「社長から突然『我が社もDXを推進しろ』と言われたが、具体的に何から手をつければいいのかわからない」
「IT化とDXは何が違うのか? 言葉の定義が曖昧で、社内への説明資料が作れない」
もしあなたがこのような悩みを抱えているなら、この記事はまさにあなたのためのものです。多くの企業担当者が、DX(デジタルトランスフォーメーション)を単なる「新しいシステムの導入」や「業務のデジタル化」と混同していますが、それは大きな誤解です。
結論から申し上げます。DXの本質とは、データとデジタル技術を活用して「ビジネスモデル」と「企業文化」を根本から変革し、市場における圧倒的な競争優位性を確立することです。ツールを入れることは手段であって、目的ではありません。
本記事では、20年以上にわたり企業のIT戦略と組織変革を支援してきたコンサルタントの視点から、教科書的な定義だけでなく、現場で直面するリアリティを踏まえた「真のDX推進ガイド」をお届けします。
この記事を読むことで、以下の3点が明確になります。
- 経済産業省の定義に基づいた正確な理解と、よくある「IT化」との決定的な違い
- なぜ今、日本企業にDXが不可欠なのか?「2025年の崖」が示唆する深刻なリスクと機会
- 失敗を回避し、着実に成果を出すための「DX推進5つのステップ」と現場の巻き込み方
曖昧なバズワードとしてのDXを卒業し、自社の未来を切り拓くための具体的なアクションプランを、ここから一緒に描いていきましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?正しい定義と意味
DXという言葉が氾濫する中で、最も重要なのは「社内の共通言語」を作ることです。経営層、IT部門、そして現場の社員がそれぞれ異なる解釈をしていては、プロジェクトは必ず頓挫します。まずは、公的な定義と学術的な定義の両面から、DXの正体を探っていきましょう。
経済産業省「DXレポート」における定義
日本国内のビジネスシーンにおいて、最もスタンダードかつ信頼性が高いとされる定義は、経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』および『DX推進ガイドライン』にあるものです。ここでは次のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
この定義には、非常に重要な要素が凝縮されています。ポイントは以下の3点です。
- 手段:データとデジタル技術の活用
- 対象:製品・サービスだけでなく、ビジネスモデル、組織、企業文化まで及ぶ
- 目的:競争上の優位性を確立すること
多くの企業が「手段」であるデジタル技術の導入に終始しがちですが、経産省の定義が求めているのは、その先にある「変革(トランスフォーメーション)」と「競争力の強化」です。つまり、いくら最新のAIを導入しても、それによってビジネスモデルや組織文化が変わらなければ、それはDXとは呼べないのです。
学術的な定義(エリック・ストルターマン教授の提唱)
一方で、DXという概念のルーツは2004年にまで遡ります。スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念は、ビジネスに限定されない、より広義なものでした。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること」
学術的な文脈では、DXは単なる企業活動の一環ではなく、デジタル技術が社会インフラや人々のライフスタイルそのものを根底から覆し、不可逆的な変化をもたらす現象を指します。例えば、スマートフォンが登場したことで、私たちの「連絡手段」「情報収集」「買い物」「娯楽」といった生活様式が劇的に変化しました。これこそが、ストルターマン教授の言うデジタルトランスフォーメーションです。
ビジネスの現場においては、この「社会の変化」に適応するために企業が変わる、という文脈で捉えると理解しやすいでしょう。
【図解】DXを一言で言うと?「守りのDX」と「攻めのDX」
定義が長くなりましたが、一言で表現するならば、DXとは「デジタルを前提とした会社への作り直し」です。
DXには大きく分けて2つのベクトルがあります。
- 守りのDX:業務効率化、コスト削減、省人化(社内向け)
- 攻めのDX:新サービス創出、ビジネスモデル変革、顧客体験の向上(社外・顧客向け)
以下の概念図イメージで、その流れを整理します。
▼ 詳細:DXの定義概念図(クリックで展開)
| ステップ | 活動内容 | 目的 |
|---|---|---|
| Step 1: データ活用 | アナログ情報のデジタル化、IoTによるデータ収集 | 現状の可視化 |
| Step 2: プロセス変革 | 業務フローの自動化、RPA導入(守りのDX) | 生産性向上 |
| Step 3: 顧客価値変革 | 既存製品のサービス化、UXの抜本的改善(攻めのDX) | 顧客満足度向上 |
| Step 4: ビジネスモデル変革 | サブスクリプション化、プラットフォーム構築 | 競争優位性の確立 |
※DXの本質は、Step 1〜2に留まらず、Step 3〜4へ到達することにあります。
現役DX戦略コンサルタントのアドバイス
「経営層にDXを説明する際、『ITを入れて便利にする』という言葉は避けてください。それは単なる改善に過ぎないからです。代わりに『デジタル技術を使って、稼ぎ方そのものを変えること』と伝えてみてください。経営者は『投資対効果』や『企業の存続』に敏感です。DXが企業の生存戦略であることを強調するのが、承認を得るためのポイントです」
「IT化」と「DX」の違いは?3つの段階を理解する
「IT化とDXは何が違うのか?」という問いは、DX推進担当者が最も頻繁に受ける質問の一つです。そして、ここを混同したままプロジェクトを進めることが、多くの失敗の原因となっています。
結論から言えば、IT化は「手段」であり、DXは「目的・結果」です。さらに解像度を上げると、DXに至るまでには「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」という3つの段階が存在します。自社が今どの段階にいるのかを正確に把握することが、ロードマップ作成の第一歩です。
段階1:デジタイゼーション(Digitization)|アナログ情報のデジタル化
第一段階は「デジタイゼーション」です。これは、「アナログ・物理データのデジタルデータ化」を指します。業務プロセスそのものは大きく変わりませんが、ツールがアナログからデジタルに置き換わる段階です。
具体例としては以下のようなものが挙げられます。
- 紙の書類をスキャンしてPDF化する
- フィルムカメラをデジタルカメラにする
- 会議の音声を録音してデジタルファイルにする
- 紙のタイムカードをExcel入力に切り替える
これは「部分的な効率化」に寄与しますが、これだけでビジネスが変わるわけではありません。「IT化」と呼ばれるものの多くは、このデジタイゼーションの領域に留まっています。
段階2:デジタライゼーション(Digitalization)|個別の業務プロセスのデジタル化
第二段階は「デジタライゼーション」です。これは、「個別の業務プロセス・フローのデジタル化」を指します。デジタル技術を使うことで、業務のやり方そのものが変わり、新しい価値が生まれます。
具体例を見てみましょう。
- オンライン会議:移動時間がゼロになり、遠隔地の人とも即座に連携できる(業務フローの変化)。
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション):定型業務をロボットが代行し、人間は創造的な業務に集中する。
- カーシェアリング:物理的な鍵の受け渡しをアプリで完結させ、無人での貸し出しプロセスを実現する。
この段階では、単なる「置き換え」を超えて、プロセスの最適化や顧客体験の向上が図られます。多くの先進的な企業が現在取り組んでいるのは、このデジタライゼーションの領域です。
段階3:デジタルトランスフォーメーション(DX)|組織ごとの変革
そして最終段階が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。これは、デジタイゼーションとデジタライゼーションを積み重ねた結果、「社会的な影響やビジネスモデル全体の変革」が起きている状態です。
例えば、Netflixは当初、DVDの郵送レンタル(デジタライゼーション的な効率化)を行っていましたが、ストリーミング配信へと移行し、オリジナルコンテンツを制作することで、映画産業や人々の視聴習慣そのものを変えました。これがDXです。
以下の比較表で、3つの違いを整理します。
▼ 詳細:デジタイゼーション・デジタライゼーション・DXの比較表(クリックで展開)
| 段階 | 英語 | 焦点 | 具体例(経費精算業務の場合) |
|---|---|---|---|
| 段階1 | Digitization (デジタイゼーション) |
「モノ」のデジタル化 | 領収書をスキャナで読み取り、画像データとして保存する。 |
| 段階2 | Digitalization (デジタライゼーション) |
「コト(プロセス)」のデジタル化 | 交通系ICカードの履歴を連携し、申請から承認までをクラウド上で完結させる。 |
| 段階3 | DX (デジタルトランスフォーメーション) |
「ビジネス・社会」の変革 | 経費精算という概念をなくし、コーポレートカードとAI監査で全自動化。経理部門を経営分析へシフトさせる。 |
現役DX戦略コンサルタントのアドバイス
「『うちはまだ紙ばかりでDXなんて程遠い』と嘆く必要はありません。まずはデジタイゼーション(電子化)から始め、次にデジタライゼーション(プロセス改革)へ進むという手順で良いのです。重要なのは、『電子化して終わり』にしないこと。その先に『ビジネスを変える』というゴールを見据えているかどうかが、単なるIT化とDXの分かれ道です」
なぜ今、日本企業にDXが必要なのか?背景にある危機と機会
なぜ今、国を挙げてDXが叫ばれているのでしょうか? 単なる流行り言葉ではなく、日本企業が直面している構造的な危機と、そこから脱却するための唯一の手段がDXだからです。ここでは、経営層を説得するための強力なロジックとなる背景事情を解説します。
「2025年の崖」問題:レガシーシステムが招く経済損失
DXを語る上で避けて通れないのが、経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題です。
多くの日本企業では、過去に構築された基幹システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化しています。これを「レガシーシステム」と呼びます。このレガシーシステムを放置した場合、以下のような問題が発生すると予測されています。
- 維持管理費の高騰:IT予算の9割が現状維持に使われ、新しい投資ができない。
- セキュリティリスク:古いシステムはサイバー攻撃の格好の標的となる。
- 人材不足:古いプログラミング言語(COBOLなど)を知るエンジニアが定年退職し、誰も直せなくなる。
経済産業省は、もし日本企業がこの問題を克服できなければ、2025年以降、年間で最大12兆円の経済損失が生じると試算しました。これが「2025年の崖」です。DXは、この崖から転落しないための命綱なのです。
消費者行動の変化とデジタルディスラプション(破壊的創造)
市場環境の変化も待ったなしの状況です。スマートフォンとSNSの普及により、消費者の購買行動は劇的に変化しました。「モノを所有する」ことから「コト(体験)を利用する」サブスクリプション型への移行や、店舗に行かずにECで購入するのが当たり前になりました。
こうした変化に対応し、デジタル技術を駆使して既存業界の秩序を破壊する新規参入者を「デジタルディスラプター」と呼びます(例:タクシー業界に対するUber、ホテル業界に対するAirbnb)。既存企業がこれに対抗するためには、自らもデジタル化し、顧客体験(UX)を向上させ続けるしか生き残る道はありません。
労働人口の減少と生産性向上の必要性
日本固有の課題として、少子高齢化による深刻な労働人口の減少があります。人手が足りない中で企業活動を維持・成長させるには、一人当たりの生産性を劇的に向上させる必要があります。
デジタル技術を活用して定型業務を自動化し、限られた人材を付加価値の高い業務に集中させることは、もはや選択肢ではなく必須の生存戦略です。
▼ 補足:DXレポート2(中間取りまとめ)のポイント
2020年末に発表された「DXレポート2」では、コロナ禍によって日本企業のデジタル対応の遅れが浮き彫りになったことが指摘されました。テレワークさえままならない企業が多く、ハンコ出社などが話題になりました。
レポートでは、DXを「レガシーシステム刷新」という長期的な課題としてだけでなく、「直近の環境変化に即応するための緊急避難的な対応」としても重要視し、迅速な変革(超短期でのデジタイゼーションなど)を推奨しています。
現役IT経営ストラテジストのアドバイス
「『2025年の崖』というと危機感ばかりが強調されますが、逆に捉えれば『システム刷新を機に、過去20年の垢を落として身軽になれるチャンス』でもあります。古い慣習や非効率な業務フローを『システムが変わるから』という理由で一掃できるのは、DX推進担当者にとって最大の武器になります。危機感だけでなく、この『変革の好機』というポジティブな側面を経営層に伝えてみてください」
失敗しないDX推進の進め方!5つのステップ
DXの必要性は理解できても、「具体的にどう進めればいいのか」で躓くケースが大半です。いきなり全社一斉にツールを導入しようとすると、現場の混乱を招き必ず失敗します。ここでは、実務的な観点から成功確率を高める5つのステップを解説します。
Step1:戦略策定とビジョンの共有(Whyの明確化)
最初のステップは、ツール選びではなく「ビジョン」の策定です。「なぜDXをするのか?」「DXによってどのような会社になりたいのか?」という目的(Why)を明確にします。
「競合他社がやっているから」「流行りだから」という動機では、現場は動きません。「デジタルを活用して、顧客への納期を半分にする」「従業員の残業をゼロにし、クリエイティブな仕事に時間を割く」といった、具体的で共感できるビジョンを経営層と言語化しましょう。
Step2:推進体制の構築と人材確保(誰がやるか)
DXは情報システム部門だけで完結するものではありません。経営企画、事業部門、IT部門が連携したクロスファンクショナルなチームが必要です。
- CDO(Chief Digital Officer):経営視点でDXを牽引する責任者。
- DX推進室:各部門との調整役。
- 現場リーダー:実務に精通し、現場の声を吸い上げる役割。
社内にIT人材がいない場合は、外部のパートナー(コンサルタントやベンダー)を活用するのも手ですが、丸投げは厳禁です。必ず社内に「オーナーシップを持つ担当者」を配置してください。
Step3:現状の可視化とデジタル化(デジタイゼーションの徹底)
足元を固めるフェーズです。現在の業務フローを棚卸しし、どこにアナログな作業が残っているかを可視化します。そして、可能な部分から「デジタイゼーション」を進めます。
- 紙文書の電子化
- チャットツールの導入によるコミュニケーションのデジタル化
- クラウドストレージによるファイル共有
この段階で「デジタルは便利だ」という実感を現場に持ってもらうことが、後のステップでの抵抗を減らす鍵となります。
Step4:小規模なPoC(概念実証)とスモールスタート
いきなり大規模なシステム開発を行うのではなく、特定の部署や特定の業務に絞って、小規模に試行します。これをPoC(Proof of Concept:概念実証)と呼びます。
例えば、「営業部の一部門だけでSFA(営業支援システム)を使ってみる」「一つの工場ラインだけでIoTセンサーを試す」などです。ここで小さな成功体験(クイックウィン)を作り、効果を検証します。失敗しても傷が浅く、すぐに修正できるのがスモールスタートの利点です。
Step5:全社展開とビジネスモデルの変革
PoCで得られた知見と成功モデルを、全社や他部門へ横展開します。システムが浸透し、データが蓄積されてくると、いよいよビジネスモデルの変革に着手できます。
- 蓄積された顧客データをAIで分析し、新商品を開発する。
- 製品の売り切りから、保守サービスを含めたサブスクリプションモデルへ移行する。
ここまで来て初めて、真のDX(デジタルトランスフォーメーション)が実現したと言えます。
▼ 詳細:DX推進ロードマップのサンプル図(クリックで展開)
| フェーズ | 期間目安 | 主なアクション | KPI例 |
|---|---|---|---|
| 準備期 | 1-3ヶ月 | ビジョン策定、チーム組成、現状分析 | 経営合意形成 |
| 導入期 | 3-6ヶ月 | デジタイゼーション、ツール選定、PoC実施 | ペーパーレス化率、PoC完了数 |
| 展開期 | 6-12ヶ月 | 成功事例の横展開、デジタライゼーション | 業務時間削減率、ツール利用率 |
| 変革期 | 1-2年〜 | ビジネスモデル変革、新規事業創出 | デジタル売上比率、顧客LTV |
現役DX戦略コンサルタントのアドバイス
「私が支援した多くの企業で、最も躓くのがStep4からStep5への移行です。PoC疲れ(実証実験ばかりで本番導入に進まない状態)に陥らないためには、『PoCの終了条件』をあらかじめ決めておくことが重要です。『3ヶ月で〇〇の効果が出たら予算をつけて全社展開する、出なければ撤退する』という基準を明確にしておけば、スピード感を持って推進できます」
DXが失敗する3つの典型パターンと対策
DXプロジェクトの成功率は決して高くありません。IPA(情報処理推進機構)の調査などでも、多くの企業が思うような成果を出せていない実態が明らかになっています。しかし、失敗のパターンは共通しています。これらを事前に知っておくことで、リスクを大幅に回避できます。
失敗例1:手段の目的化(ツール導入=DXだと思っている)
最も多いのが、「AIを使って何かやれ」「とりあえずRPAを入れろ」という号令から始まるケースです。これは「手段の目的化」の典型です。
「どんな課題を解決したいか」がないまま高価なツールを導入しても、現場は使い方がわからず、結局誰も使わない「デジタル廃墟」が生まれます。ツールはあくまで課題解決の道具です。必ず「課題(Pain)」からスタートしてください。
失敗例2:現場不在のトップダウン(現場の反発を招く)
経営層や推進室だけで計画を練り上げ、現場に「来月からこのシステムを使ってください」と押し付けるパターンです。現場には現場のやり方や事情があります。
「今のやり方で回っているのに、なぜ面倒な入力を増やすのか」という反発(抵抗勢力化)を招くと、DXは絶対に定着しません。構想段階から現場のキーマンを巻き込み、「このシステムを入れると、あなたの仕事がこんなに楽になる」というメリット(Benefit)を丁寧に伝えるコミュニケーションが不可欠です。
失敗例3:丸投げ体質(ベンダー任せで社内にノウハウがたまらない)
「ITのことはよくわからないから、専門のベンダーに全部任せよう」という姿勢も危険です。ベンダーはシステムのプロですが、あなたの会社の業務のプロではありません。
丸投げの結果、使いにくいシステムが出来上がったり、ちょっとした改修でも高額な費用を請求される「ベンダーロックイン」の状態に陥ります。DXの主導権は、必ず自社(発注側)が握り続ける必要があります。
現役IT経営ストラテジストのアドバイス
「現場の抵抗を乗り越える魔法の方法はありませんが、効果的なのは『現場の困りごとを一つだけ、徹底的に解決してあげること』です。例えば、『毎月の集計作業が面倒』という声に対し、ボタン一つで終わる仕組みを作ってあげる。そうすると現場は『DXって自分たちを助けてくれるものなんだ』と味方になってくれます。信頼関係こそが、最強のDX推進エンジンです」
企業規模別 DXの成功事例ショートケース
「DX=AmazonやGoogleのような巨大IT企業の話」だと思っていませんか? 実は、日本の中小企業や伝統的な企業こそ、DXによる伸び代が大きいのです。ここでは、企業規模や業態別の身近な成功イメージを紹介します。
【中堅・中小企業】アナログな受発注業務からの脱却と顧客データ活用
ある老舗の食品卸売企業では、長年FAXと電話での注文受付が当たり前で、社員は毎日深夜まで伝票入力に追われていました。そこで、BtoB向けのECサイトを構築し、顧客にスマホから注文してもらう形式へ移行しました(デジタライゼーション)。
当初は「顧客が高齢で使えない」という懸念もありましたが、写真付きで商品を選べるUIにしたところ、「FAXより楽だ」と好評を得ました。結果、入力業務が激減しただけでなく、蓄積された注文データから「この時期にはこの商品が売れる」という予測が可能になり、在庫ロスの削減や提案営業への転換(DX)に成功しました。
【大手企業】製造現場のIoT化による予知保全とサービスモデルへの転換
ある大手建設機械メーカーは、製品にIoTセンサーを取り付け、稼働状況をリアルタイムで監視する仕組みを導入しました。
従来は「機械が壊れてから修理に行く」という対応でしたが、データ分析により「壊れる予兆」を検知し、故障前に部品を交換する「予知保全」が可能になりました。これにより、顧客のダウンタイム(稼働停止時間)を最小化するという新たな価値を提供。単なる「機械売り」から「稼働保証サービス」へとビジネスモデルを進化させました。
【自治体】窓口業務のデジタル化による住民サービス向上
ある地方自治体では、「書かない窓口」を導入しました。住民票の申請などを、手書きの申請書ではなく、マイナンバーカードやタブレットを使って行えるようにしました。
これにより、住民の待ち時間が大幅に短縮されるとともに、職員の事務作業負担も軽減。空いたリソースを、高齢者の相談対応など、人間にしかできないきめ細やかな住民サービスに振り向けることができるようになりました。
※経済産業省が選定する「DX銘柄」や、IPAの事例集などでは、こうした具体的な取り組みが多数紹介されています。自社に近い業種の事例を探してみることをお勧めします。
DXを支える主要なデジタル技術(キーワード解説)
DXを推進する上で、技術の詳細なスペックを知る必要はありませんが、基本的なキーワードとその役割を理解しておくことは重要です。これらはDXを実現するための「道具箱の中身」です。
クラウドコンピューティング(SaaS/PaaS/IaaS)
自社でサーバーを持たず、インターネット経由でシステムやサービスを利用する形態です。初期費用を抑え、必要な時に必要な分だけ利用できるため、スピーディーなDX推進には不可欠な基盤です。GmailやSalesforceなどもこれに含まれます。
AI(人工知能)とビッグデータ解析
大量のデータ(ビッグデータ)をAIに学習させ、予測や判断を自動化する技術です。需要予測、画像認識による検品、チャットボットによる顧客対応など、活用の幅は無限大です。
IoT(モノのインターネット)と5G
あらゆる「モノ」がインターネットにつながり、データを収集・交換する技術です。工場の機械、自動車、家電などがつながることで、遠隔操作や状態監視が可能になります。高速通信規格「5G」がこれを後押しします。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
パソコン上の定型作業(入力、転記、集計など)を、ソフトウェアロボットが人間に代わって自動処理する技術です。「デジタルレイバー(仮想労働者)」とも呼ばれ、バックオフィスの生産性向上に即効性があります。
DXに関するよくある質問(FAQ)
最後に、DX推進の現場でよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. DX推進部門はどの部署に作るべきですか?
現役DX戦略コンサルタントのアドバイス
「よくある失敗は、情報システム部門に丸投げすることです。情シスは『守り(安定稼働)』がミッションであることが多く、『攻め(変革)』のDXとは相性が悪い場合があります。理想は、社長直轄の『DX推進室』を新設するか、経営企画部門の中に専任チームを置くことです。そこに情シスのメンバーや事業部のエースを兼務でアサインし、技術とビジネスの両面をカバーできる体制(タスクフォース)を作るのが最も成功確率が高いパターンです」
Q. 予算が限られる中小企業でもDXは可能ですか?
可能です。むしろ、意思決定が速い中小企業こそDXに向いています。数億円かけた大規模システムを入れる必要はありません。月額数千円から使えるクラウドサービス(SaaS)や、ノーコードツール(プログラミング不要でアプリが作れるツール)を組み合わせることで、低コストで業務を変革できます。
Q. 「DX認定制度」とは何ですか?取得するメリットは?
経済産業省が定めた基準を満たした企業を、国が「DX認定事業者」として認定する制度です。取得することで、DXへの取り組み姿勢を対外的にアピールできるほか、DX投資促進税制の適用や、日本政策金融公庫からの低利融資といった金融支援を受けられるメリットがあります。
まとめ:DXは「ツール導入」ではなく「企業変革」の旅
ここまで、DXの定義から進め方、具体的な事例までを解説してきました。最後に、記事の要点を振り返ります。
- DXの本質:単なるIT化ではなく、デジタル技術を活用して「ビジネスモデル」と「企業文化」を変革し、競争優位性を確立すること。
- 3つの段階:デジタイゼーション(電子化)→デジタライゼーション(プロセス最適化)→DX(変革)というステップを踏む。
- 2025年の崖:レガシーシステムを放置すれば経済損失のリスクがあるが、刷新は変革のチャンスでもある。
- 成功の鍵:「手段の目的化」を避け、ビジョンを共有し、スモールスタートで現場の信頼を勝ち取ること。
DXは一朝一夕に成し遂げられるものではありません。それは終わりのない「企業変革の旅」です。しかし、最初の一歩を踏み出さなければ、変化の激しい時代に取り残されてしまいます。
まずは、自社の業務を見渡し、「ここはもっとデジタルで楽にできるのではないか?」という小さな気づきから始めてみてください。そして、その気づきを周囲と共有し、小さなデジタイゼーションを実行してみてください。その小さな一歩の積み重ねが、やがて会社全体を大きく変えるうねりとなるはずです。
あなたの会社の変革が、今日ここから始まることを応援しています。
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