日常会話やSNS、あるいはビジネスの現場で「カオス」という言葉を耳にしない日はありません。しかし、この言葉の本当の意味を正しく説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。「めちゃくちゃ」「わけがわからない」といったニュアンスで使われることが多いですが、実はその背景にはギリシャ神話や物理学といった深遠な世界が広がっています。
結論から申し上げますと、「カオス(Chaos)」とは、本来「混沌」「無秩序」を意味する言葉ですが、現代の日本では「理解不能なほど入り乱れた状態」「収拾がつかない様子」を表すスラングとしても定着しています。
この記事では、言葉の専門家としての視点から、以下の3点を中心に徹底解説します。
- 「カオス」の辞書的な意味と若者言葉としてのニュアンスの違い
- 【例文付き】ビジネス・日常・SNSでの正しい使い方と言い換え表現
- 語源となったギリシャ神話や「カオス理論」の基礎知識
「カオス」という言葉を深く理解することで、あなたの語彙力は確実に向上し、TPOに合わせたスマートな使い分けができるようになるでしょう。それでは、混沌とした言葉の世界を、秩序立てて紐解いていきましょう。
「カオス」とはどういう意味?一言でわかる定義とニュアンス
私たちが普段何気なく使っている「カオス」という言葉。その意味を問われたとき、多くの人が「ぐちゃぐちゃな状態」と答えるでしょう。もちろん、その理解は間違いではありません。しかし、言葉というものは時代と共にその姿を変え、新たな意味を纏っていく生き物のような存在です。ここでは、辞書に載っている本来の定義と、現代の日本社会で独自に進化を遂げたスラングとしてのニュアンス、その両面から「カオス」の正体に迫ります。
辞書における本来の意味:「混沌」「無秩序」
まず、言葉の基礎となる辞書的な定義から確認していきましょう。「カオス」は英語の “Chaos” に由来し、日本語では一般的に「混沌(こんとん)」と訳されます。主要な国語辞典や英和辞典を参照すると、その定義は大きく分けて二つの側面に集約されます。
一つ目は、「天地創造以前の世界の状態」です。これは後述するギリシャ神話に由来する概念で、天と地が分かれる前、あるいは宇宙が秩序(コスモス)を持つ前に存在した、形定まらぬドロドロとした塊のような状態を指します。何かが生まれる前の、可能性に満ちた、しかし区別のつかない混濁した状態。これが「カオス」の原義です。
二つ目は、そこから派生した「無秩序」「大混乱」という意味です。現代語として使われる際はこちらの意味合いが強く、物事が入り乱れて整理がついていない様子、統一感がなくバラバラである状態を示します。例えば、多種多様な意見が出すぎてまとまらない会議や、物が散乱して足の踏み場もない部屋などがこれに該当します。
辞書的な定義において重要なのは、単に「汚い」「乱れている」ということだけでなく、「区別がつかない」「整理されていない」という点にあります。要素が多すぎて全体像が把握できない状態、それが本来の「カオス」なのです。
▼補足:辞書による定義の違い
| デジタル大辞泉 | 天地創造以前の世界の状態、無秩序、混乱。 |
| 大辞林 | 入り混じって区別がつかない状態。物事が入り乱れて整理がつかないさま。 |
| 広辞苑 | 混沌。天地開闢(かいびゃく)前の形定まらぬ空虚。 |
若者言葉・ネットスラングとしての意味:「ヤバい」「シュール」「めちゃくちゃ」
一方で、インターネットやSNSを中心とした現代の若者言葉としての「カオス」は、辞書的な意味を飛び越え、より感覚的でエモーショナルな表現として進化しています。2000年代以降、インターネット掲示板や動画投稿サイトの隆盛と共に、「カオス」は独自の地位を確立しました。
現代的な用法における「カオス」は、以下のようなニュアンスを含んでいます。
- 理解の範疇を超えている:「意味がわからない」「展開が読めない」という驚きや戸惑い。
- 異質なものが混在している:本来交わるはずのないキャラクターや世界観が同時に存在しているシュールな状況。
- 収拾がつかない盛り上がり:議論やコメントが殺到し、制御不能になっている「祭り」のような状態。
- 「ヤバい」の代替語:凄すぎて言葉が出ない、あるいは酷すぎて笑ってしまうような状況に対する形容。
例えば、動画サイトで全く無関係なアニメキャラクターたちが脈絡なく登場する動画に対して「カオス動画」というタグが付けられたり、SNSで議論が白熱しすぎて論点が拡散してしまったスレッドを「カオスな状況」と表現したりします。ここでは、「無秩序」というネガティブな意味だけでなく、「予測不能な面白さ」というポジティブな評価が含まれることも少なくありません。
なぜ日本でこれほど浸透したのか?言葉の変遷
「カオス」という言葉がこれほどまでに日本の日常会話に浸透した背景には、日本特有の「曖昧さを許容する文化」と「情報過多社会」との親和性があると考えられます。
もともと日本語には「混沌」という言葉がありましたが、これはやや文学的で硬い表現です。そこに英語の “Chaos” がカタカナ語として輸入され、サブカルチャーの文脈で「なんでもあり」の状態を指す言葉として使い勝手の良さが発見されました。特に、ニコニコ動画などのコメント文化において、画面を埋め尽くす弾幕や、予測不能な動画展開を一言で表すのに「カオス」は最適でした。
さらに、現代社会は情報爆発の時代です。日々膨大な情報がタイムラインを流れ、処理しきれないほどの出来事が同時に発生します。この「情報量が多すぎて処理しきれない感覚」を、短く、かつ的確に表現できる言葉として「カオス」が選ばれたのです。「パニック」では自身の精神状態に焦点が当たりますが、「カオス」なら客観的な状況描写として使えるため、使い勝手が良かったとも言えるでしょう。
現役国語講師のアドバイス
「言葉は生き物です。多くの人が『カオス=めちゃくちゃ』と捉えていますが、本来は『何かが生まれる前の混ざり合った状態』という創造的なニュアンスも含んでいます。しかし、現代会話では『情報量が多すぎて処理しきれない』という文脈で使われることが圧倒的に多いですね。若者が『ここカオスだな』と言うとき、それは単なる混乱を指すだけでなく、『情報量が多すぎて理解が追いつかないけれど、なんだか面白い』という複雑な感情が込められていることも多いのです。このニュアンスの違いを理解すると、コミュニケーションの解像度がぐっと上がりますよ。」
【シーン別】「カオス」の正しい使い方と例文集
言葉の意味を理解したところで、次は実践的な使い方を見ていきましょう。「カオス」は便利な言葉ですが、使う相手や場所を間違えると、「教養がない」「ふざけている」と思われてしまうリスクもあります。ここでは、日常会話からビジネスシーンまで、具体的な例文を交えながら正しい使い方を解説します。
日常会話・SNSでの使用例
友人同士の会話やSNSなど、カジュアルな場面では「カオス」は非常に使いやすい言葉です。主に「驚き」「困惑」「笑い」といった感情を伴って使われます。
【物理的に散らかっている状態】
- 「年末の大掃除を始めたけど、懐かしい漫画を読み始めちゃって、部屋が余計にカオスになってきた。」
- 「子どものおもちゃと洗濯物が散乱してて、リビングがまさにカオス。」
この場合、「散らかっている」「足の踏み場もない」という言葉の強調表現として機能します。
【状況や人間関係が複雑な状態】
- 「元カレと今カレが同じ飲み会に来るなんて、状況がカオスすぎる。」
- 「AさんとBさんが喧嘩してる横でCさんが爆睡してて、この空間マジでカオス。」
ここでは、人間関係の複雑さや、その場の空気の読めなさ、シュールな状況を一言で説明しています。
【話の展開や内容が理解不能な状態】
- 「昨日のドラマ、伏線回収もしないまま急に宇宙人が出てきて展開がカオスだった。」
- 「部長の話、あっちこっち飛び火して結局何が言いたいのかカオス状態だったな。」
論理的な整合性が取れていない、脈絡がないことへのツッコミとして使われます。
ビジネスシーンで「カオス」は使える?注意点とマナー
さて、問題はビジネスシーンです。結論から言えば、公式な場や目上の人に対して「カオス」を使うのは避けるべきです。「カオス」はあくまでカタカナ語であり、カジュアルな響きやスラング的な側面が強いため、不真面目な印象や、語彙力が不足している印象を与えかねません。
例えば、上司への報告メールで以下のように書くのは不適切です。
×「プロジェクトの進捗ですが、現場はカオスな状態でして、遅れが生じています。」
これでは、「現場管理ができていない」という事実以上に、「状況を客観的に分析できていない」「言葉遣いが軽い」というマイナスの評価を受けてしまいます。ビジネスでは、状況を正確かつ客観的な日本語で描写することが求められます。
▼ビジネスで使える「カオス」の言い換え表現リスト
| カオスな状態 | ビジネスでの言い換え(推奨) |
| めちゃくちゃで収拾がつかない | 混迷を極めている、事態が紛糾している |
| 話が複雑でわからない | 情報が錯綜(さくそう)している、複雑に入り組んでいる |
| 整理されていない | 秩序だっていない、体系化されていない |
| 予測不能な状態 | 予断を許さない状況、不透明な状況 |
ただし、気心の知れた同僚とのチャットや、ブレインストーミングのようなアイデア出しの場(発散フェーズ)であれば、「今はまだカオスな状態ですが、ここから絞り込んでいきましょう」といった使い方は許容されるでしょう。TPO(時、場所、場合)を見極めることが重要です。
状況説明で使う際のポイント(ポジティブ・ネガティブの使い分け)
「カオス」は文脈によって、ネガティブにもポジティブにもなり得ます。
【ネガティブな使用例】
「管理体制がカオス」→ 批判的なニュアンス。「ずさん」「無責任」という意味が含まれます。
【ポジティブな使用例】
「この街の文化は多様性が混ざり合ってカオスな魅力がある」→ 称賛のニュアンス。「エネルギッシュ」「刺激的」「創造的」という意味になります。
特にクリエイティブな分野やスタートアップ界隈では、整然としすぎていることよりも、多少の「カオス(=多様な可能性)」があることが良しとされる場合もあります。自分がどちらのニュアンスで伝えたいのかを意識して使いましょう。
現役国語講師のアドバイス
「以前、私が指導した若手社員が、クライアントへの報告で『現場はカオスな状態でして』と送ろうとしていました。親しい間柄なら通じますが、ビジネスでは『事態が錯綜しており』『混迷を極めており』と言い換えるのが大人のマナーです。『カオス』という言葉を使うと、書き手自身も『もうお手上げです』と思考停止しているように見えてしまいます。『管理能力不足』と取られないよう、具体的な状況説明の言葉を選ぶよう指導しました。」
「カオス」の類語・対義語・関連語を使い分ける
「カオス」と似た意味を持つ言葉はたくさんあります。「シュール」「パニック」「混乱」……これらを正しく使い分けることで、あなたの表現力は一段と深みを増します。ここでは、それぞれの言葉の微妙なニュアンスの違いと、対義語である「コスモス」について解説します。
似ているようで違う?「シュール」と「カオス」の違い
「カオス」とよく混同されるのが「シュール」です。若者言葉としてはどちらも「わけがわからない」という意味で使われがちですが、本来の意味は異なります。
「シュール」は、フランス語の「シュルレアリスム(超現実主義)」の略語です。夢や無意識の世界のように、「現実離れしていて奇妙な」「非日常的で不思議な」静的な状態を指します。例えば、砂浜に時計が溶けて落ちているようなダリの絵画的風景や、真顔で奇妙な行動をするコントなどは「シュール」です。
一方、「カオス」は、多くの要素が入り乱れている「動的で騒々しい」状態を指します。
- 静かな教室で、一人の生徒が黙々と机の上に消しゴムを積み上げ続けている光景 → シュール
- 教室で生徒たちが叫び回り、物が飛び交い、先生も踊っている光景 → カオス
このように、「静けさの中の違和感」ならシュール、「騒がしさの中の無秩序」ならカオスと使い分けるとスマートです。
「パニック」「混乱」「アナーキー」との使い分け
他の類語との違いも整理しておきましょう。
- パニック (Panic):
突発的な恐怖や不安によって、理性的判断ができなくなる心理状態。「頭がパニック」とは言いますが、「部屋がパニック」とは言いません。主語は主に「人」や「心」です。 - 混乱 (Confusion):
秩序が乱れること全般を指す、最も一般的な日本語。「カオス」よりも客観的で硬い表現です。公的な場ではこちらを使います。 - アナーキー (Anarchy):
無政府状態、政治的な無秩序を指します。権威やルールが存在しない、あるいは無視されている状態を強調する場合に使われます。「学級崩壊してアナーキーな状態だ」のように使います。
対義語は「コスモス(秩序)」!その意味と背景
「カオス」の対義語を知っていますか? それは「コスモス (Cosmos)」です。
花のコスモス(秋桜)を思い浮かべるかもしれませんが、語源であるギリシャ語の「コスモス」は「秩序」「飾り」「調和のとれた宇宙」を意味します。ギリシャ人は、この世界が「カオス(混沌)」から生まれ、神々によって秩序づけられて「コスモス(調和のとれた宇宙)」になったと考えました。
つまり、カオスとコスモスは対立する概念であると同時に、セットで世界を構成する要素なのです。「コスメティック(化粧品)」という言葉も、顔を整える(秩序立てて飾る)という意味で、このコスモスと同じ語源を持っています。
「カオスがあるからこそ、コスモス(秩序)が生まれる」という視点を持つと、無秩序な状態もまた、新しい秩序への過渡期として捉えられるかもしれません。
英語の “Chaos” の発音と使い方(ネイティブの感覚)
最後に、英語圏での使い方も確認しておきましょう。日本人が注意すべきは発音です。
英語のスペルは “Chaos” ですが、発音は「カオス」ではなく「ケイオス」(/ˈkeɪ.ɒs/)に近いです。海外旅行や英会話で「This is Chaos(ディス・イズ・カオス)」と言っても、通じない可能性が高いので注意しましょう。
また、英語では不可算名詞(数えられない名詞)として扱われます。”a chaos” や “chaoses” とは言わず、単に “chaos” と言います。「完全なカオス」と言いたいときは “utter chaos” や “total chaos” という表現がよく使われます。
現役国語講師のアドバイス
「『シュール』は『非現実的で不思議』な静的なニュアンス、『カオス』は『要素が多くて騒がしい』動的なニュアンスで使い分けるとスマートです。また、英語の “Chaos” は発音が『ケイオス』に近いので、海外の方と話す際は注意が必要ですよ。カタカナ語として定着している言葉ほど、本来の発音とのギャップに気づきにくいものです。」
教養として知っておきたい「カオス」の語源:ギリシャ神話
「カオス」という言葉を単なる「混乱」という意味だけで使っていては勿体ありません。この言葉のルーツは、古代ギリシャの神話、つまり世界の始まりの物語にまで遡ります。ここでは、雑学として誰かに話したくなるような、カオスの神話的背景を深掘りします。
ギリシャ神話の原初神「カオス」とは?
ギリシャ神話において、カオスとは「状態」であると同時に、「神」の名前でもあります。世界の始まりに最初に存在した原初神、それがカオスです。
ただし、ここで言う神は、ゼウスやポセイドンのような人の姿をした神(人格神)とは少し異なります。カオスは、何もない空間、あるいは大きく口を開けた「空隙(くうげき)」そのものを指していました。語源的にも、ギリシャ語の「カオス」は「あくびをする」「口を大きく開ける」という意味の動詞に関連していると言われています。
つまり、最初のカオスは「ぐちゃぐちゃに混ざったもの」というよりは、「何かが生まれるための広大な何もない場所」といったイメージに近かったのです。そこから、万物を生み出す母体としての性格を帯びるようになりました。
ヘシオドス『神統記』に描かれた世界の始まり
紀元前700年頃の詩人ヘシオドスが記した『神統記(テオゴニア)』は、ギリシャ神話の宇宙創成を伝える最も重要な資料です。この冒頭で、以下のように語られています。
「まず最初にカオスが生じた。次いで胸幅の広いガイア(大地)、暗いタルタロス(奈落)、そしてエロス(愛)が生じた」
この記述によれば、カオスはすべての神々の祖にあたります。カオスからは、エレボス(幽冥)とニュクス(夜)という神々が生まれ、さらにその二神からヘメラ(昼)とアイテール(上層の清浄な大気)が生まれました。
暗く何もないカオスから、夜や闇が生まれ、そこから対極にある昼や光が生まれる。この壮大な系譜を知ると、「カオス」という言葉が持つ「創造のエネルギー」を感じ取ることができるでしょう。
▼深掘り:神話におけるカオスの家系図
カオスを中心とした初期の神々の系譜は以下の通りです。
- カオス(空隙・混沌)
- エレボス(幽冥・地下の闇)
- ニュクス(夜)
- ヘメラ(昼)
- アイテール(上層の大気・光)
- ガイア(大地)
- タルタロス(奈落)
- エロス(愛・生殖本能)
このように、カオスは単独で闇と夜を生み出しました。世界が形作られる一番最初のステップを担った存在なのです。
聖書における「混沌」との関連性
ギリシャ神話だけでなく、『旧約聖書』の「創世記」にも似た概念が登場します。冒頭の「神が天と地を創造されたとき、地は混沌(トーフー・ワ・ボーフー)であって、闇が深淵の面にあり……」という有名な一節です。
この「混沌」もまた、神による創造が行われる前の、形のない状態を指しています。西洋文化圏において、「秩序(光・神の意志)」の対極にあるものとして「混沌(闇・無秩序)」が存在するという二元論的な世界観は、こうした神話や宗教的背景に深く根ざしています。私たちが「カオス」という言葉に感じる、どこか恐ろしくも底知れないイメージは、こうした数千年の歴史の積み重ねによるものなのです。
現役国語講師のアドバイス
「授業で『カオスは神様だったんだよ』と教えると、生徒たちは驚きます。単なる『混乱』ではなく、『すべての事象の始まり』という壮大な意味が含まれていることを知ると、この言葉の響きが少し変わって聞こえませんか? 飲み会の席などで『この状況カオスだね』と言われたとき、『ギリシャ神話では最初に生まれた神様だから、ここから何かが始まるかもね』なんて返せたら、知的でユーモアのある返しになりますよ。」
科学・数学分野における「カオス理論」とは?
「カオス」という言葉を検索すると、必ずと言っていいほど「カオス理論」という言葉に出会います。これは物理学や数学の分野で使われる専門用語ですが、現代社会の複雑さを理解する上で非常に重要な概念です。数式を使わずに、そのエッセンスだけをわかりやすく解説します。
カオス理論をわかりやすく解説(予測不可能性)
カオス理論を一言で言うと、「単純な法則に従っているはずなのに、結果が複雑すぎて予測できなくなる現象」を扱う理論です。
通常、科学の世界では「原因」がわかれば「結果」が予測できると考えます。ボールを投げればどこに落ちるか計算できる、といった具合です。しかし、自然界には計算通りにいかないことが多々あります。
例えば、タバコの煙のゆらぎ、川の水の渦、旗のたなびきなどです。これらは物理法則に従って動いているはずですが、その動きは不規則で、1秒後にどういう形になっているかを完全に予測することは不可能です。このように、決定論的な法則(ルール)があるにもかかわらず、挙動が不規則で乱雑に見える現象を「カオス」と呼びます。
「デタラメ(ランダム)」とは違います。ランダムはサイコロの目のように法則性がないことですが、カオスは「法則はあるけれど、複雑すぎて追いきれない」状態なのです。
有名な「バタフライ・効果」との関係
カオス理論を象徴する有名な言葉に「バタフライ・効果(バタフライ・エフェクト)」があります。「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を引き起こすかもしれない」という比喩です。
これは、「初期条件のわずかな違いが、将来の結果に甚大な影響を与える」というカオスの性質(初期値鋭敏性)を表しています。最初の数値が 0.000001 違うだけで、時間の経過とともにズレが拡大し、最終的には全く違う結果になってしまうのです。
人生もまさにカオス理論的だと言えるでしょう。あの時、一本早い電車に乗っていたら、今のパートナーとは出会っていなかったかもしれない。些細な行動が、未来を大きく変えてしまう。そう考えると、カオス理論は私たちの日常にも密接に関わっているのです。
身近にあるカオス現象の例(天気予報、煙の動きなど)
私たちの身の回りには、カオス現象があふれています。
- 天気予報:
明日の天気はかなり正確に当たりますが、1週間後は怪しくなり、1ヶ月後の天気を正確に当てることはほぼ不可能です。大気の状態はカオスであり、わずかな風や温度の変化が後の天候を大きく変えてしまうためです。 - 心臓の鼓動:
健康な人の心拍間隔は、実は一定ではなく、カオス的な揺らぎを持っています。逆に、一定になりすぎると病気のサインである場合があることが知られています。 - 株式市場:
株価の変動も、無数の要因が絡み合う複雑系であり、カオス的な挙動を示します。だからこそ、完全な予測は不可能なのです。
現役理数系ライターのアドバイス
「カオス理論は『デタラメ』という意味ではありません。『法則はあるけれど、複雑すぎて予測できないこと』を指します。人生や相場もまさにカオス理論通りと言えるかもしれませんね。予測できないからこそ不安にもなりますが、予測できないからこそ、小さな行動が未来を大きく変える可能性(希望)も秘めている。そう捉えると、科学の話も少しロマンチックに思えてきませんか?」
「カオス」に関するよくある質問 (FAQ)
最後に、「カオス」という言葉に関してよく寄せられる疑問に端的にお答えします。モヤモヤを解消して、スッキリとした理解を持ち帰りましょう。
Q. 「カオス」と「ケイオス」は違う言葉ですか?
A. 同じ言葉です。
「カオス」は日本語的な読み方(ローマ字読みやドイツ語読みに近い)であり、「ケイオス」は英語の発音(Chaos)をカタカナ表記したものです。意味に違いはありませんが、日本では一般的に「カオス」が定着しています。ゲームやファンタジー作品などでは、響きのカッコよさからあえて「ケイオス」と表記することもあります。
Q. 「頭がカオス」とはどういう状態ですか?
A. 思考が整理できず、パニックに近い状態のことです。
やるべきことが多すぎる、ショッキングな出来事があった、理解できない情報が入ってきたなどの理由で、脳内の処理が追いついていない状態を指します。「頭の中が真っ白」というよりは、「いろいろなことがグルグル回って収拾がつかない」というニュアンスです。
Q. アニメやゲームで聞く「カオス」は特別な意味がありますか?
A. 「秩序(法・善)」に対する「混沌(自由・悪)」として描かれることが多いです。
RPGなどのゲームでは、キャラクターの属性(性格や立ち位置)を表すパラメータとして「ロウ(Law:秩序)」と「カオス(Chaos:混沌)」が対比されることがあります。この場合のカオスは、必ずしも「悪」ではなく、「自由奔放」「組織に縛られない」「力こそ正義」といった価値観を象徴することが多いです。
現役国語講師のアドバイス
「アニメやネット動画の『カオス回』など、エンタメ文脈では『面白すぎて意味不明』という褒め言葉として使われることも多いです。文脈(コンテキスト)を読む力が試される言葉ですね。若者が笑いながら『これカオスだわ〜』と言っていたら、それは『最高に面白い』と言っているのと同義であることが多いですよ。」
まとめ:カオスの意味を正しく理解して、TPOに合わせて使いこなそう
ここまで、「カオス」という言葉について、辞書的な意味からスラング、神話、科学理論まで幅広く解説してきました。単なる「混乱」という言葉の裏側に、これほど豊かな背景が隠されていたことに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
本記事の要点まとめ
- 基本の意味:「混沌」「無秩序」。物事が入り乱れて区別がつかない状態。
- 現代の用法:「理解不能」「シュール」「情報量が多すぎてヤバい」というスラングとして定着。
- ビジネスでの注意:目上の人には使わない。「混迷している」「錯綜している」と言い換えるのがマナー。
- 類語との違い:「シュール」は静的な違和感、「カオス」は動的な混乱。「コスモス(秩序)」が対義語。
- 語源と背景:ギリシャ神話の原初神であり、科学的には「予測不能な複雑さ」を表す理論でもある。
語彙力を高めるための次のステップ
「カオス」は便利な言葉ですが、便利すぎるがゆえに多用しすぎると、思考停止に陥る危険性もあります。状況を「カオス」の一言で片付けるのではなく、「何がどう入り乱れているのか」を観察し、より適切な言葉を選べるようになると、あなたの知性はさらに輝きを増すはずです。
最後に、日常生活で「カオス」を使いたくなったときのチェックリストを用意しました。これらを意識して、スマートに言葉を使いこなしてください。
▼「カオス」使用時の最終チェックリスト
- [ ] その場は「公的な場」ではないか?(ビジネスなら言い換えを検討)
- [ ] 「シュール」や「パニック」の方が適切ではないか?(静的なのか、心理的なのか)
- [ ] 相手がネットスラングを理解できる世代・属性か?(伝わらないリスクを考慮)
- [ ] ネガティブな意味で伝わってしまわないか?(文脈の補足が必要か)
混沌とした現代社会(カオス)の中で、言葉という秩序(コスモス)を武器に、的確なコミュニケーションを築いていきましょう。
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