2024年5月、民法の一部を改正する法律が成立し、日本でもいよいよ「共同親権」が導入されることになりました。これまでの「離婚後は単独親権」という常識が覆され、2026年までに施行される新制度では、離婚後も父母双方が親権を持つことが可能になります。
「DVを受けていたのに、別れた後も支配され続けるのではないか」
「すでに離婚しているけれど、元夫から親権変更を迫られるのではないか」
「子供の進学や引越しを自由に決められなくなるの?」
日々、私の法律事務所にも、こうした切実な不安を抱えるお母様、お父様からの相談が急増しています。結論から申し上げますと、改正法ではDVや虐待のおそれがある場合は、必ず単独親権が維持される仕組みになっています。また、すでに離婚している場合も、相手の申し立てだけで自動的に共同親権に切り替わることはありません。
この記事では、離婚問題専門の弁護士である私が、法務省の最新資料と実務的な見解に基づき、以下の3点を中心に徹底解説します。
- 共同親権の施行時期と、単独親権との具体的な違い
- 離婚済みの方やDV被害者が知っておくべき「例外」と「拒否できるケース」
- 養育費・進学・引越しなど、生活への具体的な影響と今からできる対策
法律用語は極力噛み砕き、あなたの生活を守るための具体的なアクションプランまで提示します。正しく恐れ、賢く備えるために、ぜひ最後までお読みください。
共同親権とは?いつから導入され、何が変わるのか
まずは、今回の法改正の全体像とスケジュール、そして「親権」という概念がどう変わるのかを正しく理解しましょう。メディアでは不安を煽るような報道も一部見られますが、法律の条文と趣旨を冷静に把握することが、対策の第一歩です。
2026年までに施行される改正民法のポイント
今回の民法改正の最大のポイントは、離婚後の親権について「単独親権」のみだった選択肢に、「共同親権」が加わることです。これまでは、離婚届にどちらか一方を親権者として記載しなければ受理されませんでしたが、改正法の施行後は、父母が協議して「共同親権」か「単独親権」かを選べるようになります。
施行時期については、「公布の日(2024年5月24日)から2年以内」と定められています。つまり、遅くとも2026年(令和8年)5月までには共同親権制度がスタートします。現在、法務省や裁判所では、施行に向けた具体的な運用ルールの策定が急ピッチで進められています。
この改正は、単に「親権者が2人になる」という形式的な変更だけではありません。養育費の不払いを防ぐための「法定養育費」制度の新設や、親子交流(面会交流)の促進など、子供の利益を中心に据えた包括的な見直しが行われています。
「原則共同親権」の意味と、単独親権が選ばれるケース
よく「原則共同親権になる」と言われますが、これは「すべての夫婦が強制的に共同親権になる」という意味ではありません。正しくは、「父母の協議により共同親権を選択できる」ようになり、もし協議が整わない場合は家庭裁判所が決定する、という流れになります。
現行法と改正法の違いを整理しました。
| 項目 | 現行法(〜2026年) | 改正法(2026年〜) |
|---|---|---|
| 離婚後の親権 | 単独親権のみ (父または母) |
共同親権 または 単独親権 (父母の協議で選択) |
| 決定方法 | 協議離婚時に指定。 決まらない場合は家裁が指定。 |
協議で合意すれば共同。 合意できない場合は家裁が判断。 |
| DV・虐待事案 | 単独親権 | 単独親権 (家裁が必ず単独と判断する) |
重要なのは、「子の利益を害するおそれ」がある場合は、家庭裁判所が必ず単独親権としなければならないと法律で明記された点です。具体的には、DV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待があるケースがこれに該当します。つまり、共同親権はあくまで「父母が協力して子育てができる健全な関係」であることが前提の制度なのです。
父母の意見が対立した場合はどう決まる?(家庭裁判所の役割)
では、片方が「共同親権」を望み、もう片方が「単独親権」を望んで対立した場合はどうなるのでしょうか。この場合、最終的には家庭裁判所が「どちらが子供の幸せ(子の利益)に適うか」を判断して決定します(裁定親権)。
私の実務経験から予測すると、裁判所は以下の要素を重視して判断することになるでしょう。
- 過去にDVや虐待の事実がないか
- 父母間のコミュニケーションが可能か(高葛藤状態ではないか)
- 子供自身の意向(年齢による)
- これまでの監護実績(どちらが主に育ててきたか)
単に「相手が嫌いだから単独親権がいい」という理由だけでは認められにくくなる一方で、明確なDVの証拠がある場合には、裁判所は迷わず単独親権を選択することになります。
▼補足:親権に含まれる「身上監護権」と「財産管理権」について
親権には、大きく分けて2つの権利義務が含まれます。
- 身上監護権:子供と一緒に暮らし、身の回りの世話やしつけ、教育をする権利義務。
- 財産管理権:子供の財産を管理し、法律行為(契約など)を代理する権利義務。
共同親権下であっても、父母の協議や裁判所の決定により、「監護者」を別途定めることができます。例えば、「親権は共同だが、監護者は母」と定めた場合、日々の生活や世話は母が主導し、父は重要な決定に関与するという運用が可能になります。これにより、子供の生活拠点が不安定になることを防げます。
離婚問題専門の現役弁護士のアドバイス
「『共同親権=強制的に関わらなければならない』という誤解が多いですが、法の趣旨はあくまで『子の利益』です。対立が激しく、顔を合わせるだけで紛争になるようなケースで、裁判所が無理やり共同親権を命じる運用は、実務上考えにくいというのが専門家の見解です。過度に恐れる必要はありませんが、対立がある場合は『なぜ共同ではうまくいかないのか』を客観的に説明できる準備が必要です。」
【最重要】離婚済み・別居中・DV事案への影響とリスク
ここからは、読者の皆様が最も不安に感じているであろう、「自分のケース」への影響について深掘りします。特に、すでに離婚が成立している方や、現在進行形で別居・DVの問題を抱えている方にとっては、死活問題となり得るポイントです。
すでに離婚している場合も適用される?(法の遡及適用について)
結論から言うと、すでに離婚している元夫婦にも、改正法の影響は及びます(遡及適用)。ただし、施行日に自動的に全員が共同親権に変わるわけではありません。ここを誤解しないでください。
現在単独親権を持っている場合、施行後もそのまま単独親権が維持されます。しかし、元配偶者(親権を持たない親)が「親権者の変更」を家庭裁判所に申し立てることが可能になります。
申し立てがあった場合、裁判所は「共同親権に変更することが子の利益になるか」を審査します。すでに離婚して何年も経っており、子供が現在の生活に安定して馴染んでいる場合、裁判所が安易に親権変更を認める可能性は低いと考えられます。しかし、「子供が会いたがっているのに会わせない」といった事情がある場合は、共同親権への変更が検討される可能性があります。
DV・虐待・モラハラがある場合の「単独親権」判定基準
今回の法改正において、最も議論になったのがDV被害者の保護です。改正法では、以下のいずれかに該当する場合は、裁判所は単独親権としなければならないと定められました。
- 父または母が、子に対して虐待をするおそれがあるとき
- 父または母が、配偶者に対して暴力(DV)をするおそれがあるとき
ここで重要なのは、「おそれ」という文言です。実際に暴力が振るわれている最中だけでなく、将来的な危険性も考慮されます。身体的な暴力だけでなく、精神的な暴力(モラハラ)や経済的DVがどの程度考慮されるかは、今後の実務の積み重ねによりますが、少なくとも「保護命令」が出ているような事案では、確実に単独親権となります。
「急迫の事情」とは?単独で判断・行動できる例外ケース
共同親権になると、「すべての決定に相手の同意が必要になるのか?」という不安がありますが、例外があります。それが「急迫の事情」がある場合です。
例えば、子供が急病で緊急手術が必要な場合や、相手方から暴力を受けてシェルターに避難する場合などです。このような一刻を争う事態においてまで、連絡のつかない相手の同意を待つ必要はありません。この場合、単独で医療同意や避難の判断を行うことが法律上認められています。
相手が勝手に親権変更を申し立ててきたらどう対処する?
もし、施行後に元夫(または元妻)から突然「共同親権への変更」を求める調停を申し立てられたら、どうすればよいでしょうか。
まず、慌てて相手の要求に応じる必要はありません。調停は話し合いの場ですので、あなたが拒否すれば、手続きは「審判(裁判官の判断)」に移行します。そこであなたは、「共同親権にすることが子供の利益にならない理由」を主張・立証する必要があります。
- 過去のDVやモラハラの事実
- 相手がこれまで養育に関わってこなかった事実
- 子供自身が相手を拒絶している事実
- 高葛藤状態で、話し合いができる関係ではないこと
これらを客観的な証拠とともに提示することで、裁判所に対し単独親権の維持を求めます。
離婚問題専門の現役弁護士のアドバイス
「『DVがあったから単独親権になるはず』という主張だけでは、裁判所には通らない可能性があります。診断書、警察への相談記録、怪我の写真、相手からの威圧的なLINEメッセージの保存など、客観的な証拠が今まで以上に重要になります。特にモラハラのような目に見えにくい暴力については、詳細な日記や録音が有力な武器になります。今のうちから証拠を整理しておくことを強くお勧めします。」
共同親権になると生活はどう変わる?具体的なシーン別解説
法律論だけでなく、日々の生活がどう変わるのかをイメージすることも大切です。養育費、進学、引越しなど、具体的なシーンでの変化を解説します。
養育費:支払いは減るのか?不払いへの対策(法定養育費の新設)
「共同親権になると、相手も親権を持つのだから、養育費はもらえなくなるのでは?」という心配をする方がいますが、これは誤りです。親権のあり方と、養育費の分担義務は別の問題です。子供と同居していない親は、共同親権であっても養育費を支払う義務があります。
むしろ、改正法では「法定養育費」という制度が新設されました。これは、取り決めがなくても、法律で定めた一定額の養育費を請求できる権利です。これにより、離婚時に養育費の合意ができなかった場合でも、最低限の支払いを確保しやすくなると期待されています。
また、共同親権になることで相手に「親としての自覚」が芽生え、養育費の支払率が向上するという期待も、制度導入の背景にはあります。
教育・医療:進学先や手術の同意は両親の許可が必要?
共同親権下では、親権の行使は原則として父母が共同で行う必要があります。しかし、すべてのことに合意が必要なわけではありません。
- 日常の行為(単独で可能):
- 毎日の食事、衣服の選択
- 風邪での通院、予防接種(定期接種など一般的なもの)
- 習い事の日程調整(軽微なもの)
- 重要事項(共同決定が必要):
- 進学先の決定(公立か私立か、受験校の選定)
- 転校
- 全身麻酔を伴うような大きな手術
- 海外留学
特に進学や手術といった重要事項については、事前に相手と協議し、合意を得る必要があります。もし意見が対立して決まらない場合は、家庭裁判所に判断を仰ぐことになります。
居所指定:引越しや転校は自由にできなくなるのか
これまで単独親権者(監護者)は、自分の判断で子供を連れて引越しをすることが比較的自由にできました。しかし、共同親権下では、子供の居所(住む場所)を指定・変更することも、重要な親権の行使とみなされます。
したがって、学区が変わるような引越しや、相手との面会交流が困難になるような遠方への転居は、相手の同意が必要になる可能性が高いです。勝手に引越すと、「親権の侵害」や「連れ去り」とみなされ、不利な立場になるリスクがあるため注意が必要です。
面会交流:頻度やルールはどう変わる?
共同親権の導入により、面会交流(親子交流)はより重視されるようになります。法律上も、父母双方が子供の養育に関わることが子の利益であるという考え方がベースになるため、正当な理由なく面会を拒否することは、今まで以上に難しくなるでしょう。
ただし、DV事案などは例外です。安全が確保できない場合の面会は制限されます。面会の頻度や方法については、これまで通り父母の協議や調停で取り決めることになります。
離婚問題専門の現役弁護士のアドバイス
「全ての決定に合意が必要となると、現実の生活が回りません。法改正後も、日常的な世話や軽微な決定(『日常の家事』)は、同居している親(監護者)が単独で行える運用になると予想されます。しかし、『どこからが重要事項か』の線引きはトラブルの元です。離婚協議書や公正証書で、『進学先は同居親の判断に委ねる』『海外渡航には協議が必要』など、具体的なルールを定めておくことが、将来の紛争予防になります。」
今、離婚協議中の人や不安な人が準備すべき対策
制度が変わる過渡期にいる現在、これから離婚する方や、すでに離婚して不安な方は、どのような対策を講じるべきでしょうか。具体的なアクションプランを提案します。
離婚協議書・公正証書に盛り込むべき「共同養育計画」の条項案
これから離婚協議書や公正証書を作成する場合、将来の法改正を見越した条項を入れておくことが極めて重要です。
- 単独親権を希望する場合:
「本件離婚は、相手方の暴言・暴力(DV)を主要な原因とするものであり、子の心身の安全確保のため、将来にわたり母(または父)の単独親権とすることを確認する」といった、単独親権の正当性を補強する文言を入れておく。 - 将来の変更を想定する場合:
「現在は母を親権者とするが、改正民法の施行後、子の利益に適う場合は、共同親権への変更について誠実に協議する」といった条項を入れ、柔軟性を持たせる。
監護者指定を明確にしておくメリット
親権争いが激化しそうな場合でも、とりあえず「監護者(子供と一緒に暮らして育てる人)」だけは明確に指定し、法的効力を持たせておくべきです。親権が共同になっても、監護権を単独で持っていれば、日々の生活における決定権の多くを確保できます。家庭裁判所の手続きで「監護者指定の審判」を申し立てることも有効な手段です。
将来の紛争を防ぐために記録しておくべきこと
「言った・言わない」の争いは、法廷で最も不利になります。以下の記録を徹底してください。
- 育児日記: 日々、自分がどれだけ子供の世話をしているか(監護実績)の記録。
- 相手とのやり取り: LINEやメールの履歴は消さずに保存。高圧的な発言があればスクリーンショットをとる。
- 子供の様子: 相手と会った後の子供の反応や発言のメモ。
離婚問題専門の現役弁護士のアドバイス
「これから離婚する場合、将来の法改正を見越して『親権は母とするが、施行後に共同親権への変更を協議することを妨げない』といった条項を入れるか、逆に『DVを理由に単独親権を維持する』旨の確認条項を入れるか、戦略的な記載が必要です。テンプレート通りの離婚協議書では、あなたの個別の事情を守り切れない可能性があります。必ず専門家のリーガルチェックを受けることをお勧めします。」
共同親権に関するよくある質問(FAQ)
最後に、私の事務所によく寄せられる、共同親権に関する細かい疑問にお答えします。
Q. 子供自身が親権者を選んだり拒否したりできますか?
子供の年齢や発達段階によりますが、15歳以上の場合は、家庭裁判所の手続きにおいて子供自身の意見を聴くことが義務付けられています。また、15歳未満であっても、10歳前後からは子供の意思(誰と暮らしたいか、会いたいか)が尊重される傾向にあります。子供が明確に片方の親を拒否している場合、無理に共同親権や面会を強制することは、子の利益に反すると判断される可能性が高いです。
Q. 再婚して養子縁組をした場合、元配偶者の親権はどうなりますか?
共同親権下において、親権者の一方が再婚し、その新しい配偶者が子供と養子縁組をする場合、元配偶者の親権がどうなるかは複雑な問題です。現行法では養子縁組により養親が親権を持ちますが、共同親権制度下での詳細な運用(3人が親権を持つのか、元配偶者の親権が停止するのか等)については、現在議論が進められている最中です。最新の法解釈を確認する必要があります。
Q. 共同親権でも児童手当やひとり親控除は受けられますか?
児童手当は、原則として「子供の生計を維持する程度の高い者」または「子供と同居し監護している者」に支給されます。共同親権であっても、実際に子供と同居して育てている親(監護者)が受給できる運用になると予想されます。ひとり親控除(税制優遇)についても、事実上の離婚状態や生計の独立性が認められれば適用される可能性が高いですが、制度移行期には自治体や税務署での確認が必須です。
離婚問題専門の現役弁護士のアドバイス
「制度開始直後は役所の対応も混乱が予想されます。手当や控除については、必ずお住まいの自治体の最新情報を確認し、不利にならないよう手続きを行う必要があります。特に『共同親権だからひとり親ではない』と形式的に判断されて支援が打ち切られないよう、監護の実態を証明できる住民票や別居の事実を示す書類を準備しておくと安心です。」
まとめ:正しく恐れ、子供と自分の未来を守る準備を
共同親権の導入は、日本の家族法制における歴史的な転換点です。しかし、恐れすぎる必要はありません。法律は、DVや虐待から被害者を守るための「単独親権」という枠組みをしっかりと残しています。共同親権は、決して「強制的な支配」を許すものではありません。
重要なのは、正しい知識を持ち、自分の状況に合わせた準備をしておくことです。施行までの期間は、あなたが子供と自分の未来を守るための「準備期間」でもあります。
最後に、今すぐできる対策をチェックリストにまとめました。
- 離婚協議書の内容を見直す(または作成する): 曖昧な口約束ではなく、書面に残すことが最強の防衛策です。
- DVやモラハラの証拠を整理・保存する: 日記、録音、診断書、警察への相談記録は、いざという時の「お守り」になります。
- 養育費の取り決めを公正証書にしておく: 支払いが滞った際に、すぐに強制執行できるようにしておきましょう。
- 不安があれば離婚問題に強い弁護士の初回相談を利用する: ネットの情報だけで判断せず、個別の事情(DVの有無、子供の年齢など)に応じた専門家の戦略を聞くことが、解決への近道です。
あなたの平穏な生活と、子供の健やかな成長を守るために、法改正を味方につける賢い選択をしていきましょう。
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