ以上の活動が続いています。
具体的には、戦闘部隊としての機能、兵站(ロジスティクス)、そしてプロパガンダ拡散能力といった主要なアセットは、細分化されて継承されました。最も重要な変化は、指揮命令系統が「個人のカリスマ」から「官僚機構」へと移った点です。これにより、迅速な意思決定能力は失われましたが、国家戦略との整合性は飛躍的に高まりました。
ロシア国防省傘下「アフリカ軍団(Africa Corps)」への移行
再編の最大の目玉と言えるのが、国防省直轄の部隊として新設された「アフリカ軍団(Africa Corps)」です。この名称は、第二次世界大戦時のドイツ・アフリカ軍団を想起させるものですが、ロシア側はアフリカ諸国への関与を強化する明確な意思表示としてこの組織を立ち上げました。
旧ワグネルがアフリカ各地で構築したネットワークは、この新組織にそのまま引き継がれています。リビア、マリ、中央アフリカ共和国などに駐留していた戦闘員たちは、国防省と新たな契約を結ぶか、あるいは撤退かを迫られました。結果として、経験豊富な要員の多くが「アフリカ軍団」のバッジを付け替え、現地の治安維持や要人警護、そして資源権益の防衛任務を継続しています。
国家親衛隊(ロスグヴァルディア)およびチェチェン部隊への吸収
海外展開部隊が国防省管轄となった一方で、国内やウクライナ戦線に残った部隊の一部は、国家親衛隊(ロスグヴァルディア)に吸収されました。国家親衛隊はプーチン大統領に直結する治安組織であり、ここに旧ワグネルの精鋭部隊を組み込むことは、反乱の再発を防ぐための最も確実な措置と言えます。
また、一部の部隊や指揮官は、ラムザン・カディロフ首長率いるチェチェン共和国の特殊部隊「アフマト」へと合流しました。かつてはライバル関係にあった組織同士ですが、国家の統制下で融合が進んでいます。このように、かつて一枚岩だった組織は、用途と忠誠心に応じて複数の公的組織へと切り分けられたのです。
現在の活動規模と人員数の推移(全盛期との比較)
全盛期には5万人規模(囚人兵を含む)を誇ったと言われるワグネルですが、現在の後継組織の人員構成は大きく変化しています。囚人兵の多くは恩赦により解放されるか、戦死によって数を減らしました。現在、中核となっているのは高度な訓練を受けた契約兵たちです。
▼詳細データ:ワグネル人員の推移と再編先の内訳(推計)
| 時期 | 推定総人員 | 主要な構成と配置 |
|---|---|---|
| 全盛期 (2022年末) | 約 50,000人 | ウクライナ戦線(囚人兵約4万人を含む)、アフリカ・シリア駐留部隊 |
| 反乱直後 (2023年6月) | 約 25,000人 | ウクライナ撤退後、ベラルーシ移転組、帰休組、アフリカ残留組に分散 |
| 現在 (2024年以降) | 約 15,000〜20,000人 | アフリカ軍団:約 5,000〜7,000人 国家親衛隊・他PMC:約 5,000人 ベラルーシ教官:数百人規模に縮小 ※残りは契約満了や引退 |
※数値は英国防省および独立系軍事アナリストによる推計値に基づきます。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「多くのメディアは『ワグネル崩壊』と報じましたが、実態は『国家による完全な吸収・統制(国有化)』です。プーチン政権にとって、ワグネルが持っていた戦闘能力や海外ネットワークは廃棄するには惜しい資産です。看板を掛け替え、指揮系統を国家(国防省・GRU)に直結させることで、リスクを排除しつつ実利を維持しようとしています。企業で言えば、創業社長を解任し、親会社が直接経営に乗り出した子会社のような状態と言えるでしょう」
ワグネルの台頭から「プリゴジンの乱」まで:歴史的背景の整理
現在の複雑な状況を理解するためには、なぜワグネルという組織が生まれ、そして国家に牙をむくに至ったのか、その歴史的経緯を振り返る必要があります。この組織の軌跡は、現代ロシアの軍事戦略の変化そのものを映し出しています。
2014年ドンバス紛争と「影の軍隊」としての設立
ワグネルの起源は、2014年のウクライナ東部ドンバス紛争に遡ります。当時、ロシア政府は正規軍の直接介入を否定しつつ、現地武装勢力を支援する必要に迫られていました。そこで考案されたのが、「民間人」を装ったプロの戦闘集団、すなわちPMC(民間軍事会社)の活用です。
初代指揮官であるドミトリー・ウトキン氏(コールサイン「ワグネル」)を中心に組織された部隊は、クリミア併合やルガンスク、ドネツクでの戦闘において、正規軍が公式には行えない「汚れ仕事」を遂行しました。この成功体験が、後の活動拡大の原点となります。
シリア・アフリカでの活動拡大と「プリゴジン帝国」の形成
2015年以降、ワグネルは活動の場をシリア、そしてアフリカ大陸へと広げました。シリア内戦ではアサド政権を軍事的に支える見返りに石油・ガス権益を獲得。アフリカ諸国では、政情不安な国の指導者に警護と武器を提供する代わりに、金鉱山やダイヤモンド鉱山の採掘権を手に入れました。
この「安全保障と資源の交換」というビジネスモデルは、創設者プリゴジン氏に莫大な富をもたらし、ワグネルは単なる傭兵部隊から、メディア企業やトロール工場(ネット工作部隊)をも擁する巨大な「プリゴジン帝国」へと成長しました。
ウクライナ侵攻での消耗戦と国防省との確執
2022年のウクライナ全面侵攻において、ワグネルは再び最前線に投入されました。特に東部バフムートの攻略戦では、刑務所から徴募した囚人兵を大量に投入する「人海戦術」を展開し、多大な犠牲を払いながらも戦果を上げました。
しかし、この過程で弾薬供給や作戦指揮を巡り、プリゴジン氏とロシア国防省(ショイグ国防相・ゲラシモフ参謀総長)との対立が激化。「弾薬をよこせ!」とSNSで絶叫するプリゴジン氏の姿は、ロシア軍内部の亀裂を世界に露呈させました。
2023年6月「正義の行進(武装蜂起)」と8月の墜落事故
対立は限界に達し、2023年6月、プリゴジン氏は部隊を率いてモスクワへ向けて進軍する「正義の行進」を決行しました。この反乱はベラルーシのルカシェンコ大統領の仲介により1日で収束しましたが、プーチン政権の権威は大きく傷つきました。
そして2ヶ月後の8月、プリゴジン氏とウトキン氏を含む幹部を乗せたプライベートジェット機がモスクワ近郊で墜落。全員が死亡しました。この瞬間、ワグネルの「第一章」は唐突に幕を閉じたのです。
▼詳細解説:プリゴジン氏死亡事故の不可解な点と公式発表
ロシア連邦捜査委員会は、遺伝子検査の結果として乗客全員の身元を確認し、事故原因を「機内での手榴弾の爆発」と示唆しました。プーチン大統領も「遺体から手榴弾の破片が見つかった」と発言しています。
一方、西側諜報機関(米・英)や独立系アナリストは、機体の翼が空中で分離している映像などから、地対空ミサイルによる撃墜や、機内に仕掛けられた爆発物による暗殺の可能性が高いと分析しています。いずれにせよ、この事故が「事故」であったと信じる専門家は世界的にも極めて少数です。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「プリゴジンの反乱は、ロシア国内の治安維持機能の脆弱さを露呈させました。しかし、その後の粛清の速さはプーチン体制の執念深さも示しています。この一連の騒動は、ロシアにおいて『私兵』を持つことのリスクを決定的に高め、今後のPMC活動はより厳格な国家管理下に置かれることになるでしょう。もはや一人の野心家が軍を動かす時代は終わったのです」
「アフリカ軍団」として継続される海外利権と地政学への影響
ビジネスパーソンや投資家にとって最も関心が高いのは、ワグネルが保有していた海外利権の行方でしょう。結論から言えば、ロシアはこれらの利権を手放すつもりは毛頭ありません。「アフリカ軍団」への看板の架け替えは、むしろ国家としてこれらの資源戦略をより強化するための布石です。
ロシアが手放せないアフリカ利権(金・ダイヤモンド・石油)
西側諸国からの経済制裁が続く中、ロシアにとってアフリカの資源は生命線とも言える外貨獲得手段です。旧ワグネルが構築したスキームでは、現地の金やダイヤモンドが密輸ルートを通じてロシアや中東へ運ばれ、制裁の抜け穴となってきました。
国防省直轄となったことで、これらの資源取引はより組織的かつ大規模に行われる可能性があります。特に金(ゴールド)は、基軸通貨ドルに依存しない資産として、ロシア中央銀行にとっても戦略的な重要性を増しています。
主要活動国の現状:マリ、中央アフリカ、リビア、スーダン
各国の状況を見ると、ロシアの影響力は依然として強大です。
- マリ:軍事政権との結びつきを強化し、対テロ作戦を支援。フランス軍撤退後の空白を完全に埋めています。
- 中央アフリカ共和国:大統領の警護から税関業務まで、国家機能の一部をロシア系要員が代行する状況が続いています。
- リビア:東部を支配するハフタル将軍派を支援し、石油施設や空軍基地の利用権を維持しています。
- スーダン:内戦に関与し、金鉱山からの利益確保を図っていますが、情勢は流動的です。
旧ワグネル部隊と「アフリカ軍団」の任務の違い
旧ワグネル時代は、利益追求型の「ビジネス」としての側面が強く、時に現地の略奪行為なども横行していました。しかし、「アフリカ軍団」となってからは、ロシア外交の延長としての「政治的任務」の比重が高まっています。
具体的には、単なる戦闘支援だけでなく、ロシア流の政治体制の輸出、反欧米プロパガンダの拡散、そして国連などの国際場裏でのロシア支持票の獲得工作などが含まれます。より戦略的で、長期的な視点での関与にシフトしているのです。
サヘル地域における対テロ戦争とロシアの影響力拡大
サハラ砂漠南縁のサヘル地域では、イスラム過激派によるテロが頻発しており、政情不安が続いています。欧米諸国が「民主化」を条件に支援を行うのに対し、ロシアは「条件なしの軍事支援」を提供することで、ニジェールやブルキナファソといった国々の軍事政権を取り込んでいます。
「アフリカ軍団」は、これらの国々に対して「体制の安定」を保証する用心棒として機能しており、西側の影響力を排除する「地政学的な武器」として活用されています。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「ワグネルから『アフリカ軍団』へ看板が変わっても、現地での強引な手法(資源の収奪や現政権への軍事支援)は変わりません。日本企業がアフリカ進出を検討する際、ロシア系PMCの影響力が強い地域では、クーデターリスクや欧米の制裁リスクに巻き込まれる可能性を考慮する必要があります。特に現地の警備会社や物流業者を選定する際には、背後にロシア系資本がないか厳重なチェックが必要です」
ウクライナおよびベラルーシにおける現在の関与
一時期、反乱後のワグネル部隊がベラルーシへ移動し、ポーランド国境付近で緊張を高めたことは記憶に新しいでしょう。しかし、現在の彼らのプレゼンスは大きく変化しています。ウクライナ戦線への組織的な復帰説を含め、最新の状況を解説します。
ウクライナ戦線での組織的戦闘の終了と個別の契約兵化
現在、ウクライナの戦場において「ワグネル部隊」として組織的に作戦行動を行っている集団は存在しません。バフムートで見せたような、独自の指揮系統を持つ軍団としての活動は終了しました。
その代わりに行われているのが、元戦闘員の「個別契約」です。経験豊富な元ワグネル兵は、国防省傘下の他のPMC(例:「ルドゥート」)や、正規軍の特殊部隊に個別に雇用され、各戦線に分散して配置されています。彼らの戦闘スキルは依然として高い評価を得ていますが、あくまで正規軍の一部品として扱われています。
ベラルーシ駐留部隊の縮小と現状
反乱直後にベラルーシへ移動した数千名のワグネル戦闘員ですが、その多くは既に同国を離れています。主な理由は、ベラルーシ政府による資金援助が期待ほど得られなかったこと、そしてロシア国防省からの帰還命令やアフリカへの再配置が進んだことです。
現在、ベラルーシに残っているのは一部のインストラクター(訓練教官)要員に限られており、かつて懸念されたような「ベラルーシからのキエフ再侵攻」といった脅威レベルは大幅に低下しています。
訓練教官としての役割とベラルーシ軍との関係
残留している少数の元ワグネル隊員は、ベラルーシ軍の特殊部隊や機械化部隊に対し、ウクライナでの実戦経験に基づいた訓練を行っています。ドローンの運用法、塹壕戦のノウハウ、市街地戦の戦術など、現代戦のリアルな知見を伝授する役割です。
ルカシェンコ大統領にとって、彼らは自国軍の精強化に役立つ貴重な教師ですが、同時に扱いを間違えればリスクにもなり得る存在であり、その活動は厳重に監視されています。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「バフムート攻略時のような『特攻部隊』としてのワグネルは、ウクライナ戦線にはもう存在しません。現在は、経験豊富な元ワグネル戦闘員が、個別に正規軍や他のPMCと契約し、各部隊に分散して配置されています。組織としての脅威度は下がりましたが、個々の戦闘員のスキルは依然としてロシア軍の粘り強さを支える要因となっています。彼らのノウハウが正規軍全体に浸透している点には注意が必要です」
ポスト・プリゴジン体制:誰が指揮を執っているのか?
カリスマ的な指導者を失った後、この巨大な軍事ネットワークを誰が動かしているのでしょうか。表向きの顔役と、実質的な支配者という二重構造が見えてきます。
実質的な管理組織:ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)
現在の旧ワグネルおよびアフリカ軍団の実質的なオーナーは、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)です。GRUはロシアの対外諜報と特殊作戦を担う組織であり、ワグネル設立当初から深く関与してきました。
プリゴジン氏の死後、GRUの将官たちがアフリカ諸国を歴訪し、現地の指導者に対して「今後は国防省が責任を持つ」と確約して回りました。これにより、指揮系統は完全に軍のヒエラルキーの中に組み込まれました。
キーパーソン:アンドレイ・トロシェフ氏(通称「セドイ」)の役割
実務面でのリーダーとして浮上しているのが、元ワグネル幹部のアンドレイ・トロシェフ氏です。プーチン大統領とも面識があり、反乱の際にプリゴジン氏と袂を分かち、国防省側についた人物です。
トロシェフ氏は、旧ワグネルの人員を国防省傘下の部隊(ルドゥートやアフリカ軍団)に再雇用させるための調整役を担っています。彼はカリスマ的な指導者というよりは、クレムリンの意向を忠実に実行する「管理職」としての性格が強い人物です。
プリゴジンの息子パベル・プリゴジン氏の動向と限界
一方で、プリゴジン氏の遺産と組織の一部を継承したとされるのが、息子のパベル・プリゴジン氏です。彼は国家親衛隊(ロスグヴァルディア)の傘下で、旧ワグネルの一部部隊を維持しようと動いています。
しかし、彼には父親ほどの政治力や人脈はなく、国防省やGRUといった巨大な国家機関に対抗する力はありません。あくまで国家親衛隊という枠組みの中で、限定的な権限を与えられているに過ぎないと見られています。
組織の求心力低下と内部対立の可能性
かつてのワグネルは「プリゴジン・ファミリー」としての強い結束力を誇っていましたが、現在は国防省派、国家親衛隊派などに分裂しています。給与支払いの遅延や待遇の悪化も報告されており、組織としての求心力は著しく低下しています。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「プリゴジン氏のような『資金調達力』『政治力』『メディア発信力』を兼ね備えたリーダーは現在いません。トロシェフ氏は実務家ですが、カリスマ性は皆無です。これにより、組織は官僚的になり、かつてのような迅速で独断的な作戦展開は難しくなっています。これは西側にとっては予測可能性が高まる一方で、ロシアの非正規戦能力(ハイブリッド戦能力)の質的な変化も意味します」
国際社会の対応と法的リスク(制裁・テロ組織指定)
組織が再編されても、国際社会からの厳しい視線が変わることはありません。むしろ、国家機関の一部となったことで、制裁の対象範囲や法的解釈に新たな議論が生まれています。
米国・EU・英国による「国際犯罪組織」指定と制裁内容
米国財務省はワグネルを「国際犯罪組織」に指定しており、EUや英国もテロ組織として認定する動きを強めています。これは、ワグネルの資産凍結だけでなく、彼らと取引を行った第三者に対しても制裁を科す根拠となります。
組織名が「アフリカ軍団」に変わっても、実態が旧ワグネルの継承であると認定されれば、これらの制裁措置は自動的に適用される可能性が高いです。欧米当局は、名称変更による制裁逃れを許さない姿勢を鮮明にしています。
日本政府の対応と資産凍結措置
日本政府も、ワグネルおよびその関係者に対する資産凍結措置を実施しています。外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、ロシアの特定団体として指定されており、日本企業が関与することは厳しく制限されています。
関連企業・個人との取引リスク(二次制裁の可能性)
最も警戒すべきは「二次制裁(セカンダリー・サンクション)」のリスクです。これは、制裁対象者と取引をした第三国の企業や金融機関も制裁の対象となる仕組みです。
例えば、アフリカで鉱山開発を行う際、現地の警備会社や物流会社が実はロシア系PMCのフロント企業だった場合、知らず知らずのうちに制裁違反を問われる可能性があります。サプライチェーンの末端まで透明性を確保することが求められます。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「ワグネルそのものだけでなく、その後継組織や関連フロント企業(物流、採掘など)も制裁対象となる可能性があります。特にアフリカ等の紛争地域で現地パートナーを選定する際は、背後にロシア系PMCのネットワークが存在しないか、デューデリジェンス(DD)を徹底することが不可欠です。『現地企業だと思っていたら、実はロシアの隠れ蓑だった』というケースは実際に報告されています」
【独自考察】今後の展望:ロシアのPMCと世界の安全保障
最後に、専門家としての視点から、今後のロシアの民間軍事会社(PMC)の在り方と、それが世界の安全保障に与える影響について考察します。
「民間軍事会社」から「国家傭兵集団」への変質
ワグネルの事例が示したのは、ロシアにおいて真の意味での「民間」軍事会社は存続不可能であるという事実です。強大になりすぎた武力は、必ず国家によって回収されます。
今後は、形式上は民間企業を装いながらも、実質的には国防省や情報機関の完全なコントロール下にある「国家傭兵集団」が増加するでしょう。これにより、ロシア政府は「我々は関知していない」という建前(もっともらしい否認)を使いにくくなりますが、より直接的な国益追求のためにPMCを利用するようになります。
プーチン政権の持続性とPMCへの依存度
プーチン政権が続く限り、正規軍の損耗を補い、海外での汚れ仕事を代行するPMCの需要はなくなりません。むしろ、国民の厭戦気分を高めないために、公式の動員令を避けつつ兵力を確保する手段として、PMCや契約兵への依存度は高まるはずです。
今後警戒すべき地域とシナリオ
アフリカだけでなく、中南米やその他の政情不安定地域への進出も警戒が必要です。特に、反米感情が強い国々に対して、「政権維持のパッケージ(警護+情報操作)」を売り込むロシアのモデルは、一定の需要があります。ベネズエラやニカラグアなど、ロシアとの関係が深い国々での活動活発化が懸念されます。
国際安全保障アナリストのアドバイス
「私が2014年から分析してきた中で、ワグネルの変遷は『ロシア国家の正規軍に対する不信感』の歴史でもあります。今後もロシアは、正規軍が出せない地域や、公式に関与を認めたくない作戦において、形を変えたPMCを活用し続けるでしょう。名称が変わっても、その『機能』と『脅威』は形を変えて生き残るという前提で、国際情勢をウォッチする必要があります。看板の書き換えに惑わされてはいけません」
ワグネルに関するよくある質問 (FAQ)
最後に、読者の皆様から寄せられることの多い疑問について、簡潔にお答えします。
Q. ワグネルは解散したのですか?
A. 完全な解散ではありません。「ワグネル」という独立した組織としての活動は終了しましたが、その人員や装備、海外拠点の多くはロシア国防省傘下の「アフリカ軍団」や国家親衛隊に吸収・再編され、活動を継続しています。
Q. 現在のリーダーは誰ですか?
A. プリゴジン氏のような単独の絶対的リーダーはいません。現在はロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の管理下にあり、実務面では元幹部のアンドレイ・トロシェフ氏などが調整役を務めていますが、最終的な指揮権はロシア国防省にあります。
Q. プリゴジン氏は本当に死亡したのですか?生存説は?
A. ロシア当局の公式発表および遺伝子検査の結果、死亡が確定されています。一部で生存説や陰謀論が囁かれていますが、それを裏付ける信頼できる証拠は現時点では確認されていません。
Q. 日本企業にとっての直接的な影響はありますか?
A. 直接的な取引がない場合でも、アフリカや中東での資源ビジネスにおいて間接的なリスクがあります。サプライチェーンにロシア系PMCの関与企業が紛れ込んでいる場合、制裁リスクやレピュテーションリスク(評判の毀損)に直面する可能性があります。
まとめ:ワグネルは「アフリカ軍団」へ。実態を見極める情報収集を
本記事では、プリゴジン死後のワグネルの解体と再編、そして「アフリカ軍団」としての新たな船出について解説してきました。重要なポイントを振り返ります。
- 組織の行方:ワグネルは事実上解体され、国防省管理下の「アフリカ軍団」や国家親衛隊へ吸収された。
- 活動の継続:名称は変わったが、アフリカでの資源利権維持や軍事支援といった機能は維持・強化されている。
- リスクの変化:指揮系統が国家に直結したことで、予測可能性は高まったが、地政学的な対立ツールとしての性質はより強まった。
ビジネスや投資の現場では、ニュースの見出しにある「ワグネル」という言葉だけでなく、その背後で動いているロシア国家の意図と、再編されたネットワークの実態を見極める眼力が求められます。ぜひ、今日から情報収集の解像度を一段階上げてみてください。
【専門家監修】ロシア情勢・地政学リスク チェックリスト
- 最新の米欧制裁リスト(SDNリスト等)を確認し、取引先に該当者がいないかチェックしているか
- アフリカ・中東での新規パートナー選定時に、背後にロシア系資本や軍事組織の関与がないか調査(デューデリジェンス)したか
- ロシア国内の権力バランスの変化(国防省 vs 治安機関)を注視し、急な方針転換に備えているか
- 地政学リスクが高まった際の、現地駐在員の退避計画やサプライチェーンの代替案を策定しているか
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