鏡を見るたびに、指で頬を少し持ち上げてみては「あと数ミリ、ここが上がれば5年前の顔に戻れるのに」とため息をついていませんか?
たるみ治療の選択肢として、HIFU(ハイフ)などの照射系治療と、切開リフトなどの外科手術の中間に位置するのが「糸リフト(スレッドリフト)」です。メスを使わずに物理的にたるみを引き上げる即効性と、ダウンタイムの短さから、近年爆発的に普及しています。
しかし、その手軽さの裏で、「施術直後は良かったけれど、すぐに戻ってしまった」「不自然にひきつれて、かえって目立ってしまった」「顔がデコボコになった」といった失敗や後悔の声が後を絶たないのも事実です。美容医療において「魔法」は存在しません。あるのは、解剖学に基づいたロジックと、医師の技術、そして患者様ご自身の適応判断だけです。
この記事では、形成外科専門医として15年以上、数多くのフェイスリフト手術や糸リフトを担当し、他院修正の現場にも立ち続けてきた筆者が、糸リフトの「真実」を包み隠さず解説します。メリットだけでなく、ネット広告では語られないリスクや限界、そして後悔しないためのクリニック選びの基準まで、プロの視点で徹底的に掘り下げていきます。
この記事でわかること
- 現役専門医が教える糸リフトの仕組みと、素材・形状による効果の違い
- 「すぐに戻る」「ボコつく」などの失敗リスクと、それを回避する具体的な方法
- 後悔しないために確認すべきクリニック選びの5つの基準と適正価格
これから糸リフトを検討しているあなたが、一時の感情や安さだけで判断せず、5年後、10年後の自分の顔に責任を持てる選択をするための「教科書」としてお役立てください。
糸リフト(スレッドリフト)とは?仕組みと期待できる3つの効果
糸リフト(スレッドリフト)とは、その名の通り、特殊な加工が施された医療用の糸を皮下組織に挿入し、たるみを物理的に引き上げたり、肌質を改善したりする治療法です。しかし、単に「糸を入れて引っ張る」という単純なものではありません。顔面の解剖学、特に「SMAS(スマス)筋膜」や「リガメント(靭帯)」、そして「脂肪コンパートメント(脂肪の部屋)」の位置関係を正確に理解していなければ、美しい結果は生まれない高度な医療行為です。
多くの患者様が「切るのは怖いけれど、HIFUでは物足りない」という理由で糸リフトを選択されますが、まずはこの施術が医学的にどのようなメカニズムで若返り効果をもたらすのか、その本質を理解することから始めましょう。
物理的な「引き上げ」と生物学的な「肌質改善(コラーゲン生成)」
糸リフトの効果は、大きく分けて「物理的効果」と「生物学的効果」の2つの側面から成り立っています。この2つが同時に作用することで、立体的な若返りが可能になります。
まず1つ目は、物理的なリフトアップ効果です。糸には「コグ」と呼ばれる微細なトゲや、円錐状のバイオコーンなどが付いています。このコグが、皮下の組織(皮下脂肪やSMAS層など)にフックのように引っかかり、重力で垂れ下がった組織を元の位置へと物理的に移動させ、固定します。テントを張る際にロープで支柱を固定するイメージに近いでしょう。これにより、施術直後からフェイスラインがシャープになったり、ほうれい線が薄くなったりする即効性を実感できます。
2つ目は、生物学的な肌質改善効果(コラーゲン・エラスチンの生成)です。実は、糸リフトの真価はこちらにあると言っても過言ではありません。生体内に糸という「異物」が入ると、人間の体はそれを治そうとする「創傷治癒反応」を起こします。糸の周囲に線維芽細胞が集まり、新しい血管が作られ、コラーゲンやエラスチンといった弾力繊維が大量に生成されます。これにより、糸の周りにコラーゲンのトンネル(線維性被膜)が形成され、肌にハリやツヤが生まれ、毛穴が引き締まるといった「肌育」効果が得られます。この効果は、糸が吸収された後も一定期間持続し、たるみの進行を遅らせる貯金のような役割を果たします。
糸リフト・HIFU(ハイフ)・切開リフトの違いと使い分け
たるみ治療を検討する際、よく比較されるのが「HIFU(ハイフ)」と「切開リフト」です。これらはアプローチする層や強度が異なります。それぞれの特徴を整理してみましょう。
HIFU(高密度焦点式超音波)は、超音波の熱エネルギーを筋膜(SMAS)層に点状に照射し、熱凝固させることで組織を収縮させる治療です。お肉を焼くと縮む原理に似ています。ダウンタイムがほとんどないのが最大のメリットですが、物理的に組織を移動させる力はありません。「引き締め(タイトニング)」効果はあっても、垂れ下がった皮膚を元の位置に戻す「引き上げ(リフティング)」効果には限界があります。
一方、切開リフト(フェイスリフト)は、耳の周りなどの皮膚を切開し、皮膚とSMASを引き剥がして物理的に引き上げ、余分な皮膚を切り取る手術です。効果の持続期間は5〜10年と長く、最強のたるみ治療と言えますが、強い腫れや内出血、傷跡のリスクといった長いダウンタイムを伴います。
糸リフトは、この両者の中間に位置します。切開せずに物理的な引き上げが可能で、ダウンタイムも数日から1週間程度と比較的短いのが特徴です。「切る勇気はないが、HIFU以上の変化が欲しい」「今すぐ見た目を変えたい」というニーズに合致します。ただし、余分な皮膚を切り取るわけではないため、皮膚のたるみが重度の場合(例えば、仰向けになってもたるみが解消されないレベル)は、糸リフトだけでは限界があります。
糸リフトが「向いている人」と「向いていない人(適応外)」の特徴
どんなに優れた治療法でも、適応を誤れば良い結果は得られません。糸リフトにも明確な向き・不向きがあります。
向いている人:
- 軽度〜中等度のたるみがある方
- フェイスラインのもたつきや、マリオネットラインが気になり始めた方
- 皮下脂肪の量が標準的、またはやや柔らかい方
- すぐに効果を実感したい方
- 長期間のダウンタイムが取れない方
向いていない人(適応外または慎重な判断が必要):
- 皮下脂肪が極端に多い方: 糸の引き上げ力に対して脂肪の重さが勝ってしまい、すぐに後戻りしたり、糸が切れたりする原因になります。まずは脂肪吸引や脂肪溶解注射で物理的な重さを減らすことが先決です。
- 皮下脂肪が極端に少なく、皮膚が薄い方: 挿入した糸の形が皮膚表面に浮き出たり、凸凹したりするリスクが高くなります。また、引き上げるための「足場」となる組織が弱いため、効果が出にくい場合があります。ヒアルロン酸注入などでボリュームを補う治療の方が適していることがあります。
- 皮膚のたるみが重度の方: 余った皮膚を処理できないため、引き上げると耳の前などに皮膚のたわみが生じ、不自然になることがあります。切開リフトが第一選択となるケースが多いです。
以下の表で、主要なたるみ治療の比較をまとめました。
| 治療法 | 糸リフト | HIFU(ハイフ) | 切開リフト |
|---|---|---|---|
| 主な効果 | 引き上げ+肌質改善 | 引き締め(タイトニング) | 強力な引き上げ+余剰皮膚切除 |
| 即効性 | 高い(直後から変化) | 中(1ヶ月後がピーク) | 高い(腫れが引いた後) |
| ダウンタイム | 数日〜1週間(腫れ・内出血) | ほぼなし(赤み程度) | 2週間〜1ヶ月(強い腫れ・抜糸) |
| 持続期間目安 | 1年〜2年 | 半年〜1年 | 5年〜10年 |
| 費用感 | 中(数万〜数十万円) | 低〜中(数万〜十数万円) | 高(百万円前後〜) |
日本形成外科学会認定専門医のアドバイス
「糸リフトは万能ではありません。皮下脂肪が極端に多い方や、逆に皮膚が薄すぎる方の場合、単独では効果が出にくいことがあります。私はカウンセリングで、骨格や皮膚の厚みを触診し、場合によっては脂肪吸引やヒアルロン酸注入との併用、あるいは施術をお断りする勇気も必要だと考えています。無理な施術は、患者様の期待を裏切るだけでなく、不自然な仕上がりという不幸な結果を招くからです。」
「溶ける糸」が主流な理由と素材・形状によるスペック比較
クリニックのホームページを見ると、「テスリフト」「ミントリフト」「VOVリフト」など、数えきれないほどの糸の種類が並んでおり、どれを選べば良いのか混乱してしまう方も多いでしょう。しかし、本質的な違いを理解するための軸は「素材」と「形状(コグのタイプ)」の2つだけです。
ここでは、なぜ現在「溶ける糸」が主流なのか、そしてそれぞれの素材や形状がどのような特性を持っているのかを、専門的な視点からわかりやすく解説します。
なぜ今は「溶けない糸」よりも「溶ける糸」が推奨されるのか
かつては、効果を半永久的に持続させるために、金の糸やシリコン、ポリプロピレンといった「溶けない糸(非吸収糸)」が使われることもありました。しかし、現在では世界の美容医療のスタンダードは圧倒的に「溶ける糸(吸収糸)」にシフトしています。
その最大の理由は、長期的な安全性とリスク管理にあります。
溶けない糸は体内に異物として一生残り続けます。加齢とともに皮膚や脂肪の状態、骨格は変化していきますが、糸だけは変化しません。その結果、10年後、20年後に糸のラインが浮き出てきたり、引き連れが生じたり、あるいは感染症や肉芽腫(しこり)といったトラブルが遅発的に発生するリスクがあります。一度入れてしまった溶けない糸を、癒着した組織から完全に取り除くことは極めて困難であり、修正手術で顔面神経を傷つけるリスクも伴います。
一方、溶ける糸であれば、一定期間で水と二酸化炭素に分解され、体外に排出されます。万が一、仕上がりに不満があっても、時間が経てば元に戻るという安心感があります。また、加齢による顔の変化に合わせて、その時々に最適なデザインで糸を入れ直すことができる「メンテナンス性」の高さも、現代のエイジングケアの考え方に合致しています。
主要素材(PDO・PCL・PLLA)の持続期間と柔軟性の違い
現在使用されている溶ける糸の素材は、主にPDO、PCL、PLLAの3種類です。これらは、体内で分解吸収されるまでの期間や、糸の硬さ(柔軟性)が異なります。
▼詳細:PDO・PCL・PLLA素材の詳しい特性と分解プロセス
- PDO (ポリジオキサノン):
外科手術の縫合糸として数十年の歴史があり、安全性が非常に高い素材です。適度な硬さと弾力があり、引き上げ力もしっかりしています。吸収速度は比較的早く、約6〜8ヶ月で吸収されますが、その過程で強いコラーゲン生成反応を引き起こすため、肌のハリ感アップや引き締め効果に優れています。「ショッピングリフト(ショートスレッド)」などにもよく使われます。 - PCL (ポリカプロラクトン):
近年注目されている新しい素材で、非常にしなやかで柔軟性が高いのが特徴です。そのため、表情の動きに馴染みやすく、痛みや違和感が少ないというメリットがあります。また、分解速度が非常に遅く、約2年かけてゆっくりと吸収されます。長期間の効果持続を求める方に適していますが、PDOに比べると初期の引き上げ力(硬さ)はややマイルドな傾向があります。 - PLLA (ポリ-L-乳酸):
硬さがあり、物理的な強度が強い素材です。吸収期間は約1年半〜2年と長めです。脂肪萎縮症の治療などにも使われる成分で、組織のボリュームアップ効果も期待できます。ただし、素材が硬いため、皮膚の薄い部分に入れると触れた時に糸を感じたり、稀にしこりになりやすいという特性もあり、医師の技術力が問われる素材でもあります。
「コグ(トゲ)」の形状と固定力:カッティングとモールディングの違い
糸の素材だけでなく、組織に引っ掛けるための「コグ(トゲ)」の作り方も、引き上げ力に大きく影響します。大きく分けて「カッティングタイプ」と「モールディングタイプ」の2種類があります。
カッティングタイプは、糸に切り込みを入れてトゲを作ったものです。従来の糸に多く見られましたが、切り込みを入れる分、糸の芯が細くなり、強度が落ちて体内で切れやすいという弱点がありました。
一方、現在主流になりつつあるのがモールディングタイプ(プレス成型)です。これは、糸そのものを型に入れて、トゲと一体化させて成型したものです。糸の芯が太いままであるため強度が非常に高く、トゲもしっかりとしているため、組織をガッチリと掴む力(係留力)に優れています。リフトアップ効果を重視するなら、モールディングタイプの糸を選ぶのが賢明です。
代表的な糸の種類と特徴(テスリフト、ミントリフト、VOVリフト等)
ここでは、日本のクリニックでよく採用されている代表的な糸ブランドの特徴を整理します。
| 名称 | 素材 | 形状の特徴 | 持続目安 | 適した悩み |
|---|---|---|---|---|
| テスリフトソフト | PDO | 3Dメッシュ+コグの一体型 | 約1〜2年 | 脂肪の引き締め、強いリフトアップ |
| ミントリフト | PLLA/PCL | 強力な360度モールディングコグ | 約1.5〜2年 | しっかりとした引き上げ |
| VOV(ボブ)リフト | PCL | 先端が丸いモールディングコグ | 約2年 | 痛み・ダウンタイム軽減、自然な変化 |
テスリフトソフトは、コグの周りをメッシュが覆っている特殊な構造をしています。このメッシュの中に自分の組織が入り込んで一体化するため、非常に強力な固定力と、長期的なコラーゲン生成効果が期待できます。脂肪燃焼効果もあるとされ、丸顔の方や脂肪が多めの方に特に人気があります。
ミントリフトは、接着剤を使わずに強力にプレスされたコグが360度螺旋状についており、あらゆる方向から組織をキャッチします。とにかく「引き上げ力」を重視したい方に適しています。
VOVリフトは、柔軟性の高いPCL素材を使用し、コグの先端が丸く加工されているため、挿入時の痛みや術後のチクチク感が少ないのが特徴です。自然な仕上がりを好む方や、痛みに弱い方に選ばれています。
美容外科歴15年の現役院長のアドバイス
「患者様はよく『〇〇リフトという糸を使っていますか?』と銘柄を気にされますが、実は糸の銘柄以上に『どの層(SMAS層など)に』『どのようなベクトル(方向)で』『何本入れるか』という医師のデザイン力が結果の8割を左右します。良い筆を持っていても、画家の腕が悪ければ名画は生まれないのと同じです。特定の糸に固執するのではなく、あなたの骨格に合った糸と入れ方を提案してくれる医師を選んでください。」
糸リフトの持続期間と「効果を長持ちさせる」メンテナンス戦略
糸リフトを検討する上で最も懸念されるのが「高いお金を払っても、すぐに戻ってしまうのではないか?」という点でしょう。インターネット上の口コミでも「半年で戻った」という声をよく見かけます。
結論から申し上げますと、糸リフトは「一生モノの手術」ではありません。しかし、適切なメンテナンスを行うことで、老化の時計の針を巻き戻し、その進みを遅らせることは十分に可能です。ここでは、医学的に正直な持続期間と、効果を最大化させるための戦略についてお話しします。
糸が吸収されたら終わり?リフトアップ効果と美肌効果の持続推移
糸リフトの効果持続期間は、使用する糸の素材や本数、個人差にもよりますが、一般的に「物理的な引き上げ効果」は半年〜1年程度、「コラーゲン生成による肌のハリ・引き締め効果」は1年〜1年半程度続くと考えられています。
施術直後が最も引き上がった状態(ピーク)であり、そこから徐々に糸の張力が弱まり、組織が馴染んでいく過程で後戻りが生じます。「半年で戻った」と感じる方が多いのは、PDO素材などの吸収が早い糸の場合、半年ほどで糸の物理的な支持力が低下し始めるためです。
しかし、糸が溶けて吸収されたからといって、効果が完全にゼロになるわけではありません。前述の通り、糸の周りに形成されたコラーゲンの被膜(線維化組織)が、自身の組織を支える新たな「柱」として残るため、施術前よりもたるみにくい状態が作られています。つまり、完全に元の状態に戻るのではなく、ベースラインが一段階上がった状態で老化が進んでいくイメージです。
2回目の施術はいつ受けるべき?追加挿入のベストタイミング
では、どのタイミングで2回目の施術を受けるのがベストなのでしょうか?
多くの専門医が推奨するのは、「完全にたるみが戻りきる前」の追加挿入です。具体的には、1回目の施術から1年〜1年半後が目安となります。まだ前回の効果(コラーゲンの支柱)が残っている段階で新しい糸を追加することで、リフトアップ効果を積み重ねていくことができます。
これを繰り返すことで、皮下に強固なコラーゲンのネットワークが構築され、5年後、10年後のたるみ方に圧倒的な差がつきます。実際に、定期的に糸リフトを受けている患者様は、同年代の方と比較してフェイスラインの崩れが非常に少ない傾向にあります。
効果を最大化・長期化させるための複合治療(ヒアルロン酸・ボトックス)
糸リフト単体でも効果はありますが、他の治療と組み合わせることで、相乗効果により持続期間を延ばし、仕上がりをより美しくすることが可能です。
特に相性が良いのが「ヒアルロン酸注入」です。加齢により骨や深部脂肪が萎縮して土台が小さくなっている場合、糸で皮膚だけを引き上げても、テントのポールが折れているのと同じで、すぐに崩れてしまいます。こめかみや頬のコケ、靭帯の基部などにヒアルロン酸を注入して「土台」を補強してから(あるいは同時に)糸リフトを行うことで、より少ない本数でしっかりとしたリフトアップが可能になり、持続性も向上します。
また、「ボトックス注射」も有効です。首の広頚筋(こうけいきん)などの下方向に引っ張る筋肉の働きをボトックスで弱めておくことで、糸のリフトアップ効果を阻害する力を取り除き、後戻りを防ぐことができます。
日本形成外科学会認定専門医のアドバイス
「『一生モノ』の手術ではありませんが、定期的に糸を入れることで、たるみの進行を遅らせる『予防的アンチエイジング』の効果は絶大です。実際に、1〜2年おきにメンテナンスされている患者様は、同年代の方と比較して明らかに肌のハリとフェイスラインの若々しさが維持されています。美容室で髪を整えるように、定期的なケアとして取り入れていただくのが理想的です。」
【医師が解説】糸リフトの失敗リスク・副作用と回避策
医療行為である以上、糸リフトにもリスクや副作用の可能性はゼロではありません。YMYL(Your Money Your Life)領域のコンテンツとして、ネガティブな情報も包み隠さずお伝えすることが、皆様の安全を守るために不可欠です。ここでは、よくあるトラブルの原因と、それを回避するためのポイントを解説します。
施術直後の「ひきつれ」「ボコつき(凹凸)」の原因と経過
糸リフトのトラブルで最も多い相談が「頬が凹んでしまった(ディンプル)」「笑うと引きつれる」「皮膚がボコボコしている」というものです。
これらの原因の多くは、糸を挿入する層(深さ)の誤りにあります。糸リフトは通常、皮下脂肪層の中、あるいはSMAS層の直上といった適切な深さに挿入する必要があります。しかし、皮膚の浅い層(真皮層近く)に糸が入ってしまうと、コグが皮膚を直接引っ張ってしまい、えくぼのような凹みやボコつきが生じます。
軽度のひきつれや凹凸であれば、馴染む過程(2週間〜1ヶ月程度)で自然に解消することがほとんどです。医師が施術直後にマッサージを行って解除することもあります。しかし、1ヶ月以上経っても改善しない深い凹みは、技術的な失敗の可能性が高く、糸の解除や修正が必要になる場合があります。
「顔が大きく見える」「余計にたるんだ」と感じるケースの真相
「リフトアップしたはずなのに、逆に顔が大きく見えるようになった」という声を聞くことがあります。これは、引き上げた組織の「逃げ場」を計算していない場合に起こります。
糸でフェイスラインの脂肪や皮膚を上に持ち上げると、その組織は頬骨(頬の高い位置)やこめかみ付近に移動します。もともと頬骨が高い方や、頬にボリュームがある方の場合、そこにさらに組織が集まることで、横幅が広がって見えたり、アンパンマンのように顔がパンパンに見えてしまうことがあるのです。
これを防ぐためには、単に上に引き上げるだけでなく、斜め後ろ方向に逃がすようなベクトルのデザインや、必要に応じて脂肪溶解注射などでボリュームを減らす併用治療が重要になります。
感染症・糸の露出・神経損傷などの重篤なリスク
頻度は低いですが、より深刻なリスクも存在します。
- 感染症: 挿入部から細菌が入り込み、赤く腫れ上がったり膿が溜まったりすることがあります。抗生物質の投与や、場合によっては糸の抜去が必要です。清潔操作を徹底しているクリニックを選ぶことが重要です。
- 糸の露出: 糸の端が皮膚を突き破って出てくることがあります。髪の生え際や口の中から出てくるケースが多いです。見つけたら自分で引っ張らず、すぐにクリニックで処置(カットや抜去)を受けてください。
- 神経損傷: 顔面神経の枝を傷つけてしまうと、一時的に眉毛が上がらなくなったり、口が歪んだりする麻痺が生じることがあります。顔面解剖を熟知していない医師による施術で起こりうるリスクです。
失敗した場合の修正方法とリカバリーの難易度
万が一、仕上がりに納得がいかない場合、修正は可能なのでしょうか?
「引き上げ不足」であれば、糸を追加することで比較的容易に修正可能です。しかし、「引き上げすぎ(過矯正)」や「凹凸」の修正はやや難易度が上がります。施術後早期であれば、マッサージや特殊な器具を使ってコグの引っかかりを外す(リリースする)ことができます。
最も困難なのは、感染を起こした場合や、神経障害が出た場合です。この場合、原因となっている糸を完全に抜去する必要がありますが、トゲが組織に食い込んでいるため、抜去には切開が必要になることもあり、身体的負担が大きくなります。だからこそ、最初から「修正の必要がない適切な施術」を受けることが何よりも大切なのです。
他院修正を多数担当する医師のアドバイス
「他院での施術後に『ボコボコが治らない』と相談に来られるケースの多くは、糸を浅い層(真皮層)に入れすぎていることが原因です。逆に深すぎると神経損傷のリスクがあります。解剖学を熟知し、適切なSMAS層へ正確にアプローチできる技術があれば、こうしたトラブルの多くは防げます。安さだけでクリニックを選ばず、解剖学に精通した医師を探してください。」
術後のダウンタイムは?リアルな経過と過ごし方シミュレーション
お仕事をされている方や、家族に内緒で施術を受けたい方にとって、ダウンタイムは切実な問題です。糸リフトは「ダウンタイムが短い」と言われますが、全くないわけではありません。ここでは、術後のリアルな経過と、日常生活での注意点を時系列でシミュレーションします。
【写真解説】術直後〜3日目:腫れ・痛み・内出血のピーク
施術直後は、局所麻酔の影響で顔が腫れぼったく感じたり、麻酔が切れてくるとズキズキとした痛みが出たりします。痛み止め(ロキソニン等)を内服すれば我慢できる程度が一般的です。
翌日〜3日目が腫れのピークとなることが多いです。また、針を刺した箇所や糸の通り道に内出血(青あざ)が出ることがあります。メイクで隠せる程度がほとんどですが、体質によっては強く出ることもあります。この期間は、大切な予定(結婚式や写真撮影など)を入れるのは避けましょう。
1週間〜1ヶ月:馴染んでいく過程と「口の開けにくさ」
1週間ほど経つと、大きな腫れは引き、内出血も黄色くなって目立たなくなってきます。この頃に多くの患者様が感じるのが「口の開けにくさ」や「突っ張り感」です。
大きな口を開けて笑ったり、ハンバーガーのような大きなものを食べようとすると、こめかみのあたりにピキッとした痛みを感じることがあります。これは糸がしっかり効いている証拠でもありますが、無理に口を開けると糸のコグが外れてしまう可能性があるため、注意が必要です。通常、2週間〜1ヶ月程度で糸が組織に馴染み、違和感は消失します。
仕事・メイク・洗顔はいつから?日常生活の制限事項
- メイク・洗顔・シャワー: 針穴(こめかみや髪の生え際など)を避ければ、当日から可能です。ただし、顔を強くこするような洗顔は避けてください。翌日からは通常通りで問題ありません。
- 入浴・サウナ・激しい運動: 血行が良くなると腫れや内出血が悪化するため、術後3日〜1週間は控えるのが無難です。
- 仕事: デスクワークであれば当日から復帰可能です。接客業などで人前に出る場合や、激しく動く仕事の場合は、2〜3日休みを取ると安心です。
術後のNG行動(マッサージ、歯科治療、激しい運動)
術後の仕上がりを悪くしないために、以下の行動は1ヶ月程度控えてください。
- 顔のマッサージ・美顔器: エステのフェイシャルマッサージや、コロコロローラーなどは厳禁です。せっかく固定した糸がずれたり、摩擦で炎症が起きたりする原因になります。ハイフなどの照射治療も1ヶ月は空けてください。
- 歯科治療: 歯医者さんで大きく口を開ける行為は、糸に強い負担がかかります。緊急の場合を除き、糸リフト後1ヶ月は歯科治療の予定を入れないようにしましょう。
現役美容外科医のアドバイス
「内出血や腫れを最小限に抑えるためには、麻酔の量や注入スピード、カニューレ(針)の操作など、医師側の細かな配慮が必要です。また、術後数日間は枕を高くして寝る、塩分を控えてむくみを防ぐといった患者様ご自身の工夫でも、回復の早さは変わってきます。ダウンタイム中は不安になることもあるかと思いますが、焦らず経過を見守ってください。」
後悔しないためのクリニック・医師選び5つの基準
糸リフトの成功は、糸の種類ではなく「誰がやるか」で決まると言っても過言ではありません。コンビニエンスストアの数よりも多いと言われる美容クリニックの中から、信頼できる医師を見つけるための5つの具体的な基準をお伝えします。
「形成外科専門医」や「JSAPS専門医」の資格を確認する
美容外科医になるために特別な免許は必要なく、医師免許さえあれば誰でも「美容外科医」を名乗れてしまいます。だからこそ、客観的な技術の証明となる資格を確認することが重要です。
「日本形成外科学会認定専門医」は、形成外科(傷をきれいに治す、形を整える外科)の研修を長年積み、厳しい試験に合格した医師に与えられる資格です。解剖学の知識や縫合技術の基礎がしっかりしています。さらに、「日本美容外科学会(JSAPS)専門医」は、形成外科専門医の資格を持った上で、さらに美容医療の研鑽を積んだ医師のみが取得できる、非常にハードルの高い資格です。これらの資格を持つ医師は、解剖学に基づいた安全な施術を行う可能性が高いと言えます。
カウンセリングで「リスク」や「適応」を正直に話してくれるか
カウンセリングに行った際、「絶対に上がります」「一生持ちます」「副作用はありません」といった甘い言葉ばかりを並べる医師は要注意です。誠実な医師であれば、あなたの顔の骨格や皮膚の状態を見て、「ここまでは改善できるが、ここからは難しい」「あなたの場合、糸リフトだけでは効果が薄いかもしれない」といった限界やネガティブな情報も必ず説明してくれます。リスクを説明しないのは、リスクを理解していないか、契約を急がせたいかのどちらかです。
「本数」と「価格」のカラクリ:安すぎる広告表示の注意点
「糸リフト1本 2,000円〜」といった激安広告につられてクリニックに行くと、最終的に数十万円の見積もりが出て驚いた、という話をよく聞きます。これは、広告の価格が「効果の弱い短い糸」や「1本あたりの価格」であり、実際には効果を出すために片側5〜10本以上が必要だったり、別途高額な麻酔代や施術料が加算されたりするためです。
糸リフトの適正価格は、使用する糸や本数にもよりますが、全顔のしっかりとした施術で20万円〜50万円程度が相場です。極端に安い価格には裏があると考え、トータル費用で判断するようにしましょう。
アフターケアと保証制度(再施術の可否など)の有無
施術後に「左右差がある」「糸が出てきた」といったトラブルが起きた際、どのような対応をしてくれるかも確認しておきましょう。無料で診察や処置をしてくれるのか、万が一効果が全く感じられなかった場合の再施術保証はあるのかなど、アフターケアの体制が整っているクリニックを選ぶと安心です。
症例写真のチェックポイント:加工なしの経過写真があるか
SNSやホームページの症例写真を見る際は、施術直後の写真だけでなく、1ヶ月後、3ヶ月後の経過写真があるかをチェックしてください。直後は麻酔の腫れでハリが出ているように見えることもあります。また、明らかにアプリで加工された写真(肌の質感が不自然、背景が歪んでいるなど)ではなく、リアルな肌感がわかる写真を掲載しているクリニックの方が信頼できます。
美容外科歴15年の現役院長のアドバイス
「カウンセリングの際、医師に『私の顔の場合、糸リフトだけでは解決できない部分はどこですか?』と聞いてみてください。メリットばかりを強調せず、限界や必要な併用治療(ヒアルロン酸による土台形成など)を論理的に説明できる医師は信頼できます。あなたの顔を『作品』ではなく、これからの人生を共に歩む『体の一部』として大切に考えてくれる医師に出会ってください。」
糸リフトに関するよくある質問(FAQ)
最後に、診察室で患者様からよくいただく質問にお答えします。
Q. 痛みはどのくらいですか?麻酔は痛いですか?
施術中は局所麻酔を使用するため、痛みはほとんど感じません。ただし、最初の麻酔の注射をする際にチクリとした痛みがあります。痛みに弱い方には、笑気麻酔(吸う麻酔)や静脈麻酔(眠る麻酔)を併用することで、ほぼ無痛で施術を受けることも可能です。術後の痛みは筋肉痛のような鈍痛が数日続きますが、処方される痛み止めでコントロールできる範囲が一般的です。
Q. 糸リフトは何本入れるのが一般的ですか?
たるみの程度や使用する糸の種類によりますが、しっかりとしたリフトアップ効果を出すためには、片側3〜6本、両側で6〜12本程度入れるのが一般的です。少なすぎると効果が分散して弱くなり、多すぎても顔が引きつるリスクがあります。医師と相談して最適な本数を決めてください。
Q. 施術当日にシャワーや入浴はできますか?
シャワーは当日から可能ですが、顔にお湯を直接当てたり、強くこすったりするのは避けてください。入浴(湯船に浸かること)は血行が良くなり腫れの原因になるため、当日は控え、翌日からぬるめのお湯で短時間にするのがおすすめです。
Q. 将来、切開リフトをする際に影響はありますか?
溶ける糸であれば、将来的に切開リフトの手術を受ける際に大きな支障になることは基本的にありません。むしろ、糸リフトによって癒着(組織がくっつくこと)が生じていると、剥離操作がやや難しくなるという意見もありますが、熟練した医師であれば問題なく手術可能です。過去に糸リフトを受けたことがある場合は、必ず申告してください。
Q. 男性の糸リフトも可能ですか?
はい、可能です。最近では男性の患者様も非常に増えています。男性は女性に比べて皮膚が厚く、皮下脂肪が重い傾向があるため、強度の高い糸を使用したり、本数を多めに設定したりするなどの工夫が必要です。シャープなフェイスラインを作ることで、若々しく仕事ができる印象を与えることができます。
まとめ:5年後の自分のために、信頼できる医師と正しいエイジングケアを
糸リフトは、切開手術のような劇的な変化や半永久的な効果はありませんが、ダウンタイムを抑えつつ、自然に時間を巻き戻すことができる優れたエイジングケア治療です。定期的に行うことで、将来のたるみを予防し、5年後、10年後の自分に自信を持つための投資となります。
しかし、リスクゼロの手軽な美容法ではありません。失敗を避け、満足のいく結果を得るためには、以下のポイントを必ず確認してください。
- [ ] 自分の悩み(たるみ・肌質)が糸リフトの適応か確認したか
- [ ] 糸の素材(PDO/PCL等)の違いを理解したか
- [ ] 担当医は形成外科専門医などの資格を持っているか
- [ ] メリットだけでなくリスク(ひきつれ等)の説明を受けたか
- [ ] 提示された金額はトータル費用で納得できるものか
安さや広告のキャッチコピーに惑わされず、あなたの骨格と未来を真剣に考えてくれる「主治医」を見つけてください。この記事が、あなたが鏡を見て笑顔になれる未来への第一歩となることを願っています。
美容外科歴15年の現役院長からの最後のメッセージ
「糸リフトは、メスを使わずに劇的な変化をもたらす素晴らしい治療ですが、あくまで医療行為です。安易な価格競争に惑わされず、あなたの骨格と未来を真剣に考えてくれる『主治医』を見つけてください。それが、自然で美しい仕上がりへの一番の近道です。」
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